256話~男性特区の方が安全ですよ?~
いつの間にか、俺は固い所で寝ていた。
目の前には、煌々と輝く太陽…ではないな。照明が俺を照らす。
ここは、何処だろうか?
そう思った俺に、影が落ちる。
誰かが、俺を見詰めている。
誰だ?
『お父さんっ!』
お父さん?
ああ、そうか、ここは…。
『…桃花よ…強く、生きて…』
ここが舞台の上だと理解した俺は、そう呟いて目を閉じる。
そして、次に目を開けると、そこに桃花さんの姿はなく、代わりに顔を伏せて泣いている吉留君が居た。
彼の手には、賞状とトロフィーが抱えられている。
後夜祭の、表彰式だ。
先ほどまで桃太郎戦記の舞台だったのに、いつの間にか後夜祭になっている。
ああ、そうか。ここは俺の夢だな。
そう理解すると同時に、目の前の観客席はいつの間にか、色とりどりの花や飾りが飾り付けられた空間に切り替わる。
古民家を修繕した、特区の中にあるカフェの一室だ。
ここは…そうだ。打ち上げ会場だ。湯島さんが用意してくれたカフェを貸し切って、みんなで打ち上げを開いたのだった。
7組と8組の合同打ち上げ。先生達も同席してくれたけど、壁際の席で生徒達を見守るだけであった。
あまりこうゆう事になれていない生徒は、見慣れない豪華な食事に緊張気味で、慣れているお嬢様達にマナーを指導してもらっていた。
と言っても、そこまで肩ひじ張った会ではなかったからね。みんなは直ぐに楽しそうに食事をしていた。
『え~…。皆さん!ご歓談中の所ですが、私から一言失礼致します。え~、今回の文化祭において、見事総合優勝を果たすことが出来たのは、外ならぬ皆さんの努力があったからでですね。え~…』
吉留君が、緊張しながらスピーチをしている。
それを、拍手喝采で迎えるみんな。
その中には、8組は勿論の事、7組の男子達も居る。
彼らは、女子生徒に囲まれながらも、彼女達としっかりと会話を交わしており、時折笑顔も見せていた。
演劇を通して、女性に耐性が付いたのだろうか?
兎に角、以前までの様に、女性に対して異常に怖がることが少なくなった。
その分、7組の女子生徒も落ち着きが出た様に思える。
以前までは、男子生徒を見る目が鷹の様だったからね。それが、今は随分と優しくなった。
男性が女性を拒絶し無くなれば、女性の異常行動は無くなるかもしれない。
アミューズメントパークの一般女性達は、余りにも常軌を逸していたからね。
『巻島君、ちょっとだけお話して良い?』
周りを見回していた俺に、林さんが話しかけて来た。
何でしょうか?
『巻島君、明後日イギリスに行くって言っていたよね?それでね、ちょっと気になることがあったから』
あれ?この話、打ち上げでしたんだっけ?
…いや、違うな。これはイギリスへ旅立つ直前になって交わした会話だ。でも、夢だからごっちゃになっているのだ。
俺が頭を整理している間にも、林さんは話を進める。
『ゲームでのイギリス…えっと、ゲームでは【グラスレイ】って言うんだけど、そこではアグリアの力が凄く強くて、アグリアの本拠地があるって言われているんだ。それで、そのアグリアのボスはかなり曲者で、危険な人物なんだよ』
そうらしいね。あの日、君から教えて貰ったよ。
グラスレイはアグリアの勢力が強くて、他国からも危険視されていた。それ故に、日輪もグラスレイとは同盟関係を解消しており、日輪がアグレスに襲われた時には、中国やロシアから援護を貰っていたと。
そして、その元凶とも言えるアグリアのボスの名は、
『デミウルゴス』
俺がそう呟いた時、何処からか軽い音が鳴った。
ポーン…。
〈◆〉
「当機は、間もなくヒースロー空港に到着致します。皆様、もう一度お手元のシートベルトを確認して頂き、席から…」
アナウンスの声で目を覚ました蔵人が目にしたのは、飛行機の機内。
左には、慶太が涎を垂らして寝ており、右を見ると、飛行機の窓から広大な風景が広がっていた。
理路騒然とした大都会が、大きな壁に囲われている姿だ。
東京特区を飛び立った時にも、同じような街並みが広がっていたが、若干異なる部分もある。
所々に、古い建物が見て取れるし、中央に大きな時計塔が見える。
そして何よりも、特区の中にも大きな壁で仕切られた地区が見えた。
「うわぁー!凄い!これがロンドンなんだね!」
「そうだよ。そして、あの壁で仕切られた区域が、男性特区だよ」
後ろの席で、桃花さんと若葉さんが窓を眺めている。
若葉さんが示しているのが、正にその壁に囲まれた場所。
イギリスのロンドンにしかない地域、男性特区。面積は、ロンドン特区の10分の1を占める。
Cランク以上の男性しか住めない地区で、女性は特別な許可を持った者だけしか通行できず、住むことは出来ない。
お陰で、各国の高ランク男性達の間では、行きたい国ランキングでイギリスはぶっちぎりの1位であり、その分、観光業も盛んらしい。
そう言う実績もあるから、男性優遇策を主導する平等党は、党員数4番目でありながらも力を持っているのだ。
男性の支持者も多いからね。
「凄いね、イギリス。お母さんに聞いたけど、有名な観光地がいっぱいあるんだよね?男性特区の中にもあるって聞いたよ?」
「そうね。でも、男性特区はセキュリティが厳しいから、近づいちゃだめよ?」
鶴海さんが言う通り、男性特区は警備も厳重らしい。
普通の女性が入れないのは勿論、壁に近づくだけでも警告されるとか。
最悪は、捕まることもあるというのだから、恐ろしい。
絶対に、近づかんとこ。
飛行機から降りると、長い長い道のりが待っていた。
空港のロビーまで、かなり距離があるとは聞いていたけれど、これは凄い。
そして、その道のりの半ばだと言うのに、入国審査待ちの長い列が既に出来ていた。
嘘だろ…。これ、何時間掛かるの?
蔵人が目を点にしていると、その横を柳さんが通り過ぎ、手招きする。
「蔵人様。そちらは審査が厳しい国の列ですよ。我々日本人はこちらです」
ああ、そう言えば、海外線って国によって対応が大きく異なるのだった。
元の世界でも、日本やドイツ、韓国などは入国の審査が楽で、優遇されていた。
この世界の日本はイギリスの同盟国でもあるので、猶更みたいだ。
久しぶりに国際線に乗った蔵人は、長い列を作る異国の人達をグングン追い越しながら、思い出す。
こうしていると、某テーマパークのファストパスを思い出す。もしくは、異世界の都市検問を並ばずに通れる上流貴族の気分だ。
入国審査も簡単であった。
まだ自動ゲートまでは設置されていなかったが、パスポートと本人が合っているかをチラリとみられるだけで通して貰えた。
何故か、自分と慶太を見た女性の検問官が、少し怯えたような顔をしていたのは気になったけど。
ゲートを通過すると、次は預けていた荷物を回収する時間だ。
ベルトコンベアから流れて来るスーツケースを、時間内に取らなければならない。
だが、それは柳さん達がやってくれるとの事。
護衛以外にも、そう言う雑務をするために付いてきているので、お気になさらずにと言ってくれた。
お言葉に甘えよう。
蔵人達は、ソファーに座って待つ。
待っている間に、これからの事を確認する。
蔵人は、事前に印刷しておいたコンビネーションカップのホームページを広げる。
「みんな、ちょっと良いかな?これからの事を確認しようか」
他の4人に声を掛け、みんなの注目を集める。
直ぐに集まってくれるので、とても助かるよ。
「先ずはこれから、大山社長が用意してくれたホテルに移動して、取り敢えず今日は休憩しよう」
時差ボケもあるからね。先ずは体調を整えるのを先決とする。
大山さんは「それなりのホテルを用意したよ」と言ってくれていたけど、後で調べたら1,2を争う程の高級ホテルだった。
飛行機もビジネスクラスだったし、本当に有難い。
大会は明後日なので、諸々の準備は明日で充分。
準備と言っても、装備の最終調整や腹ごしらえ位なものだから。
大会に参加するための参加表の受け取りなんかは、柳さんがしてくれる事になっている。
「そして、大会の方についてだけど、競技は2つに分かれているんだ」
そう、このコンビネーションカップは戦うだけの大会ではなかった。
我々にも馴染がある異能力戦の他に、演武という種目がある。
これは、異能力の美しさと技能を競うもので、審査員達が各チームに順位を付ける。
試合は予選と本戦に分かれており、予選では10組以上のチームが一斉に演技をし、そこから優秀なチームだけが本戦へと進む。
まるで、社交ダンスなどの競技ダンスだ。
そうして、異能力戦と演武の結果を合わせて、総合順位を決めていくのが、このコンビネーションカップである。
「どちらも2人で参加すると言うのは変わらないけれど、演武の方は見た目重視だからね。ユニゾンが必要になって来ると思う」
ビッグゲームでも文化祭でも、ユニゾンは高い評価を受けていた。
技術がかなり必要な技だから、その分、高得点が期待できる。
蔵人の推測に、若葉さんも頷く。
「イギリスのツーマンセル戦は、ユニゾンが出来る組も稀に居るからね。きっと、今回も何組かはユニゾンが出来ると思っておいた方が良いよ」
若葉さん曰く、今大会は欧州ではそれなりに有名な大会であり、その理由がやはり2人組で出られるという点。
ユニゾンは大抵2人でやる物だからね。ユニゾンが出来て、でもチーム戦だと実力を発揮しきれない人達が好んで出場するらしい。
特に多いのが、
「特に演武では、男性のチームが出ることも多いんだ」
トーナメント戦と演武で分かれるコンビネーションカップだが、そのどちらかだけ出場することも可能である。
その為、演武だけ出る男性チームも居る。
普段異能力戦に参加できない男性だが、こういう所で女性と張り合えるので、人気があるらしい。
本音としては、男性特区に滞在したいだけかもしれないけど。
若葉さんの説明に、桃花さんが手を上げる。
「えっと、じゃあ、僕達の場合はどうなるのかな?両方出るの?」
「うん。両方出ようと思っているよ。異能力戦の方は、相手によって出場する選手を変えようと思っているけど、演武は基本、俺と誰かが組む形を取らせてもらって、もしもスターライトと当たったら、慶太をパートナーにさせて欲しい」
何せ、ソフィアさんと、チームスターライトとの約束があるからね。
この演武だが、ランク毎には分かれておらず、戦闘も禁止されてはいない。
両チームの同意があれば、妨害や攻撃も可能である。
その方が、映える異能力もあるからね。
それだと、高ランクの方が有利と思ってしまうが、そこは評価の方で考慮されるらしい。
低いランクで素晴らしい演技をした方が、それだけ高評価を得られやすい。
寧ろ、魔力消費の事を考えると、高ランクの方が不利とも思える。
異能力戦は予選と本戦で、2日間設けられているが、演武は1日だけなのだ。
序盤で魔力を消費しすぎてしまうと、後半でバテてしまうだろう。
蔵人の提案に、みんなは満足気に頷いてくれる。
「寧ろ、全部蔵人君が出ると思っていたよ」
桃花さんが安心しきってそう言うので、蔵人は微笑みながら小さく首を振る。
「いやいや。折角の機会だから、みんなに満遍なく出場して欲しいと思っているよ。慶太と桃花さんとか、若葉さんと桃花さんとかね」
「うぇえ!僕と若ちゃん!?」
「桃ちゃん!それ、どう言う意味?」
驚愕の桃花さんに、若葉さんがふくれっ面をする。
「私だって、それなりに戦える様になってるんだよ?蔵人君と朝練しているからね」
うん。それは本当だ。
若葉さんはユニゾンだけでなく、戦闘訓練も行ている。
サポート系だから攻撃力がある訳ではないけれど、他の攻撃タイプの人に引けを取らないと思う。
蔵人が頷いていると、桃花さんは少し不機嫌そうな顔になる。
「いいなぁ。僕も、蔵人君と朝練したかったなぁ」
「おおっ!そうか。それは良い意気込みだ!」
桃花さんの提案に、蔵人は明るい声を出した。
途端に、桃花さんの不満顔は消えて、逆に青い顔になった。
「あっ、いや、そう言う事じゃなくて、蔵人君と一緒なのが羨ましいってことで…」
「遠慮しなくていい。帰ったら早速、一緒に朝練をやろうではないか!」
「ぎゃああ!また、体育祭の時みたいになるぅう!」
桃花さんは、すごく喜んでくれた。
この期待に応える為にも、早急に桃花さんとの特訓内容を決めなくては!
各々がスーツケースを押して、ヒースロー空港のターミナルを進む。
左側には飲食店やファッションショップなど、様々なお店が連なり、右側はガラス張りとなっており、バスやタクシーが旅行客を受け待つ様子が見える。
これから蔵人達は、空港近くのレンタカー屋に行く予定だ。
結構な大人数なので、2台程借りる事になっている。
確か、レンタカー屋の迎えが待っている筈なのだが…。
蔵人が周囲を探していると、1人の男性がこちらに近づいてきた。
スーツを着た、20代くらいの金髪の北欧人だ。
「すみません。コンビネーションカップ出場の、日本の方ですか?」
おお、日本語だ。
蔵人が感動している横で、柳さんが進み出て対応する。
「はい、そうです。ロンドンレンタカーの方ですか?」
柳さんの返答に、しかし、男性は何故か蔵人の方を見続けている。そして、
「貴方と、そちらの男の子も出場者でしょうか?」
男性は、蔵人と慶太しか見ていない。
柳さんは完全無視だ。
その態度に、蔵人は目を細め、心を構え直す。
この感じ、砦中の時と同じ。
まさか、こいつはアグリアか?
蔵人の顔が険しくなると、男性は慌てて胸ポケットから名刺を渡してきた。
「し、失礼しました。私はこういう者でして、選手の皆様をお迎えに上がりました」
名刺を見ると、そこには顔写真付きで〈男性特区管理官:ハーマン・ブラウン〉と書かれていた。
うわ。噂の男性特区からの刺客か。
蔵人が顔をしかめる中、ハーマンさんの説明が続く。
なんでも、コンビネーションカップに出場する選手の為にホテルを用意しており、そこまでの案内を彼らが担当しているのだとか。
ホテルは最高級の物を用意しており、送り迎えも全て行ってくれるとの事。
ただし、ホテルは男性特区の中にあり、このサービスを受けられるのは男性だけである。
それはダメだな。
蔵人は苦笑いを浮かべながら、首を横に振る。
「折角のお申し出ですが、我々はこの5人でチームであり、別々のホテルに泊まる気はありません」
「えっ!?でも、男性特区の方が安全ですよ?ロンドン特区にも女性は沢山いますし、もしもホテルのキャンセル料でお悩みでしたら、我々が負担致します」
ハーマンさんが焦りだす。
いや、なんでそこまで、男性特区に誘いたいのだろうか?
蔵人が眉を上げると、男性はこちらの意思をくみ取ったのか、小さくため息を吐いて頭を下げた。
「分かりました。もしもお気持ちが変わって、男性特区にご興味が湧きましたら、是非ともそちらの番号にお問い合わせください。24時間、何時でも何処でもお迎えに参りますので。では」
そちらとは、名刺に書かれた電話番号だろう。
蔵人が名刺に目を落としている内に、ハーマンさんは肩を落として去って行った。
あっ、いや、去ってない。
向こうの方で、もう一組の旅行客に話しかけている。
そちらの男性達は、諸手を上げて喜び、ハーマンさんの後ろをついて行く。
うん。あれが普通の反応なのか?また、カルチャーショックを受けそうだ。
【すみません】
蔵人も肩を落としていると、再び声を掛けられた。
今度は英語で、しかも女性だ。
また、柳さんが対応し、今度はしっかりと向こうも受け答えをしている。
どうも、今度こそ予約したレンタカー屋の店員だったみたいで、柳さんが手招きをしている。
蔵人は漸く安堵して、その後ろについて行った。
〈◆〉
【そうか。分かった。先生には俺の方から上手く言っておくよ。ありがとう、ハーマン】
俺は、部下からの通話を切ると同時に、深いため息を吐いた。
今回コンビネーションカップに出場する男性外国人の内、男性特区入りを拒んだチームが2つもあったからだ。
ただ、その内1つはアメリカの富豪なので、それ程問題ではない。
あいつらは女性に対する感覚が狂っているから、女性に取り囲まれてハーレムごっこをしている。
とても、考えられない。
でも、もう1組が問題だ。
そっちは日本から来ていて、しかも学生なのだ。
同チーム内に男性が2人も居て、どちらも拒否するなんて前代未聞だ。
何の為にイギリスに来たのか、全く理解できない。
俺で理解に苦しむのだ、こんなことを先生に言ったら、何と罵られるか…。
俺は、胃の中に鉛を流し込んだ気分になり、吐きそうになった。
それでも、俺の足は着々と階段を上がり、廊下を進み、扉の前まで来てしまう。
ここまで来たのなら、もう引き返せない。
俺は、赤く重い扉を祈るような気持ちでノックした。
すると、
【入れ】
不機嫌そうな声が帰って来た。
帰りたい。
そう思いながらも、俺は部屋に入る。すると、目の前には鋭い視線でこちらを睨む40代くらいの男性が、重厚なウォールナット製のデスクの向こう側に座っていた。
顔が赤い気がするが、それは絨毯と、部屋の装飾が赤ばかりだからそう思うだけだ。うん。
【失礼します!ギデオン先生】
【あぁ、ウォルターか】
しかし、男性が俺の事を認識すると、厳しかった目が幾分か緩む。
【大会の準備は順調か?今年の演武は、あのアンダーソン兄弟が出るんだったな?もう着いたか?】
【はい。お2人は今朝の便で到着されて、男性特区のザ・ゴールドにご宿泊されました】
【よし。良いぞ。ユニゾンが出来るあいつらだったら、演武での優勝は間違いないからな。また今年の総合優勝も、男が掻っ攫ってやるぞ】
先生はそう言うと、ニヤけた顔で焦げ茶色の顎髭を撫でる。
良し。これだけ気分を上げておけば、大丈夫だろう。
俺は腹に力を入れて、口を開く。
【ですが、男性特区入りを見合わせた組がありま】
【あぁ!?何処のバカだ!?】
俺が言い終わる前に、先生の機嫌が急降下した。
帰りてぇ…。
胃がキュッと縮みながらも、俺はなんとか言葉を吐き出す。
【あ、アメリカの、フォックス兄弟と…】
【はっ!あいつらか。だったら構わねぇ。あいつらは魂を女に売った裏切り者だ。ロンドンの女共に食い散らかされるがいい】
【あ、あと…】
【まだ居るのか!?】
【日本の黒騎士とクマという中学生2人です。13歳とまだまだ子供ですので、見知らぬ土地で心細かったのかと】
俺が早口で言い訳すると、先生は幾分か怒り肩を下ろして「資料を寄越せ」と言った。
俺は、カバンから選手名簿を取り出し、先生のデスクに置いた。
先生は、それを引っ手繰るように掴み、モノクルメガネでそれを見下ろす。
【はっ!Cランクかよ。しかも異能力戦と演武の両方にエントリーだと?世間知らずのガキがっ】
そう言って、先生は名簿を投げて寄越してきた。
【もういい。その黒なんとかも無視だ。どうせ1回戦で負けて、泣いて帰るのがおちだ。報告は終わりか?】
【はいっ】
【なら下がれ】
【はいっ!】
終わった。
俺は安堵が押し寄せる心に蓋をして、平静を装って先生に頭を下げ、退出する。
【シールドなんかで出場しやがって。クリエイトの面汚しがっ】
先生のそんな呟きが、退出する俺の背中を押した。
ツーマンセル戦が始まりました。
が…。
何やら、雲行きが怪しいですね。
「男性特区。それにデミウルゴスか」
ただの異能力戦で終わってくれたらいいのですが…。
「それは、難しいだろうな」
ですね。