255話~これを壊した犯人は…~
黒騎士物語を無事完結させて、蔵人は鈴華達と共に、記念館裏の倉庫まで戻って来た。
舞台を始める前までは暗く落ち込んでいた彼女達だが、今は表情が明るい。
昨日と同等以上に観客達は盛り上がり、無事に成功を収めたからだろう。
しかし、鈴華だけは難しい顔をしたままだった。
「どうした?鈴華。事前にやることを教えていなかったから、怒っているのか?」
「んー。まぁ、確かにそれはちょっと悲しかったけどよ。でも、そうした方が良い演技になるからってそうしたんだろ?後で早紀(伏見さん)から聞いたから、そこは、納得してるよ」
「うん。では、何に不満を抱いているんだい?」
蔵人が片眉を上げると、鈴華は蔵人の後ろに立つ慶太と若葉さんを見た。
「なんかよ。2人だけボスとユニゾンしていて、いいなぁって思っちまうんだよ。ユニゾンって、凄く仲良くないと出来ない技なんだろ?慶太はボスの幼馴染だから、まだ分かるけどよ。若葉も出来るってのがさ、なんていうかモヤモヤしちまって。あたしも、ボスとユニゾンがしたいんだ。いや、寧ろ今からしてくれ!」
「いや、鈴華さんよ。俺に抱き着いても、ユニゾンは出来ないぞ?」
蔵人は、かなりの力で引っ付いて来た鈴華に、背中をタップしながら訴える。
すると、漸く蔵人から少し離れてくれる鈴華。
全く、随分と大胆な事をするよ、君は。周りが見えないのかい?
蔵人は、周囲の女子生徒を見て、苦笑いを浮かべる。
彼女達は、顔を赤くしてこちらを凝視しており、口を抑えたりピョンピョン飛び跳ねたりして、抑えきれない興奮を発散させようとしていた。
だがそんな周囲の事など、鈴華は気にしないらしい。
変わらず蔵人の両肩を掴んだまま、こちらをジッと見ている。
「じゃあ、どうすりゃボスとユニゾン出来んだよ。もっと深い所で繋がらないとダメなのか?」
おーい。発言に気を付けて。一部の女子生徒が、鼻血を噴出して倒れてしまったぞ?
「鈴華。そんな事をしなくても、接触は手を握るだけで十分だ」
だからって、いきなり指を絡ませて握るのは勘弁してくれ。
恋人つなぎじゃねぇか。
全部聞いてから、実行してくれんかね?
「大事なのは接触方法じゃない。互いの魔力を循環させる事だ。その為には、いつもファランクス部でやっている瞑想で、己の魔力を滑らかに回せるようになる必要があるんだ」
こちらがいくら魔力を高速回転したところで、相手側の魔力も回ってくれないとユニゾンは出来ないからね。
蔵人の説明に、鈴華は目を輝かせた。
「それをしたら、あたしもボスと繋がる事が出来るんだな?」
「言い方。鈴華、言い方に気を付けて」
「よっしゃぁ!やるぜ、あたしは!」
そう言うが早いか、鈴華は廊下の端っこに座り込んで、瞑想を始めてしまった。
少し暴走気味ではあるが、前向きであるのは良い事だ。
そう思いながらも、蔵人は眉間に皺を寄せて、彼女を見る。
この積極性が、彼女の向上心や好奇心から来ていると思ってしまえば、自分自身は楽だろう。
だがそこには、少なからず自分に対する好意があるのは明白だ。
今までに受けた彼女のアプローチを振り返れば、それを認めねばなるまい。
それを踏まえた上で、今後自分がどのように答えを出すかを考える必要がある。
蔵人君の人生も背負っている今、この世界からの途中退場など出来なくなったのだから。
蔵人が悩んでいると、後ろから誰か近づいて来る気配を感じた。
振り返るとそこには、安綱先輩がこちらに歩いて来ていた。
「やぁ、蔵人。8組の君達が、何故3,4組の集団に紛れているのだ?」
周囲の女子生徒が黄色い声を上げる中、先輩は含み笑いを携えながら、蔵人達に問うた。
その自信満々な表情からは、こちらの状況をある程度把握されていると思われる。
なので、蔵人は軽く両手を上げて、お手上げですとジェスチャーで伝える。
すると、彼女は「ふふっ」と笑った。
「済まない。試すようなことをした。君達があの白竜のユニゾンを行っていたのは、察しが付いているんだ。カーテンコールで久我嬢が言っていたからな」
確かに、鈴華は舞台が終わった後、白竜のユニゾンについて軽く説明をしていた。
あのユニゾンは3,4組の生徒が行ったわけではなく、外部からの助力であると。なので、黒騎士物語の評価は、ユニゾン抜きで投票してくれと言っていた。
だが、あの発言だけで自分達まで辿り着けたのか?
蔵人が首を傾げると、尚も笑みを向けてくる安綱先輩。
「それと、二条副委員長も言われていたからな」
「えっ?二条様ですか?」
「ああ。あのユニゾンを見て、以前目の前に現れた大蛇と同種だとおっしゃられていた。その蛇のユニゾンの時に会ったのが、君とその友達だと仰られていた」
ああ、そうか。二条様はあのバジリスクをご覧になっている。
規模は違うが、どちらも同じ盾で作ったユニゾンだ。遠目でも、彼女なら分かるかも。
この学校に、ユニゾンが出来る生徒なんていないから、そこから推測されたのかも知れないし。
「お察しの通りです、安綱先輩。裏辻先輩に対して、少々やり過ぎてしまった事をお詫び致します」
白竜の正体を知っていて、何故先輩がここに足を運ばれたのか。考えつくもので言うと、劇中に放ったドラゴニックロアについてだろう。
安綱先輩も「やり過ぎだ」と言われていたし。
そう思って謝罪した蔵人だったが、安綱先輩はそれに首を振った。
「少々演出が過剰だったとは思うが、別に謝るほどの事でもない。盛り上げる為にやったことだろう?」
そう言って、片頬を上げて笑う安綱先輩は、明らかにそうではない事を理解している様子である。
なかなか、話を分かってくれるじゃないか。
蔵人は便乗して頷き、「では、何用で?」と聞いた。
「少々調べたいことがあってな」
そう言うと、安綱先輩は後ろを向き、小さく手を挙げた。
彼女に呼ばれて走って来たのは、1人の男性だった。
保険医…ではないな。スーツを着た、30代くらいの痩せた男性職員。
聞くと、学校の運営スタッフさんらしい。
そのスタッフさんを呼んで調べたい事というのが。
「これだ。これを頼む」
安綱先輩が指さしたのは、壊れたゴーレムだった。
スタッフさんはそのゴーレムに両手を置いて、目を閉じた。
「彼はサイコメトラーなのだ。このゴーレムを破壊した者の姿を見てもらう為に、校長先生に依頼して派遣してもらった」
なるほど。これで犯人捜しをしようというのか。
この異能力世界では、どんな犯罪も直ぐに解決してしまう。
それは、今、目の前で行われている異能力による調査が行われるからだ。
サイコメトラー、未来視、透視、ドミネーション。
どんな難解な犯罪も、これら異能力の前には丸裸にされてしまう。
「どいつや。どいつがやったんや」
いつの間にか、伏見さんも近くで腕を組んでいた。
さっきまで、サイコキネシスで倉庫整理をしていた彼女も、気になって来たみたいだ。
そんな、期待とヤル気で目を細める彼女の前で、
「う~ん…これは…」
スタッフさんが唸り出した。
どうしたのだろうか。犯人が見えなかったとか?
蔵人達が心配そうに彼を見つめていると、彼もこちらを見つめてくる。
そして、言い難そうにこう言った。
「えっと。これを壊した犯人は…君、です」
そう言って、震える男性の指先は、
真っすぐに、蔵人を示していた。
おいおい、名探偵君。それは無いぜ。
蔵人は肩をすくめて、ヤレヤレポーズを取る。
そんな蔵人の横で、
「なに抜かしとんねん!オドレぇえ!」
伏見さんが、ドーベルマンの様に吠え散らかした。
どうどう。伏見さん。落ち着いて。
「何言うてますの、カシラ!こやつ、こないなデタラメ抜かしよってからに、いくら男言うても容赦せんです!」
「怒ってくれるのは嬉しいけどね。先ずは状況整理しないとダメだよ?安綱先輩」
蔵人は伏見さんを抑えながら、安綱先輩に視線を送る。
彼女は一つ頷くと、青い顔で震えている男性の元に歩み寄る。
「済みません。彼女も悪気がある訳じゃないのです。落ち着いて、貴方が見たままの状況を話してもらえないでしょうか?」
流石は先輩。冷静に男性を介抱している。
男性は、震えながらも状況を説明する。
彼が見たのは、ゴーレムの記憶。
鈴華達が去った後、暫くして倉庫に蔵人1人が入って来た。そして、手に持ったバールの様な物でゴーレムを破壊し始めたとの事。
うむ、なるほど。
バールの様な物、ねぇ。
「盾は使っていないのですか?他に人は?」
「バール、だけです。他の人影は、見えません」
蔵人の質問に、男性は顔を青くしながらも、こちらを真っ直ぐ見てそう言った。
そして、
「間違い、ありません。犯人と貴方の姿は、全く一緒です」
「なるほど」
全く一緒の姿。
それを聞いて、蔵人はある光景を思い出していた。
砦中文化祭の、襲撃事件の一幕を。
「安綱先輩。一つの可能性なのですが、犯人はメタモルフォーゼの力を使ったのではないでしょうか?」
あのホノカさんに化けていた男性。彼は顔しか変身出来なかったが、もっと高ランクとなれば全身を変えることが出来ると聞いた。
白百合会の誰か、もしくは、雇われた誰かが自分に変身し、犯行に及んだのではと考えた。
その推測に、安綱先輩はため息交じりで、静かに首を振った。
「はぁ…。これでは、犯人を特定するのは難しくなったな」
どうやら、安綱先輩も自分と同意見らしい。
蔵人は少し安心しながら、顎を摩る。
「他の場所もサイコメトラーで見てみて、変身したところを突き止めたりは出来ないでしょうか?」
蔵人の提案に、安綱先輩は項垂れた顔を少しだけ上げる。
「これだけ入念に準備する犯人だ。きっと、そこも考慮しているだろう」
そう言う先輩だったが、しっかりと他の場所も調べてくれた。
そして、
「君に変身した犯人は、突然倉庫前に現れている。恐らくテレポートで移動したのだろう。調べられるのは、ここまでだ」
「犯人が何か落とし物をしてたら、僕も追えるんだけどね…」
スタッフさんもガッカリと肩を落とす。
それを、悔しそうに見つめる伏見さん。
「犯人の奴、カシラにまで迷惑かけよってからに。絶対に許さんでぇ」
「まぁまぁ。俺の事はそんなに気にしないでよ。濡れ衣は一瞬で乾いたからさ」
とは言え、相手は相当慎重に動いている。
流石は白百合会だ。
文化祭が終了し、来場客の皆さんはアンケートボックスに投票してから、帰宅されていった。
そして、ここからは桜城生徒達だけの催しが始まる。
そう、後夜祭だ。
この後夜祭では、各部活や有志で集まったグループがステージに上がり、ライブやダンス、寸劇や落語など、自分達の特技を全校生徒に披露する場となっている。
そして、最後に文化祭委員が集計したアンケート結果を発表して、終了となるそうだ。
蔵人も、いつものファランクスメンバーと共に、記念館の観客席で出し物を見学していた。
「しゃぁ!みんな!俺のダンスを披露するぜ!」
「「「きゃぁああ!!サーミンさいこぉお!」」」
今、舞台の上では、白のパーカーと青いデニムを着て、ニット帽を被ったサーミン先輩が、ハーレムメンバーと一緒にブレイクダンスを披露している。
後ろのメンバーがグルグル頭で回っている中、サーミン先輩だけ床に三点倒立しているだけなのだが、それでも観客の女子生徒達からは黄色い声援を受けていた。
やはり、男子に対してはみんな大甘だな。
蔵人が特区の特性を再認識していると、サーミン先輩達はアンコールを背に、飛び跳ねながら舞台の袖に消えて行く。
そして、次に出てきたのは…。
「…ふぁ?」
バニーガール衣装を着た祭月さんに、大きな黒い三角帽子をかぶった魔女さんを含めた4人グループだった。
「何やっとんねん、あいつら」
「うわぁ…凄い恰好…」
桃花さん達の反応を見るに、流石にバニーガール姿は大胆な部類にはいるらしい。
しかも、何故か胸部装甲をモリモリにしている祭月さん。
この格好で、この面子で、ガールズバンドをすると言っていたが、やはりあれか?あれをやる気か?
蔵人が危惧する間にも、祭月さんが後ろを向き、ドラム担当の娘に合図を送る。すると、ドラムが軽快にリズムを刻み、祭月さんが観客席に振り返りながら、エレキギターをかき鳴らして曲をスタートさせた。
うん、やはり有名な曲だ。
どれくらい有名かと言うと、神様も知っている曲である。
最初はポカンとしていた観客達だが、曲が進むにつれて合いの手や拍手が増え始めた。
特に、男子達からの受けが凄い。普段は大人しい彼らが、諸手を振って喜んでいる。
それに釣られて、女子生徒も盛り上がる。
曲が(一部マニアに)有名だからというのもあるだろう。
だが、純粋に、目の前の4人が上手いというのも大きい。
特に祭月さんは、見事なギター演奏をしながら、見事な声量と音程で歌い上げている。
彼女に、こんな才能があるとは。
ちょっと勉強が出来ない彼女だけど、それが人生の全てではない。
得意なことを全力で出来る彼女だから、こうして輝き、みんなも引き付けられるのだろう。
「センキュー!!」
曲が終わり、祭月さんが両手を振って降壇する。
結局、バニーガール姿でも止められはしなかった。
次に登壇したのは、真面目そうな制服姿の女子生徒2人だ。
1枚の紙を手にしており、若干緊張した表情で観客席を見渡す。
「それでは、これより文化祭の表彰式に移りたいと思います」
文化祭委員の人達だった。
もう、集計が済んだらしい。
マイクを持った先輩が、観客席を見回した後、手に持った紙に目を落とす。
「それでは、各クラスの優勝クラスから読み上げます!先ずは1年生のクラス!第1位は…1年3組、4組合同の演劇、黒騎士物語です!」
「「うぉおおお!!」」
「やったで!優勝や!」
蔵人の前列で、伏見さんがガッツポーズをする。
その横の鈴華は、しかし、ただ静かに座ったままだ。
「どないしたんや?嬉しくないんか?」
「いや、まぁ、嬉しいけどよ。半分以上はボス達のユニゾンのお陰だからよぉ…」
「せやかて、それはカーテンコール時に、自分が説明したやろ?」
集計では、ユニゾン部分を抜いて投票してねと、ちゃんと言っていたからね。ある程度の公平性は保たれていただろう。
「でもなぁ…」
鈴華の気持ちも分かる。
全て自分の力だけで試したかったんだよな。
鈴華は納得しない風だったが、委員さん達に手招きされたので、伏見さんと共に壇上に登壇した。
そして、文化祭委員から賞状とメダルを受け取る。
その時には、少し表情が回復していて、観客席に向かって小さく手を挙げていた。
途端に、観客席からは「お姉さまぁああ!!」という、熱狂的なラブコールが複数個所から響いた。
また、鈴華の顔が曇った。
その気持ちも良く分かるぞ、鈴華よ。
「続きまして、2年生のクラス優勝に移ります。2年生の部は…2年3組の茶道教室です!」
「「「うわぁああ!!!」」」
「ええっ!?うそ?なんで?絶対サーミン達に負けたと思っていたのに…」
「桜城としての気品で勝った結果よ、雪音。男とスパイスの色香だけで勝とうとする8組なんて、敵ではなかったという事。ほら、グズグズしてないで、賞状を受け取りに行くのよ」
鹿島部長達の驚き声が聞こえ、彼女を立たせようとする西園寺先輩の姿が見えた。
壇上に部長と西園寺先輩が登壇した。
まだ信じられないと言った様子の部長に、西園寺先輩が無理やりトロフィーを持たせて、観客席に向かって手を振らせていた。
なるほど、普段はそんな関係なのか。
微笑ましい。
だが、部長がそんな風に呆けるのも分かる気がする。
サーミン先輩達のクラスは本格的なカレー屋さんで、サーミン先輩のサービス…という名の過剰なスキンシップは凄い好評であった。
だが、本格的という面に関しては、鹿島先輩達の茶道教室は輪を掛けて凝っていた。
和風で落ち着いた空間を演出していたし、お茶も和菓子も本格的だった。
それだけ味があるお店に仕上げたのだ、優勝も不思議ではない。
それに、桜城に来る高貴な方々からしたら、彼女達のコンセプトが合っていたのもあるだろう。
慶太には、ちょっと早かったみたいだがね。
「次に、3年生のクラスに移ります。3年生の部は…3年2組のお化け屋敷です!」
「やったぁ!」
「やったわね、海麗!」
元部長達…麗子先輩達が海麗先輩に抱き着いて、喜んでいる。
海麗先輩は、麗子先輩をお姫様抱っこして、それを中空へ高く上げていた。
1人胴上げですか。流石は海麗先輩。
彼女達のお店は、かなり本格的なお化け屋敷だと噂されていた。
桃花さんが怖がっていたので、蔵人達は行けなかったのだが、道行く人がみんな話していた。
なんでも、麗子先輩のレビテーションで人魂を浮かせていたり、海麗先輩の怪力で壁が迫って来るらしい。
お化け屋敷じゃなくて、何処かの考古学者が入り込んだ古代遺跡みたいだと言う評判もあった。
行ってみたかったなぁ。
これにて、文化祭の評価は終了かと思ったが、みんなの緊張はまだ解けていなかった。
寧ろ、先ほどよりも増している。
…あっ、そう言えば、総合優勝があったな。
思い出した蔵人の先で、委員の2人が紙から顔を上げる。
「最後に、総合優勝の発表です!優勝は…1年7組8組の、桃太郎戦記です!」
「「「うわぁああああ!!!」」」
蔵人のすぐ近くで、大歓声が上がる。
蔵人も知らず声を漏らし、吉留君に向けて拍手をしていた。
だが、その肝心の吉留君は、眼鏡をはずして号泣していた。
分かるよ。分かるけど吉留君、早く登壇しないと。
委員の人達が、おいでおいでと名一杯手を掻いているよ。
蔵人がヒヤヒヤしていると、桃花さんがこちらを向く。
「蔵人君!お願い!」
「うん?ああ、心得た!」
蔵人は吉留君を盾に乗せ、壇上へと向かう。
登壇すると、委員さん達が賞状とトロフィーを持ってこちらまで来てくれたので、それを受け取り、半強制的に吉留君に持たせる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
吉留君は、委員さん達に何度もお礼を言ってから、観客席に向かって、再び頭を下げた。
「ありがとうございました!」
号泣して、顔もくしゃくしゃだけど、誰も彼を笑っていなかった。
初日、カーテンコールで浴びせたような、冷たい瞳は全く…殆どない。
みんな、温かい笑みで彼を見つめ、心からの祝福をしてくれる。
吉留君は、何度も頭を下げた。
そんな彼に向けて、惜しみない拍手がずっと、ずっと鳴り続けていた。
備品破壊の犯人は特定出来ずですか。
「これだけ用意周到だと、犯人自身の記憶を消しているかもしれんな」
クロノキネシスですね。本当に、厄介な。
何はともあれ、これで文化祭のお話はおしまいです。
そして、次回なのですが…。
すみません。最近執筆が追い付かなくなって来てしまい、毎日投稿が難しくなりました。
申し訳ありませんが、ここからは定期投稿とさせて下さい。
毎週、火、木、土曜日に投稿したいと思います。
「毎日楽しみにしてくれる読者の方々には申し訳ないが、よろしく頼む」
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。
次回、256話「男性特区の方が安全ですよ?」
8月22日(木)の18時投稿予定です。お楽しみに。