251話~行こうか、黒騎士/序幕~
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桃太郎戦記・キャスト(序幕)
・父親役 (巻島 蔵人)
・馭者役 (渡辺 弦)
・ナレーション (林 映美)
シンと静まり返った秋の早朝。
清々しい空気が漂う中を、悠々と飛んでいた蔵人。
その耳に、突如、複数の破裂音が響いた。
何も知らない状態であったら、敵の対空砲かと慌てふためいたかもしれない。
だが蔵人は知っていた。この音が、目の前の白亜の城から発せられている、祭りの合図であることを。
そう、今日は文化祭当日の朝である。
普段は白く大きく構えている校舎が、今は色とりどりの布や花によって、色彩豊かに着飾っていた。
それでも、何処か統一感があるのは、文化祭実行委員の努力か、はたまた外注した企業の技術力なのか。
平日のこの時間なら、殆どの学生はまだ家を出たばかりである。
だが、今日に限っては皆早くに登校しており、桜城へと至る主要道路は、高級車が連なっている。
これらの車列は皆、学生達を乗せた送迎の車ばかりだ。
いつか聞いた話だが、桜城生徒の大半は車通学であり、一部の一般生徒は専用シャトルバスを使っているらしい。
千人を超える中等部だけでも凄い数であるが、更に高等部、大学、教職員も合わさるので、桜城へ向かう車列はなかなかの込み具合だ。
普段は学年や部活の有無で通学時間がバラける生徒達だが、今日は文化祭。多くのクラスが、最後の仕上げをするべく、クラスメイトを早めに徴収し、任務を遂行しようとしている。
それ故の渋滞だ。
このまま遅刻したのでは、クラスのみんなに申し訳が立たない。
そう思った令嬢達が、自分の車から降りて足早に通学路を徒歩で進んでいる。
そんな娘達の中には、ふいに空を見上げて蔵人の姿を捉える娘もいた。
「あっ、黒騎士様!」
「本当!黒騎士様だわ!」
進むことも忘れて、蔵人に手を振る娘達。蔵人も手を振り返す。
「ああっ!黒騎士様が反応してくださったわ!」
「朝からお姿をお見掛けできるなんて、今日は良い日ね!」
喜んでくれるのは嬉しいが、足が完全に止まっていますよ?
あと、ちゃんと前を向いて歩いてくださいね。コケてしま…あっ。
こんなに浮ついた状態で、大丈夫だろうか?
蔵人は少し不安を抱きながら、白亜の城へと急いだ。
教室に行くと、数人の生徒が教室で最終チェックをしているところだった。
文化祭委員の北山さんや、脚本チームの吉留君や林さん達だ。
「あっ、巻島君、おはよう。早いね」
林さんが蔵人に気付き、手を振る。
蔵人もそれに答えながら、彼女達に近づく。
「みんなも早いね。いつから来てたの?」
「私はさっきだよ。でも、監督はもっと早かったみたい。日の出る前に来てたって」
それは早い。
蔵人は驚きと、若干の心配を胸に抱きながら、吉留監督に視線を送った。
生徒会のメガネのせいで、変にプレッシャーを受けているんじゃないかい?
蔵人の不安に、しかし、彼は照れたように笑った。
「いやぁ、どうも早くに目が覚めてしまってね。舞台セットに欠品は無いかとか、衣装に穴あきは無いかとか、色々考えていたら、居ても立っても居られなくてね」
凄い責任感である。
思えば、彼はこの文化祭で一番精力的に動いていたと思う。
勿論、他のみんなも頑張っていたのだが、監督という重役を任されたこともあるのか、吉留君は常に目を光らせていた。
脚本に矛盾点は無いか。
外注した舞台セットはちゃんと納期を守れるのか。
作製している衣装のデザインと機能性は、バランスが取れているか。
役者のセリフ覚えは順調か。
みんなの体調は万全か。
毎日色々な人と会話して、その都度改善点を吸い上げて、製作陣と打ち合わせを繰り返していた。
そんな彼の姿を見た7組、8組のクラスメイト達は、誰も彼の事をただのDランクとは見ていなかった。
最初は嫌々従っていたクラスの女子達も、積極的に彼を頼る様になっている。
今も、裏方と役者の代表者と話し合っていた。
「監督。最終場面の舞台配置だけど、このままだと幕開けまでに間に合わないよ。もうちょっと暗転する時間を増やしてくれない?」
「いや、時間は決められているんだ。それなら、備品の数を減らそう。こっちと、その人形は半分くらいあれば十分だ」
「監督!7組の男の子で、セリフを覚えられなかった子がいるんだけど、その場面はどうしよう」
「7組にそれほど長いセリフは回してないんだけど…仕方ない。そのセリフは飛ばしても良いよ。あと、他の人達にも伝えて欲しいんだけど、舞台の途中でセリフが飛んでも、ある程度アドリブを入れても構わないよ。あまりにアドリブが先行したら強制的に止めるけど」
こんな風に、多方面から相談事が舞い込んできている。
彼は額に汗を流しながら、それでも楽しそうに指示を飛ばし、目を輝かせている。
とても良い流れだ。
吉留君は4月当初、このクラスに入って来た時に下を向いていた。女子達に無視されて、肩をすぼめてクラスの中を歩いていた。
でも、今は違う。
誰も、彼の言葉を無視せずに、寧ろ一言も聞き漏らさないように聞いている。
Dランクであった彼が、少しずつ認められてきているのを、蔵人は感じていた。
蔵人は、備品を退かそうとしている彼の横に立ち、彼が抱える荷物を盾で浮かせる。
「監督。俺の盾で、備品搬入も受け持つよ」
「ええっ!大丈夫なの?」
蔵人の提案に、吉留君は困ったような、嬉しそうな顔で返す。
この盾であれば、複数の品物を運んだり、300㎏までの荷物の運搬も可能だからね。
「これくらい任せて欲しい。最終局面でも裏方に回るよ。俺はもう、死んでるからね」
「ははは。それじゃあお願いしようかな。死人に鞭打つようで悪いけど」
「違いない」
蔵人は、吉留君と2人で笑い合う。
そうこうしている内に、始業のチャイムが鳴った。
普段であれば、これから朝のHRとなるのだが、今日はそれもない。
蔵人達のように演劇を選んだクラスは、これから舞台である記念館に備品を移動させる時間だ。
役者は自分の衣装や小道具を。黒子である裏方舞台は備品関係をそれぞれ手に持ち、立ち上がる。
「みんな、忘れ物はない?よし、じゃあ行こう」
監督らしく、メガホンを片手に持った吉留君を先頭に、蔵人達は記念館の裏手にある倉庫へ向かう。
その倉庫に、演劇で使う物を全て収容し、自分達の出演前に取りだすのだ。
蔵人達がその倉庫に着くと、そこには既に、外注していた大掛かりな舞台セットや大道具が納品されていた。
「わぁ!すご~い」
主役である桃花さんが、自分の乳母車である大きな桃色の乗り物をペタペタ触りながら、感激する。
「さすが外注。細部まで作り込まれているねぇ」
本田さんが、奥に置かれていた大きなキャタピラー戦車を眺めながら呟く。
このノッペリとした戦車は、ドイツのA7Vか。それともイギリスのマーク系戦車か。どちらにしても、細部まで作り込まれていて、今にも動かせそうだ。
実際、砲身は動くらしい。
クラスメイト達が外注部品に魅了されていると、監督が声を上げて注目を集める。
「じゃあ、みんな。講演までにもう一度、通しでやってみよう」
外注していた備品も揃っているからね。
蔵人達は、開演前最後の練習に入るのだった。
それから、数時間後。
赤いカーテンの向こう側から、ガヤガヤと大勢の話し声と椅子のきしむ音が聞こえる。
「ううぅ…緊張するぅ…」
蔵人の隣で、桃花さんが両手を合わせて震えていた。
彼女は今、簡素なワンピースを着て、腰に一本の模造刀を携えていた。
桃太郎の女バージョン、主役の桃花がそこに居た。
現在、蔵人達は劇の幕開けを前に、舞台の端で控えていた。
向こう岸にも控えている役者達がおり、その後ろには黒子服を纏った裏方が控えていた。
実に見事な黒子服である。顔まで黒い布で隠した彼女達は、それでも前が見える仕様となっている。
出来るならば、この舞台が終わった後に衣装を頂きたいくらいだ。
何処に行けば買えるのだろうか?
蔵人がそんな事を考えていると、カーテンの向こう側からマイクで拡声された声が飛んで来た。
ナレーター役である、林さんの声だ。
『それではこれより、1年7組、8組合同の、桃太郎戦記を開始いたします!』
「うぇぇ…とうとう始まっちゃうよぉ」
観客席からの歓声を掻き分けて、桃花さんの弱気な声が届く。
見ると、彼女の小さな手が震えている。
ここまで必死に練習してきたからこそ、これだけ緊張もするのだろう。
蔵人は桃花さんの方に顔を向けて、頷く。
「大丈夫だ。君なら出来る」
「うぅぅ~…でも、緊張で手まで震えて来たよぉ。失敗したらどうしよう…」
ここに来て、かなりのマイナス思考に陥っている様子。
さてどうしたものかと、蔵人が眉を顰めていると、後ろの慶太が桃花さんの肩を叩く。
「失敗しても大丈夫!くーちゃんがいるもん!」
なんだそれは?流石に出番以外でフォローは出来んぞ?
蔵人は訝しんだが、慶太に励まされた桃花さんは、幾分か表情を和らげた。
「そ、そうだよね。蔵人君が居れば、何とかなるよね?」
「そうそう。くーちゃんが居れば大丈夫!オイラ達は楽しまないと」
のほほんと言い放つ慶太を見ると、自然とこちらまで肩の力が抜けるから不思議だ。
色々と訂正したいところだが、慶太のお陰で周囲の人の緊張が解けて来たみたいだったので、蔵人は口を噤む。
「そうだね。楽しまないとね!」
桃花さんも元気が出たようだ。
そんな蔵人達のやり取りを見守っていたのか、タイミングよく吉留監督が声を上げる。
「さぁ、みんな!ここまで来たら、後は精一杯演じるだけだ!努力の成果、みんなに見せつけよう!」
「「「はいっ!」」」
息の合った返事に、監督もご満悦だ。
キラリと光るその瞳を蔵人に向けた監督が、蔵人に白い包みを渡す。
「それじゃあ開幕、行こうか、黒騎士」
「はっ!」
蔵人はビシッと啓礼し、監督から白い包みを受け取ると、踵を返して舞台へと歩みを進める。
それと同時に、舞台の幕が上がっていくのだった。
~~~〈◆〉~~~
夜の帳がすっかりと落ち、星すらも寝静まろうとする深い闇の中。一人の男が石畳を歩いています。
背丈も高く、大柄な男ですが、今は何かに怯えるようにその双肩をすぼめて、小さくなりながら速足で石畳を掛け抜けています。
時折、街灯が点滅する交差点に近づくと、やはり何かを恐れる様に建物の縁に張り付き、向こう側の道の先をつぶさに睨みつけます。
その男の手には、大事そうな小包が一つ抱えられていました。
男はそれを守るように、更に小さく体を折って道を進みます。
随分と歩みを進め、街灯もなくなり、地面が石から土に変わっていった頃。ようやく男は歩みを緩め、体を起こしました。
その男の視線の先には、一台の立派な馬車が待ち構えていました。
「……積み荷はそれだけか?」
「ああ。頼む」
ぶっきらぼうに言い放つ馭者の男に対し、男は簡潔に答えると、腕に抱いていた包みを手渡そうとします。
すると、
「う、うぁ、うぎゃぁあ!うぎゃぁああ!!」
けたたましく泣き出す荷物。
荷物の正体は、白い絹に包まれた赤子だったのです。
荷物を受け取ろうとした馭者がその正体に気付くと同時に、両手をさっと退いて自分の耳を塞ぎます。
「おいおい!聞いてたのと違うだろうがよ!人身売買は、この国では極刑だぞ!?悪いが、この話は無しだ」
「違う。この子は俺の子だ。遠い親戚に預けるだけだ」
そう言うと、父親は懐から金貨を何枚も取り出し、男の胸元に押し付けるように渡しました。
「手間賃だ。これでもまだ不服か?」
父親が唸るように言葉を吐きますが、馭者の目は押し付けられた金貨に夢中です。
「おいおい。こりゃぁ、金貨じゃねぇか!それもこんなに。さっすが、鬼さんは稼いでいるねぇ」
「無駄口を叩くな」
父親は馭者を一喝し、静かになった彼の元に、再び赤子を掲げます。
その赤子を見て、馭者が大きなため息を一つ。
「なんでまた、自分の子供を里子に出すかね。もしかしてあれか?最近きな臭いって噂の軍事同盟か?この国が力を付けてきているからって、周辺国と戦争を起こしそうって話じゃないかよ。えぇ?全く、青鬼様が解任されてから碌なことをしないな。この国は」
「おい」
父親が、地を震わすような低い声で吠え、鋭い眼光で馭者を射貫きます。
「首領閣下を蔑む様な発言は、誰であろうとも許しはしないぞ」
父親の圧に、馭者は肝を冷やしました。
すると、その腕に抱いていた赤子も、再び火を切ったように泣き出してしまうのでした。
「あ~あ…。折角、寝てたのによぉ」
赤子を遠ざける馭者を睨め付けながら、父親は疲れたように首を振ります。
「早く行け。今の俺は、ただの情けない父親だ。鬼でない今なら、お前の発言も聞き逃そう」
「それはそれは。ご慈悲をどうも」
皮肉たっぷりに言葉を吐いた馭者は、その態度とは裏腹に、軽々と馭者台に登りました。
そのまま、馬車に繋がれた馬に鞭を入れようとしたところに、父親が呻くように言葉を発しました。
「そうだ。こいつも、預かってくれ」
「おいおい。勘弁してくれよ」
そう言いながらも、馭者が父親を振り返ると、彼の手には小さなロケットが握られていました。
「こいつを、その子に」
「…追加依頼になるが?」
馭者が、いやらしく笑いを浮かべるより早く、父親は彼に向かって金貨を一枚投げて寄こしました。
「あいよぉ。毎度ありぃ」
イヤらしく笑った業者は、振り上げていた鞭を一気に振り下ろし、馬車を急発進させました。
その荒い運転で再び目が覚めてしまったのでしょう。赤子の鳴き声が闇夜に響きます。
ですが、遠ざかる馬車と共に、その声も聞こえなくなっていってしまいました。
それでも、父親はその場所から動きません。
ただ、闇に溶けて消えてしまった桃色の馬車を探すように、じっと暗闇を睨みつけているのです。
「済まない。我が子よ」
消え入りそうな声が、父親の掠れた唇から漏れ出ます。
「お前の為に、平和な世界を作ると約束した私は、結局何も成すことが出来なかった。平和の為に振り上げた拳が、強大な敵を呼び起こしてしまった。平和の為に武力を振り回すなど、結局は何も得ることが出来なかったのだ。そう、今更気付いたところで全てが遅い。いずれ、この地は戦場となろう。だがどうか、お前だけは生き延びてくれ。我々が死に、この国が滅びようとも、どうか、お前だけは…」
父親の頬には、いつの間にか一滴の雫が流れ落ちていました。
「…ふっ、鬼の目にも涙、か」
自傷気味に笑った父親は、乱暴に目元をぬぐうと、後ろを向いて歩きだしました。
その姿は、先ほどまでの弱弱しい父親の姿ではなく、その体格にふさわしい、猛々しい鬼の物となっていたのです。
~~~〈◆〉~~~
蔵人が舞台袖まで戻ってくると、次のシーンを待つ役者達が出迎えてくれた。
桃花さんと本田さんだ。
「凄いね、蔵人君。迫真の演技だったよ!」
「いつもの蔵人様と全然違くて、ちょっと怖いくらいでした。でもそれが良かったです!」
観客に聞こえない様小さな声で、しかし興奮気味に高評価を伝えてくれる。
こうもキラキラした瞳で見つめられるのは、少々恥ずかしい。
そう思いながらも、蔵人は片手を上げて、その称賛に感謝を示す。
すると、後ろから肩を叩かれた。
見ると、付け髭を生やした渡辺君が、ニヒルに笑っていた。
学校でステルスしない姿はとても貴重だ。
蔵人は親指を上げて、彼に笑みを送り返す。
「凄く良い演技だったよ、馭者殿。胡散臭くて人間臭かった」
「それ、ただ臭いだけだ」
「ホントそれ」
渡邊君の突っ込みに、隣に立った鈴木君が笑いながら同意する。
そうすると、周りに集まった子達にも笑顔が広がった。
良い感じで、みんなの緊張が解れてくれた。
桃花さんにも、笑顔が戻る。
「でも、ほんと、渡辺君も上手だったよ。私なんて、次が自分の出番だっていうのを忘れて見入っちゃったもん」
「それは巻島君のお陰さ。巻島君の演技に、僕も引っ張られたんだよ。演劇部の練習よりも、役に入れた気がするからね」
渡辺君が照れながらも、そんなことを言ってくれる。
だが、どうだろうな。
自分に引かれた部分も多少あるだろうが、大部分は彼の実力、というか努力だ。
繰り返し行ってきた練習の成果が、今しっかりと出ている。
蔵人はそう思った。
冒頭シーンをみんなで褒め合っていると、吉留君が手を叩きながら歩いてきた。
「いいねぇいいねぇ!練習通り。いや、練習以上の物が出ている。あと少しで次のシーンだから、西風さん達もスタンバイよろしく!」
「う、うん!」
少し緊張を取り戻しながらも、西風さんが頷き、舞台を振り返る。
蔵人もそちらに視線を送ると、そこには暗転した舞台の上をせわしなく動く黒子達が、次のシーンで使う備品を必死に設置している。
とても忙しそう。
今回の舞台は、演者がかなり必要となってくるから、全員がそれなりの仕事量をこなさなければならない。
渡辺君も、この後は村人役を兼任するし、吉留君も大変な役を演じる。
「なぁ、吉留君」
蔵人は、桃花さん達を見送る吉留君に声を掛ける。
「うん?なんだい?」
「本当に君が、あの役をやるのか?」
「勿論さ。僕が適任だと自負している」
自信満々に笑う彼に、蔵人は尚も食い下がる。
「だが、あの役は相当ヘイトを集める役だ。ただでさえDランクの君は、女子達から良くない感情で見られているだろう?加えてあのメガネ…生徒会の書記さんの事もある。監督である君がするのは、俺は不味いと思うぞ」
この話は、彼の配役が決まった時から言い続けたことだ。
この役は別の人間がやるべきであり、何なら自分がやる方が一番ダメージが少ないと。
だが、
「確かに、君が提案してくれるように、巻島君がやった方がみんなからの反感を買うことはないだろうさ。案山子を置いて、声だけの演出にするって案も出来なくはない。でもね、そのキャラクターを知っている人がやるべきであり、何より僕がやりたいと思っているんだ」
吉留君はそう言って笑う。
責任を感じて…という事ではないのだろう。
彼は本気でこの役をやりたいのだ。
もしかしたら彼は、劇の題材を提案した時には既に、こうなることを見越していたのではないだろうか。そう思えるほど、彼の配役はすんなりと決まってしまった。
で、あるならば。
「承りました。この黒騎士、何処までも御身と共に在りましょう」
黒騎士は、吉留君の前で騎士として傅く。
それを見て、吉留君は大仰に頷いた。
「では、地獄まで付き合ってもらおうか、黒騎士」
「御心のままに。首領閣下」
演劇が始まりました。
これから3日間、桃太郎戦記を上映させて頂きます。
「ちと長いな」
すみません。長くなってしまいました。
蔵人さん達が出てくる本編は、8月17日からの予定です。