243話〜とうとう本性を表しよったな〜
アニキが自由に飲み食いも出来ないと言うことだったので、蔵人達は代わりに買い出しをしてあげる事にした。
竹内君なんかは、「適当な女子に頼めばいいじゃないか…」と不貞腐れていたが、そうもいかない。
頼めば最後、その品が大量に届けられて、終いには誰が渡すかで乱闘になるだろうから。
よって、頼れるのは蔵人達だけなのだ。
飲食店関係の出店は、正門から校舎に入るところに集中しているそうなので、そこを攻める。
ここには部活動の出店が集まっているらしい。
確かに、バスケット1on1勝負だったり、子供アーチェリーなんかもある。
勿論、飲食系の出店も多く、バスケ部がホットドッグを焼いていたり、水泳部がお好み焼きを焼いていた。
端の方にはクレープ屋があるけど、あれが文芸部の出店かな?言っていた通り、かなりの長蛇だ。
これは、早めに大寺君を帰さないと行けないかもと、蔵人が危惧していた時、
周囲の観客達が湧いた。
「ねぇ!あそこ見て!」
「えっ!?もしかして、テレビの人?異能力大会に出てた?」
蔵人はドキリッとした。
バレた?何で?変装は解けていないのに。
そう思って周囲の様子に慌てて気を配ると…どうも違うらしい。
周りの人が見ているのは、こちらではない。
正門の辺り。
そこには、今、正門を潜り抜けた集団が優雅に歩いていた。
女性が6人。黒髪が目立つが、中には栗毛色の娘やピンク毛の娘。白いメッシュが入った娘がいる。
服装はブレザーで、他校の生徒であるのは間違いないが、1人だけ、メッシュが入った女性だけは何故か着物だった。
歩き方からして、帯刀しているのか?
「うっわ!すっごい美人ばっかりだ!」
隣の色魔がよだれを垂らす。
突っ込むなよ?
小学生の時にやらかした彼の悪行を思い出して、蔵人が竹内君のベルトを掴んで備えていると、大寺君が息を呑んだ。
「うわっ。あの制服って、十文字学園のじゃん。とうとう剣帝さんが仲間を連れて、うちを乗っ取りに来たのか?」
それはないだろう。
でも、態々こんな地方の文化祭に参加する為に、出向いてくれたのか?
まさかと思うが、稽古を付けに来た?今日は無理やで?
蔵人が、彼女達の来場の意図を探っていると、右手に持った竹内君のベルトが勢いを無くす。
見ると、ちょっと項垂れた彼の首筋が見える。
「そんなの決まっているよ。ハマーに会いに来たんだよ。この前の帰り際、ハマーに文化祭誘われたって、理緒さん凄い喜んでいたのを見たもん。きっと、あのお姉様達みんな、ハマーに会いに来たんだ…」
なるほど。
それだけ剣帝さんは、アニキとも仲良くやっているという事か。
ちょっと複雑な思いだが、アニキが彼女と交流するに当たって、特に困っていないのならば寧ろ良かった。
蔵人が2人の仲を認識している横で、竹内君は口を尖らす。
「良いよな、ハマーは。蔵人君と同じ能力だから、直ぐに強くなれて。新人戦で優勝したから、みんなにチヤホヤされて…」
「おいやめろ、おタケ!ハマーは俺達の仲間だろうが。俺達の中で一番努力してた。それが評価されて、今がある。そんなの分かってるだろ?」
「そう、だけどさ…」
大寺君、良い事を言うね。
竹内君も本心じゃないのだろう。ただ、羨ましさで目が曇っているだけだ。
蔵人は竹内君のベルトから手を離し、まぁ今から頑張れ、と背中でも叩こうと思った時、
視線を、感じた。
感じた方向に顔を向けると、
視線がぶつかる。
一陣の風が、蔵人の頬を撫でる。
着物姿の美女が、蔵人達を真っ直ぐに見ていた。
偶々、彼女の視線上に俺達が居合わせただけ?
違うな。このヒリ付くような強い視線は、何かしらの感情を乗せてこちらを見ている。
その証拠に、着物の女性が剣帝さんの肩を叩いて、こちらを指さした。
大寺君達の事を知っていて、こちらを見たのだろうか?
だが、先程の大寺君の発言では、剣帝さんは今日初めて、お仲間を呼んだみたいだった。
では何故、着物の人は我々に気付いたのだ?
訝しんでいる内に、剣帝さん御一行は、蔵人達の目の前まで近づいてきた。
「うわっ…」
「うわぁ!」
敬遠する大寺君。
歓喜する竹内君。
「こんにちは、えっと…貴方は確か」
剣帝さんが微笑みながら、挨拶してきた。
彼女の視線が大寺君の方を向いて、何かを思い出そうとしていた。
こちらは見ていないから、変装がバレた訳では無さそうだ。
「こんにちは!理緒さん!」
ハツラツとした返事の竹内君。
とりあえずベルトは確保しておこう。
「えっと、こんにちは。僕の名前は大寺です。この前は、先輩達に絡まれているところを助けて頂き、ありがとうございました」
「ああ、大寺君でしたね。ごめんなさい。この前は名前を聞きそびれちゃって」
どうも、アニキの指導で通っている時に、大寺君を助けてくれたみたいだ。
だから、大寺君の事は覚えていたのか。
「こんにちは!理緒さん!僕は竹内です!竹内良太って言います!」
「そ、そうですか。よろしく…ね…」
おい!剣帝さんまでドン引きだよ!
蔵人は右手のベルトをしっかりと持って、頭を下げる。
「(低音)オラは猪瀬って言います。よろしくどうぞ」
「はい。よろしくね」
蔵人達も挨拶をするが、剣帝さん以外の十文字学園生の反応が悪い。
白メッシュの女性が軽く頭を動かしただけで、他の人達は微動だにしない。というか、こちらに視線すら送っていない。
低ランクに興味はありませんと、態度で示しているみたいだ。
「えっと、突然ごめんなさい。出来たら、雄也様の所まで案内して欲しいのですけど…」
剣帝さんが、大寺君に向けて両手を合わせる。
前回も、大寺君が連れて行ったのだろう。
だが、それに応えたのは、蔵人の右手に繋がれた方だった。
「はい!喜んで!」
居酒屋でも通用するくらい、元気に肯定する竹内君。
さっきまで、恨み節をぶち上げていた彼は何処にも居ない。
そんな竹内君に、肘鉄を入れる大寺君。
「おタケ、勝手に何言ってんだ。今あのカオスな戦場に剣帝さんを連れていくなんて、剣帝さんにもハマーにも悪いだろうが」
「良いじゃないか!理緒さんが僕を頼ってくれているんだよ?女神みたいに優しい女性のお願いを、断れる訳ないだろう!?」
竹内君にとっては、こうして笑顔で話しかけてくれる女性は女神に見えるらしい。
完全にのぼせ上った竹内君は、「こっちですよ!」と言って、集団を先導し始める。
それに続く蔵人達と十文字の皆々様。
歩いている途中で、剣帝さんが蔵人達に話しかけてきた。
「そういえば、お2人はつくば大会にもいらっしゃいましたよね?もしかして貴方達もDランクなんですか?」
「うっ…」
「僕もこいつもEランクです」
「(低音)オラも(元)Eランクです」
竹内君が固まってしまったので、代わりに答える大寺君と蔵人。
嘘ではないぞ?あえて全てを口にしない、汚い大人のやり方よ。
竹内君が固まったのは、多分Eランクだとバレた時に、掌返しをされると思ったからだろう。
折角優しくしてくれていた女性が、急に冷たくなると余計に悲しいからね。
だが、
「そうなんですね!ランクを超えて友情を育む。流石は雄也様です」
剣帝さんは、Eランクを気にした素振りも見せず、寧ろ嬉しそうに頬を赤く染めていた。
余程、アニキに惚れ込んでいるご様子。
アニキよ。異能力の特訓で呼んだと思ったが、一体、何の特訓をしたんです?
そうして、Eランクにも優しく接してくれる剣帝さん。
だが、他の人達は、明らかに蔵人達から距離を取り出した。「うわっ、Eだって…」という小さな言葉も蔵人のパラボラは拾ったので、他の十文字生徒はしっかりと蔵人達を品定めし終えたみたいだ。
剣帝さんだけだな。性格が良いのは。
いや、”だけ”ではないか。
蔵人は首の後ろに手を回す。首筋に当たり続ける、強い視線から守るように。
ただでさえアニキを狙う女子生徒は溢れる程いる現状。そこに新たな参加者、それもエリート校からの参戦となった場合、アニキの周りがより混沌とするのは目に見えていた。
だが、
「(低音)これは…想定外だな」
蔵人の呟きに、その場にいた人間は誰も答えることが出来なかった。
十文字学園の一団を、校庭へと連れて来た蔵人達。そこで見たのは、
既にカオスと化した校庭の惨状だった。
「おりゃぁああ!」
「ふざけんなぁあ!」
「負けるかぁああ!」
校庭の至る所に屍…いや、生きてはいるんだが、倒れて動けないヤンキー娘達が散乱しており、その中央では、何人もの女子生徒が拳やスコップや釘バットや異能力を使って対峙していた。
「こ、これは、一体…」
剣帝さんが驚きを漏らすが、それはこっちが聞きたいことですよ。
恐らく元凶であろうアニキの場所に急いでみると、やはりそうだった。
団子売り場も激闘の跡があり、シングル部員らしき人達も倒れている。
アニキは無事の様だが、埃まみれだ。
「済まねぇ、猪瀬。俺達の計算違いで、こんなことになっちまって…」
アニキが打ちひしがれて頭を下げる。
彼が言うには、顛末はこうらしい。
アニキが作った団子を販売していたシングル部の面々。
だが、予想以上の売れ行きで、すぐに売れ切れてしまったらしい。
在校生+α程度で考えていた客足だったが、他校のアニキファンが大量に押し寄せた為だ。
そして、そうなると発生するのが争奪戦。
アニキの団子を誰が買うかで揉めだして、血の気が多いヤンキーが多かったからか、力づくで決めようとなってしまったらしい。
更に、誰が言ったか分からないが、この勝負に勝ったらアニキとデート出来るとかいう噂が流れて、既に団子を買った人達まで乱入する混戦状態になってしまったとのこと。
そして、このカオスな戦場が産まれたって訳。
分からん。
誰だよ、根も葉もない噂流したバカタレは。
蔵人が不満げに眉を寄せて、大寺君達が身を縮めていると、アニキはまた「すまねぇ」と項垂れた。
アニキも当初、暴徒を盾で鎮圧しようと頑張ったらしい。
でも、人数が人数で抑えきれなかったとの事。
他のシングル部メンバーも同じような状況だ。
今でも鎮圧しようと頑張っているメンバーもいるが、とても抑えられそうにない。
校庭に設置されていた他の店は少なからず被害が出ており、中には半壊してしまっている屋台もある。
活気があった文化祭が、崩れようとしている。
アニキは、そのことについても謝罪していた。
別にアニキが悪い訳ではない。ただみんなに団子を振舞っていただけだ。
ただ強くなろうと頑張っただけだ。
その仕打ちが、これか?
理不尽じゃないか。
男は、強くなってはいけないのか?
この女尊男卑の世界では。
「(低音)大丈夫だ、アニキ」
蔵人は、小さくなったアニキの肩に手を乗せる。
「(低音)オラが何とかするべ。だから、顔を上げてくれよ」
「く…猪瀬。それじゃお前さんが折角、ここまで来た意味が…」
ここまで我慢したのに、それを棒に振る気か?
アニキはそう言っている。そう、心配してくれている。
そうだろう。もしも蔵人がここで異能力を使い、暴徒を全て鎮圧すれば、きっと誰もが気付く。
蔵人がEランク等ではないことに。特区外の人間ではないことに。
そうすれば、折角来た文化祭はここでお終いだろう。下手をすると、もう二度と特区外には来られないかもしれない。
それでも、
「(低音)大丈夫だ、アニキ。オラはもう十分楽しんだ。最後にドカンと花火さ打ち上げるべ」
蔵人は立ち上がる。混沌と化した校庭へと、歩みを進める。
正体がバレたとしても、それでアニキの憂いが晴れるのなら、安いものだ。
「(低音)さぁて、行くど、元気なおなご達。オラの脂肪さ、凹ませてみぃ!」
蔵人の脂肪が、更に膨れ上がる。
そこに、
「待って!」
今まさに、蔵人が女性達に突っ込もうとした時、後ろから声が掛かった。
振り返ると、団子屋から出てきた剣帝さんが、蔵人の元に駆けて来た。
「ダメよ!あなた、そんな…」
彼女は必死な表情で蔵人を見上げる。
まさかこの人、最初から俺に気付いていた?
蔵人が怪訝な表情を返すと、
「あなたがその身を犠牲にしたところで、何にもならないわ!雄也様が悲しむだけよ!」
違った。
彼女は、蔵人が特攻でもすると勘違いした様だ。
そりゃ、Eランクがこんな戦場にポンと突っ込んだら、一瞬でミンチになるだろう。
だが、Eランクの、それもさっき見知ったほぼ他人の男子に気を使ってくれるとは、やはりこの人は優しい人だ。
そんな彼女は、
「安心して、私が何とかするから」
そう言って、微笑んだ。
おいおい、マジかよ。
蔵人は構えを解いて、校庭に向けて両手を合わせた。
あの剣帝さんが出撃されるんじゃあ、全員あの世行きだぞ?
蔵人が戦場に合掌を送っている間にも、剣帝さんは出陣された。
一筋の雷撃が、戦場を駆ける。
「せぇえええええいっ!」
閃光。
その手には一本の模造刀が握られていて、彼女が走り去ると、彼女と接敵した暴徒達はあっけなく地面に横たわった。
相変わらず、えげつねぇ攻撃だ。
それから5分もしない内に、戦場の喧騒は止んだ。
剣帝さんが、その惨状を一目見回すと、ふぅと小さなため息を吐く。
分かりますよ。手応えがなくて残念なんですよね?
仕方がない事だと、蔵人は首を振る。
彼女ほどの剣豪に、不良少女ではおつまみにもならんだろう。
蔵人が彼女に同情していると、後ろで怒号が響いた。
見ると、大勢のヤンキーを引き連れた、金髪女性がこちらに来ていた。
あ、ヤバい。姉御さんだ。
身構えていると、姉御は立ち止まって、真っすぐに蔵人を見た。
「とうとう本性を表しよったな。校庭で無双しとる奴が居ると聞いて来てみりゃ、やっぱり自分やったか」
どうも、剣帝の噂を聞きつけて駆けつけたらしい。
流石は番長。
でも、何故か蔵人がやったと思っているみたい。
違うよ?
蔵人が一生懸命に首を振っていると、ヤスさんも「姉御!違います、あの剣帝がやったみたいっす!」と正してくれた。
ありがとう、ヤスさん。
それを聞いた姉御は、渋々と蔵人の前を離れ、剣帝さんと向き合った。
「おい、そこの女」
姉御がズカズカと、死屍累々の戦場に入っていく。
突然の侵入者に、剣帝さんの切っ先がそちらを向く。
「誰ですか?貴女」
「ウチはこの学校のまとめ役をやっとる、3年の伏見や」
えっ?伏見?
伏見の苗字で、サイコキネシスって…。
蔵人の驚きを他所に、2人の睨み合いは続く。
「…つまりは番長さんですか。その番長さんが何用ですか?」
「これだけ暴れとってよう言うわ。この学校の文化祭、台無しにしてくれた落とし前、付けさせて貰うで?」
そう言うと、姉御はサイコキネシスの腕を何本も出現させる。
いやいや。何を勘違いしているんです?
「(低音)姉御さん。この人は、暴徒を鎮圧してくれたんです。校庭が滅茶苦茶なのは、そこに転がっている人達が」
「あー!ダメダメ!」
蔵人の言葉は、ヤスさんに止められてしまった。
ヤスさんは、口を出すなとジェスチャーで訴えかけてくる。
それで、何となく分かった。
なるほど。これはイチャモンですね?ワザと相手を怒らせて、喧嘩に持っていこうとしているのか。
それだけ、姉御は戦いたいのだ。
Dランク最強という高みに。
「なんや?ビビっとんのか?剣帝は、Cランクでも倒すって聞いたんやけどな」
やはり、姉御はCランクなのか。
ってか、Cランクの拳を俺らに叩き込んでいたんですかい?姉御。
蔵人は別の意味に驚愕した。
そりゃ、ヤスさんも醜態晒すわ…。
姉御に睨まれた剣帝さんは、少しだけ笑った。
あっ、この人もやる気だ。
「Cランクですか。相手にとって不足なしですね」
「イキるなやDランク!こちとらBランクの拳相手に、姉妹喧嘩しとったんやぁあ!」
姉御が叫びながら走り出し、剣帝さんに襲いかかる。
Cランクの拳。Dランクがまともに受けようとすれば、1発で吹き飛ぶ。
今、姉御が振り上げているのは4つの拳。1発を避けられたとしても、3発も食らってしまう。
ならば、その機動性で後退するか?と蔵人が固唾を呑んでいると、
剣帝さんは、動かない。
その場で足を更に開いて、腰を落とした。
刀は切っ先を姉御に向けたまま、目線と同じ高さまで上げて、地面と水平に構える。
まさか、居合いか?
蔵人が眉を上げると、それに答えるかの様に、
剣帝さんが、動いた。
構えていた刀を下げ、それを一瞬で上に斬り上げる。
目にも留まらぬ速さで、一刀。
その斬撃は、姉御の右に構えていた拳を捉えて、
ど真ん中から真っ二つに、斬った。
「「はぁ?」」
観衆と姉御の声が被る。
それだけ、異常な事。
異能力を斬る。そんな事、出来るものなのか?
しかし、彼女の舞は終わらない。
右側の拳を狙って切り上げた切っ先がひっくり返り、今度は姉御の左側の拳に向かって振り下ろされる。
斬り返し。
真っ二つになり消える、拳。
姉御の拳が、全て斬り払われた。
その間、僅か数瞬。
瞬く時間しか掛からなかった。
なんという技術。なんという練度。
ランクの差すら埋める、剣術の極意。
「まだまだぁ!」
姉御は更に拳を作り出す。
先程よりも多い、6つの拳。
流石は砦中の番長。気概も、魔力量も段違いだ。
だが、
「いいえ。此処までです」
真に武を極めた者の前では、それは意味を成さなかった。
姉御の懐に入り込んでいた剣帝さん。
剣帝さんの刀が、姉御の脇腹を強打する。
「ぐっ」
短い悲鳴を上げて、地面に倒れふす姉御。
立ち上がれない。
姉御は両膝を付いて、地面に蹲る。
素晴らしい。
蔵人は自然と、笑みを零していた。
DランクがCランクを...まさに、技巧のなせる技だ。
ああ、戦ってみたい。
そう、思った蔵人の願いを聞き届けたかの様に、
「い、今だ!」
倒れていた暴徒の数人が立ち上がり、蔵人を、蔵人の後ろに居るアニキを目指して突撃してきた。
その中には、先ほど蔵人が転ばせた不良少女達も居る。
それを見て、蔵人は、
「(低音)そぉれ!」
彼女達を阻み、腹を突き出した。
その腹を目掛けて、不良少女が攻撃を繰り出す。
「邪魔だ!Eランク!」
「死んどけ!」
炎を纏った拳や、身体強化された蹴りが、蔵人の腹に当たる。のめり込む。
が、
「(低音)ブーッハァ!」
全てを弾き返す、蔵人。
「ぎゃっ!」
「うべっ!」
吹っ飛ばされた彼女達は、もんどり返って地面とキスしてる。
うん。ちょっとやり過ぎたかもなぁ。
そう思って、観衆の方を見ると、
「やっぱ、姉御の言う通りだぁ」
目を見開く、ヤスさん達。
その後ろでは、十文字学園の皆さんも、目の色を変えていた。
そして、
「す、凄い...」
何故か、生徒会の面々までそろい踏みでこちらを見ていた。
その真ん中でこちらを見るホノカさんの瞳が、怪しく輝く。
うわぁ...これ、どうしよう。
蔵人は、後悔した。
ああ…我慢できずに飛び出しちゃった…。
「剣帝の野良試合を見た後だからな。血が湧いたのだろう」
全く、あの人は…。
生徒会にまで目を付けられてしまいましたよ?
「生徒会、か…」