232話~興が乗って来たな~
蔵人の挑発に、片倉さんは真っ赤な顔のままに、両腕を高く上げる。
「お望み通り、ペシャンコにしてあげるわ!」
そう言って、彼女は先ほどよりも高い位置に魔力を集め始める。
先ほどの、カラーコーンの時よりも格段に大きい。
これは、間違いなくAランクの攻撃。
よし。よしよし良いぞ!漸くAランク戦らしくなって来たぁ!
蔵人は心を躍らせながら、自身の前方に盾を生成し始める。
水晶盾と盾の間に、たっぷりと膜を挟み込んで作り上げたランパート。
二重奏にしようか一瞬悩んでしまったが、時間が無い。
蔵人は足と背中に龍鱗を追加し、防ぎきれなかった場合に備えて退路を確保した。
その間にも、片倉さんの攻撃が、
……攻撃が、来ない。
片倉さんは、先ほどからずっと上に手を上げたままで、上空の氷は徐々に大きくなっている。
なってはいるのだが、その速度は余りにも遅い。
いや、待てよ。
蔵人は嫌な予感がした。
この攻撃自体が見せかけで、他の方面から攻撃してくるのかもしれんぞ?
蔵人は急いで、ランパートで防がれていない方向に水晶盾を配置し、全方位の防御態勢を整えた。
のだが、
やはり、攻撃は来ない。
片倉さんの方を見ると、上空の氷は今や、4tトラック並みにまで成長していた。
白井さんを脅し、ダウンバーストで砕いた大きさと同じである。
…まさかとは思うが、この攻撃が本当に本命で、この攻撃をするだけにこんなに時間を要したのか?
蔵人は、別の意味で驚く。
時間で言うと、片倉さんが両手を上げてから、10秒近くが経っている。
コンマ数秒が命取りとなる戦場で、この10秒はあまりにも長すぎる。
本当にこの娘は、シングル戦をしたことがあるのか?
蔵人が頭を悩ませていると、漸く氷塊の形が安定し、片倉さんがドヤ顔をこちらに向けて来た。
「喰らえ!アイスピラー!」
そう言って、思いっきり両腕を振り下ろし、氷柱がこちらへと飛んできた。
速度は…遅い。これでは、生身でも避けられるのではないか?
蔵人は、まるでチェンジアップを喰らったバッターの気分であった。
おっと、いけない。
氷柱が目の前に迫り、蔵人は足腰に力を、心に気合を入れ直す。
その直後、
着弾。
グギギギッと盾が悲鳴を上げて、受けた盾の中央部が、こちら側にたわんで来た。
流石、Aランクの攻撃である。ランパートが変形するレベルと言うと、グレイト10のサンダーインパクト並みかもしれない。
そう思ったが、氷柱はランパートを数10㎝凹ませるまでで止まり、ランパートを破壊するまでには至らなかった。
速度を失った氷柱は、やがて盾の表面を伝いながら滑り落ち、地面に落ちると砕けて消えてしまった。
今の攻撃を連続で喰らっていたら、ランパート1枚では貫通されるだろう。
もしくは、もっと形状を鋭利にし、回転を加えれば1本でもランパートを貫けるかもしれないな。
うん。やはりドリルか。ドリルこそが異能力の正解なのだ。
蔵人は独り、独自の結論をぶち上げて、何とか気持ちを保つ。
そんな蔵人に、またもや観客席から驚きの声が降りかかった。
「「うぁあああ…」」
「うそ、防いじゃった…」
「Aランクのアイスピラーを、真正面でっ!?」
「お兄さんってCランクじゃないの?今の盾は、何なの?」
「あれが、盾の城壁…。二条様の攻撃を防いだっていう、あの…」
「九条様が言われた通りですわ。ドーピング疑惑なんて、全部デタラメでしたのね」
この会話は、頼人のファンクラブ達か。
九条様は、そんな所でも弁明して下さっていたのか。有難い。
そう思う蔵人だったが、若干気恥ずかしさがこみ上げてくる。
ただ一撃を防いだだけで、これ程持て囃されてしまうとは…。何ともやりにくい。
そう、蔵人が肩を落としていると、片倉さんは肩で息をした。
顔色が若干青く、額から滴る汗を邪魔そうに拭っている。
疲労困憊。
えっ、今の攻撃だけで?
蔵人が驚いている内に、片倉さんは次の攻撃に移っていた。
両手を前に構え、その手のひらで1本の氷柱を掴む。その氷柱は、次第に凝縮し、圧縮されていき、
刃渡り100cm程の白銀の刀に成った。
氷の刀。
柄も氷で出来ているが、自身の氷なので凍傷にはならない。でも、それでは滑り易いのでは?
「やぁあああ!!」
蔵人の心配を他所に、片倉さんは刃を引っ提げてこちらに走って来た。
思えば、殆どの選手は己の異能力を刀の形に凝縮させていた。
安綱先輩も、岩戸の藤浪選手も、九鬼生徒会長も。
それは、日本人であるが故に、侍の魂を引き継いでいるからだろうか。
思えば、ローズ先生は水を斧の形に変えていた。やはり、産まれた地域や環境によっても、具現化する武器が変わるのかも。
蔵人は思考の海に浸りながら、迫り来る刃を盾で適切に受け流していた。
彼女の太刀筋は決して悪くない。刀を使った戦闘訓練を受けた形跡も見られる。
だが、盾を相手にするのに適した型では無さそうだ。
切り上げ、切り下げ、薙ぎ払う。
どれも振りが大きく、受け流しやすい。
そして遠心力が掛かる前に止めてしまえば、
容易く止まる。
蔵人は、片倉さんの頭上に盾を生成する。
その盾に、振り下ろしている最中であった片倉さんの刀が、カツンッと小気味いい音を立てて止まる。
「なっ!ぐぁっ!」
突然の事で、片倉さんは驚きに動きを止め、無防備な胴体を蔵人に晒した。
蔵人はその隙に、盾を纏わせた拳で軽く打ち込む。それだけで、片倉さんは吹っ飛んで地面を転がった。
それを見て、観客席の方から声が漏れ聞こえる。
「あの片倉が、こんな…あっさり」
「まるで、ローズ先生が稽古つけてくれる時みたい」
「風早先輩が負けたって噂、本当かもしれませんね」
「バカっ!おまえ、それ言ったら風早チームからハブられるわよ?」
「良いんじゃないです?だって、黒騎士君と敵対しているチームなんて、泥船じゃないですか」
「うっ、ま、まぁ、確かに、なぁ…」
今喋っているのは、シングル部のランク派の娘達かな?
どちらが得かで派閥を決めるのは、ちょっと本末転倒な気もする。真面目に練習をして、レギュラーを取る方を考えるべきじゃないかな?
蔵人が見知らぬ女の子を心配していると、片倉さんがユラリと立ち上がった。
そして、食いしばりながら氷の刀をこちらに向ける。
うむ。まだ闘志は潰えていないか。良いぞ。
そう思ったのだが、
「いっ、やぁあああ!」
彼女は声を上げながら、こちらに突っ込んできた。
そのまま、刀を振り回す。
まるで、先ほどの繰り返しだ。
同じ太刀筋。同じステップ。同じ呼吸。
一度通じないと分かった筈なのに、全く同じ戦法を使ってきた。
何をしているんだ?こいつは?
蔵人は警戒した。
余りにもお粗末な戦い方。まるでロボットと戦っているような、血の通わない攻防。
こんな脳死な戦い方、Aランクのシングル部がするものか?
そう、思いながらも、先ほどと同じように刀を弾くと、同じように隙を見せる彼女。
なので、蔵人は再び、彼女の腹部を強打する。
「ぐぁっ!」
吹っ飛ばされる片倉さん。
それを見て、蔵人は言葉を漏らしてしまった。
「興ざめだ…」
言って、急いで口を押える蔵人。
ビッグゲームから先、様々なAランクと戦ってきた。そのどの試合もが死闘であり、その誰もが素晴らしい選手達であった。
一歩間違えれば、体が消し飛ぶような脅威との背中合わせ。その緊迫感を、また味わえる。また、あの高みを目指せる。そう思っていたのに、
この戦いは、何ら得られない。そう理解した瞬間に出てしまった、嘆き。
「済まない。礼を失した」
第一、彼女は中学1年生だ。まだ本格的な訓練を受けて日が浅い、子供だ。
そんな子供を相手に、何を望んでいるんだ、俺は。
蔵人が反省する中、片倉さんは刀を杖代わりに立ち上がり、ヨロヨロと蔵人から離れていく。そのまま、観客席近く前歩いて行く。
なんだ?トイレか?
蔵人が訝しんで彼女を見ていると、彼女は、
「ドーピングです!皆さん!黒騎士は、ドーピングをしています!」
とんでもない事を、観客席に向かって吐き出していた。
「「「えぇえっ!!?」」」
「な、何言ってるの?片倉さん…」
「試合前に鑑定したこと、覚えてないの?」
「頭打っておかしくなったんじゃないの?」
「いや、殴られたのお腹だし」
「あ、そっか」
片倉さんの爆弾発言に、しかし、観客席からは冷たい視線が送られる。
反対に、主審達からは熱い視線が向けられる。
真っ赤な顔で、主審が声を上げる。
「かたくらぁ!お前、自分が何を言っているのか、分かっているのかぁ!」
怒り心頭の教師陣。
それもその筈。成績にも直結するランキング戦を汚しただけでなく、試合を執り行っている関係者の皆さんを侮辱するような事をしているのだから。
主審は首を振りながら、声を震わせる。
「負けそうだからと言って、なんと恥知らずな…。片倉、お前は全てが負けている。異能力においても、精神においても。少し、頭を冷やす必要がある」
そう言うと、主審は胸ポケットから赤いカードを取り出し、高く掲げた。
「片倉、強制退場!よってこの試合、巻島君の勝利とする!」
主審の判定に、蔵人は渋々頭を下げる。
何とも歯切れが悪く、そして退屈な試合であった。
そう思いながら顔を上げると、片倉さんは尚も、観客席に語り掛けていた。
「せ、先生もグルだったのね!黒騎士が男だからって贔屓しているのよ!」
おいおい。大丈夫か?この娘。あまりに暴言が過ぎると、後で生徒指導室送りになるぞ?
下手すると、内申点にも響くと思うから、そろそろ口を閉じた方がいいぞ?
蔵人は、余りに酷い醜態を晒す彼女に、そろそろ強制的に黙らせようと近づく。
だが、それより先に、
「皆さん、助けて下さい!黒騎士は卑怯な手を使って、校内ランキングまでも手中に収めようとしています!黒騎士を倒すのに、皆さんの力を貸して下さい!」
彼女は両手を広げて、観客席に助けを求めた。
その必死な呼びかけに、殆どの観客は白い目で彼女を見下ろし、飽きれて席を立つ娘も出てきていた。
だが、最前列に居た数人は、どうするべきか悩んでいる素振りであった。
その様子を見て、蔵人は、
「素晴らしい!」
殴る為に握っていた拳を解いて、手を叩いていた。
消えかけた火が、再び燃え上がるのを感じる。
興ざめと思われた試合が、また生き返ったのだ!
「勝てぬ相手には数で挑む。正に世界の縮図。自然の摂理!これぞ正しき、戦の姿よ!」
興奮する蔵人に、主審が…いや、先生が声を上げる。
「何を言っているの!巻島君。もうランキング戦は終了したの。貴方が勝って11位になったのよ?戦う必要なんてもうないのよ?おいっ!片倉!貴女はこっちに来なさい!反省文100枚書くまで、今日は寝かせないぞ!」
「まぁまぁ、先生。良いではありませんか。子供の戯れです。彼女が負けたことに納得していないなら、私は付き合いたいと思います。反省文は、少々お待ちいただけませんでしょうか?」
「巻島君…貴方って子は…」
先生は暫く、口をパクパクとさせていたが、最後には「私は残るから、危険だと思ったら止めるわよ?」と言って壁際で控えてくれた。
うむ。有難い。
蔵人は先生にお辞儀をした後、片倉さんの方に歩き出す。
彼女は、今だ観客席の方に向かって、残った観客を必死に勧誘していた。
随分と観客は帰ってしまった様だ。もう、最前列で迷っている数人以外は殆ど帰ってしまっているぞ?
急がねば。
蔵人は、片倉さんの隣に立つ。
彼女はこちらを見て、凄い邪魔そうに睨みつけてくるが、気にしない。
蔵人は両腕を開き、迷っている観客達に笑顔を振りまく。
「さぁ、来たれ参加者よ!我こそはと思う者は、勇んで参れ!」
その声に、しかし、彼女達は顔を見合わせてしまった。
うむ。少々言葉足らずだったか。
「なに。心配することは無い。既に観客は君達しかおらず、ランキング戦では無いから通信簿には響かん。勿論、私からの印象が悪くなることは無い。寧ろ、よくぞ参加してくれたと賛辞を贈ろう!」
蔵人がそう言うと、彼女達はおずおずと席を立ち、1階へと続く階段を降り始めた。
これで、漸くまともな戦いが出来るだろう。
Cランクが1人増えるだけで、戦術は格段に広がり、それが2人、3人と増えれば増えるだけ、相手の戦力は倍々ゲームとなる。
更に、普段のファランクスとは違い、彼女達は遠慮なく攻撃してくるだろう。円柱を守る役割がない分、自由に動ける。
「興が乗って来たな」
片倉さんの周りに集まった6人を見て、蔵人は笑みを浮かべる。
白井さんを囲んでいた取り巻き2人の他に4人。どうも、片倉さんのお友達みたいで、不機嫌の極みである彼女の様子にビクビクしている。そう言う意味では、友達ではなく手下みたいなものか。
残念ながら髪色は鮮やかでは無いので、属性持ちのAランクは居なさそうだ。
それでも、先ほどよりは得るものが多いだろう。
「さぁ、始めようか」
合図してくれる主審はもう居ない為、蔵人が7人に向かって、良い笑顔を向けて宣言した。
のだが、
6人とも顔を強ばらせて1歩引いた。
う~ん。片倉さんとの試合で、尻込みしてしまったか。
仕方ない。
「では、こちらから行くぞ」
蔵人が大きく一歩踏み出すと同時、片倉さんが声を上げた。
「撃ちなさい!早く!」
片倉さんの号令で、一斉に放たれる無数の礫。その量は膨大で、脅威ではある。
あるのだが、いかんせん単調だ。
緩急付けずに打ち出した弾は、他の弾と干渉してしまい、半分以上蔵人に届かず、蔵人が受け流した弾は地面を叩いて埃を巻き上げる。
よって、蔵人の姿が捉えにくくなり、余計に無駄弾を消費する悪循環を生んでいた。
ファランクス部員ならこうはならない。ちゃんと、ローテーションを組んで撃ち込むから、跳弾も弾切れもない。
ファランクス部にはファランクス部の良さがあるものだなと、蔵人は薄くなった弾幕の間をすり抜けながら考えた。
弾幕から出ると、目の前には連合軍の1人が。
慌ててこちらに手のひらを見せて、異能力を使おうとするが、遅い。遅すぎる。
「無理に異能力を出そうとするな。距離を取れ」
「あいたっ!」
軽く小突くと、地面に尻餅をつく女の子。
その蔵人を狙い、両サイドから同時に遠距離攻撃を繰り出して来た2人。
蔵人は素早く後方に移動する。すると目標を失った2人の攻撃が、同士討ちをしてしまった。
「射線上に仲間を置くな。足を使え足を」
「ぎゃっ」「うわっ」
ついでに足を引っかけて、転がす。
その途端、
「せりゃああ!」
蔵人の後ろから突っ込んで来る小さな影。
折角の奇襲が台無しだろう…。
「奇襲するなら声を出すな!」
「ぐえぇ~!」
軽くお腹を押したら、奇襲して来た娘はゴロゴロと床を転がる。
その娘を飛び越えて、誰かが飛び掛かって来た。
「やぁあああ!」
気合は良い…のだが…。
「無暗に飛び掛かるな!攻撃を読まれてるぞ!」
「ぐべっ!」
襲撃者は、瞬時に生成した水晶盾に激突した。
よく見ると、襲撃者は片倉さんであった。
彼女は全身を強打して、床へ仰向けに倒れた。
気付けば、蔵人の周りで立っている者が居なくなっていた。
戦ったと言うより、十人組手を行った感覚に近い。しかも、師範が弟子に稽古を付ける感覚だ。
これは、蔵人が強いと言うよりも、彼女達が集団戦に慣れていなかった事が大きい。
決して、蔵人が7人分の戦闘力を持っている訳では無い。
床にへたり込んだ娘達を見て、どうしたものかと蔵人が悩んでいると、目の端で誰かが立ち上がった。
片倉さんだ。
片倉さんがヨロヨロと立ち上がって、こちらを睨み付けてきた。
3度も沈んだのに、戦意がまだあるのか。
「素晴らしい」
か弱い物を虐げた事は非難されるべきだが、何度でも立ち上がるその根性は評価しよう。
さぁ、次はどんな手で楽しませてくれるのだろうか。
蔵人は、期待の籠った目で彼女を見る。
「良くぞ立ち上がった。さぁ、もっとAランクの力を見せてくれ」
だがしかし、片倉さんは蔵人が笑みを向けた途端、その瞳を揺らし、全身を震えさせて座り込んでしまった。
そのまま、血の気が引いた顔をこちらに向けたまま後ろに這いずり、蔵人から遠ざかりうとする。
彼女の震えた声が、漏れる。
「ばっ、化け物…」
彼女の姿は、計り知れぬ者を前にした、幼子の姿であった。
「化け物、か」
片倉さんの、恐怖が生んだその言葉を受けて、蔵人は深く傷つき、
「その通り!良くぞ見破ったな」
傷つきはしない。
蔵人にとって、それは当たり前の事。
オークに豚と言っている様なものだ。
蔵人の正体を見破った彼女は、酷く怯えていた。
それがただの少女ならば、蔵人は謝りもしただろう。
だが、目の前の娘が何をしたかを考えた蔵人は、その怯えきった彼女に獰猛な笑みを向ける。
「俺が化け物と見抜いたのならば、理解出来よう。その仲間を傷つける事が、どういう事なのかを。化け物を相手取るという事の代償を」
蔵人は、片倉さんに向かって大きく1歩近づいた。
ゆっくりと、片倉さんに向かって手を伸ばす蔵人。
「理解出来ぬなら、幾らでも刻んでやろう。その体に、その魂に」
「いっ!いやぁああ!!!」
片倉さんが金切り声を挙げて飛び上がり、そのまま脱兎のごとく競技場を後にした。その後ろを、取り巻きの2人も急いで追っていく。
あれだけ元気なら、もう1戦くらいやっていけばいいのに。
蔵人は、残された4人に視線を向ける。
「さて、君達はどうする?」
「「「お願いします!」」」
…えっ?
蔵人は豆鉄砲を食らった。
「うぇっ?やるの?4人で片倉さんの仇討ち?」
てっきり、みんなも自分を恐れて、蜘蛛の子を散らすかと思っていた蔵人。
片倉さんに無理やり付き合わされていると思ってたが、仇討ちするくらいの仲だったのかな?
蔵人が疑問を呈すると、彼女達は首を振る。
「違います!私、さっきの試合で何か掴めそうで…」
「私も!何時も接近戦で負けてたから、黒騎士様の指示が凄く新鮮で」
どうも、蔵人の指南が欲しいそうだ。
かなりキツイ事も言ってしまったが、彼女達の目は輝いている。
ならば、
「よし、ではやるか!先ずは誰からやる?」
「「「はい!」」」
一斉に手を上げる4人。
これは、長くなるな。
蔵人は自然と、微笑んでいた。
それから数日が経った。
あの後から、白井さんに手を出してくる輩は現れなくなった。
今でも頼人と一緒に部活に行くと、頼人のファンクラブ会員達は眉を顰める人もいるらしいが、好意的に接してくれる娘も居るらしい。
取りあえず、イジメは収まったそうだ。よかった。
もう1ついい事があった。
黒騎士の強さが再認識され、彼と仲のいい者に悪口でも言った日には、黒騎士が笑顔で勝負を挑んで来ると言う噂が聞こえるようになった。
お陰で、白井さんだけでなく、蔵人と関係ある人達がイジメられる事が無くなった。
稀に、蔵人と廊下ですれ違った人が、怖がって端に寄る事もあるけれど、キャーキャー言われるよりは嬉しい事だ。
ただ、悪い事も2つある。
1つはあの4人。片倉さんとの試合の後で稽古をつけた娘達だが、この前見かけた時には、黒い腕輪をお揃いで着けていて、蔵人に見せびらかしていた。
…そう言うつもりで、指南した訳じゃないぞ!
もう1つは、校内ランキングについて。
主審の宣言通り、順位が862位から11位に跳ね上がっていた。
順位変更があったその日に、鈴華と伏見さんが態々教えてくれた。
張り出された表を引っぺがして、訓練棟まで持ってくると言う暴挙に出ながら。
お陰で蔵人は、鈴華達と3人で職員棟に呼び出されてしまった。
何故に俺まで…。
そんなこんなで、ようやく日常が戻って来た。
今日ものんびりと、秋空を飛行する蔵人。
文化祭までは、しばしの休息だ。
そう思っていた。
だが、運命の神様は意地悪であった。
いつも通りに登校し、靴箱を開けた…のだが、
蔵人の靴箱の中に、とんでもない物が入っていたのだ。
「なんじゃこりゃあ!?」
蔵人の悲鳴が、独り悲しく廊下を走り去った。
イジメは無事?に解決できましたね。
逃げた片倉さんは、どうなったのでしょう?
「試合中、白い目で見られていたからな。ファンクラブでも浮いた存在になっているみたいだぞ」
冷静に考えれば、推しの兄弟に手を出しているんですからね。そんな人とは距離を置きたいですよ。
そして、最後の悲鳴は何だったのでしょう?