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221話~絶対に君が欲しい!~

※お詫び※

前話、安綱さんの事を、「生徒会長」と表記しておりましたが、正しくは「副生徒会長」です。

皆様まで惑わしてしまい、申し訳ございません。

「会長の花園嬢が、草葉の陰で泣いているぞ」

死んでませんって!勝手に殺さないで!

「僕と一緒に居ていいと言っているんだよ。待ち合わせなんて、どうでも良い事だろう?」


そう言って微笑む勇飛さんを見て、蔵人は内心でため息をつく。

なぜこうも、自己中心的な考え方を…。

ああ、そう言うことか。

蔵人は、理解した。

先程、白百合の女子生徒達が言っていた、陛下の意味を。

彼女はきっと、強いのだろう。誰よりも強い、天隆の王者。

Aランクのデトキネシスという恵まれた才能故に、誰もかれもが彼女を特別扱いし、彼女自身も自分を特別だと認識してしまっている。

それ故に起こるのだ。このような特権階級意識が。

それはある意味、彼女も被害者であろう。

魔力絶対主義。ランク付け。それらが引き起こした弊害の。


勇飛さんからのトンデモ発言に、蔵人が眉を顰めていると、彼女は余裕の笑みを浮かべて蔵人の肩を叩く。


「そんな心配そうな顔をしなくて大丈夫だ、蔵人君。君の待ち人には、僕からしっかりと話そう。なに、僕が言えば快く受け入れてくれるだろう。なんせ、この僕なんだからさ!」


朗々と宣う彼女の様子は、間違いなく自信家のそれであった。

ベクトルは違うけれど、何処となく風早先輩を思い出してしまう。

扱いやすい人だと、先ほどは思ったけれど、飛んだ間違いだ。

喚かない分、勇飛さんの方が接しやすいけれど、扱いは格段に難しかった。

風早先輩なら、口八丁手八丁で簡単に丸め込めるけど、勇飛さんは先ず、他者の言葉を聞かないからね。


さて、ではどうするかと蔵人は思考する。

そんな蔵人を、とてもいい笑顔の勇飛さんが覗き込んでくる。


「なんだい?なんだい?どうしたんだい蔵人君。そんな深刻な顔をしないでくれよ。可愛い君の笑顔を、もっと僕に見せてくれないか?」


…一体、天隆の学生さん達は、どんな美的感覚を持っているんだい?

それとも、勇飛さんがB専なのかな?

蔵人は更に渋い顔をして、ふぅと息を吐き出す。


「勇飛さん。私を高く買って頂いてありがとうございます。ですが私は…」

「はっはっは!当り前じゃないか。君はとても礼儀正しくて、とても素直だ。それに、僕の力の一部を見ても、全く動じていなかっただろう?普通の男の子なら、あの爆発を見た途端に気絶するか泣き出しているよ。でも、君は、あの爆発が起きても僕を拒否しなかった。それどころか、二回目の時は耐えてすらいたじゃないか。そんな男の子は、今までに出会ったことが無かったんだ。君は、僕と語らう事の出来る胆力、根性、気迫を備えている」


両手をめいいっぱいに広げて、事の重大性を体で伝えようとした勇飛さん。

そして、彼女がこちらへと近づいて来た。

勇飛さんが、蔵人の直ぐ目の前まで顔を近づける。

彼女の異様に輝く瞳が、鏡のように蔵人の姿を映し出す。


「君は、王と肩を並べるだけの素質を持っている。僕の伴侶になれる可能性を、君からは感じるんだ」

「ほぉ。王と肩を並べる、ですか。それはまた、随分な買いかぶりですな」


蔵人も挑戦的に笑みを浮かべ、彼女の額に己の額を当てる。


「では試してみますか?貴女が言う可能性とやらを。私の力とやらをね」


彼女の瞳に映る自分の目が、薄っすらと色を変え始めているのが見える。

それに勇飛さんは、弾けんばかりの笑みを浮かべながら、蔵人から数歩離れた。


「ははっ。いいねぇ。その目。僕はまた一段と、君を気に入ったよ」


勇飛さんの瞳が、また一段と輝きを増したように見えた。

その様子は、幼子が新たな玩具を目の前にした時の様に、蔵人には見えた。


彼女は蔵人から3m程離れ、腕を組んでこちらに挑戦的な視線を向ける。


「君の提案に乗ってあげるよ、蔵人君。ここから競技場の入り口までの競争だ。全力でそこまで逃げて、君の力を示してくれ。勿論、手を抜くことは許さないよ?君が半分の距離も行かずに僕に捕まれば、即、僕のフィアンセになってもらう。勿論、もしも君が先に到着したら、君は晴れて自由の身だ。どうだい?」

「ふむ。徒競走ですか。私としては別に、異能力戦でも構わなかったのですが?」

「はっはっは。面白い冗談だ。僕はAランクのデトキネシスだよ?男の子の君とでは、勝負ではなく虐殺になってしまう。僕にそんな趣味はないから、徒競走にするんだよ」


随分と自信があるようだ。

というよりも、魔力絶対主義のこの世界なら、当たり前の考え方だ。

男子というだけで、戦うチャンスすら貰えないのか。

そう考えると、徒競走にしてくれるだけでもチャンスなのかもしれない。

男の分際で、女に勝負を挑むな。

そう言われてもおかしくないのだから。


「分かりました。徒競走で勝負しましょう。勿論、異能力有りの勝負ですよね?」

「君が可愛く媚びてくれるなら、異能力無しでもいいけれど?」

「そいつは御免被ります。可愛い動作なんてするより、異能力で鍔迫り合いをする方が性に合っていますんでね」


蔵人の挑発とも取れる返答に、勇飛さんは「元気がある子は良いね」と朗らかに言う。

そんなこと言うなら、異能力戦に切り替えよう!とか言ってくれるかと思ったのだが…。

やはりこの娘、なかなかに食えない人だ。


蔵人と勇飛さんは、競争の準備をする。

蔵人と彼女の距離は3m程。第一競技場までは凡そ500mだ。直線では300m程の距離なのだが、校舎や庭園を迂回する必要があるので、見た目以上のロングコースとなっている。


だが、恐らく楽勝だろう。

勇飛さんは蔵人に、ハンデとして10秒後にスタートすると約束したのだ。

10秒もくれるなら、200m以上は差をつけられる。それであれば、風早先輩であっても追い付けないだろう。


「では、準備は良いかい?蔵人君」

「何時でも良いですよ」


蔵人が返答すると、勇飛さんは片手を高々と上げて、カウントダウンを始める。


「行くよ!3、2、1」


バンッ!


上げた手から、小さな爆発が起きる。

それと同時に、蔵人は走り出す。

全身に張り巡らせた龍鱗が、動く度に小さく擦れる。

前へ前へと押し出す力は、何時もよりも強く、速い。

白銀鎧を着けていないから、普段よりも持ち上げる力が要らないのだ。そのお陰で、推進力を増やすことが出来る。

こいつは、300mくらいの差になるかもと思いながら、蔵人は生け垣を曲がって、最初のカーブを超えた。

すると、


バーンッ


大きな破裂音が、後方から聞こえた。

勇飛さんのデトキネシスだと思うのだが、まだスタートして5秒も経ってないのに、何をしているのだ?

そう思って、蔵人が後方を振り返ると、


「はっはっは!速いね!速いね蔵人くーん!」


物凄い笑顔の勇飛さんが、両手をブンブン振り回して、こちらへと爆走していた。

おやおや?何故、もうスタートしているんだい?まだ時間ではないだろう?

蔵人が彼女をジッと見ていると、彼女はニッと頬を吊り上げる。


「まさか、こんなにも速いとは思わなかったからね!ハンデは無しにしたよっ!」

「ほぉ。それは…」


蔵人は前を向き、更に加速する。


「興が乗りますなぁっ!」

「良い心意気だ!蔵人君!」


勝ちが決まっている試合程、退屈なものは無いからな。

彼女との距離は、精々30m程。海麗先輩であっても追いつかれてしまう距離だ。

それ故に、面白い。

全力を出すぞ!


「さぁ、飛べ!烈風飛竜(エリアルワイバーン)!」


蔵人は背中の盾を増やし、更に加速する。既に足は地面を離れ、殆ど飛行状態へと移行している。

そんな時、


バァンッ!バァンッ!


後方から連続して爆発音が響き、熱風が蔵人を追いかけてくる。

彼女が近くまで来ているのだ。音から察するに、爆発で己の体を前に押し出し、加速しているのかな?

まるで人間大砲だ。本物の爆発であれば、今頃四肢が吹っ飛んでいるだろう。


「はっはっは!速い速い!この僕の前を走るとは、何と言う逸材だ!素晴らしい!」


それでも、元気そうに走っているだろう彼女の言動から、恐らく自身の異能力によってダメージを受けることは無いのだろう。加えて、その衝撃や副次的な効果のみを受ける事が出来ると。


それはきっと、どの異能力者でも同じ事だろう。

思えば、祭月さんや足立中の柴田選手が火傷を負った所を見たことが無いし、白羽選手やソフィアさんが感電している様子も無かった。

幼稚園時代、頼人の力が暴走した時も、彼だけは凍傷とは無縁であったな。

自身の魔力でガードでもされている?もしくは、自身の魔力で作り上げたものだから、元々体に耐性が付いているのだろうか?毒を武器にする生物が、己の毒でやられないのと同じように。

何にせよ、自身の異能力が自身を傷つけることは無いという事だ。

これはまた一つ、新しい発見だ。


蔵人が考え込んでいると、


バァアンッ!!


後方で、大きな爆発。

それと同時に、蔵人の横に赤い影が差す。

見ると、勇飛さんが直ぐ隣で、蔵人と並走していた。


不味い!捕まる!

蔵人は瞬時に盾の翼を操り、反対側に跳んで彼女との距離を作る。

だが、勇飛さんはこちらに目もくれず、蔵人を追い抜かして行った。

うん?なんで?


「はっはっは!逆転したよ、蔵人君!このまま先に僕がゴールして、君を頂くよ!」


うん。またルールを変えやがった。

流石は陛下だ。やりたい放題じゃねえか。

蔵人は自分の目の前に盾を展開し、それを新幹線の鼻の様に三角形に配置する。

前からの風を切り裂いて、更に速度を上げる為だ。


蔵人の飛行速度が上昇する。

勇飛さんとの距離が、徐々に近づいてくる。

彼女の走る姿が、良く見えた。

蔵人は、ただ爆発の威力で加速していると思っていたが、彼女の爆発は円状ではなく、後方へと爆炎が広がっていた。

恐らく、爆発する方向をある程度制御できる、指向性爆発なのだろう。故に、爆発の衝撃をより推進力に変化させやすくなっている。

面白い選手だ、勇飛さん。出来れば、競争ではなく異能力戦で対峙したかった。


勇飛さんの真横にまで着ける。

彼女の顔が、驚きで固まる。

笑顔ばかりを見ていたので、かなり新鮮な表情だ。

少し、胸の中が軽くなる蔵人。


競技場までの距離は、あと100m程。

入り口付近に人の影は無い。中から歓声が上がっているので、生徒さん達は全員、競技場内で体育祭の真っ最中なのだろう。

そう考えていると、勇飛さんの姿が後方へと消えた。

流石に疲れたのか?息切れ…いや、魔力切れ…。

いや、Aランクがこの程度で、魔力を切らす筈がない。

意図した減速?

では、これはっ!


蔵人が警戒すると同時、

蔵人の足元に、魔力の流れを感じた。

ヤバい!

ガード!


バァアンッ!


蔵人が両翼を丸め、足元を覆うと同時、中規模の爆発が足元で起きる。

水晶盾の翼は、少々の焦げ跡が付いたが、その爆発を受けても健在であった。それだけ、今の爆発が低威力だったのだろう。恐らく、Dランククラスの爆発か。

蔵人が防御出来るようにと、ある程度の手心を加えてくれたのだろう。

だがそれは、優しさではなく作戦だったようだ。

宙に投げ出された蔵人の真下を、勇飛さんが笑いながら通り過ぎていた。


「はっは!済まないね、蔵人君!君に嫌われたとしても、絶対に君が欲しい!これで、君は僕の物!」


そう言って、勇飛さんがゴールへと突っ込んだ。

勇飛さんの勝利。

そう、彼女自身は思っている様だった。

栄光のゴールを飾るべく、彼女は両手を上げて、勝利のコロンビアポーズを決める。

そして、その姿のまま、


「ぐべっ!」


潰れたカエルの様な声を出し、彼女は万歳状態で、入り口のすぐ前で”張り付いて”いた。

そのまま、ズル、ズルズルと地面へ滑り落ちる彼女。

彼女が張り付いていた場所には、ひびの入った透明な板が立ち塞がっていた。その板は、割れた部分からパラパラと欠片を落としていき、直ぐに消えてしまった。


そう。そこには、蔵人が生成した、ぶ厚いアクリル板が設置されていた。

彼女が通り過ぎる際に、先回りして張り巡らせたのだ。

徒競走に妨害行為はナンセンスだが、勇飛さんが先にやった事だからね。これでお相子だ。


蔵人が地面に降り立つと、倒れていた勇飛さんもゆっくりと立ち上がった。少し赤くなった鼻を抑えて、それでもこちらに笑顔を向ける。


「面白いね、蔵人君。速く走るだけでなく、こんなことも出来るなんて。僕は君の異能力を、ブーストかエアロ系かと想定していたんだけど、もしかして超希少なオールクリエイトなのかい?それとも、そうだなぁ…」

「私はクリエイトシールドですよ」


考え込む勇飛さんに、蔵人は種明かしをする。

だが、彼女の顔が晴れることは無かった。


「シールド?またまた、そんな冗談を。君はユーモアのセンスもあるみたいだ」


冗談だと思われてしまった。

シールドが無用の最低種と言われるこの世界では、仕方がない事なのは分かるが、納得は出来ない。

何とかして、この価値観も打破せねば。

蔵人が憤っていると、両手を広げる勇飛さんの姿が目に入る。


「さぁ、おいで、蔵人君。君の有能さは十分に理解できたよ。合格だ。今日から君は、僕の物だ!」

「おや?勝負はまだ着いていないのでは?」


蔵人が首を傾げると、勇飛さんは笑みを浮かべながら首をゆっくりと左右に振る。


「勝負など既に、どうでもいい事さ。君が僕に相応しいだけの力量を持っている。それが分かっただけで十分なんだよっ!」


怪しく輝く、彼女の瞳。

とうとう、約束自体が無かった事にされてしまった。

それを、彼女がさも当然と思っていること自体が異常。

陛下は陛下でも、こいつは立派な暴君だ。


さて、その暴君の手から逃れるためには、どうすればいいだろうか?なんとか異能力戦に持ち込めればいいのだが…。

蔵人が思案している内にも、勇飛さんは両手を広げたまま、こちらへとゆっくり近寄って来る。

無防備な彼女の様子からは、こちらと対峙する意志が感じられない。

まるで、ペットのワンちゃんを迎えるかのように、堂々と歩みを進めるだけであった。


…いっそのこと、強く拒否してしまうか?こちらに来るなと、ホーネットでも見せつけて脅してしまうのはどうだろうか?

…だめだろうな。恥ずかしがらなくてもいいよと、微笑みながら突っ込んで来そうだ。

人の話を聞かない人間とは、何と厄介な者なのだろう。


蔵人が苦虫を嚙み潰していると、

ふと、蔵人の心が軽くなった。

…違う。体自体が軽くなっているのだ。

軽くなった体は、そのまま宙を浮き、上空へと高く、高く昇っていく。

そして、高さ5m程の所で、上昇が止まる。

そこには、


「ちょっとやり過ぎだと思うわよ?園部さん」


亜麻色の髪を靡かせた美女が、蔵人の横で浮いていた。

Aランクのリビテーション。

天隆ファランクス部主将、河崎美遊先輩が、優雅に浮遊されていた。

暴君相手に手詰まりの主人公。

そこに颯爽と現れたのは、嘗ての強敵、河崎選手でした。


「本当に、あべこべな世界だ。普通、男女の立ち位置が逆だろう?」


権力を笠に着て、か弱き乙女に言い寄る王子。それに、颯爽と現れた騎士。

…男女が逆なら、ありふれたシチュエーションなんですけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  このまま蔵人が捕食されなければ良いのですが、フクロウに捕まったネズミよろしく、食べられてしまわないように。
[一言] 来てくれてよかったよ ここまでだともう次は全力の異能力戦で黙らせるぐらいしか思い付かないし(可能かはさておき)
[気になる点] 天隆の学生は礼儀を学びなおしましょう [一言] 婚約者候補を横から掻っ攫われるのはマズいですからねぇ
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