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18話〜こうでなくてはなっ!〜

ご覧いただき、ありがとうございます。

文章、読みにくくありませんでしょうか?

Dランク戦、地区大会当日。

会場は、蔵人達が住む町から2つ隣の市で行われる。

車で1時間もかからない位の所。そこの総合運動公園の広場が、会場である。


蔵人は、柳さんの運転で会場へ向かう。

もう、蔵人と一緒に暮らしているのは柳さんだけになってしまったので、彼女が全ての家事と蔵人の送り迎え等を行ってくれている。

田上のお爺さん達は、頼人が連れていかれて直ぐに本家へ戻っていった。蔵人の読み通り、彼らは頼人が産まれたことで遣わされた使用人だったみたいだ。


車に乗る他のメンバーは、慶太と、慶太と同じクラスの斎藤さんが乗っている。

初めて見る女の子だが、慶太のガールフレンドか?と聞いた所、近所に住む幼馴染との事。幼稚園は違ったが、小さい頃から家族ぐるみでの付き合いらしい。

なかなか、慶太も隅に置けない奴だ。

本人はいつも通り、のほほんとしているが。


「そう言えば、慶太。なんでお前さんは選考会にエントリーしなかったんだ?」


車中、慶太と隣り合った蔵人が、思い出して彼に聞く。

サポート型(妨害)の異能力とは言え、慶太程の使い手なら、クラスの代表になるのは可能だと蔵人は考えていた。

慶太は細い目を更に細くして、少し頭を傾けてから、言った。


「分かんない。気がついてたら終わってた」

「うん?何かあったのか?」


よもや、クラスの誰かに忖度したのか?

蔵人が訝しんでいると、隣の斎藤さんから詳細が飛んで来る。


「けいたは最近、おおてら君と泥遊びに夢中なのよ。帰ってきた時に家の中が泥だらけで、ホント困るわ」

「違うよ!泥遊びじゃないよ」


斎藤さんの報告に、慶太が抗議の声を上げる。

上げたのだが、


「何が違うの?」

「泥遊びじゃなくて、土で人形を作ってるの!」

「それの何処が、泥遊びじゃないの?」

「だから、泥じゃなくて土!」

「一緒じゃない」


斎藤さんに言い負かされて、口をパクパクする慶太。

もう尻に敷かれとるぞ、慶太よ。

痴話げんかを繰り広げる2人を見て、乾いた笑みを浮かべる蔵人。

しかし、土人形、ね。

だがすぐに、蔵人は彼が何をしているのかを察して、顔をニヤつかせた。


「慶太。つまりはお前さんの異能力、ソイルキネシスの訓練をしていたってことかい?」


他ならぬ、ソイルキネシスの慶太が土いじりをしているとなると、そういう路線も大いに考えられる。土人形とは、すなわちゴーレムの事だろう。ソイルキネシスの中には、そういう使い方をする異能力者がいることを、過去のDランク戦の試合を見返し始めた蔵人は知っていた。


「そう、それ!さすがくーちゃん!」


蔵人の推測に、嬉しそうに返す慶太。

やはりそうだったか。

蔵人の笑みが深くなる。


「そうか。それなら仕方ない。来年なら拝めるんだろう?その新技。楽しみにしているよ」

「任せてよ!いっぱい作ってあげる!」


やる気いっぱいの慶太の横で、斎藤さんがため息をつく。


「やっぱり、男子って子供ね」


まぁ、そう言ってくれるな。男性がいつまでも子供なのは、否定しないがね。

蔵人の笑いが、苦笑いに切り替わった。



そんなやり取りをしている内に、車は会場へ到着する。

駐車場は比較的空いており、会場の観客席もほとんど空席だ。最前列に少し、保護者達の応援団が陣取っている位である。

柏レアルでは超満員であったのに、小学生の地区大会なんて、こんなものなのか。


「それじゃ、エントリーしてきます」

「蔵人様、我々はあちらで応援しておりますので、ご無理だけはなさらないで下さいね」


応援席の方を手で示しながら、柳さんが念を押す。


「ありがとうございます、柳さん。安全第一で頑張りますね」


蔵人は独り別れて受付を済ませ、選手控えのテントで競技開始を待つ。

段々と選手が集まってくる。対戦表には、312人の選手の名前がある。やはり女の子が多いな。男子は全体の1割にも満たない。


「おっ!巻島おはようっ!」


蔵人が対戦表を見上げていると、横から元気な声が降りかかった。

蔵人はそちらを向き、手を挙げる。


「おはよう。飯塚さん。調子良さそうだね」


飯塚さんが、手を振って近づいて来ていた。

顔色もすこぶる良さそうだ。緊張は…いい具合に保ってそうだな。


「お父さんの朝ごはんいっぱい食べたもん!巻島も良さそうだね。朝ごはん食べた?」

「食べたよ。柳さんのご飯は美味しいからね」


そう言って、応援席でこちらを凝視している柳さんらしき人を手で示す。

うん。やはり柳さんだ。手を差し出した途端、大きく手を振ってくれた。流石、透視の能力者。

それを見て、飯塚さんの顔が少し強ばる。


「うちのお父さんのご飯も美味しいもん!ハンバーグなんてほっぺたが落っこちっちゃうもん!」


ちょっとムスッとしている飯塚さん。

蔵人の発言が、マウントを取りに来ているとでも思った様だ。


「そいつは凄いな。機会があったら食べさせてよ」


そう言うと、曇ってた彼女の顔に微笑みが差した。


「うん!今度お父さんに作ってもらって、学校に持って来てあげるよ!」


そんな会話のお陰か、お互いに緊張も良い感じに解れてくれた。



そして、いよいよ始まる地区大会。

1回戦、2回戦はこの会場以外の場所でも行われ、3回戦以降はこの会場で行われるのだとか。

道理で、300名の選手名が書かれていながら、この場には50名程度しか居ないと思った。


ルールはシングル戦の公式ルールを採用しており、魔力量がDランク以下の小学1年から3年生限定という以外は、アンリミテッドルールと似たようなもの。時間も最大10分だ。

小学生なので、審判が戦闘継続不可能と判断したら、つまり魔力切れや危険な状態だと判断したら、その時点で試合を終了させ、判定に入るらしい。柏レアルでは気絶するまで戦っていたから、その違いは気を付けるべきだろう。


「次の人は前へ」


前の試合をフィールドの端で見ていた蔵人に、声が掛かる。

漸く試合か。

蔵人が進み出ると、向こうからも小さな影がフィールドの真ん中に進み出て来た。

明るい茶色の髪をお下げにした、素朴な女の子だ。


「始め!」


さて、初めての公式戦にして、久しぶりの異能力戦。まずは相手の出方を見ながら、体を解すことにしよう。

そう思っていた蔵人だったが、試合開始から1分後、その考えを修正する。

しなければならなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


膝に手を付き、肩で息をする対戦相手。

彼女は、最初こそ数秒かけて手のひらサイズの火の玉を生成し、緩いフォームで蔵人に放り投げていた。だが、あまりにも遅いその火球に、蔵人は歩きながら避けてしまった。

それを見て、彼女はムスッとした顔で近づいて来て、接近戦を挑んできた。

だが、その結果は見ての通り。

手をグルグル回して、近接格闘のフォームもクソもかなぐり捨てた捨て身スタイルは、見事に彼女の体力だけを奪い去る。1分後には、泣きそうな顔でこちらを見上げる少女が独り出来上がったという訳だ。


これ、どうすりゃいいのよ?

蔵人は困って審判を見上げるも、彼女は厳しい目で蔵人を見返すだけだ。

殺れ。

そう言ってるみたいな目である。

いや、そこまでは思っていないだろうけど、攻撃しなさいくらいは思っている筈だ。

仕方なく、蔵人は鉄盾で手を覆って、少女の首にコツンッと1発。

すると、少女はコテンッとフィールドに倒れ伏した。


…やり過ぎ、じゃないよな?

恐る恐る、審判を見上げると、彼女は満足そうに蔵人を見返して、右手を真っ直ぐ空へと上げた。


「そこまで!」


試合終了の合図。

1回戦は蔵人の勝利。

何とも空虚な勝利であるが、これは1回戦だからである。

そう思っていた蔵人だったが…。


2回戦。


「やぁ!たぁ!」


エアロキネシスの拳が、蔵人の顔面のすぐ横を通り過ぎる。

確かに、通常よりも格段に速い拳ではある。ではあるが、それは小学女児としてはという事。

余裕で躱していると、1回戦と同じように、息切れを起こす少女。

やり辛いなぁ。

そう思いながらも、蔵人は彼女の首に一撃。空虚なKO勝ちを積み重ねた。


これがDランク低学年の部なのか?

蔵人は、自分が場違いな所にいるのではと居心地が悪くなった。

まるで中年のおじさんが、子供達との遊びで無双しているかのような感覚。もの凄いズルをしている様な、犯罪的な感覚が襲って来た。

来年は、この大会出るのやめよう。

そう思った。



そんな罪悪感を抱えながらも、蔵人は勝ち続けた。

これが、頼人との約束を果たす最善手と信じて。

そして、決勝戦となる。


「お互い、頑張ろうね」

「うん?ああ、そうだね」


考え事をしていた蔵人は、相手からの心ある言葉に曖昧な返事を返してしまった。

今、目の前で不敵な笑みを浮かべるのは、同じクラスの飯塚さん。

決勝まで残ったんだね。飯塚さん。


「なに?緊張してるの?」


曖昧な返答をした蔵人の顔を、心配そうに覗き込む飯塚さん。

そして、蔵人を安心させるように、ニコリと笑った。


「大丈夫だよ。もう私たちは、県大会に行けるようになったんだもん。しょうか試合?って奴だってお父さんも言ってたよ!」


県大会への出場権は、ベスト3位までが与えられる事になっている。

その為、この決勝戦まで進んだ2人からしたら、全力で戦うよりも怪我をしない事の方が大事なのである。

それでも、1位と2位では次の県大会で組み込まれるブロックが違う。1位の方が、他の地区大会の低順位の選手と当たれるので有利だ。

それが分かっているかは分からないが、飯塚さんの人を思いやる気持ちは賞賛すべきものだ。


「うん。ありがとう、飯塚さん」


蔵人が少し微笑むと、飯塚さんは1つ頷いて、自分の立ち位置に戻る。

フィールドには、いつの間にか審判が立っており、蔵人の方に視線を向けてくる。

ほら、貴方も早く準備して。

彼女の眼はそう言っている。

蔵人も自分の立ち位置を確認して、準備が出来たことを彼女に伝える。

すると、審判は手を高く上げて、試合が始まる事を周囲にアピールする。

そして、


「始め!」


試合が始まった。

飯塚さんのお陰で、少し罪悪感が薄れていた蔵人だったが、試合が始まると完全にそれは払拭された。


「そりゃあ!」


バァンッと、蔵人のすぐ横の空間が弾け、その衝撃で蔵人は転がる。

彼女の魔力が凝縮した時、直ぐに盾を構えたので火傷などはしなかったが、それでも中々の衝撃であった。

これが、デトキネシス。

上位種と呼ばれるパイロキネシスの更に上、最上位種の異能力。


「もういっぱぁつ!」


立ち上がる蔵人に、追撃の爆発が襲い掛かる。

蔵人は素早く鉄盾を生成し、その盾を構えて踏ん張るも、爆発の衝撃で鉄盾が大きく凹む。

なかなかの威力と素早い発動。


「くっ、ふふ」


面白い!

そう、そうだよ。


「ふっはは!」


戦いってのは、


「こうでなくてはなっ!」

「まだまだぁ!」


蔵人が踏み込もうとすると、前方に爆撃が2つ。

その衝撃を盾で受けきると、蔵人は大きく厚いアクリル板を1枚、地面に横たえる。


「そこぉ!」


飯塚さんが、異能力発動の為に手を蔵人に向けるが、蔵人はその時は既にアクリル板の上に乗っていた。

その板が、動き出す。

(なら)された地面を、滑り出した。


「おおお!」

「なんだ!?何かに乗ってる?」


すっかり少なくなった観客席から、驚きの声が届く。

蔵人は、板をスケートボードの様に乗りこなし、会場を縦横無尽に滑り出す。


「えっ、何それ!?」


飯塚さんが、何とか蔵人に当てようと爆撃を続けるも、その手前で爆発してしまっている。飯塚さんのデトキネシスは、射程3mと言ったところか。


「蔵人さまぁ〜!」

「くーちゃん!」


蔵人が滑っていると、観客席から柳さん達の歓声が聞こえた。

ちょっと近くまで行くか。

蔵人が近づいて手を振ると、振り返す3人。


「ちょっと、巻島君!戦いなさいよ!」


すると、柳さん達から少し離れた所に別の集団がいて、そんな声が聞こえた。


「マキマキから逃げ回るなんて、ズルいわよ!」


武田さん達だ。指をさして、こちらを非難している。

応援に来ていたんだね。多分、飯塚さんの応援だろうけれど。


「はいはい。仰せのままに」


蔵人は、武田さんと清水さんに手を振って、飯塚さんに向けてスケボーを進ませる。

飯塚さんの射程圏内に入ると、爆撃が再開される。

蔵人はスケボーを巧みに操作し、爆撃を避ける。

飯塚さんを中心に、ぐるぐると周りながら、全て避けてみせる。


「くっ…」


そうしていると、飯塚さんに疲れが見えた。

魔力切れか。では、そろそろ行くとするか。

蔵人は、スケボーを急旋回させて飯塚さんへと突っ込む。板の後ろの方に体重を乗せて、前方を大きくウィリーさせる。

このまま突っ込み、シールドバッシュで彼女の意識を狩る。

そんな作戦を、頭に描いていた蔵人。

だが、不意に飯塚さんと目が合った。

その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。


あっ、不味い。

そう、蔵人が思うと同時。


「取ったァ!」


飯塚さんが両手を突き出すと、今までにない大規模な爆発が、蔵人の目の前いっぱいに広がった。

蔵人は、瞬時に鉄盾を生成する。

だが、それは爆風に触れると大きくひしゃげて、蔵人の体ごと吹き飛ばされた。

その勢いのまま、地面で2転、3転する蔵人。

転がる勢いが止まったので、上半身だけ起き上がる。体を手で触って確認するが、特に外傷は見当たらない。

鉄盾で威力を殺すことには成功した。


だが、今のは完全にしてやられた。

あとちょっと盾を出すタイミングが遅れていたら、確実に病院送りであった。

小学生1年生の罠に引っかかるとは、なんとも情けない。

…いや、そうではない。彼女が見事だったのだ。

蔵人は立ち上がり、気合いと心を入れ替える。見事な戦術を披露してくれた飯塚さんに、再戦しようと瞳を輝かせた。

さて、ここからが本番だ!


そう、思ったのだが、


「そこまで!」


審判が止めた。

あれ?時間はまだ半分以上あるだろう。

そう思ってタイムボードを確認する蔵人。

うん、まだ5分以上残っている。

それでも、審判は既に手を交差させてしまっている。

どうやら、蔵人が吹き飛ばされたのを危険と判断し、試合を終了させたみたいだ。


その後、判定に移る。

蔵人は一撃も飯塚さんに入れられなかったので、予想はしていたが…。


「百山小学校、飯塚真木さんの勝利!」


審判の手と軍配は、飯塚さんに上がった。

蔵人は表彰式で、飯塚さんに惜しみない拍手を送る。

さっきの一撃は見事だったから、蔵人も納得していた。

むしろ、油断した自分を情けなく思った。

相手を小学生と思って舐め過ぎたと。

県大会は頑張ろうと、決意を新たにする蔵人だった。

完全に油断していた主人公の負け試合でした。

子供だと思って侮りましたね?


イノセスメモ:

・主人公同様、慶太も異能力の強化をしている。

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― 新着の感想 ―
  顔から笑顔だと、頭痛が痛い の使い方になってしまいます。
主人公の学校って思ってたよりエリート校だったのか?それとも唯2人が世代に似合わず優秀か…多分後者か
[一言] 修羅の国なの? 小学校1年から相手をぶち殺すような試合を開催し何とも思わないその思考がバグなのか… ピカピカの1年生に程遠い殺伐とした世界
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