210話~あれ?メールだ~
4色のハチマキが靡く戦場で、馬に見立てた3人の生徒に乗った猛将たちが、互いに互いを睨み合っている。
その様子はまさに、開戦を心待つ武将と言えるだろう。
そんな武将達に、周りでは黄色い声が飛び交っていた。
「安綱先輩!頑張ってください!」
「木村先輩!負けないで!」
「九条様!お怪我だけはなさらないで下さい!」
「久我お姉さま!優勝ですわ!」
「海麗!蔵人!やり過ぎないでよ!」
一部、黄色くはない声も混じっているが、概ね盛り上がっているのは同じこと。
このように、プラスの感情が溢れている時は、一番いい絵が撮りやすい。
人物画というのは、人の感情が表に出る時が一番、輝いて見えるものだから。
望月若葉はカメラを構える。
なけなしの小遣いを叩いて買った、優秀な一眼レフカメラだ。手持ちのカメラの中では、1番優秀な性能を備えている。
相棒のピントを合わせて、
撮る。
撮る。
撮る。
緊張した顔、高揚した顔、不満げな顔、呆けた顔、凛々しい顔。
同じ境遇に立たされた彼女達でも、一人ひとりの表情は全く違う。
違うけれど、誰もが輝く素晴らしい被写体だ。
現在の総合得点は、西軍が一歩リードしており、それを追う南軍。東軍と北軍がその後ろに付く形だ。
だが、まだまだ勝負の行く末は分からない。
午後はチーム競技が多く控えていて、これらの結果で順位は幾らでも覆る。
特に、東軍。
こちらには、今話題の黒騎士、巻島蔵人君がいるのだから。
若葉がカメラのピントを件の少年に合わせると、一瞬彼の目がこちらを向く。
これだけ離れたところから激写しているのにも関わらず、こちらの視線を感じ取るとは、流石は蔵人君だ。
若葉は嬉しさ半分、悔しさ半分の心情で、困り顔の彼にシャッターを切る。
本当は、こちらを意識しない写真が欲しかったのだが、まぁ、これはこれで良い。目線があった方が、顧客達は喜んでくれるのだから。
『ボエェエエ~!!』
腹の底から震えるような、大きな音が会場に響く。
試合開始の合図だ。
戦国時代を意識したのか、開始の合図がホイッスルから法螺貝に切り替わっている。
まるで、ビッグゲームの彩雲戦みたい。
馬に乗る女子生徒達の服装も、一部甲冑や兜らしきものを着ているし、本当にここの学校は贅沢だ。
お陰で、新聞部というマイナーな部活でも、予算はびっくりするほど貰っている。
そう出来るのは、この学校のOG、OBが裕福であるだけでなく、コネクションも強いからだ。
政界面に強いコネを持つ一条家や、金融の元締めの九条家を筆頭に、二条家、近衛家、西園寺家、久我家、三条家、梅園家等の有力財閥が卒業生、在校生に存在し、彼女ら彼らが寄付という形で、学校の運営資金を賄っている。
この特区の中で、裕福な学校は各地に幾らでもあるが、桜城並にバックが強い所は天隆くらいだろう。
その影響で、この学校の卒業生は、桜城の卒業生と言うだけである程度の箔が付き、就活が有利に進み易くなる。
ましてや、生徒会所属や部活で活躍した者となれば、大きなアピールポイントとなり、その功績1つで、大手企業が内定を出す程だ。
それでも、風紀委員に所属出来る事に比べたら、まだまだ可愛いものなのだけれどね。
あそこに所属するという事は即ち、日本の頂点に登り詰める素質がある人材であると言うこと。
日本のトップ達のヒナが集い、語らい、仲を深めてコネを強くするところだ。
そうして出来たコネが将来、強い絆となって互いを助け合い、日本を強くしていく。
幸い、中等部に風紀委員という枠組み自体は無いのだが、その雛形とも言える組織、ツツジ会が存在する。
これは、元々は将来、風紀委員になるべき中等部生に意識付けをするという意味で付けられた会だったのだが、何時しかそのシンボルとなるツツジの飾り自体に権力が生まれ、その飾りを付けている者を、今では小さな風紀委員とまで言われる様になっている。
身近な存在で言うと、鈴華ちゃんや九条薫子さんや西園寺先輩がこれに該当する。
鈴華ちゃんは、要らないと突っぱねている所を見ているし、西園寺先輩も、余りそういう態度を周りに見せていない。
でも九条さんは、ツツジの花が象られた指輪を時々付けている姿を目撃しているし、他の子は得意げに見せびらかしていたりする。
なんなら、今この乱闘中に付けている強者もいるくらいだ。
おっと、ちゃんと試合を見ないと。
騎馬戦は西軍優勢で進んでいた。元の騎馬の数はそれぞれ10騎。3人1組の馬に武将が1人乗り、頭に巻いたハチマキを奪い合う。
異能力無しの騎馬戦なら、接近戦で勝負したり、相手が見てない隙に後ろから掠め取ったり出来るけれど、これは異能力ありの騎馬戦。
先程から遠距離攻撃が、各陣営からドンパチと放たれている。
我らが東軍はと言うと、相手の遠距離攻撃でかなり削られている。騎馬は既に6騎にまで減っており、馬が欠けている組も見られた。
かなり他の陣営から敵視されているみたいで、集中砲火を浴びている。
蔵人君のせいかな?
若葉は彼の様子をファインダーに収める。
盾を展開して、自分の騎馬だけでなく、周囲に集まった騎馬も一緒に守っている。
彼らしくないと思ったが、馬は3人1組なので、勝手に突き進む事も出来ない様だ。
これがファランクス部員で構成された騎馬だったら話は違ったのだろうけど、今の彼は1年生組の騎馬になっている。それも馬役だ。
騎手は通常、軽い人か腕力がある人、男の子が成る。逆に馬には女の子が成る。と言うか、蔵人君の様に馬になる男子なんて、見たこともない。
さす蔵だな〜、なんて思っていると、東軍で爆発が起きる。
他軍のデトキネシスが、東軍の大将騎を攻撃したみたいだった。
東軍の大将は美原先輩。
先輩が爆発で宙に投げ出された瞬間を、若葉は捉えた。
このままだと、先輩は地面に投げ出される。騎馬戦は、騎手が地面に着いたらアウトだ。
撃破数には数えられないが、騎馬が全滅すればそのチームは敗北する。
大将がやられたら、士気は大幅に下がるだろうなと、若葉が冷静に判断していると、
蔵人君が、美原先輩をキャッチした。
落ちてきた所を、両手を伸ばしてキャッチ。そのままお姫様抱っこをする。
おっ!これはシャッターチャンス!!
若葉が物凄いシャッター音を連射している間にも、蔵人君は美原先輩を肩車した。
どうも、このまま騎手1人、馬1人で戦うみたいだ。
美原先輩と組んでいた人達の姿が見えないので、先程の爆撃でベイルアウトしてしまったらしい。
ちなみに、騎馬戦のルール上、馬が1人でも問題ない。
実際、他のチームでは2人で馬をやらざるを得ない騎馬も続出している。
要は、騎手さえ地面に着かなければ良い。もしくは、騎手が長い時間空を飛んだりしなければ。
でも、それはルール違反でないだけで、不利な事に変わりは無い。
馬が1人と3人では、圧倒的に安定度が違う。1人では、まともに騎手を支えるのも難しく、ましてや走るなんて出来ない。
と思っていたら、蔵人君は走り始めた。
しかも、かなり速い。速い!
自身を盾で包み、加速するだけではなく、美原先輩にも盾を貼って支えにしているみたいだ。それで、全力で走っても、騎手の体勢が崩れないみたいだ。
あっ、いや、一部崩れているな。
崩れていると言うか、跳ねている。ブルンブルンと。
お陰で、蔵人君の顔が真っ赤だ。なんて言っても、自分の頭の上で跳ねているんだもの、その2つの特大スイカが。
蔵人君が、何か美原先輩に向けて抗議しているみたいだけれど、美原先輩はニヤニヤと笑って、それを取り合おうとしないみたいだ。
それどころか、蔵人君の頭に抱きついて、その果実をめいいっぱい当て始めたぞ。
余りの衝撃だったのだろう。蔵人君はその衝撃を晴らすが如く滅茶苦茶に走り回り、相手の攻撃を避けながら、相手に体当たりを仕掛けて騎馬を崩壊させてしまった。
蔵人君達は、ちゃんと盾を張っていたから、体当たりの反動は全くないみたいだ。
めちゃくちゃだな。
しかし、蔵人君は巨乳好きだったみたいだ。
思えば、ファランクス部はスタイルいい子が多い。美原先輩に、櫻井先輩に、鈴華ちゃん。あと、何気に翠も。
特区の男の子の中には、小さい胸が好みな子も少なくない。
女子に追われてばかりいる彼らだからか、女性に苦手意識を持つ一部の男子は、女性っぽくない人が好みになるらしい。
好みと言うより、女性らしい人に対しては、性欲よりも危機感が勝ってしまうのだろうね。
それだから、同じ男子には親しみを持つみたいで、男子同士の仲は良好みたいだ。
同じ境遇の仲間って認識なのだろうか。
でも、蔵人君の様子を見ていると、彼はその一部の子には該当しないみたい。
それが美原先輩にも伝わったのか、彼女は凄く嬉しそうに、蔵人君とイチャついている。
イチャついているのに、その2人を阻もうとした騎馬は尽く轢かれるか、美原先輩にハチマキを強奪されている。
今では、東軍が一番の勢力となっている。
残り騎馬は、東軍3騎。北軍と西軍が2騎。南軍に至っては、既に全滅していた。
うぅん…何だろうな。同じチームが勝っていて嬉しいのに、何か、こう、釈然としないと言うか、胸の内がモワモワすると言うか…。
胸。胸?ああ、そうか。
若葉は自分の胸に手を置いて思い至る。
そこに抵抗が無いことを。
ああ、そうか。胸が無いから、嫉妬しているのか。
なんだ。そういう事か。
若葉は気持ちを立て直し、カメラを構える。
丁度、最高の被写体達を見つけたので、興奮で唇を舌で濡らす。
全ての騎馬を撃破した蔵人君達が、2人して両手を上げて、勝鬨を上げている所だった。
〈◆〉
現在、体育祭のチーム順位は拮抗しているものの、西軍のリードは変わっておらず、続いて東軍、南軍、北軍となっていた。
東軍は、さっきの騎馬戦等で南軍を抜き、見事2位にまで返り咲いている。後はこの、チームリレーで西軍に勝利さえすれば、西軍が何位になろうが私達が優勝できる。
でも、そんな事は海麗にとって、どうでも良くなっていた。
先程の騎馬戦を思い出すだけで、心がポカポカする。
凄く、楽しい時間だった。
途中まで数的不利な状況だったけれど、蔵人君と組んだ事で、形勢逆転出来た。
何よりも、すっごく可愛い彼の反応が見られたから、大満足だ。
後で、若葉ちゃんに写真を貰いに行こう。
あの子の撮った写真はどれも生き生きとしているから、きっともっと可愛い姿が見られるだろう。
海麗は、緩む頬をそのままに、チームメイトが走る姿を目で追いながら、心は思い出に浸かっていた。
巻島蔵人。
思えば、出会った当初から普通の子では無かった。
空手部での一件。
海麗に挑んでくる部員が居ない中で、見学者で、しかも男子なのに私の誘いを受けてくれた。
半分以上冗談のつもりで誘ったんだけど、普通の男の子みたいに泣いたり怒ったりしないで、何処か嬉しそうに対応してくれた。
海麗はそんな彼を、凄い箱入り息子なのか、それとも逸材なのではないかと考えた。そして、それが直ぐに後者であったと、拳を交えた時に気付いた。
それと同時に思ったのは、ちょっと危ない子だと言うこと。
大切な手を犠牲にしても、なお笑って、なお挑もうとする姿は、武道を歩む人間としては立派だけど、男の子としてはとても危険だと思った。
それは、海麗を立ち直らせる為の模擬試合でも、岩戸戦でも思った事。
腕を犠牲に、海麗やチームメイトを守る彼の姿勢は、ただ彼が盾役だからこなしている役割だとは思えなかった。
もっとこう、何か鬼気迫るもの、焦りとも似た何かを、彼からは感じた。
それが何なのかは分からないけれど、彼は危うい子だった。
多分、海麗達が危険な目に遭う度に、蔵人君なら迷わずに飛び込んでしまう。海麗達と、その脅威の間に。
彼の原動力を知りたい。
彼の思いを感じたい。
そう思って見ている内に、巻島蔵人と言う存在は、海麗の中で大きくなっていった。
あの時、おばあちゃんを思い出させてくれた蔵人君に、同じ流れを持つ彼に、海麗は知らない内に惹かれていたのかも知れない。
「「わぁあああ!!」」
「「黒騎士さま〜!」」
声援が一際大きくなり、蔵人君が走り出したのが分かった。
東軍は現在3位。西軍と南軍を追っている状況。
蔵人君は始めからトップスピードでトラックを駆け出す。
やっぱり速い。それに、防御力が物凄く高い。
南軍の子が両手から炎を噴出させて、自身の体を前へと押し出しながら後方を駆けていた蔵人君への攻撃も行った。
でも、蔵人君にその妨害は全く効かず、炎の海を切り裂いて出てきた彼を見て、相手は呆気にとられながら、彼が横を通り過ぎるのを只々見ているだけしか出来なかった。
騎馬戦で散々証明されている蔵人君の突進力は、ここでも輝いていた。
「「「くっろきし!くっろきし!」」」
応援席も大盛り上がりだ。
噂になっていた蔵人君のファンクラブらしき子達が、一糸乱れぬ動きで応援している。
ドラマとかで見た応援団みたいだ。会員全員が学ランを着ていたら、まさにそれだったね。
そんな声援の中を、蔵人は西軍の先輩が放った風を切り裂いて、彼女に並ぶ。追い越す!
もうすぐリレーゾーン。
海麗は、色んな意味で高鳴る心臓を抑えようと吐息を吐き出し、頭から蔵人君の事以外を排除する。
蔵人との距離が、あと数mとなった。
今だ!
海麗は、地面を強く蹴り上げる。
ほぼ全力のダッシュに、蔵人君が迫って来る。
ああ、ここが海岸線だったら、カップルみたいに見えたのかな?
なんてバカな事を考えていられたのは、ホンの一瞬。
海麗の手に、バトンの感触が伝わる。それをしっかり手の中に握りしめ、地面をけり上げて更に加速する。
バトンパスは、リレーゾーンギリギリで何とか成功した。
前を向いて、走る。走る。
空手の邪魔だと思っていたこの胸も、今は誇らしい。
あの蔵人君を、真っ赤にさせるのだから。
「くそっ!負けない!黒騎士なんかに、さーは負けない!!」
後ろから、必死な声が追いかけてくる。
誰の声かなんて、振り向かなくても分かる。
西軍のアンカー、風早咲々良だ。
校内ランキング1位の彼女だが、プライドが高く、精神年齢がちょっとお子ちゃまだ。
そんな彼女は、先日蔵人君に負けたそうだ。
セクションでの勝負だったらしいが、格下チームにケチョンケチョンにされたと、朽木先生から教えて貰った。
彼女が、黒騎士!と言って海麗を追っているのも、黒騎士の居るチームに負けないと言う意味なのだろう。
でも、
「私も、負けない!」
海麗も、負ける気なんて一切ない。
ここで勝てば優勝だから。なんて事ではない。
蔵人君が繋いでくれたバトンだから。蔵人君が押し上げてくれた順位だから。
体が、軽い。
まるで、空を駆けるみたいに体が前へと進む。
高鳴る鼓動が、体中に興奮を運んでいるみたい。
あの時の感覚と一緒。
蔵人君との模擬戦。
彼のお陰で、おばあちゃんに会えたあの時と。
体中に、力が満ちる。
満ちた魔力が、渦を巻く。
体が、更に前へ、前へと飛び出す。
海麗は、全力のその上を行った。
その時、『パンッ!パンッ』と言う軽い音と、お腹に何かが纏わりついた感覚を覚えた。
見ると、それは白く長い布だった。
よく見ると、それはゴールテープ。
海麗が走るのを止めて、後ろを見ると、そこにはリレーのゴールゾーンがあり、風早さんが喚きながら地面を転がりまわっていた。
そうか、もう、終わっちゃったんだ。
海麗は、嬉しさと寂しさを噛みしめながら、観客席に両手を振って、四方から受ける歓声に答えた。
〈◆〉
閉会式も終わり、生徒達はみんな帰路に着いた。
結局、体育祭は東軍の優勝。
今年は時に見所が多かったらしく、新聞部の部長も凄く興奮していた。
去年を超える校内新聞が出来ると、凄く意気込んでいたからね。
若葉は家に帰って早速、写真の選定に移る。
パソコンにデータを移して、掲示用、贈与用に種類分けしていく。
明日部室に行った際に、速やかにプリントする為だ。
九条さんなどの特別な顧客には、要望のデータをきっちり整理した状態で渡した方が良いと思うから、また別途フォルダを作らないと。
ああ、各ファンクラブ用にも作らないと。
若葉はデータをドラッグ&ドロップして、開いて行く。
先程まで繰り広げられていた体育祭が、目の前で再び思い起こされる。
歓声が頭の中で響き、芝生の匂いがした気がする。
写真の中の太陽が、生徒達の笑顔をより輝かせている。
楽しかった。
改めて見て、そう思える1日だった。
数多の写真の中で、1枚のそれに目が止まる。
いい笑顔でゴールした海麗先輩と、それを取り巻くリレーの選手達。
次の瞬間を収めた写真には、何故か蔵人君が胴上げされていた。
結局、君が胴上げされるんだねと、若葉は写真に語りかける。
『今年は、特に盛り上がった体育祭になった!』
体育祭実行委員長である安綱先輩の笑顔と、言葉が思い起こされる。
多分それは、彼が居たからだ。
蔵人君が居たから、あんなにも盛り上がった。
ただ勝利するのでは無く、みんなを楽しませてくれた。
頼人君と一緒にゴールしたり、2人騎馬で無双したり、やることがいちいち大胆だ。
でも、だからこそ楽しかった。
だからこそ、彼の有能性が公表された。
男子で、これだけの才能を持つ彼を、生徒会や風紀委員が放っておく筈がない。それどころか、もっと上の組織が、スカウトに来る可能性だってある。
それが何時かは分からないが、彼とずっと一緒には居られないだろう。
こんな楽しい思い出を、私達はあと何回、彼と共に出来るのだろうか。
「…やめやめ!」
将来の事なんて分からない。
若葉は、自分にそう言い聞かせて、作業に戻った。
すると。
「あれ?メールだ」
パソコンのメールボックスに、通知マークが付いた。
このアドレスに届くのは、親族のメールのみ。
彼女達取材班が、何か有力な情報を見つけた可能性が高い。
若葉はウキウキ気分で、届いたメールを開ける。
だが、そのメールを読み進めていく内に、その表情は曇り、険しくなる。
「…うそ…」
若葉は、息が詰まりそうになった。
だが、すぐに手を動かし始め、メールに返信をする。
同時に、メールの差出人に電話を掛ける。
「…もしもし。うん…今見た。これ、信頼できるソースなの?」
若葉は電話しながらも、同時にパソコンを操る。
少しでも情報を得ようと、藁にも縋る思いでパソコンのキーボードを叩いていた。
「そんなっ!それじゃ捏造だよ!そんなデタラメな情報、何処が出してるの!?」
若葉には珍しく、声を荒げていた。
でも、それだけ酷いと思ったのだ。
こんなことが、自分の目指す先なのかと。
「どうしよう…どうしよう…」
顔を青くした若葉の目に入ったのは、先程の写真。
困った笑顔を浮かべる、親友の姿であった。
「どうしよう…蔵人君…」
次回から新しい章に入るのですが…。
何でしょう?望月さんが慌てています。
穏やかではありませんね…。
「…うむ…」