表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/481

202話~世界ランキング?~

「流石は蔵人君だね。もうあの2人に接触するとは」


シャーロット姉妹と邂逅してから少しして、蔵人達はCランク会場の観客席で若葉さん達と合流した。

若葉さんに姉妹の話をすると、彼女は腕を頭の後ろに組みながらニシシッと笑った。

彼女の「流石」と言う言葉の中には、きっと褒める以外の感情も入っているのだろう。

鶴海さんはちょっと非難めいた目でそれを見て、西風さんは分かっていなそうな顔をしていた。

因みに、鈴華と円さんはBランク会場の方に行っている。今回は人数も多いので、予選は同時に行うとの事。

蔵人は肩をすくめて、若葉さんに答える。


「お褒めに預かり光栄だ。それで?あの2人は一体何者なんだい?アメリカの有名選手とは聞いていたけど、かなり強そうな印象を受けたよ」

「流石は蔵人だね。君が受けた印象の通りだよ」


今度の「流石」には、不純物を感じない。

若葉さん曰く、ヘルナンデス姉妹は2人揃って強力な選手であり、アクアキネシスの使い手との事。

全米の大会で優秀な戦績を幾つも収め、日本の全日本選手権に当たる、アメリカチャンピオンシップでもかなり上位にくい込んでいるのだとか。


「特に、姉のオリビア・ヘルナンデスは天才と言われていて、先月の世界ランキングでもCランクのU(アンダー)15の階級で100番以内に入っているんだ」

「世界ランキング?」


蔵人の問いかけに、若葉さんは大きく頷く。

曰く、世界ランキングとは、その選手がどれだけ活躍したのかをポイント換算し、各階級(魔力ランク、年齢による区分)における世界中の選手と比較して四半期毎に発表しているランキングである。

ポイントは、大会で入賞すれば手に入り、優勝すると多くのポイントを得られる。

但し、大会によって得られるポイント数は異なり、小さな大会だと優勝してもポイントを獲得出来ないのだそうだ。


「小さな大会とは、つくば大会とかかな?」

「いいえ、蔵人ちゃん。かなり大きな大会でないと評価対象にならないの。比較的大きなこの大会でも、評価対象外になっているわ」


そこは鶴海さんが教えてくれた。

日本で対象となる大会は、数える程しかないらしい。

東京特区大会、大阪特区大会、福岡国際大会等の超大規模な大会がそれに当たる。

その規模と言うのが、参加者の幅である。

評価対象となる大会は、全国から参加者を募るのは当たり前として、外国人の参加者にも門を開いている物を指す。

逆に言うと、外国人を招くレベルの大会でないと評価対象にならず、全日本選手権といった大規模な大会でも、評価対象外となるらしい。


「東京特区大会は、私も一度見に行ったことがあるのだけれど、本当に色々な国から参加者が集まっていたわ。アジア圏内は勿論、欧米からも少なくない参加者が来ていて、半分くらいは外国人が占めていたと思うわ。もしかしたら、あの姉妹も、大会前の視察目的でこの大会に参加したのかも知れないわね。会場となる新宿WTCからも、ここはそれ程離れていないから」


なるほど。それはあり得そうだ。

東京特区大会は冬に開催されるらしいので、今の内に日本を見ておこうという腹積もりなのかもしれない。

もしくは、来年開かれるオリンピックの開催地を見に来たという線も考えられる。

両方か?

蔵人が姉妹の心情を推し量っていると、隣の慶太が元気よく手を上げた。


「オイラもその大会、出られるの?」

「慶太ちゃんは、まだ難しいと思うわ。国際大会に出る為には、ある程度実績が必要なの。他の大会で幾つか入賞したり、全日本でいい成績を残したことが無いと参加資格を得られないわ。だから、蔵人ちゃんならもしかしたら、既に参加資格を持っているかも知れないわね」

「おおっ!流石くーちゃん!」


勝手に持ち上げる慶太に、蔵人は苦笑いを返す。


「いやいや。まだ出られるかもというレベルだぞ?慶太。オリビアさんはそれに加えて、そんな凄い大会でも成績を残している。だから、ランキング100位に入っているんだよね?」


蔵人の問いかけに、若葉さんは大きく頷く。


「彼女は、五大大会とも言われるベルリン大会とニューヨークシティ大会で入賞しているんだ。他にも、上海大会やボストン大会でも良い成績を収めているから、96位にまで登れたんだと思う。あの剣聖選手ですら、中学生の時では128位が最高だったからね。比べたら凄さが分かるでしょ?」


なんとっ!よく話に聞く剣聖よりも順位が上なのか。

蔵人達が驚き、それを見た若葉さんが得意顔になる。

だが、鶴海さんがそれに待ったを掛ける。


「それはちょっと正確じゃないわよ、若ちゃん。剣聖選手が海外遠征に出始めたのは中学3年生の2学期からだから、純粋に比べることは出来ないわ」


鶴海さん曰く、ポイントは1年間の集計で競われるらしい。

だから、剣聖は9月から来年の3月までしか集計されず、それで128位だったとの事。

他の選手達と同じ期間で取っていたら、128位よりも上位になっていたかも?という事だった。


「実際、剣聖選手の現在の順位は、確か48位よ」

「ちっちっち。今は39位だよ、ミドリン。先月のデリー大会で、3位に入ったからね」


デリーと言うと、インドか。

そんなところまで海外遠征しているのか。大変だな、剣聖さん。

蔵人は、まだ会った事のない剣聖選手の心配をする。

会った事は無くても、柳生理緒さんのお姉さんと思えば、他人とも思えない。

あの剣帝のお姉さんなのだ。相当強い事には変わらないだろう。


そんな凄い人達がひしめき合うランキングの中に居る。それだけで、オリビアさんの凄さが分かると言うもの。

蔵人は早く戦いたくて、武者震いした。


そんな練馬こぶし大会だったが、予選は詰まらないものであった。

レベルで言うと、MINATOシティ大会と変わらない手応えだ。

と言うのも、ヘルナンデス姉妹が出てこないからだ。

彼女達はスーパーシードらしく、本戦からトーナメントに組み込まれるのだとか。

なので、予選では暇であった。


唯一の見どころは、


「そこまで!勝者、桜坂中等部、90番!」

「あざましたー!」


慶太の試合であった。


彼の戦い方は、ゴーレムを使った相手の拘束であった。

試合開始と同時に、彼の周囲に数多のミニゴーレムを出現させて、相手が攻めて来るならそれに纏わり付き、一瞬で土ダルマにしてしまう。


これをされたら最後、相手は殆ど動けなくなるので、降参する。

もしも異能力が発動出来る様なら、口まで塞いで窒息させる。

なかなかえげつない戦法だが、着実に勝てている。


「くーちゃん!オイラ、また勝ったよ!」

「良くやったぞ、オイラ。完封勝利だったな」

「かんぷうっ!」


嬉し過ぎて、飛び跳ねる慶太。

相変わらず、凄い脚力しているな。

試合直後なのに、本当に元気だ。

何時ぞやみたいに、電池切れで眠りこけないでくれよ?


蔵人が心配する中、慶太は西風さん達とハイタッチを決める。

さてさて、喜ぶのは良いが、そろそろ締めないとな。

蔵人は、はしゃぐ慶太を呼んで、問いかける。


「さて、慶太。さっきの相手はパイロ系の遠距離型だったね?君の苦手なタイプの相手だが、どうして勝てた?」

「ん〜っと…。オイラのゴーレムが強かった!攻撃される前にベタベタ貼り付いて、攻撃出来なくさせたから!」


片手を高々と上げて答える慶太。

う〜ん。ちょっと奢りが過ぎるぞ?


「確かに、攻撃の前に相手を拘束したから勝てたな。だが、それは決して、君の攻撃が強いからではないよ?さっきの相手が、魔力の形成に時間を掛け過ぎていたからなんだ」


中学生における魔力弾の平均生成速度は、凡そ3秒とされている。

これはあくまで平均で、しっかりと訓練した人なら2秒で出来る人もいるし、修練した大人の異能力者では1秒に到達する人もいる。

逆に先ほどの相手は、5秒以上掛けて生成していたから、随分と訓練をサボっていたのか、元々遠距離主体の選手で無かったのかもしれない。

岩戸中の、藤波選手みたいにね。


「君のゴーレム生成速度は凡そ2秒と言ったところだが、これでは相手によって先制される恐れがある。そこは何か、対策を考えた方が良いと思うよ」

「うん!分かった!」


慶太は素直に頷く。

ここで、対策自体も教えてしまえば、手っ取り早く彼を強化することが出来るだろう。

だが、自ら考えて対策させた方が、考える力が身に着く。

それは、ただ異能力を強化するだけなのと違い、人間としての成長も促すことになるだろう。

なので、蔵人はただ「頑張って」と言うだけに留めた。



Cランクの予選が終わり、時間が出来た蔵人達は、Bランク戦を行っている会場へと足を向ける。

会場のモニターに映った対戦表を見るに、鈴華達は順調に勝ち進んでいるみたいだ。

しかも、そろそろ鈴華の3回戦が始まろうとしている所だった。

蔵人達は急いで観戦席に向かい、前列に陣取った。

まだ予選だからか、観客は少ない。

それでも、何処かの記者らしき人や、対戦者の学校関係者らしき学生達が詰めかけている。

その中には、


「あっ、あそこ、ヘルナンデス姉妹が居るよ」


西風さんに指さされた先には、最後列で腕を組むオリビアさんと、隣で楽しそうに肩を揺らすシャーロットさんの姿があった。

Cランク会場で見かけないと思ったら、こちらに居たのか。

きっと、Cランク戦では物足りないから、ABランクの試合を観戦しているのだろう。

そりゃ、アメリカの有名選手からしたら、日本の同ランク帯の戦闘はお遊戯に見えるだろうな。


「あっ、蔵人君見て見て!鈴華ちゃんが出てきたよ!お~いっ!鈴ちゃ~~ん!!」


西風さんがブンブンと片手を振って、声を掛ける先には、白銀鎧に身を包んだ鈴華が登場している姿だった。

相変わらず、美しい銀髪を靡かせて登場する様は、彼女を知らない人達も虜にしている。

あっ、記者っぽい人が大きなカメラを構えて激写している。これは、雑誌に載るのか?

ウチの敏腕記者も、負けじと小さな一眼レフカメラで激写し始める。

対抗しなくていいからね?


「試合開始!」


鈴華が所定の位置に着くと直ぐに、試合が始まる。

彼女は、開始と同時に姿勢を低くし、足に魔力を込める。

すると、足裏に仕込んでいた鉄板が弾け飛び、その反動で前へと跳ぶ鈴華。


速い!

一瞬で、相手との距離を縮めてしまう。

相手は遠距離型だったみたいで、形を作っている最中の水球が幾つも浮かんでいる状態であった。

その幻想的な情景の中を突き進み、鈴華が相手に拳を振り上げる。


「マグナ・パウンド!」

「ぐぁっ!」


鈴華の一撃が、相手の腹部に突き刺さり、相手は地面を転がる。

そして、


「試合終了!勝者、桜坂1年、久我選手!」


時間にして、2秒も掛からない秒殺での勝利であった。

超速攻の一撃は、まるで剣帝を見ている様。

蔵人は、隣で唖然としている慶太の肩を叩く。


「観たか?あれに対抗できるようにしないとな」

「うん。分かった。そうだね…。どうやったら、すーちゃんに勝てるんだろう…」


珍しく、大人しい声で返す慶太。

見ると、薄い目を更に薄くして、深く考え込んでいる。

本当に、鈴華に勝とうとしているのだろう。良い傾向だ。

BランクとかCランクとかの垣根を超えて、ただ強者にどう挑むのかを考える。これからの世界に必要な人材である。

そんな、前向きな発言が、慶太の口とは別の所からも聞こえた。


【わぁ!凄いね、お姉ちゃん。今の美人さん、物凄く速かったよ。あれに勝つには、どうしたらいいかな?】

【私なら、地面に水を撒いてスリップさせたり、水圧で後方に避けたりするわね。でも、貴女ならどう攻略するか、考えてみても良いんじゃない?】

【うん。そうだね。私だったら…彼女よりも早く攻撃するかな?このサニーちゃん達でバンバンッてね】


ヘルナンデス姉妹が、楽しそうに論議している。

ここからでは、彼女達の姿までは見えないが、擬音からして、サニーちゃんと言うのはシャーロットさんの腰に下げていた二丁拳銃の事だろう。

つまり、彼女の攻撃方法は、銃による早打ちの可能性が高いという事。

もしも、彼女と当たった場合、今の慶太では圧倒的不利となってしまう。

そう思った蔵人は、慶太に幾つかアドバイスすることにした。


そうしている内に、今度は円さんの試合となる。

彼女の戦いは、変わらず美しい。

相手の攻撃をその一刀で切り裂き、守りに徹した相手の防御もろとも切り捨てる。

時間で言えば、1分程は経過していたが、その見事な立ち居振る舞いは、鈴華の瞬殺とそれ程変わらないのでは?と感じさせるほど、あっという間であった。


【お姉ちゃん。今の美人さんは、どうしたらいいんだろう?】


シャーロットさんも困惑気味な声を上げる。

受けたオリビアさんも、言葉を濁していた。


【そうね。私の戦法なら勝てると思うけど、シャルには少し、相性が悪い相手かも知れないわ】


円さんなら、早打ちされても斬り飛ばしてしまうと言う評価なのだろう。

それは、確かにそうかもしれない。

蔵人は、冷静な判断をするオリビアさんに、強者の貫禄を感じる。


と、そこに鈴華と円さんが観客席へと帰って来た。

美しい銀と黒の髪を靡かせて歩く2人の姿は、若葉さんでなくともカメラを構える人が続出する。

まるで、有名ブランドのファッションショーの様だ。

鈴華が片腕を高々と上げ、円さんが真っすぐにこっちを見てくる。


「よぉ、みんな。応援ありがとうな」

「黒騎士様。いかがでしたでしょうか?」

「ええ。お2人とも見応えのある試合でしたよ。円さんの試合は勿論、鈴華のも見事だったね」

「まぁな。色々と技の研究をしていたからさ」


そう言って、力強く拳を顔の高さに上げる鈴華。

その様子に、隣の円さんはただ頷くだけであった。

蔵人はそんな彼女を見て、首を傾げる。


「あれ?お2人は仲直りされたのですか?」


鈴華の得意げな発言に、特に突っ込まない円さん。

そもそも、こうして肩を並べている姿は、共に戦地を駆け回った戦友にも見えた。

蔵人の問いに、鈴華も不思議そうな顔をした。


「うん?いや、別に?」

「元々、仲違いをしていた訳ではありません。出来もしない事を口にして、ただ黒騎士様の御心を惑わそうとする輩であるならと刃を向けただけです」

「あん?なんだと?」


鈴華が顔を歪め、円さんを見下ろす。

だが、円さんは鈴華を見上げて、少し笑う。


「ですが、それなりの力と心意気を持つと分かりました。それ故に、刃を向ける必要は無いと判断致しました」

「なんか良く分かんないけど、誤解が解けたってことだよな?じゃあ、いいや」


鈴華はそう言うと、円さんに笑みを向ける。

鈴華の力を認めてくれたみたいだ。一時はどうなる事かの思ったが、良かった。

胸をなでおろす蔵人の前で、円さんの瞳が鋭くなる。


「ですが、表彰式で黒騎士様と肩を並べるのは私です。そこは譲りません」

「良いぜ。相手にとって不足なしってな」


円さんの挑戦を、鈴華は勇ましい笑みを浮かべて受け取る。

良いライバルに出会えたようだな。

蔵人は、鈴華の更なる成長に期待して、Cランク戦の本戦へと戻ることにした。

世界ランキングなんてものもあるんですね。


「純粋に強さを比べるというよりは、大会でどれだけ上位に入れたかを測っているみたいだな」


世界中の選手を測らないといけないですからね。直接対決はなかなか出来ないですよ。


「その中で、96位というオリビア嬢の実力はどれ程の物かだな」


Bランク相手でも怯んでいなかったですからね。

それ相応の実力と見て良いのではないでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鈴華と円さんいいキャラしてますね。 こう違う属性同士が蔵人を基準に混ざっていくのがいいですね。
[良い点] シャーロットさんの異能力はアクアキネシスということで声を聞き分ける力とは関係ないのかな?銃と水はどう組み合わせるのか、そして棺の中身は何なのか、楽しみです。 [気になる点] オリビアさんと…
[一言] 96位は羨ましそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ