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17話〜お前も頑張れよ!〜

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブックマーク、いいねしてくださる皆さまにも、感謝を。

\(宣)/とっても嬉しいです。

蔵人の代表選進出決定から1週間、敗れた加藤君は思いのほか大人しかった。嫌がらせか何かしてくるかと思っていたのだが、その素振りすら見せることは無い。

Dランク男子からは「どうやって加藤君を追い抜いたのか教えて!」と、取り囲んで来る事もあったが、加藤君自身は目も合わせようとして来ない。

避けてる、と言うより、まだ心の整理が出来ていないといった感じだ。

そういう時は、静かに見守ってやるに限る。

蔵人は無理に接触しようとはせず、いつも通り訓練の日々を重ねるのであった。



そして、模擬試合当日。

時刻は13時を少し過ぎた頃。

昼食とお昼休みを終えた子供達が、ワイワイガヤガヤと楽しそうにグラウンドの周りに集合していた。

全校生徒が一堂に会したので、グランドは超満員だ。トラックの周囲は赤白帽子を被った子供達の頭で埋め尽くされ、唯一空間が開いているのはトラックの中央だけ。そこには24人の生徒と、3人の先生が1列ずつ整列して対峙していた。

この24人が、各クラスから選抜された挑戦者達だ。彼ら彼女が、目の前に立つ3人の先生を相手にすることになる。


一向に静かにならない生徒達に向けて、放送席から声が飛んで来る。


『これより、本年度の全日本、代表選手選考試合を始めます。先ずはルール説明を、佐藤先生お願いします』


特に「静かにして下さい!」などの言葉もないのに、生徒達は自然と静かになる。それだけ、彼ら彼女らがこの催しに関心があることが伺える。その関心が、良い物なのか悪い物なのかは別にして。

全員の意識がトラックに集中する中、校長先生の挨拶後に登壇した、お腹の大きな佐藤先生がマイクをバトンタッチされる。


『はい。え~っとね、先ず皆さんに注意したいんだけどね。毎年試合中におふざけで…』


…ちょっと長くなったので、先生の説明を要約させてもらうと、以下の通りである。

模擬試合は、生徒対先生で行われる異能力バトル。生徒と先生は1人ずつ戦い、生徒は全力で先生を攻撃し、先生はそれを受ける事に徹する。

その試合の評価を周りの諸先生方が採点し、上位3人がDランク戦の地区大会へ出場する権利を得る。


生徒と戦闘する先生は、3人ともCランクの女性教師だ。サイコキネシス、フィジカルブースト、クリエイトアーマー。

6年生の相手がサイコキネシス。4、5年生はフィジカルブースト。そして、我々低学年の部を相手してくれるのが、クリエイトアーマーの吉成先生だ。


戦う順番は、先ずは低学年の3年生、2年生、1年生の順に当たる。先生の体力があるうちに、年長者の生徒と当たるようになっている。

我々力が乏しい1年生は、先生が体力を消費した有利な状況で戦えるという事だ。


長かった佐藤先生の解説を聞き終え、漸く低学年の部が始まる。

先鋒は、蔵人よりも体の大きな3年生の女の子であった。彼女は、肩を回しながら校庭の真ん中に出て来た。


「「「わぁああー!!」」」


周りの生徒達から声援をいっぱい受けて、女子生徒が周りに軽く手を振る。

緊張している様子は見受けられない。

体育の授業で使う安っぽい笛の音が、校庭中に響く。これが試合開始の合図である。


開始と同時に、女子生徒は先生に向かって走り出し、先生の懐に入ると、遠慮なく先生に拳と蹴りを繰り出す。

フィジカルブーストかな?

小柄な女子生徒なのに、小さな拳が先生の体に当たると、先生の体が大きく仰け反り、一瞬だけ足が宙に浮いた。それでも、先生は魔法の甲冑のようなものを纏っているからか、表情はあまり変わらない。先生の防御性能は、蔵人の龍鱗と何処か似ている様に見えた。


試合時間は3分。前半はガンガン飛ばしていた女子生徒だったが、後半はバテて手数がメッキリ減った。そうなると、先生も簡単な攻撃を仕掛けて来る。あれだけ女子生徒の攻撃を受けたのに、先生はかなり余裕そうだ。


『しゅうーりょー!』


放送席からの終わりの合図で、女子生徒と先生は互いに構えを解いて、一礼する。

こちらへと戻って来る女子生徒はへとへとだ。顔色は少し青くなり、足元が覚束ない。

列に戻ろうとする彼女の脇を駆け抜けて、別の3年生女子が先生の前に躍り出た。

随分とやる気の様子。早くやらせてくれと放送席の方をチラチラ見ている。


試合が始まり、3分間経って、終わる。

最初はやる気に満ちていた彼女も、最初の女の子と同じようにヘロヘロで帰って来る。

そうして、4人目の3年生徒が終わると、直ぐに2年生4人がスタートした。

1年生の番になった時は、流石の先生も少し疲れの色が見えた。


『低学年の部。次は、1年1組の谷津田さん』

「は、はい!」


隣クラスの女子生徒が、カチコチになりながら中央へ出る。

そういえば、ここまで男子は2年生に1人だけだった。上級生も4年生に1人だけで、後は女子生徒ばかりが出場している。慶太の奴も出てない。何故だろう?


『しゅうーりょー!』


谷津田さんの番が終わり、次は我がクラスの飯塚さんだ。


「頑張って!」

「まっかせろ!」


蔵人が手を上げて、中央へ向かう飯塚さんに激を飛ばすと、飯塚さんはキラキラした笑顔でその手のひらにバチンと手を合わせた。

同じ代表選手だからか、かなりフランクに対応してくれる女の子である。

他の女の子達であれば、無視されていたかも知れない。

蔵人は、飯塚さんがちょっと好きになった。


飯塚さんはパイロキネシスの上位、デトキネシス使いであった。手のひらを(かざ)すと、その先の空間で小爆発が起こり、先生のアーマーを剥がそうとする。

なかなか見応えのある試合だったが、先生も流石なもので、結局アーマーで全てを防ぎ切った。


『しゅうーりょー!』


飯塚さんが礼をした後、こちらに帰ってきた。

蔵人はまた手を上げて、彼女に労いの言葉を掛ける。


「お疲れ様。かなり先生を押していたね」

「もうちょっと時間があれば良かったんだけどな〜」


飯塚さんは、少し悔しそうに口を歪めた。手を叩く余裕も無さそうである。

蔵人は手を下げて、そんな飯塚さんに向けて首を振る。


「そう言うけれど、今までで1番いい試合だった思うよ。多分、代表選手に選ばれるんじゃないかな?」

「んなわけないじゃん!先生疲れていただけだし」


そう口では言いながら、飯塚さんの顔に笑顔が戻る。

口では否定していても、彼女も手ごたえを感じているという事だろう。


「お前も頑張れよ!」


そう言って、飯塚さんにバシバシ肩を叩かれる。

元気な子だな。


次の1組の女の子の試合は、やはり飯塚さん程先生を追い込めず、試合の後半では寧ろ、先生の攻撃を(かわ)すので精一杯の様子だった。


『しゅうーりょー!』


そして、いよいよ蔵人の番となる。


『低学年の部、最後は2組の巻島さん』


「はい」


蔵人は呼ばれたので、中央に、


「頑張れ!ま・き・し・ま!」


行く前に、飯塚さんから背中を思いっきり叩かれる。

振り向くと、飯塚さんの輝く笑顔がそこに有った。


「ありがと!」


蔵人は、咳き込みそうになるのをなんとか抑えながら返事をして、試合会場へと向かう。叩かれた背中がジンジンするが、お陰で良い具合に力が抜けていた。

校庭の中央まで出ると、目の前には半透明のアーマーを着込んだ先生の姿があった。

こうしてみると、中々に威圧感がある。大丈夫かな?


ピーッ!

『スタートです!』


笛の音と、少し気の抜けた放送席からの掛け声で、蔵人は拳を鉄盾で覆う。そして、仁王立ちのままで構える先生に向けて、そのまま全力で打ち込む!

だが、


ゴンッ!


いい音はするものの、先生はビクともしない。

なるほど。流石はCランク。

蔵人は、高速で鉄拳の連打を繰り出す。

ガンッ!ゴンッ!と無粋なドラム音が何重にも重なり、アーマーが徐々に凹み、ひしゃげ始めた。

もう少し。

蔵人がそう思ったその時、先生が腕を振り払って攻撃して来た。

その腕の速度は遅く、蔵人は余裕で躱すことが出来る。だが、蔵人が屈んでいるその隙に、凹んでいた筈の先生のアーマーが元に戻っていた。


ダメだ。明らかに火力が足りない。

蔵人は拳を握り直す。

先生は、かなり疲労が溜まった顔をしているが、まだアーマーを出し直す事は出来るだろう。この調子で攻めても、時間内にこの城壁を陥落出来るかは怪しいものだ。そうなれば、ここで落選してしまうだろう。それだけは、何としても回避せねば。


蔵人は、先生の鎧を見詰めながら考える。

防御主体の相手に対して、手数とスピードだけでは歯が立たない。必要なのは、一撃の破壊力。彼女の鎧を一撃で粉砕する、そんな破壊力が欲しい。


蔵人は構え直す。右手を大きく引き、そこに盾を集める。

実戦で試すのは初めての技だ。

大人1人を覆い隠せる程の鉄盾を生成し、それに圧力を掛けるイメージで折りたたみ、圧縮し、1枚の小さな盾にしていく。そうすると、その盾の色が変化していった。先生のアーマーの様に半透明な、薄っすら白みがかった小さな盾が作り出された。

Cランクの盾である、水晶盾(クリスタルシールド)だ。

それを更に、圧縮、圧縮、盾を圧縮し、拳大の大きさに。すると、盾の白さが更に濃くなり、透明度を失った白濁した色となる。


その盾を見た先生の顔が、大きく歪んだ。まるで、この拳を恐れるかのように見える。

だが、蔵人は止まらない。引き絞られた右腕を、足と腰と背中の小さな鉄盾のサポートを受けながら、一気に弾き出す。

それは、先生が慌てて前に構えた両腕を巻き添えに、腕の上から腹部へと着弾した。


ボゴォ!


轟音と共に、先生がクロスガードしていた腕の水晶アーマーを粉砕し、腹の水晶アーマーもぶち抜いた。


先生は蔵人の一撃を受けきれず、後ろへと吹き飛んだ。

何度か地面を転がり、漸く止まった。

止まった場所で、先生は動かない。

地面に四肢を投げ出した状態で、立ち上がる素振りも見せなかった。


一瞬、場の空気が凍り、音が止んだ。

不味い。やり過ぎた!

蔵人は慌てて駆け寄ろうとしたが、それより早く、数人の大人達が先生へと走り寄り、先生を取り囲んで何かキラキラした光線を当てていた。


あれは、回復(ヒール)の異能力か?

大人達の隙間から先生の様子を覗いていると、先生は小さなうめき声を上げた後、小さく手を挙げた。

意識を取り戻したようだ。

それを見た大人達は、吉成先生に動かないように注意しながら、佐藤先生が汗だくで持って来た担架に彼女を乗せて、後者の方へと緊急搬送していった。


良かった。ちゃんと医療チームを準備していた様だ。

蔵人が安心していると、次第に周りの状況が耳に入って来た。


ガヤガヤと不安そうな生徒達の声。

周囲を見ると、驚いた顔、青い顔、泣き出しそうな顔の生徒でいっぱいだ。1年生の男子の中には、何人か倒れている子もいる。

なんか、怖がられている?レアル大会の時だったら、大歓声間違いなしの状況なのだが。

蔵人が周りの様子に戸惑っていると、校長先生の声がマイクから発せれれる。


『はい。え~…試験官が倒れましたので、この試合は巻島君の勝利です。巻島君、お疲れ様でした。列に戻りなさい』


そう言って、校長先生が拍手をすると、次第に周りでも拍手の波が広がる。

蔵人は逃げる様に、代表選手達の列に戻る。


「凄くない?吉成先生ぶっ飛ばしちゃったよ」

「低学年で先生倒したのって、今までいる?」


蔵人が列へと駆け寄る最中、高学年が並んでいる列から声が聞こえた。


「分かんないけど、6年生でも滅多に聞かないわよ」

「あってもCランクの代表戦でしょ?」


どうやら高学年の生徒達…特に女子生徒達からは、今の試合を肯定的に見てくれた人がいるみたいだ。

選手の列に戻ると、真っ先に飯塚さんが笑顔で迎えてくれた。


「お疲れっ。凄いじゃん!先生めっちゃ吹っ飛んでたよ!」

「ありがとう。初めて(人に向かって)試してみたんだけど、思ったより威力が出て驚いたよ」


まさか、大の大人が吹っ飛ぶとは思わなかった。

蔵人は、飯塚さんに苦笑いを返す。

そんな蔵人に、飯塚さんはキラキラした目を向ける。


「そうなの?ねぇ、あの技どうやったのか教えてよ!私の技も教えてあげるからさ!」


飯塚さんは興奮している為か、蔵人の手を平気で握って鼻息を荒くしている。

さて、どうしたものか。技と言っても、クリエイトシールドじゃないと出来ない技だし、デトキネシスの技を教えて貰っても、役に立つかな?

色々と考えた蔵人だったが、結局はご要望にお応えして、丁寧に技の解説をし始める。

その横では、高学年の部が始まっていた。



その数日後。

代表選手選考の結果は、高学年の部は3人とも6年生の女子生徒が選ばれた。特に生徒からの反発はない。例年、最上級生が選ばれるのが普通らしい。寧ろ、今年の低学年の部が異常であった。

張り紙には、こう書き出されている。


〈低学年の部、出場者〉

・3年1組 足立七菜

・1年2組 飯塚真木

・1年2組 巻島蔵人


掲示板に貼られた真新しいA4用紙に書かれた情報は、既にホームルームでも各クラスに伝えられている。

なので、これを見た我がクラスのホームルームは、かなりのお祭り騒ぎとなった。1年生から選出され、それも2人もクラスから選抜されたのだから、EランクとかDランクとか関係なく祝福された。

あの加藤君ですら、惜しみなく拍手を送ってくれたくらいだ。

その反面、先輩方からの風当たりが強くなると予想していた蔵人だったが、それも肩透かしを食らう。


「あ、吉成先生をぶっ飛ばした奴だ!」

「今年の代表選手だってよ。男子で1年なのにすげぇ〜な」

「来年も絶対にあいつが選ばれるぜ。俺来年から高学年の部で良かったぁ」

「別にあいつがいなくても、俺達が代表選手に選ばれる事ないだろ?」

「女子に勝てる訳ないからなぁ~」

「あいつも同じだよ。高学年になってくれば、女子の方が強くなるんだから」


そんな感じで話題にはされるが、なんでお前なんだ!と言う反対意見は全く聞かなかった。

やっぱり先生をぶっ飛ばしたのが良かったのか。

いや、ぶっ飛ばした事はいい事じゃないな。ちゃんと先生に謝ろう。



そんなこんなで、Dランク戦の試合までは特に荒れる事もなく、蔵人は訓練に精を出すことが出来た。

特に、先生を倒したあの技は色々と応用が効きそうだったので、練習時間を長めに割くことにする。


後から吉成先生に聞いたのだが、あの時自分が放った技、と言うか白濁としたシールドは、ミスリルシールドと呼ばれる物で、Bランク相当のシールドなのだとか。普段使用している鉄盾の上位、水晶盾の更に上位の盾との事だった。


つまり蔵人は、盾を圧縮する事で2段階上の盾を生成したらしい。大きさは掌サイズで、盾としての役割は期待できないが、攻撃の要となるだろう。

大会直前で、また優秀な技を手に入れた事も合わせて、吉成先生に感謝する蔵人だった。

飯塚さん…。新たなヒロインでしょうか…?

特区の外は女性が少ないはずなのに、主人公は女性との接触が多いですね…。


イノセスメモ:

・大鉄盾(鉄盾10枚分)を圧縮→水晶盾(Cランク相当)

・水晶盾を圧縮→魔銀板(Bランク相当)←エアロキネシスで空気を圧縮すれば…おっと誰か来ましたね。

(シールド)でも(アーマー)でも、同じCランクの魔力を流せば、同じ水晶レベルが生成される。

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― 新着の感想 ―
後から吉成先生に聞いたのだが、あの蔵人が放った技、と言うか白濁としたシールドは、 つまり蔵人は、盾を圧縮する事で、2段階上の盾を生成したらしい。 ここら辺他人事過ぎて一人称の方が受け入れやすいと勝手…
[良い点] エレクトロキネシストを1万人ぐらい集めて風車を回転させて相殺させましょう。
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