198話~ワシが特別って訳じゃなかぁ~
Dランク戦の試合が終わり、アニキが控室から出てきた。
アニキは顔を伏せ気味で出てきたが、我々を見つけると顔を上げ、首の後ろに手を当てた。
「済まんな。あんだけ応援してもらったんに、勝てんかったわ」
「何言ってんだよ、ハマー!十分だよ」
「そうだよ!僕達だったら怖くて、あの人の前にも立てなかったよ」
アニキの謝罪を聞きたくないとでも言うように、大寺君と竹内君が被せて励ます。
2人はアニキに駆け寄り、刀で撃たれた腕に怪我はないかとか、電撃で装備が焦げていないかとか心配していた。
蔵人は、その光景をただ見ていた。
アニキが出てきたら、ああ言おう、こう言おうと構えていたが、2人のフォローを見て必要ないと考えた。
良い友達を持った。そう、感慨深げに思う。
そこに、
「失礼します」
凛とした声と、亜麻色の髪を靡かせて、剣帝がこちらへと歩み寄って来ていた。
蔵人は彼女に正対し、小さく頭を下げた。
「柳生選手。この度は対戦して頂き、ありがとうございました」
「いいえ。感謝するのはこちらの方です。同時に、謝らなければなりません」
そう言うと、今度は剣帝がアニキに対して深く、深く頭を下げる。
「試合前、貴方に棄権を申し出た事、ここに深く謝罪致します。何処かで貴方を見くびっていたのです。ごめんなさい」
「ええよ、ええよ。ワシらの力を分かってくれたんじゃったら、ワシは嬉しい」
アニキが蔵人の横に並び、剣帝の謝罪を快く受け取る。
だが、顔を上げた剣帝は、試合前とは違うベクトルで強い光を瞳に宿していた。
その目が、アニキを焦がす。
「貴方の力を思い知りました、ハマー様。私は、これまでの大会で一度も土を付けられたことがありませんでした。でも、今回の試合では見事に苦戦を強いられました。まるで、柳生道場の姉弟子達と戦っているかと錯覚するほどの試合。貴方程の実力と才能があれば、男性でもきっと、日本異能力界の頂点も狙えると感じました」
「頂点って、んな大げさな」
フルフェイスを外したアニキが、困り顔で剣帝の賛辞を受け取ると、剣帝は一歩踏み込んできた。
「大げさではありません。貴方であればきっと、私と共に頂点へと至れます。このような恵まれない場所でも、これ程の力を発揮できるのです。整った場所で修練を積めばきっと、Dランクの日本一に、いえ、世界にも手が届くかもしれないのです」
「整った場所ですか?」
「はい」
蔵人の低い声に、剣帝は頷き、強い瞳をアニキに向ける。
「ハマー様。是非、十文字学園にいらしてください」
やはりそう言う話か。
蔵人は内心で首を振る。
力を示せたのは良かったが、余りにも示し過ぎたのかも知れない。
アニキを優勝させたい。そう思ってはいたが、その先の事を失念していたな。
さて、どうやって断ろうかと蔵人が考えていると、隣のアニキが半歩前に出た。
「お前さんの言いたいことは分かった。ワシの事を買ってくれとるのも、正直に言って嬉しい。だがな、お前さんが思うちょるほど、ワシは特別なんかではないんじゃ」
「いいえ。貴方は特別です。男性で、シールドでこれ程戦える人を、私は知りません」
剣帝の、心からの賛辞。
それに、アニキはゆっくりと首を振る。
「まぁ、聞いてくれ。ワシが特別って訳じゃなかぁ。何処にでもいる、ただの鼻垂れ小僧じゃった。だがの、ただここまで成長しただけじゃ。お前さんが特別と呼んでくれるようになるまで、ここで、このワシの故郷で、こいつらと共にな」
そう言って、アニキは後ろを振り返り、大寺君達に笑いかけた。
掛けられた方は、ちょっと顔を青くしていたが。
アニキが顔を剣帝に戻す。
「ワシはそっちに行く気はない。家族と離れるのもイヤだからの。ワシはここで強くなるつもりじゃ。まぁ、また相手してくれたら、嬉しいんだがの」
「しかし…でも…」
剣帝はそれでも、アニキを諦めきれないみたいだ。
彼女の中では、十文字学園で強くなるアニキのビジョンが見えているのだろう。
それを、棒に振る様なアニキの考えに、納得していないと。
そんな、煮え切らない剣帝に、
「だったらよぉ」
フィールドから声が掛かる。
そちらを見ると、美しい銀髪を靡かせながら、鈴華が歩いて来ていた。
「ボスの戦いを見てから判断したらいいじゃねえか」
「貴女は、主催者の久我様?ボスとは、誰の事です?」
「そこに立っている黒騎士だよ。その人もハマー軍曹の幼馴染で、一緒に訓練して強くなったんだ。あんたが言う、整っていない場所って所でさ。その強さがどんなもなのかってのを、次のCランク本戦で見定めればいいんじゃねえか?」
鈴華の提案に、一時考える剣帝。そして、小さく頷いた。
「分かりました。では、Cランク戦会場に行きましょう」
「おいおい、ちょっと待てって。剣帝はこっちに戻ってこい。優勝者インタビューをしなくちゃいけないんだよ」
なるほど。それで鈴華がそこに居るのか。
インタビューをしようと思ったら、優勝者まで応援席に戻っているから、ちょっと焦ったと。
口調がいつもの調子に戻っているのも、その為かな?
蔵人達は剣帝がフィールドに戻る中、Cランク戦会場へと移動した。
そして、
「勝者!桜坂聖城学園所属、黒騎士選手!」
「「「わぁあああ!!!」」」
難なく準決勝も勝つことが出来た。
やはり小さい大会のCランク戦では、片手間でも勝利出来てしまう。
異能力なしで戦えば、なかなかにスリリングな勝負が出来るかもしれないが、このような小さな大会だと、クロノキネシスが常駐しているのか分からないからね。怖くてできない。
蔵人が観客席に戻ると、応援してくれていたアニキ達が労ってくれる。
そこに、インタビューを終えた剣帝と鈴華も到着し、後は決勝戦を待つだけとなる。
そこに、
「「「おおぉお!」」」
歓声が巻き起こる。
見ると、フィールドには1人の選手が手を上げて、観客からの声援を独り占めしていた。
蔵人の視線に気づいた若葉さんが、盛り上がりの理由を教えてくれる。
「試合開始10秒ちょっとでノックアウトさせちゃったんだ。圧倒的だったよ、あの選手」
その選手が来ている装備は、真っ黒で刺々しいデザインのスーツ。
まるで、小さなグレイト10を、更に洗練されたデザインに仕立て上げたかのような、小さなパワードスーツ。
これは、もしかして…。
「ふっふっふ。待たせたね、黒騎士君」
蔵人がその選手を凝視していると、横の方からそんな声が聞こえてきた。
そちらを見ると、白衣を着た集団がこちらへと歩いて来ていた。
先頭に立つ丹治所長が怪しく微笑み、くすんだ黄土色の髪を纏めたポニーテールが得意げに揺れている。
「これが、我々の開発したグレイト11だ。小型化した分、威力は落ちてしまったが、その分機動力が向上し、何よりCランクでも使いこなせるようになった。局所戦闘で言えば、あのグレイト10すら超える性能を引き出せるだろう」
「なるほど。これが、貴女の言っていた選手という事ですね?」
蔵人の楽し気な声に、丹治所長は笑みを深くし、何度も頷いた。
「その通りだよ、黒騎士君。我々の英知を集約した次世代機が、我が校期待の星である指山君とタッグを組むことで、君に何処まで近づけたのかを是非ともテストさせてくれ」
「近づくのではなく、追い越してくださいよ。それが、貴女達の信念でしょう?」
「くっふっふ。そうだな」
一声笑うと、丹治所長と白衣の集団は、背中を向けて去って行く。
「黒騎士の技術力と我々の科学力。どちらが強いか、勝負といこう」
そうして、様々な思いが交差する決勝戦が、今始まろうとしていた。
目の前には、真っ黒の小型ロボットに、翼が生えたような見た目のダブルワン。大きさは蔵人よりも一回り大きい程度だが、表層からでも様々な機械が内蔵されているのが見て取れる。
若葉さんが調べてくれた情報では、相手の選手は指山木風。つくば中3年のエアロキネシスで、彼女自身も、他の大会で何度か入賞したことのある優秀な選手だ。
だが、それだけでは、丹治所長が言うような選手とは言えないだろう。
きっと、このダブルワンが実力を底上げし、Aランクとも対峙出来る程に昇華させているのだろう。
「試合、開始!」
審判の号令。それと共に、指山選手は両手を前に、声を上げた。
「エアロシュート!」
Cランク級の攻撃か。
蔵人は水晶盾を瞬時に生成し、それを構える。
だが、
「くっ!」
3発の風弾は、2発で盾を破壊し、残る1発がこちらに迫って来た。
蔵人はそれを、皮一枚で回避するも、勢い余って地面を転がった。
なんて威力だ。ただのCランク弾ではない。威力で言えば、ほぼBランク。
驚きながら立ち上がる蔵人。そこに、相手が突っ込んできた。
速い。速すぎる!
「クリア・バレット!」
超音速のアクリル弾。その弾幕を、相手は高速で左右に移動し、全て躱しきってしまった。
躱す時、足から、体からエアーのようなものが吹き出して、彼女の移動をサポートしていた。
なるほど。これが、ダブルワンの性能か。
確かに、機動力は尋常ではなく向上している。攻撃力も。
蔵人は考えながら、体に龍鱗を纏う。
普段の1重ではなく2重にして、防御力を底上げする。
多分、この相手にタワーシールドは無意味だ。
蔵人はそう思いながら、突っ込んでくる相手に構える。
すると、指山選手は、
消えた。
違う。目の前で急に方向転換しただけだ。
どっちだ?
左?右?居ない。では、
「ぐっ!」
蔵人は危険を感じると同時に、腕を頭上でクロスさせる。
そこに、衝撃。
見ると、相手は蔵人の頭上に居り、腕を踏みつけていた。
飛べるのか、ダブル・ワンは。
「シールド・カッター!」
腕を踏みつける相手に、高速回転する盾を四方から飛ばす。
それを、相手は蔵人の腕を蹴って跳び上がり、全て回避してしまった。
避ける際には、軌道修正する為に体中から風が噴出されていた。
まるで、宇宙での船外活動員みたいだ。
地面に着いた指山選手は、低い姿勢のまま蔵人へと走り込む。
蔵人はそれに、シールドカッターを向かわせるも、相手はスライディングで全て避けてしまい、蔵人の股下に滑り込む。
股下を滑る際、蔵人の足を掴み、蔵人を引きずり倒そうとする。
しかし、蔵人も姿勢制御で対抗する。
体中の盾で態勢を維持し、その場で耐えてみせた。
すると相手は、地面を蹴り上げて逆さまになり、蔵人の後頭部に蹴りを炸裂させた。
その蹴りは、蔵人の龍鱗に阻まれるも、相手はそのまま地面に手を付き、カポエラの様に連続して足技を繰り出してくる。
溜まらず、蔵人は後方に退避し、構え直す。
まるで無重力の世界でに戦うかのような指山選手。それを可能にしているのが、彼女のエアロキネシスを効率的に出力しているパワードスーツ。
素晴らしい出来だ。
そう思ったのは、蔵人だけではない。
「所長! 指山さんが、あの黒騎士を押しています!」
「凄い!このダブル・ワン凄いですよぉぉ!さすが、ワン・オーの次世代機っ!」
「ふーっはっはぁ!絶好調であるッ!!」
つくば陣営から、声高らかに自賛する声が聞こえる。
その声が指し示す通りに、素晴らしい出来である。
Cランク戦でも、まだこれ程までに心が躍るとは。
蔵人は足取り軽く、ダブルワンへと駆け出す。
「行くぞっ!黒騎士!」
指山選手も合わせて駆け出し、宙へと浮く。
それに合わせ、蔵人も体を宙に浮かせ、相手の繰り出した足技に、己が蹴りをぶつけた。
「まだまだぁあ!」
空中を飛びながら、相手は体をよじり、再び回し蹴りを振り回してくる。
蔵人もそれに合わせ、中空で姿勢を制御し、同じように回し蹴りをぶつける。
空中戦。
空中で踊る、白と黒の鎧。
「凄い…」
「きれい…。まるで空中で踊っているみたい」
「これが、Cランク…。特区選手の戦いなのか…」
その軽やかな舞踏は、まるで白と黒の蝶の様だと、観客の誰もが思っていた。
その最中、白い蝶が更に飛び上がり、黒い蝶へと手を翳した。
「アイアン・メイデン!」
無数の鉄盾が生成され、黒い蝶を取り囲んだ。
鉄盾は、蝶の周りへと一斉に群がっていく。黒い蝶を取り囲むように、鉄の球体が出来上がる。
それは、まるで鉄の檻。本当の意味での牢獄。
ヒラリ、ヒラリと躱す蝶であるなら、捕まえてしまうのが最善策。
これで終い。
そう思った蔵人の元に、
「エアロブラスト!」
圧縮された風の弾丸が、こちらへと迫って来た。
蔵人はそれを、高速移動で避ける。
だが、アイアンメイデンの方には、大きな穴が開いてしまった。
その穴から、黒い蝶が顔を出した。
「あ~。くっそ、焦ったぁ」
そう言って、飛び立とうとする。
蔵人は、彼女が支えにしている盾を分解する。
すると、鉄盾は粉々に小さくなり、まるで大量の蝶が羽ばたくかのように、黒い蝶を囲む。
それは、
「チャフ」
目くらましの盾だった。
だが、所詮は目くらまし。
一時態勢を崩した指山選手だったが、直ぐに態勢を制御して、蔵人に向けてもう一度その両手を翳した。
「エアロ・ブラストォオ!」
高らかに技名を宣言する、指山選手。
蔵人に向けた手に、魔力が集中する。
だが、それだけだった。
相手の異能力は発動しなかった。
否。
「うぎゃぁあ!」
指山選手は、その技を叫んだ途端、地面の方へと吹っ飛んで行った。
そして、地面に叩きつけられる彼女。
「うわぁ!何だ!何が起きた!」
「所長!ダブルワンの挙動が可怪しいです!エアダクトに詰まり発生!」
「推進ユニット破損!飛行できません!」
「なんだとっ!?」
混乱するつくば陣営を他所に、蔵人は地面に倒れる指山選手の傍に降りる。
彼女のパワードスーツの至る所には、鈍色の破片がくっ付いていた。
チャフだ。
チャフが彼女のパワードスーツに取り付き、エアロキネシスを放出していた噴射口を塞いでいたのだ。
それ故に、彼女が放とうとした技はこちらには届かず、別の所から噴出してしまい、その勢いに押されて地面に叩きつけられたのだ。
最早、彼女の纏っているのはただの重い金属の服。それが分かったのか、つくば陣営が白いTシャツをブンブン振っていた。
いや、誰のTシャツ?
そもそも、空砲があるでしょ?
「試合終了!勝者、桜坂聖城学園所属、黒騎士選手!」
「「「うわぁあああ!!!」」」
「「くっろきし!くっろきし!」」
「ようやったぞ!黒騎士ぃ!」
「やった!やった!優勝しちゃった!」
「やべぇ!あいつって、マジで強かったんだ!」
何はともあれ、優勝することは出来た。
蔵人は、倒れる指山選手を助け起こして、群衆の声援に手を上げて答えた。
「度重なる非礼、申し訳ありませんでした」
試合を終えて、表彰式も終えた後に、剣帝が蔵人達に謝って来た。
蔵人はそれを、快く受け入れる。
「お顔を上げください。貴女が、アニキの力を正当に見積もって下さったことは喜ばしい事です。ただ、この戦いでアニキだけが特別ではないと理解して頂きたかったのです。誰しも強くなる可能性がある。それが、異能力であると」
「はい。ですが、整った環境で修練を積むべきだとは、今でも思っております」
それはそうだろう。その方が、効率よく強くなることが出来る。
だが、全員がその道に行くわけではなく、それを決めるのは本人である。
家庭の事情もあるからね。
蔵人がそう言うと、剣帝も渋々頷いてくれる。
聞き分けのある娘で助かったよ。
「でも、出来たらまた、アニキとは手合わせして頂きたい。そうしたら、きっとアニキは貴女が言ってくださったように、Dランクの頂点にも手が届くかもしれませんから」
こんな最高な練習相手、逃すべきではない。
蔵人の提案に、アニキは苦笑いを浮かべて、剣帝もしっかりと頷いてくれた。
だが、
「それでは、私からもお願いがあります、黒騎士選手。私の姉に、柳生真緒に会って下さい」
「えっ?あの剣聖選手に、ですか?それはまた、何故です?」
「今の試合、姉が観れば必ずそう言うと思ったからです。黒騎士さん、私の見立てでは、貴方の力量は既に、姉のそれに届こうとしています。姉ならきっと、貴方を柳生道場へ誘うでしょう」
「ぐっ…」
今度は俺か…。
蔵人が言葉に詰まる中、剣帝は「ご検討を、では」と言って去って行ってしまった。
「どうするよ、蔵人。ワシと一緒に道場通いするか?」
「勘弁してくださいよ」
アニキの冗談に、蔵人は苦笑いを浮かべる。
その蔵人の後ろから、鈴華が覆いかぶさるように抱き着く。
「そうだぜ。ボスは桜城で、あたしたちと一緒に強くなるんだからな。ボスを取ろうなんてする奴は、剣帝だろうが剣聖だろうが、あたしがみんなぶっ飛ばしてやる」
「オイラもぶっ飛ばす!」
鈴華の横で、慶太も勇ましく拳を上げる。
その慶太に向けて、鈴華も手を上げて、2人はハイタッチをしていた。
おおっ。何か友情が芽生えた雰囲気だ。
「ぐぐぅっ。うらやましぃ…」
その様子を、竹内君が歯噛みして見つめている。
羨ましいって…。
隣の大寺君が、やれやれと首を振っている。
「でも、剣帝が出入りしてくれるのは嬉しいね。最近は不良が減ったけど、逆に厳ついおじさん達がうろついていたからさ」
「あっ、すまん、大寺君。それ、俺が頼んだんだよ」
「おまっ、知り合いって、やーさんの事だったのか!なんちゅう人脈持ってんだよ!」
「ははっ。済まん、済まん。でも、カツアゲ自体は減っただろ?」
蔵人の問いに、大寺君は突っ込んだ手を下ろして、頷く。
「全くないよ。少なくとも、僕らの住んでいる地域では被害がゼロになった。近隣の龍ヶ崎とかでは、まだ勧誘されたなんていう話を聞くけど」
ふむふむ。白虎効果テキメンだな。
抗争が起きていない事に関しては、後で日向さんから文句が出るかもしれないけど。
蔵人が別方向の心配をしていると、大寺君も心配そうに顔を青ざめさせる。
「でもそうなると、剣帝が出入りするのは怖いなぁ。ハマーでも倒せないような人、番長でも勝てないかもしれないし…」
番長?そんな人がいるのか。
蔵人が驚いていると、隣の竹内君が声を上げる。
「何言ってんだよ、寺ちゃん!あんな美人が来てくれるんだよ?めっちゃいいじゃないか!」
「でもその人、ハマー目当てで来るんだぞ?」
「ぐぉ~…。またしてもハマーかぁ」
恨みがましい声を上げる竹内君。
その様子に、蔵人達は苦笑いを浮かべ、鈴華は首を傾げた。
「そんな言う程、剣帝は美人だったか?」
「そう言ってやるな。お前さんと比べたら、どんな美人だって霞んでしまう」
剣帝は、間違いなくスタイル抜群の美人さんであった。下手な読モも真っ青になるくらいね。
だが、パリコレモデルですら青ざめさせる鈴華からしたら、首も傾げるだろう。
そう思った蔵人の首に、絡みついていた鈴華の腕が力を強める。
「んん~!もう、ボスってば正直だなぁ!そんなボスが、あたしは大好きだぜぇ!」
「がぁっ、わ、わがったから、ずずが、ぐびが、じまってる。じまってるから…」
鈴華と蔵人のやり取りに、アニキと慶太は苦笑いを深め、大寺君は更に青ざめて、敏腕記者はシャッターを切っていた。
そして、
「ぐぉおおおお!!リア充爆発しろぉおおお!」
竹内君の怨嗟の声が、会場中に響いていた。
つくば大会、無事に優勝出来ましたね。
「だが、今度は剣帝に目を付けられてしまったな」
本当に、彼女が言うように、主人公は剣聖と同等レベルなのでしょうか?
「分からんが、同じ覚醒者であろう剣聖が会いたがるのは分かる」
それにしても、ダブル・ワンは凄い性能でしたね。
Cランクでも、覚醒者である主人公にかなり肉薄しました。
「だが、まだまだ不安定だ。本来なら目くらましでしかないチャフが、効果抜群だからな」
機械的な弱点は、まだまだ改良する余地があるのですね。
つくば中学研究所の皆さんには、頑張って頂きたい。