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197話~我々は男であると同時に戦士でもあります~

蔵人が観客席に戻ると、アニキ達が出迎えてくれた。

だが、カオリさん達の姿が無かった。

蔵人が不思議そうに周囲を見回していると、若葉さんが教えてくれる。


「ああ、彼女達ならDランクの会場に戻ったみたいだよ。黒騎士に見つかったらヤバイっ!て凄い慌てようだった」


おやおや。イメージを払拭するどころか、恐怖を与えてしまったかな?

まぁ、うるさいのが居ない方が、こちらとしてもやりやすい。



その後、蔵人も順当に勝ち進み、ベスト8まで登り詰めた。

残る試合は、3試合である。

だがその前に、Dランクの本戦が先である。

蔵人達がそちらの会場に向かおうとした時、選手が退いたCランクのフィールドに、誰かが入って来た。

スーツを着た女性で、開会式でも司会をしていた人だ。


「会場にお越しの皆様。本戦が始まる前に、今大会の主催者からご挨拶させて頂きたく思います」


おっ。遅れてくると言っていた主催者さんが到着したか。

俺だけでなく、アニキも招待してくれて、若葉さんの才能を見抜いた素晴らしいお方だ。

お陰で、短期間に大会での実績も積めるし、とても助かった。

さてさて。どんな方なのだろうか?出来れば、お礼の一言でも言いたいのだが。


蔵人が観客席に座り直し、期待した目で会場を眺めていると、司会の横にテレポーターを伴った女性が瞬間移動してきて、彼女からマイクを受け取った。

主催者さんが観客席を見回す。その様子に、周囲からはため息の様な声が漏れ聞こえる。

それだけ、彼女の姿が美しく、神々しく見えるのだろう。


『皆さま、本日はお集まりいただき、また選手の皆様はご参加いただき、誠にありがとうございます』


一旦言葉を切った彼女は、静かに頭を下げる。ゆっくりと上げた目鼻立ちがくっきりとした顔に、雪の様な白銀の髪がサラリとかかる。

その彼女の視線が、こちらを向く。

向いて、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

蔵人は、そんな彼女に肩をすくめる。

やられたよ。そんな意味を含めて。


『今大会のスポンサーをしております、久我正通(まさみち)の娘、久我鈴華と申します』


フィールドで優雅に宣っているのは、あの鈴華であった。

蔵人は、視線を鈴華から若葉さんへと移す。

若葉さんは、鈴華の勇姿をカメラに収めるのに夢中であった。

なるほどね。君が何故、この大会だけカメラマンに抜擢されたのかが分かったよ。俺にこの大会の招待状が来た理由もね。


蔵人は視線をフィールドに戻し、鈴華の演説に耳を傾けた。



「よぉ、ボス。順調に勝ち進んでいるみたいだな。良かった良かった」


演説が終わった後、鈴華は真っ直ぐこちらに来た。

先ほどまでの優雅な姿はどこ吹く風で、いつもの鈴華に戻っていた。

とは言え、紅いシックなドレスに身を包んだ彼女は、何処からどう見ても一流のご令嬢だ。

口を開かなければ、であるが。


「鈴華。まさか君が大会の主催者とは思っていなかったよ」

「まぁ、実際に金を出して運営してんのは父様で、あたしは代理っていうか、マスコットみたいなもんだけどな」


まぁ、それはそうだろう。中学1年生が運営できるものではない。

鈴華の話を聞くと、久我家はこの大学や関連研究所に資金提供を行っており、こうした地域イベントもサポートしているのだとか。

5年前、彼女が雪合戦に乱入した時も、筑波の研究施設に立ち寄った後の事だったそうだ。

なるほど。そう言う繋がりだったのね。

蔵人が納得していると、アニキも「ああ」と小さく頷いた。


「そんじゃあ、あん時の乱入者はお前さんで、招待状もお前さんが送ってくれたんか」

「まぁ、結果的に言えばそうだけどよ。最初はただ、Dランクでも男子で活躍している奴が居るっていうんで、それで招待状を送ったんだ。だからさ、後で調べててびっくりしたぜ。ボスと同じ小学校出身で、しかもあの日一緒に遊んだ奴って言うからさ」


なるほど。外とも繋がりを持っているのなら、アニキの話も耳に入ったのだろう。

それで、面白そうだからと招待状を送ってくれたという訳か。

そこには感謝しかない。こうして旧友達と会うことが出来たのだから。


でも、よくそこまで調べられたな。

久我家の力があれば、それくらいの情報は調べ上げることが出来るのかな?

という事は、俺の過去も、結構簡単に調べられてしまうのではないだろうか?

龍鱗であれば、これからも秘密裏に活動できるかもと思っていたけれど、そうでもないのか?


蔵人が意気消沈している横で、慶太が目を大きく開いて驚いていた。


「そっかぁ。あの時の子はガッちゃんだったんだね。オイラ、完全に男と思ってたから、気付かなかったよ」

「なにぃ!?男だとっ!?どっからどう見ても女としか見えないあたしを見間違えるなんて…お前のその薄いお目目が原因かっ!?」

「鈴華。済まんが俺も、俺達も君を勘違いしていた。その美しい長髪も見えず、男勝りな喋り方だったからな」


慶太の目を開かせようとする鈴華の手を取り、蔵人は申し訳なさそうに言う。

すると、鈴華は険しい顔を解いて、ニヤリと笑った。


「それじゃあ仕方ねぇな。あたしも、特区の外ではなるべく素性を出さない様にしていたし」


でも、と、彼女は蔵人のすぐ近くまでにじり寄って、その美しい銀髪を手に取る。


「やっぱりボスは長い髪が好きだな。翠の髪もよく見ているだろ?」


ぐっ。そんな所を見られていたのか?

蔵人が言葉に詰まっているのを見て、鈴華は満足そうに目を細めた。



蔵人達はDランク戦会場へと移動する。

残念ながら、鈴華はまた何処かに行ってしまった。挨拶回りがあるとかで。

残念に思ったのは蔵人だけではなかったみたいで、移動中、またもや竹内君が鈴華の事をしつこく聞いて来ていた。


おいおい。鈴華は若葉さんみたいに優しくないから、変なことを言ったらヘッドロックを掛けられるぞ?

それでもいいなら呼ぼうか?


蔵人がそう言うと、竹内君は物凄く難しい顔で考えだし、命と何かを天秤に賭けだした。

理解しがたい子だ。

大寺君だったら、鈴華を前にした時、最初から青い顔をしていたので分かりやすかった。Bランクを前に、緊張していたのだろう。


会場に着くと、早速アニキの本戦が始まる。

準々決勝の相手は、ブースト系の2年生。

試合開始からアニキに急接近して、プレッシャーをかけてきた。

盾の生成をさせない為だろう。

だが、アニキはアクリル板を直ぐに生成し、相手に投球する。


見事な投球フォームから放たれたのは、棘付きのアクリル玉。

剛速球に対し、相手は避けることが出来ずに、両腕を顔の前に突き出して何とか耐える。

耐えたが、足は完全に止まり、大きな隙を作ってしまった。

アニキは、相手が怯んでいるその隙に、アクリルスパイクを付けた鉄靴を生成し、鉄盾も作り終えた。


足を完全に止めた相手に、アニキが突っ込む。

相手がアニキの鉄盾目掛けて正拳突きを繰り出すも、瞬時に盾の形状を湾曲させて、その拳を受け流す。

そして、再び盾の形状を変える。


「ヘッジホッグ!」


必殺の、棘付き盾。

それに接触する前に、相手はベイルアウトした。


「勝者!砦中1年、ハマー軍曹!」

「「「わぁあああ!!」」」

「ハマー様すてきっ!」


大盛り上がりの中、アニキは控室へと帰って行く。

本当に、見事な試合であった。特に、あの投球フォームは流石と言える。

小学生時代、地元のリトルで剛腕を振るっていただけはあるな。

悔しいけど、俺では真似できない。


蔵人はちょっと悔しく思い、自分の肩を撫でる。


アニキの次に出てきたのは、あの剣帝であった。

今回も、ただの一刀で相手を沈めてしまう。

本当に、恐ろしいまでの超高速抜刀術だ。

何か、突破口は無いかと、蔵人は準々決勝の様子と、次の準決勝を見て探る。


「どうかな?蔵人君。何かいい手を思いつきそう?」

「それが全く。剣帝が速過ぎるんだよ。何処に逃げようと、フィールド全てが彼女の射程だからね」


若葉さんの問いに、蔵人は手を振り首を振り、残念そうに呟く。

準決勝で剣帝と戦ったのは、エアロ系異能力者だった。

彼女は、試合開始直後に後方へ後退。10m以上もの距離を稼いでいた。

それでも、剣帝の刃は届いてしまった。5mでも15mでも、彼女の高速移動の前にはコンマ数秒の違いしかなかったのだ。

何か良い手はないかと、若葉さんを横目で見ると、彼女の手元のカメラが目に入る。

カメラ…ねぇ…。


「…そうか。これで行けるか?」

「おっ。何か思いついたんだね?」

「えっ!ホント!?ハマー!くーちゃんが良い事思いついたって!」


若葉さんとの会話を聞いていた慶太が、喜んでアニキを呼ぶ。

それは良いけど、あまり大きな声を出さないでくれないか?剣帝に聞こえてしまう。


「済まんな、蔵人。何でもいい。お前さんのアイディアを聞かせてくれ」

「では、こんなのは如何でしょう?」


蔵人は、考えついた作戦をアニキに伝える。

ついでに、アクリルや膜で出来そうな技も伝授する。

そうしてワイワイやっていると、周囲が騒めき出した。

何事かと首を伸ばすと、こちらに近づく人物が目に入る。

その人は、


「ご歓談中失礼します。十文字学園2年の、柳生理緒と申します」


凛とした姿でこちらに頭を下げる、剣帝であった。

蔵人とアニキが同時に立ち上がる。蔵人は、アニキにもしもが無いようにと、彼と剣帝の間に肩を入れる。


「なんじゃ?試合前に選手同士が顔を突き合わせるのは、あんまり良くないと聞いとるぞ?」


試合前に乱闘になってしまったり、もっと悪いと八百長を持ちかけられたりするからね。

ルールではないが、マナーとしてはアニキが言った通りであろう。

アニキの指摘に、剣帝もしっかりと頷く。


「貴方の言う通りです。ですが、貴方に是非聞き届けて頂きたいお願い事があり、無礼を承知で出向かせていただきました」

「願い事?それこそ、試合の後にやってくれんと…」

「決勝戦。辞退して頂くことは出来ませんか?」


剣帝の申し出に、アニキは口をパクパクさせて、二の句が継げなくなっていた。

先ほどまで、どうやって剣帝を倒そうかと相談していたからね。怒りよりもショックなのだろう。

蔵人は、そんな彼に代わって前に出る。


「柳生選手。突然そのような事を言われても困ります。理由を、お聞かせ願いたい」

「男性を、斬りたくありません」


剣帝の強い瞳の光が、蔵人を見上げる。

シングル部のランク派の様な、嫌な色ではない。純粋な本心をさらけ出している、綺麗な瞳だ。

迷いが無い。まるで、死地で刃を振るう剣豪達を思わせる瞳だ。

その武士が、男を斬りたくないと言っているのだ。それはつまり…。


「新陰流の流儀に反する。もしくは、武士の魂に反するという事でしょうか?」

「はい。私の刀は強者を斬り、弱者を守る物。守るべき男性に、向けていい代物ではありません」


やはり、武士の魂に従ったが故の発言という事か。

史実で言うならば、女は斬らぬと言っている剣豪と同じである。

この時代の人間であれば、立派な感性と言えるだろう。男女があべこべだけどね。

蔵人は背筋を伸ばし、目の前の武士に向き合う。


「柳生選手。貴女のお考えは理解できます。ですが、我々は男であると同時に戦士でもあります。弱い男を斬るのが武士道に反するのなら、強い男と刃を交えるのも、その武士道ではございませんか?」

「強い、男?」


剣帝の瞳が困ったように、蔵人とアニキの間を行き来する。

蔵人はそれに、しっかりと頷く。


「我々は強い。それこそ、貴女に匹敵するほどに。それを、証明させてはいただけませんか?」

「……分かりました」


剣帝は、暫く熟考した後に頷き、踵を返す。


「ですが、気を付けて下さい。男性と女性の戦いです。審判はきっと、少しでも貴方が不利と見ると試合を止めるでしょう。そうならないことを、私は祈ります」

「おう!見ておれよ、ワシらの力を!」


アニキの言葉を背に受けて、剣帝は去って行く。

彼女を見送ってから、アニキも控室へと向かっていった。

先ほどよりも、俄然、やる気に満ちている。

剣帝は、敵に塩を送ってしまったのではないだろうか?


それから程なくして、Dランク決勝戦の舞台が整った。

フィールドの中央で対峙するのは、紫色のプロテクターに身を包んだアニキと、軽装しか装着していない剣帝の2人。

剣帝は、決してアニキを軽視している訳ではないだろう。寧ろ、警戒している。装備を軽装にして、抜刀で駆け抜ける速度を上げているのだ。

彼女にとって、これが最適の武装。

全力である。


「両者構えて」


審判が、フィールド中央で手を上げる。

緊張の一瞬。観客席の興奮気味な声が抑えられ、代わりに息を呑む音が漏れ聞こえる。

そして、


「始めッ!!」


瞬間、剣帝の構えが深くなる。

一呼吸。その後、


「はぁっ!」


抜刀。

超高速で、アニキへと駆け抜ける。


対するアニキは、既に盾を構えていた。

ホンの一瞬で、鉄盾を?

違う。

彼が構えているのは、アクリル板。

異能力を使わなくても、殴って壊せる脆弱な板。

生成速度が間に合わず、アクリル板を構えるしかなかった。

と、周囲は思うだろう。


蔵人は笑みを浮かべる。

これが、蔵人の伝授した答えだった。


しかし、剣帝の一刀は、アクリル板を瞬時に切り刻み、その先に居るアニキも両断した。

そう見えた。

だが、


「っ!」


剣帝が、驚きで目を見開いた。

彼女が振り払った切っ先。その軌道上に、アニキの体は無かった。

アニキの体は、剣帝が振り切った刀の切っ先よりもさらに先、数cm離れた位置にあった。

驚きに目を開く剣帝。

その剣帝を見て、アニキが拳を握りしめる。


「おりゃぁあ!」


アニキが剣帝に殴りかかる。

剣帝が、瞬時に刀を取って返し、アニキの鉄盾拳を防ごうとするが、態勢が崩れた状態で受けたので、連打された拳の一発を肩に受けてしまう。


「くっ!」


苦しそうに声を漏らしながら、アニキから急いで離れる剣帝。

訳が分からないと言った表情で、アニキの周囲に目を這わす。

それもそうだろう。

戦っている彼女からしたら、まるでアニキの体が霧の様に消え、再び現れたように見えたのだから。

だが、実際は違う。


蔵人は、フィールドで消えかけている、アニキのアクリル板に視線を移す。

そのアクリル板は、蔵人が出す物よりも遥かにぶ厚く、そして丸みを帯びていた。

まるで、カメラのレンズのように湾曲した盾であった。


光の屈折。

それにより、剣帝はアニキの立ち位置を誤認していた。

そして、虚像のアニキに向けて抜き放った剣技は、見事に空振りしたという訳だ。

若葉さんが持っていたカメラのレンズを見て、思いついた戦法。

名づけるなら、


蜃気楼(ミラージュ)(シールド)、かな?」

「おおっ、ミラージュ。なんかカッコイイ!」


慶太が喜んでくれる。

そのままのネーミングなんだけどね。ありがとう。


蔵人が解説する間にも、アニキは剣帝に向けて、鉄盾パンチを着実に決めていった。

剣帝が離れようとするが、アニキの機動力の前に苦戦している。

そう見えた瞬間、

剣帝の刃から、短い電気の柱が弾ける。


「アニキっ!」

「やぁあっ!」


蔵人の声は、剣帝の掛け声に掻き消える。

剣帝の刀は、振り上げていたアニキの拳を弾き返し、そのままアニキの腕を強打する。


「ぐぉっ!」


アニキの体が折れ、相手から逃げるように数歩、後退する。

余りの威力に、これは不利だと思ったみたいだ。

そんなアニキの様子に、しかし、剣帝は容赦をしない。

刀を鞘に戻し、体を深く沈める。

抜刀術。

その姿はまるで、アニキの魂を刈る死神の様だ。


その絶対的なピンチに、アニキは逃げるのではなく、構えた。

迎え撃つ。そう言うが如く。

フルフェイスの中にあるアニキの顔には、今の蔵人と同じ表情が浮かんでいるのだろう。

絶対に勝つと言う強い瞳と、


さぁ、掛かって来いという挑戦的な笑みが。


「せぇえええいっ!」


剣帝の掛け声。

同時、彼女の体から短いスパークが発せられ、彼女の体が高速の弾丸と化した。

駆け寄る剣帝。

先ほどよりも、更に速くなっている。

そして、抜刀。

と同時に。


コケた。


つるんと、地面を踏みしめた足を高々と宙に上げ、剣帝は盛大にコケた。

それを見た観客も、剣帝自身も一瞬、完全に動きを止めた。

動画を一時停止したかのように、一瞬だけ、時間が完全に止まった。


剣帝の足元には、スライム状の何かがあった。

それは、膜。アクリル板を生成する前の元。

それを、アニキは戦っている最中に撒いていたのだ。アニキの足にはスパイクがある。なので滑らない。

対して、剣帝の靴は標準的な装備。

故に、コケた。盛大に。

その理由を、会場中の全員は理解できなかった。

故に、動きを止めた。

止めなかったのは、全てが分かっていた蔵人と、


「今だ!アニキィ!」

「うりゃぁあ!」


既に拳を振り上げて待っていた、アニキだけだった。

アニキの拳が、倒れて動けない剣帝の顔へと吸い込まれた。


ガキィンっ!!


金属同士がぶつかり合う音。

…うん?金属?

蔵人が目を凝らすと、アニキの拳は、剣帝の刃に受け止められていた。


「くっ、うぅう!」

「な、なんじゃと!?」


驚くアニキ。それと同じくらい、蔵人も驚いていた。

絶対に決まると思ったその一撃を、まさか、すっころんだ状態で受けきるとは。

流石は、新陰流の使い手。柳生の姓を名乗る剣豪だ。


「おりゃおりゃおりゃあ!」


アニキは殆ど馬乗りになり、剣帝を殴る。

だが、剣帝は尽くアニキの拳を弾き返し、逆にアニキの体を蹴り飛ばした。

そして、蹴った勢いを利用して立ち上がり、アニキに向けて刀を振り下ろす。


「せぇえい!」


綺麗な一刀。それを、アニキは鉄盾で受ける。

だが、


「がぁ!」


アニキが叫び声をあげ、その盾を取り落としてしまった。

彼は、落とした盾ではなく、己の両手を見下ろしている。

小刻みに震える両腕。まるでそれは…。


「感電したか」

「えっ?あ、鉄だから?」


若葉さんの問いに、蔵人は頷く。

鉄盾は、鉄と似たような性質を持つことが分かっている。

という事は、同じくらいに電気伝導率も良いはずだ。

剣帝の刀は、今や帯電状態のスタンガン警棒みたいなもの。

そんなものを、鉄盾で受けられる筈がない。


「アニキっ!水晶盾だ!鉄盾を合成しろ!」


水晶盾であれば、絶縁体なので電気を通さない。

それであれば、まだ戦えると思った蔵人に、しかし、アニキはゆっくりと首を振る。

アニキの技量では、まだ水晶盾を作れないのか。


それでも、アニキは鉄盾を拾い直し、構える。

鉄盾は、見る見る形状を変えていき、ヘッジホッグ状態となった。

対する剣帝は、再び刀を納刀させていた。収めた刀からは、小さく雷撃が漏れている。

本気の一撃か。


両者が構える。そこに、


「そこまでっ!」


審判の声が響いた。


「試合終了!勝者、十文字学園所属、剣帝、柳生理緒!」

「「「うぉおおぉ~…」」」


審判のコールに、会場中から溜息に似た口惜しそうな声が聞こえた。

勝利宣言を受けた剣帝自身も、悔しそうに顔を歪ませていた。

試合の時間は、8分程度しかたっていない。

これが、彼女の言っていた『気を付けて下さい』の意味か。

蔵人は、選手達に向けて惜しみない拍手を送る中、剣帝の言葉を思い返していた。

Dランク戦、決着。


「うむ。惜しい所まで行っていたのだがな」


もう少しでしたね。

もう少し、西濱君の技量が届いていれば。


「やはり、己の得意分野だけでなく、様々な技も使いこなせぬと勝てぬのだな」


チャンピオンの壁は、厚く高かったですね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 柳生さんは柏レアル大会見てたっぽいから蔵人が龍麟だって気がつくのかな?
[一言] ついに蔵人の性癖が判明したな。 鈴華の髪は綺麗そうだもんなー分かるぞ蔵人。 ◽︎ ◽︎ ◽︎ 「さすがアニキ!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ」 「そこにシビれる!あこがれるゥ!…
[良い点] 素晴らしい戦闘でしたね。レンズ状のシールド、あれはいい。光を集めて照射するレーザー兵器の可能性が出てきますね。粘体状の魔力塊は蔵人氏がランパートに使用していますが、他にも利点がありそうです…
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