表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/482

断片~とても、危険ね~

投稿開始から半年が経ちました。

という事で、今夜は久々の2話連投です。

こちらは、2話目となりますので、ご注意を。

サマーパーティーが終わってから数日。

私は、自室に籠って考え事をしていた。

机の上に乗っているのは、そのパーティーと、ファランクス大会で撮られた写真達だ。

その全てに、蔵人様が写っている。


アイザック殿下と談笑されているお姿。

二条様の攻撃を防ぎ切ったお姿。

巨大ゴーレムを貫通させたお姿。

腕を斬られながらも、八岐大蛇を討伐したお姿。

白い虎と化した紫電の猛攻を、尽く打ち破ったお姿。

従者である小栗風音の姉を、抜き去った時のお姿。


どれ一つをとっても、偉業とも呼べるほどの活躍である。

特に、彼は男性。力が無いとされる男性なのだ。

誰も信じられないような偉業を果たした彼を、果たして周りはどう見るか。


「とても、危険ね」


ただでさえ、Cランク以上の男性は貴重な存在なのだ。その上で、Aランクの女性にすら対抗出来る男性なんて、本当に限られる。それが、Cランクの男性となれば、きっと世界を探しても居ないだろう。

そんな男性を前にしたら、特区の女性と言えど、涎を垂らす獣になってしまう。

それは、学校も同じこと。

天隆や桜城の様な高位の学校では、校外よりもセキュリティもマナーも洗練されているので、安全性は高く、ABランクの男性でも女子生徒に襲われることはなかった。

でも、蔵人様程の才覚を見せてしまえば、それも確かとは言えない。

生徒達の中には、一時の出来心で、蔵人様に手を出す者が現れるかもしれない。


実際に、桜城女子生徒の間で開かれる、男子品評会にも大きな変化があったらしい。

月に1度程開かれる、匿名女子が集まって開かれる裏の品評会だ。そこの幹部の一人と懇意にさせていただいているので、その情報もこちらに流れてくる。

その品評会において、4月の末時点では、頼人様の話題ばかりが持ち上げられていた。

でも5月のGW明けごろから、別の子の名前も挙がって来た。

それが蔵人様と、蔵人様と懇意にしている山城君だ。

2人とも、女子に対してとても優しく、挨拶以外でも声を掛けてくれると評判になっていた。


そして、夏休みに入り、ファランクス大会で蔵人様が活躍された。

その途端、今度は蔵人様の株が一気に上昇した。

都大会終了後は、頼人様と同じくらいの人気であった。

関東大会終了後は、彼すらも追い抜く勢い。

そこに、ビッグゲームの話が入ってこようものなら、もう結果は見えたようなものだ。9月の品評会では、蔵人様の話題一色になるだろう。


あの方はお強い。仮令、Aランクの女子に襲われても、返り討ちにしてしまうのは確実。

でも、数が多ければどうか。流石の蔵人様も、苦戦を強いられてしまうだろう。

ただでさえ、あの方はお優しい。仲間の為に、自らの左腕を差し出してしまう程に。

そうなれば、いくら格下の襲撃を撃退できたとしても、其のたびにお心を傷めてしまう。


「これは、何か物理的な”盾”が必要だわ」


そう思った私は、早速携帯電話を取り出し、とある方に連絡を取った。

その相手が、


「先日のパーティーでは、ありがとうございました、九条様」


九条薫子様だ。

彼女とは、幼稚園時代からお付き合いさせていただいている。

家の方針で、特区の外に行っていた時は離ればなれとなったが、それ以外では共に学んだ幼馴染である。

お母様が天隆出身でなければ、彼女と一緒に桜城に行きたかった所だが、それは仕方がない事。

こうして、密に連絡を取っているので、そこまで寂しくはない。

先ほどの蔵人様の情報も、九条様から頂いたものだ。代わりに、天隆の情報を教え合うなどしているので、今では天隆に私が居て良かったのではとも思うようになっている。


その九条様だが、流石は九条家のご令嬢である。

私がファンクラブの事を切り出すと、すぐさま動いていただいて、すんなりと許可を取ってしまわれた。

桜城において、彼女に逆らえるものは居ないだろう。既に、高等部の風紀委員にも推薦されていると聞いているので、学園のトップとなるのは約束されている。

私も、頑張って天隆の風紀委員に入らねば。


っと、私の事は良いのだ。今は、蔵人様のファンクラブについて考えねば。

設立の許可は下りたのだから、次は人選について。

ファンクラブを公募した途端、桜城生徒から雪崩の様な申請書が舞い込んできた。

やはり、予想した通り、彼に危険が迫っている。

何も対処していなかったら、この雪崩が本物となり、彼を呑み込むだろう。

させてなるものか。今の内に、強力な防波堤を築き上げなければ。


私は、一枚一枚丁寧に、申請書の履歴欄に目を通す。

こればかりは、使用人やお友達に頼る訳にはいかない。

蔵人様の為に、不純な輩は全て弾き返すのだ。


2年、田中冴子。

ダメ。過去に男子の体に触り、厳重注意を受けています。

3年、児玉鉄子。

素晴らしい。防御寄りの異能力に、勤勉な姿勢。即採用です。

1年、本田彩香。

……。履歴は問題ありませんが、何か危険な気がします。保留で。

2年、神田正。

おや?男の子ですね。


見ると、応募の中にはかなりの数の男の子が居た。

黒騎士様の人気は、女性だけに留まらず、寧ろ男性人気が凄まじかった。

試合会場でも、黒騎士様に向けてエールを叫び、その手に持った楽器をブンブン振り回していたから。

あ、あれは、ちょっと狂気的でしたけれど、でも、彼らなら安全でしょう。


私は、男性は取り敢えず会員にしていった。

やはり、吹奏楽部の子が多い。彼の勇姿を直接見た子は、それだけ引き込まれ易いのだろう。

でも、次の子は吹奏楽部ではなかった。

園芸部の、1年生の子であった。


「名前は、鹿島湊音」


何処で黒騎士様の名前を知ったのかは分からないけれど、純粋そうな子だ。

私は、彼にも会員資格を与えて、次の申請書に目を通すのであった。


〈◆〉


「くぅうう~~!宿題終わったぁ!」


僕は凝り固まった両腕を上げて、思いっきり伸びをする。上げた腕に冷房の冷気が当たって気持ちいい。

夏休みはとても快適だった。冷房が効いているからじゃない。クラスメイトの女の子達に、会わなくていいからだ。


1学期は本当に大変だった。学園の女の子達は、常に僕の事を目で追って、隙あらば話しかけて来ようとするんだもの。

その度に、班員の美和ちゃん達が追っ払ってくれるけど、その美和ちゃん達も問題なんだよな。

だって、彼女達も時々、怖い目で見てくるんだ。

僕の服を透かして見ているような、そんな怖い感覚がする。


夏休みに、定期的に彼女達が家に来るけど、多分、僕の健康状態をチェックするだけじゃなくて、もっとイヤらしい事を考えて来ていると思う。

それでも、班員だから会わないとダメだった。それが特区のルール。

特区で暮らす男子には色々とルールがある。女子生徒と行動を共にしなさいとか、休みの日でも、班員の子とは連絡を取りなさいとか。

全部、男の子を守るためのものだって聞いているけど、それでも、僕にとっては窮屈だ。


もっと自由になりたいって、僕はいつも思う。

自由になって、鳥になって、特区の壁を越えていくんだ。そして、女性が居ないところで、動物たちと静かに暮らす。きっと楽しいぞ。

でも、僕にはそんな力は無い。僕の力はハーモニクス。お姉ちゃんと同じ、音を奏でるだけだ。


「龍鱗さんならなぁ」


僕は、あの日見た大きな背中を思い返して、小さなため息を着く。

あの人なら、空も壁もひとっ飛びだ。もしくはあのドリルで、特区の壁を壊せると思う。

そうしたら、僕たちはその壁から出るんだ。特区の外に出て、それで…。


「あっ、ダメだ。特区の外は地獄なんだった」


先生やお姉ちゃんが良く言っていた話だ。特区の外は、ここよりも汚くて、何よりも飢えた女性が大量にいる。

僕がCランクって分かったら、寄って集って襲われるって聞いている。

そりゃそうだよ。だって、外にはDランクの女性がウジャウジャいるんだもん。Cランクの女子ですらいやらしい目で見てくるんだ。Dランクなんて何をしてくるか分かったものじゃない。そう考えると、怖くて壁にも近づきたくないよ。


「やっぱり、飛行能力だよなぁ…」


そんな呟き、と言うか、ボヤキの様な言葉を吐いている内に、僕の夏休みが終わってしまった。

また、猛獣たちが住まう学園に通わなければならない。

憂鬱だ。


そう思っていたんだけど、何故かそんなにイヤじゃなかった。

1学期よりも、女子達に見られることが減ったからだ。

相変わらず、美和ちゃん達からはガン見されるけど、他の女子生徒が大人しく感じるんだ。

…大人しいと言うか、何やら黒騎士って人に夢中らしい。そのお陰で、いつも射貫いてくる女の子達の視線が、そっちに行っている。

良く分かんないけど、黒騎士さん、ありがとう!とっても過ごしやすいよ!


そんな風に思っていたのは、初日だけだった。

僕は次第に、黒騎士さんに興味を持ちだしたんだ。

だって、噂では男子生徒。しかも、僕と同じ1年生だって言うんだもの。どんな人か気になって来た。

だから、僕は頑張って早起きして、学校の掲示板を見に行ったんだ。昼休みとかに行っても、人混みが凄くて全く見られなかったからね。

だから、早朝に見に行ったんだけど…。

そこで、僕は衝撃を受けたんだ。


「そっ、空を飛んでる!」


僕は1枚の写真に飛び上がってしまった。大鷲に乗った女性を飛んで追いかける、黒騎士さんの写真に。

黒騎士さんは、空を飛べるんだ。しかも、クリエイトシールドって異能力なのに。

彼の技を見ていると、自然と龍鱗さんを思い出した。だって、天川学園と戦っている時の写真は、明らかに龍鱗さんの技だもの。

きっと彼は、あの龍鱗さんのお弟子さんなんだ。だから、こんな活躍が出来る。


「違う。そうじゃない」


彼が活躍しているのは、彼の努力だ。彼が飛べるのは、努力の結果だ。

クリエイトシールドという、絶対に飛べない異能力なのに、それを克服している。

きっと、彼に教えて貰えば、僕も空を飛べるようになるぞ!


そんな風に考えていたら、黒騎士さんのファンクラブが設立されたっていう噂を耳にした。

友達の、吹奏楽部の子が教えてくれたんだ。

そんなの、入るしかないでしょ!


僕は急いで、申請書を書いて、ポストに投函した。

そして、暫くしたら、合格通知が来ていた。

やった。これで、僕も黒騎士さんと肩を並べられる。あの人みたいに、空が飛べる。

そう思ってしまい、僕は慌てて首を振る。


こんな考え方じゃ駄目だ。龍鱗さんに怒られちゃう。

自分の道は、自分で切り開かないとダメなんだ。黒騎士さんに教えてもらうんじゃなくて、僕が教えたいって思われるような生徒にならないと。


僕はそう思って、その日から時々、WTCのダンジョンダイバーズに潜るようになったんだ。

最初は全然ダメダメで、アグレスが見えただけで震え上がっちゃったけど、少しずつ歌えるようになっていって、美和ちゃん達のサポートが出来るようになったんだ。

…あんまりやり過ぎると、彼女達が頑張り過ぎてしまうから、程々にしないといけないんだけど。

あと、あまりに渋谷のWTCに行き過ぎたら、男の子が来るって言うんで、女性達が集まりだしちゃったんだ。

だから時々、県外のWTCまで行ったりした。

移動の時間は掛かるけれど、知らない町と言うのは新鮮でいいなって思った。


神奈川のWTCに行った時は、ちょっと変わった女の子にも出会ったんだ。

髪の毛が真っ白で、高ランクのクリオキネシスだと思うんだけど、ちょっと変な子だ。

だって、あんまり怖くないんだ。なんていうのかな?他の高ランクの人と違って、優しい感じがする。

一度しか会った事ないけれど、桜城の生徒会長さんと同じ雰囲気がしたんだ。

だから、高ランクでも、そこまで怖いと思わなかった。

彼女が小学生くらいの、小さな女の子と言うのもあるかも知れないけど。


「ミナト。また来る?」

「うん!また日曜日になったら来るよ。その時はもっと潜ろう!」


千代子(ちよこ)ちゃんと名乗るその子は、あどけない顔で微笑んでくれる。

とても可愛らしい。

そんな彼女だけど、異能力はとても強かった。

氷で、敵を全部倒しちゃうんだもん。

僕のバフは必要ない?え?体が楽になる?じゃあよかった。


彼女と一緒なら、美和ちゃん達が居なくても潜れるから、とっても楽になった。

美和ちゃん達と潜ると、どうしてもいやらしい目で見てきたり、手を触ってきたりするからね。千代子ちゃんなら、そんな事は全くない。

小学生だから?それとも高ランクだから?どっちでもいいか。

僕は彼女に手伝ってもらいながら、黒騎士さんに認めてもらえるような男になるんだ。

頑張るぞ。

広幡さんと、湊音君のお話でした。


「広幡嬢には感謝せねばな。あ奴が雪崩に押しつぶされていないのも、彼女のお陰だ」


本当に、縁の下の力持ちですね。

湊音君も、空を飛びたいなんて男の子らしいじゃないですか。


「動機が、この世界の男らしいがな」


特区の男性は、かなり制約がありそうです。

主人公はその辺、感じていなさそうですけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 私は日本語がわからないので、Google翻訳を使ってストーリーを読んでこのレビューを書きました: これはとても面白いストーリーです! 読むのを止めることができず、数日で全部読み終えました…
[良い点] セクション部ってチーム戦だよね? 個人戦ならともかく団体競技で兼部は無理でしょ。他のメンバーにも迷惑かかるし。 [一言] 毎日投稿ありがとう! これからも楽しみにさせていただきます。
[良い点] 広幡様回ありがとうございます! しかも1日2話投稿まで! この世界のファンクラブって大元の合否判定とかあるんだ… 擬似的な権力みたいなのも付与されてるっぽいからそのせいかな? 今後の彼女の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ