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15話〜それじゃ練習にならないんじゃない?〜

小学生編スタート。

…ちょっと説明回となります。

4月。

蔵人は小学生になった。

入学したのは県立の、家から最寄りの百山(ももやま)小学校だ。

柳さんは、少し遠くの有名私立小に入れたかったご様子だったが、毎回通学を送り迎えしてもらうのは忍びないし、何より、慶太が百山に通うことが大きかった。


慶太のお母さんも、その有名私立小に通わせようか悩んだらしいが、流石に学費が高すぎるんだとか。

男子のDランクなら優先して入学出来るそうだが、異能力開発に力を入れているからか、学費は普通の私立の数倍はするという話。

幼稚園は私立で入れていたが、自分の収入だけでは流石に厳しかったとかボヤいているのを聞いた。


「おはよう!」

「お、おはよう…」


蔵人は教室に入ると、真っ先に教室全体に挨拶をする。それに返事をしてくれたのは、教室の隅で固まっている男子達だけ。彼らは小さくではあるが、手を上げて挨拶してくれる。

それに引き換え、教室の手前で机の上に乗っている男子達は、一瞬だけ蔵人を見ただけで、挨拶もせずに顔を背けてしまった。

所謂(いわゆる)、知らんぷりという奴だ。

その男子達に囲まれている女子達は、蔵人に見向きもしない。


最初は、彼らの反応に驚いたものだが、今となっては珍しくも何ともない日常である。

蔵人は窓側の席に着くと、早速ベランダに置いてある鉢植えの下にシールドを生成し、持ち上げ始める。トレーニングの一環だ。小学生の勉学は殆ど習得しているので、小学校に登校してからの時間は、専ら訓練の時間に当てていた。


「巻島くん、さっきのは不味いよぉ…」


蔵人の席に近寄った男子が、頻りに周囲を気にしながら、こっそりと蔵人に耳打ちする。

彼が何を言わんとしているか、蔵人には直ぐに理解できた。

Eランクである蔵人達は、教室前で固まっている男女のグループ、所謂カースト上位グループに声を掛けるべきではないと言いたいのだ。

だが、蔵人はあえて分かっていないかの様に、首を傾げる。


「ただの挨拶だよ。そんなことで難癖を付けられては、俺達の小学校生活に支障をきたすだろ?」

「ししょう?きたす?えっと、僕が言いたいのは…ほら、そこの人達と僕らはランクが違うからさぁ…だから…」


ビクビクするちょっと小太りな男子、竹内君がしどろもどろになりながら、蔵人に弱弱しい抗議を繰り返す。

蔵人の声が周りに、特に机の上に陣取るカーストトップたちに聞こえやしないかと、その事ばかりに気を配っている様子だった。

だから蔵人は、そんな彼に笑いかける。


「分かっているよ。俺を心配して忠告してくれてるってことはさ。今度からは、こっちのグループだけに挨拶するから」

「う、うん。ありがとう」

「いやいや、礼を言うのは俺の方だよ。ありがとうね、竹内君」


蔵人はそう言うと、向こうの上位グループの方に目を向ける。

男子が8人。女子が5人だ。

彼らに共通する事。それは全員が魔力量がDランク以上という事。


このクラスは主に、カースト上位である彼ら彼女らD、Cランクが幅を利かせており、カースト下位である我々Eランクは、彼らの視界の邪魔にならないよう、教室の端に追いやられている。

朝の挨拶だけでも分かる様に、身体的外傷を与える様なイジメこそ無いものの、カースト上位は何をするにも優先され、クラスの中心人物となっている。


逆にカースト下位の処遇は、上位とは口もきいて貰えず、様々な場面で特権を振りかざされる。小学生なので、精々給食のプリン争奪戦に参戦出来なかったり、掃除当番やクラス委員で嫌な役を回されたり、休み時間でグラウンドを使えなかったり、そんな些細な事ではある。

だが、これがエスカレートしていけば、イジメや事件にまで発展してしまう。


このクラス、いや、全国の特区外の学校では、このような目に見えたランクによるカースト制度が当たり前となっているらしい。Dランクは偉いのだ。Eランクのカス共は自重しろ、と。

これが中学、高校にもなると、もっとえげつない事になっているらしい。お兄さんがいる斎藤君からの情報だ。


Dランクの慶太はどうしているかと言うと、隣のクラスになってしまった。聞いた話では、隣のクラスで、女子達にかなりの人気を博しているとか。

Dランクで4大属性の一つ、ソイルキネシスだから、将来有望と思われているのだろう。


ちなみに、蔵人の"公式な"魔力量判定はE-のままだ。数か月前に開かれた柏レアルでD+判定を受けているが、あれは正式な測定ではない。大会出場資格を有しているかを判定する為の測定であった。

改めての測定をしていない蔵人は、産まれた時の判定のままでいた。

まぁ、今までなんの不自由もしていなかったので、正式な魔力再測定をしてこなかったのだ。

受け直せば良いのでは?と思われるかもしれないが、こうして仲良くなった竹内君や斎藤君、梅垣君に山崎君…彼らEランクの同士達を思うと、態々再測定する必要があるのかと迷ってしまう。


このクラスも、最初から”こう”だった訳ではない。最初はみんな、分け隔てなく仲良しだった。

勿論、5人の女子は最初から、男子と距離を置いていた。だが、男子だけで見れば分裂もしていなければランクでの差別もなかった。大藤君も、鈴木君も、阿部君も、今や男子のカーストトップである加藤君も、我々と一緒に遊んでいた。


変わったのは、異能力の授業が始まった5月中旬からだ。異能力の授業で、ランク別に分けられて授業が始まってから変わってしまった。

Dランク以上は、上手く異能力を使えるようにグラウンドで訓練をしていたのに対し、Eランクは異能力についての座学ばかりをさせられていた。どんな種類の異能力があるのか。自身を守る為にはどうするべきか。異能力の差を考えて生きていこう!というコンセプトの教育が展開されていた。

つまりEランクは、殆ど使えない異能力の使用方法を考えるのではなく、自分を守るための処世術を身につけましょう!と言いたいのだ。それがこの学校の、日本の、そしてこの世界に広まった教育方針であった。


だが、この異能力についての座学、蔵人にとってはとても有意義で楽しい時間となった。今まで知らなかった異能力についての知識を、幾つも得ることが出来たのだ。


例えば、異能力の種類について。

異能力は種類によって4つの評価帯に分けられている。最上位種、上位種、下位種、最下位種の4つだ。

慶太のソイルキネシスは4大属性なので上位種であり、頼人のクリオキネシスは4大属性のアクアキネシスの更に上位という事で最上位種と呼ばれる。

他の4大属性として、炎はパイロキネシスと、その上位であるデトキネシス。風はエアロキネシスと、上位のエレキネシス。土はソイルキネシスと、上位のゴルドキネシスがある。


逆に、蔵人のクリエイトシールドは最下位種、または最弱種と呼ばれている。上位互換にクリエイトアーマーやバリアがあり、更に上には、オールクリエイトという何でも作れる完全上位互換があることも原因だ。

どれだけ有用か、どれだけ希少な能力かによって、この4つの評価に分類されるらしい。


また、異能力は攻撃型とサポート型の2つに分けられる。攻撃型にも、近距離、遠距離の分類があり、遠距離も、火、水、風、土属性の4大属性と、サイコキネシス等の無属性に分けられる。

サポート型としては、蔵人のシールドのようなクリエイト系、大会で活躍していたテレポート、柳さんの透視能力(クリヤボヤンス)、里見亮介のヒール等が上げられる。直接戦闘には向かない能力を総じてサポート型と言うらしい。


この攻撃型とサポート型の配分だが、男女で大きく差が出ている。

女性は攻撃型となることが多く、およそ60~70%がこれに分類されると言われている。

逆に男性は、サポート型が90%以上と、殆どがサポート型なのだとか。例えば、慶太のソイルキネシスは4大属性だが、妨害を得意としているのでサポート型に分けられる。

思い返せば、男子で攻撃型は会った事がない。頼人も攻撃より防御が得意と言っていたから。


何故この様に偏るのかについては、研究がそこまで進んでいないらしい。だが蔵人は、この異能力を与えた者達が、男に攻撃型異能力を与えても争いばかり生むと思って、そういう割合にしたのではないかと思っていた。


蔵人は新しい知識を頭に入れながら、今度は屋上まで盾を飛ばしてみる。

うん、無負荷ならば体から10m以上離しても、何とかコントロール出来るようになった。次はもっと遠く、もっと多く、そして、もっと高負荷でやってみよう。

蔵人の訓練は、給食のプリン争奪戦の時間も惜しまず続けられた。




そんなこんなで、蔵人が入学してから半年が経った頃、HRで先生から皆に向けて話があった。

年末に行われる全日本異能力大会についてだ。

全日本とは、シングル戦最大規模の大会である。その全日本Dランク小学生の部が、11月下旬から始まるのだとか。

そして、我が百山小の代表選手を決める模擬試合が、再来週開かれる。このクラスからは2名を選出するので、来週末に投票会をするとの事。

Dランク以下の試合なのでEランクも出られるが、出場者はおそらくDランクばかりであろう。だから、Dランクが立候補者としては望ましく、異能力を使う事に自信がある子が出て欲しいと先生は言われていた。


ちなみに、この小学校は6年制で、各学年2クラス。1クラスに30名程度の生徒がいて、その内女子が5名。4名がDランクでCランクが1名となっている。男子は25名、内Dランクが8名で残りの17名がEランクだ。

慶太のクラスも似たような配分で、特区外の公立学校は大体こんなもんだとか。

女子が異様に少ないのは、Cランク以上は特区に行っている事が多いし、Dランクでも、特区付近のお嬢様学校に入る子が多いのだとか。

幼稚園では気付かなかったが、あそこは私立だったから女子率も高かったのだろう。特区外は、女子率がかなり低い。凡そ男女比率2:1。江戸の城下町と同じだ。


っと、思考が逸れた。公式戦についてであった。

まさかの投票制。しかも2枠となると…1枠はCランクの女子、武田さんの親友である飯塚さんで決定だろう。あと1枠は…加藤君で決まりか?それとも武田さんのもう1人のご友人、清水さんか?


蔵人は大会に出る為にはどうするべきかを、訓練しながら悩んでいた。全日本で優勝でも出来れば、特区入りが見えてくるからだ。

だが、なかなかいい考えは浮かばない。そもそも、Eランク認定のままでは候補にすら上げられない風潮だ。手を挙げても冗談と思われて終わる。

いっその事、今回は見送り、年度始めに実施される魔力測定でDランクになってから挑戦するべきか?いや、折角の機会だ。少しでも早く実績を作り、特区入りを果たさなければ。

蔵人の脳裏には、あの時の頼人の笑顔が焼き付いていた。


そんな事を堂々巡りで考えていたら、いつの間にか放課後となっていた。蔵人はそそくさとクラスを出て、人の気配がない校舎裏まで足を進めた。

そこに生えている雑木林が、蔵人のお気に入りの訓練場だ。ここは滅多に人が来ず、来たとしても、木々が上手い事姿を隠してくれる。


いつも通りに訓練を開始した蔵人。だが、やはり頭の隅には大会への立候補をどうするかという思考が繰り返し浮かんでは消えていた。

ダメもとでEランクの男子達に、自分への1票を促すのはどうだろうか?いや、無理か。少しでもDランク達に目を付けられない様にしている彼らが、そんな事をお願いしたら、無記名でもバレると考えて躊躇する。慶太がいれば、少しは対策できたかもしれないんだが。


蔵人がそんな事を考えていたからか、いつの間にか盾は動きを止めて、フワフワと宙で遊んでしまっていた。

しまった。気がそぞろで集中出来ていない。こんな事では…。


「それじゃ練習にならないんじゃない?」

「全くだ。これでは訓練にならな…」


声の通りだと頷きかけて、止まる。


ふぁっ?

反射的に答えてしまった蔵人は、答えた後になって心臓が跳ねた。

誰か…居るのか?


蔵人は、突然声のした方向に振り向く。

そこには、木に寄りかかって腕組みをする人影があった。

その人は、


「武田さん?ええっと、どうしたの?こんな所で?」


クラスメイトでカーストトップの武田さんが、少し斜に構えて立っていた。彼女の口元には、薄ら笑みが浮かんでいる。イタズラを成功させた猫の様だと、蔵人は思った。

その持ち上がった唇から、楽し気な声が転がる。


「巻島君こそ、こんな所で何をやっているの?」

「俺?俺は…」


質問を質問で返すなと、少し眉をひそめる蔵人。だが、そんな事は勿論口走らない。どういうべきか、更に眉を寄せて考える。

クラスで一番の発言力を持つ彼女に、果たして正直に話してしまっていいものだろうか。訓練自体は悪い事じゃないが、Eランク風情が生意気だと、クラス中に広められる可能性もある。そうなると、余計に投票が面倒になる。

だが、蔵人が少し言いあぐねているのを見て、武田さんが口に手を当てて笑った。


「あはは。うそうそ。知ってる。異能力の練習でしょ?放課後は良くやっているよね。ここで」

「ほぉ?」


まるで嘲笑しているかのような彼女の発言に、蔵人は自然と声が低くなった。


「何が目的だ?」


油断ならない武田さんの様子に、蔵人は目を細めて警戒した。

武田さん…。ヒロイン枠でしょうか?


イノセスメモ:

・小学生から魔力ランクカースト制が始まる←中学高校は更に酷くなる様子。

・特区外の男女比は、2:1である。←では、特区の中では…!?

・異能力には種類によって優劣がある。それらは最上位種、上位種、下位種、最下位種の4つに分けられる

・異能力には攻撃型(遠距離型、近距離型)とサポート型の2種類に分けられる。

・女性は攻撃型が多く、男性はサポート型が殆どである。

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― 新着の感想 ―
>改めての測定をしていない蔵人は、産まれた時の判定のままでいた。 何の役にも立たない身体測定ですら毎年春に必ず行うのに、この世界で魔力の測定を行わないとかありえませんね。 むしろABCなどいう曖昧な…
魔力がCに上がったら特区に行けるわけじゃないのか?行けるなら検査定期的に受けた方がいいんじゃ?Cレベルの魔力になったら自然とわかるってわけじゃないだろうし
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