178話~とうとう始まるんだね!校内ランキング戦~
ちょっと長めです…。
シングル部での兼部挨拶から、翌日。
テストが返却された。
結果から言うと、総合21位。
前回の13位からは大幅に落とした形となった。
英数は満点で1位だったが、他の3科目はあまり芳しくなく、特に社会は80点台でランキング外であった。
夏休みがファランクス部にかかりっきりであったことが大きいだろう。今回総合で上位に着けているのは、殆どが文化系の部員達だ。
あの鶴海さんですら、総合47位と大きく落としている。確か、前回は29位じゃなかったかな?
他の人も、順位は少し落としたみたいで、本田さん、若葉さんは前回から30位程下落。林さんも10位程下落していた。
逆に、白井さんは20位程上昇している。夏休み頑張ったんだな。
そして、西風さんはと言うと、
「ガーン!数学が赤点…」
赤点を取ってしまったみたいだ。
この分だと、他のファランクス部員も阿鼻叫喚かも知れないな。
蔵人は、近くに落ちていた白い塊(祭月さん)を回収しながら、今日の部活の風景に思いを寄せていた。
しかし、その思いに待ったを掛けられてしまった。
放課後、蔵人は大きな講堂の大扉を開く。隣にはクラスメイトで学級委員長の矢代さん。
そう、蔵人は今、副委員長として学級委員集会に召集されたのだった。
講堂に入ると、議員席の様に半円になった立派な席が連なっているのが見える。中央には一段高い舞台があり、演説等が出来そうな登台が設置されていた。
既に、かなりの数の生徒が座っている。
殆どが女子生徒だ。男子は中央の議員席に1人だけ、生徒会と思わしき女子達に囲まれて、顔を顰めている。ネクタイの色はワインレッド。頼人と同じAランクの男子か。
おっと、鶴海さんがいる。
蔵人の目が、席の端っこの方で友人とお喋りをしている鶴海さんを捉える。すると、向こうも蔵人を見つけて、小さく手を振ってくれた。
直ぐに振り返す蔵人。
それを見て、矢代さんが気を利かせて、鶴海さんの近くに席をとってくれた。
ありがとう、矢代委員長。
「お疲れ様、鶴海さん」
「お疲れ様、蔵人ちゃん。蔵人ちゃんも学級委員だったのね」
「ええ。まぁ、成行きで」
「私も似たようなものよ」
蔵人と鶴海さんが仲良く喋っていると、鶴海さんのお友達が、凄く羨ましそうにこっちを見て来ていた。
以前、体力測定の時に一緒だった娘だな。
余程、男子と喋りたいのだろう。
蔵人はそう思い、そっちに話を振ろうとした。
だが、その前に、お喋りはお終いとでも言うような、マイクの音が講堂中に響いた。
『カリッ、カリッ。ああ、済まない。皆、こちらに注目してくれるか?』
壇上に上がった安綱先輩が、マイクテストの為に爪で引っ掻いた後、みんなに呼びかけた。
『諸君、集まってくれてありがとう。私は生徒会副会長の安綱優火だ。今日集まって貰ったのは、今年の体育祭開催に関しての連絡と』
安綱先輩は、そこで一旦言葉を切り、周りを見回した。先輩と目が合ったのだろう。至る所で女子生徒達の黄色い声が響く。相変わらずの人気っぷりだ。
安綱先輩の視線が元に戻る。
『それと、待ちに待った校内ランキング戦解禁の知らせだ!』
安綱先輩が語尾を強めて、言葉を弾ませると、それに乗るかのように周りの娘達もザワザワと熱を揺らす。
しかし、蔵人は乗り遅れた。
校内ランキング戦解禁と言われても、何が何だか分からない。
そんな蔵人を見越してか、安綱先輩が『1年生の中には初耳の者もいるだろう。説明しよう』と言って、別の生徒会委員の人と入れ替わって降壇し、入れ替わった委員さんが詳しく説明してくれた。
曰く、校内ランキング戦とは、桜城校内での異能力順位を付ける為のシングル戦の事。
桜城生徒にはそれぞれ順位が付くので、自分よりも高い順位の人とシングル戦を行い、勝ったらその順位になる事が出来る。
この順位が高い程、学校での評価が上がり、進学でも就職でも大いに役立つのだとか。
所謂、学力テストの異能力版であろう。
この世界では、学力以上に異能力を評価するので、この順位が絶対視されている。
それこそ、順位が高ければリボンの色が変わり、20位以上のレッドナイト、7位以上のホワイトナイト、2位のシルバーナイト、そして最強のゴールドナイトと呼び名も変わるほどに。
リボンの色の説明の時に聞いた順位が、この校内ランキング戦の順位の事だったのかと、蔵人は漸く合点がいった。
そして、この校内ランキング戦は、1学期の間は禁止されていた。理由は、1年生が入ってくるから。
まだ学校生活に慣れていない子達が多い中でシングル戦を行えば、実力が出せないかも知れないし、何より危険だからと、この時期は毎年禁止になるらしい。
校内ランキング戦のルールは、シングル戦のルールと一緒。
ただし、戦うにはお互いの同意と、主審の許可が必要である。そして、主審は免許を持った教員が行う。
生徒同士が勝手に行うこと出来ない仕様になっており、戦闘時は、主審以外にも多くのサポーターが動員され、万全な状態で開始しなければならない。
あまり無い事だが、イジメ目的で校内ランキング戦を使うことが出来ない様になっている。
脅されて戦わされているのが分かったり、余りに実力差があると判断された場合、主審が戦闘を許可しない事があるらしい。
イジメ目的じゃなくとも、例年少なくない数の試合が、主審判断で取り止めとなるとの事。
また、順位については、順位が低い者が高い者に勝った場合、順位が繰り上がる。
例えば、100位のA子が10位のB子に勝った場合、A子は10位になりB子は11位になる。
B子より下の11位から99位までの子は、そのまま順位が1つ落ちる事になるので、高順位だからと戦わずにいると、いつの間にか順位が落ちていたと言うことになる。
ちなみに、A子が負けた場合は、順位の変動は起きず、A子に対してのペナルティは無い。
この様に、低順位の者には優しく、高順位の者には厳しいルールとなっている。
『現在の順位については、2年生3年生は去年から繰り越しとなっていますので、既に把握されているかと思います。もし確認したい場合は、教員棟か生徒会室前に掲示板がありますので、そちらで確認して下さい。また、1年生は、各々の魔力ランク事に順位を決めていますので、こちらも掲示板で確認して下さい。掲示は、明後日の朝から行います』
1年生はランクで順位を設定されるらしい。
自分はCランクなので、かなり下の方だろう。
校内ランキング戦の説明が終わった様で、生徒会委員の方が降壇する。
お疲れ様でした。
そう思っていたら、再度、誰かが登壇した。
ゆるふわウェーブの栗色髪を肩まで下ろした、タレ目で優しいそうな女性だ。生徒会委員の様で、リボンは赤地に白。ホワイトナイトだ。
『皆さん。私からも一言よろしいですか?生徒会長の花園美森です』
生徒会長。
蔵人はその言葉で、再度彼女のリボンを確認してしまった。
リボンに金色の刺繍は入っていない。
てっきり、生徒会長がランキング1位かと思っていたが、そうでは無いのか。
安綱先輩が副会長なのは、2位だからと思っていたが。
『皆さん。校内ランキング戦は確かに大事な試合だと思います。でも、絶対に危険な事はしないで下さいね。皆さんは、同じ学び舎で一緒に学ぶお友達です。戦いの中で熱くなるかも知れませんが、終わったら仲良くしましょうね。怪我をしたら、サポーターの職員さん達もいますし、私もいます。皆さん、試合の中でも思いやりを忘れないようにと、クラスの皆さんにもしっかり伝えて下さい』
生徒会長の背中から、後光が見えた気がした。
それは、蔵人の気のせいだが、そう思った人は多かった様で、生徒会長の姿を見てため息を吐く人や、拝んでいる人もいた。
後で若葉さんから聞いた事だが、生徒会長の順位は固定されていて、それは彼女が高ランクのヒーラーだからだそうだ。
非戦闘能力の人は、その異能力の有用性と実績から、順位が固定される。
勿論、戦闘職の方が順位は高くなりやすいのだが、生徒会長は貴重な回復系で、しかもAランクなので、サポート系には異例の順位になっているのだそうだ。
花園生徒会長が降壇すると、今度は少し風変わりな女性が登壇した。
変わっているのは、彼女の制服。髪型が見事なドリルになっていたり、片手に扇子を持っている事も変だが、制服が桜城の物とちょっと違う。
白ベースのスカートなのだが、ボタンや肩の飾りが豪華で、スカートも質がいい。
初めてみる制服…ではない。あの日、二条様達が着られていた服と一緒。
『初めてお会いする方もいらっしゃると思いますわ。私、桜城高等部3年、風紀委員長の近衛瑞姫と申します』
桜城高等部、風紀委員長、それに、近衛家のご令嬢。
確か近衛家は五摂家…一条、九条に並ぶ最上位貴族だ。
蔵人は、一気に押し寄せる情報に、何処から考えればいいのか見当もつかなかった。
そんな蔵人を置いてけぼりに、近衛様の言葉は続く。
『私が申し上げたい事はただ1つ。校内ランキング戦と言えど、桜城の名に恥じぬ振る舞いをされますよう、皆さんにご忠告致しますわ』
生徒会長の優しくふわふわした言葉とは反対の、厳しく刺すような言葉と視線に、その場の緊張が一気に戻ってきた。
『桜坂聖城学園は、由緒正しい名門校。学力、異能力は勿論の事。品位、そして高潔であることが何よりも尊ばれるのです。私達の様な名家とは、疎遠の方も中にはいらっしゃるでしょう。ですが、一度桜城の生徒となったからには、生まれがどうであれ、それ相応の品格を持たねばなりません』
風紀委員長の話は長かった。だが、言いたいことは本当にただ1つ。
「下民が、私達上級貴族の名前を汚すな」と、少し乱暴に言い換えればこんな感じだった。
いや、ちょっと過剰に言い過ぎか。
だが、風紀委員長の言葉の中には、やれ高潔な血だの、高貴な家柄だのが散りばめられており、聞いているこっちが卑しい身分である様な錯覚を覚えさせられた。
『それでは、皆さんの健闘を祈りまして、私からの挨拶とさせて頂きます』
そう言って、ようやっと降壇した近衛お嬢様。
こんな演説ばかりしていたら、いずれ彼女が登壇する場所が、断頭台になりそうだ。
もしこの人が、再度演説でもしよう物なら、自分は殻にこもるだろう。
そう思ったのは、蔵人だけではなかった様だ。
矢代さんが、溜め込んでいた息を小さく噴き出す。
「ふぅ。何と言うか、この学校がお嬢様学校だったことを改めて思い出したよ。入学してから普通に通っていたけど、自分の身分とかもっと気を付けないとね」
気落ちした様子の彼女に、蔵人はすぐさまフォローを入れる。
「大丈夫ですよ。矢代さんは十分立派な桜城生です」
特区外から来て、未だに特区の生活に慣れない自分より、矢代さん達生粋の特区人は、立派な桜城生徒だと思う。
蔵人の慰めに、鶴海さんも頷く。
「あまり気にしない方がいいですよ。風紀委員って、家柄だけで選ばれる組織で、組織の人達はその事を誇りに思う子ばかりと聞きます」
家柄で選ぶ委員会。
そんな高級クラブの様な物が学校にある事に、蔵人は苦い顔をした。
「なんでまた、そんな組織が。学校や教育委員会がよく許していますね」
「それは、風紀委員の人達のお家が、この学校の運営資金の殆どを寄付しているのだもの。風紀委員のお家が、学校を回していると言っても過言ではないわ」
鶴海さんが詳しく説明してくれる。
曰く、風紀委員とは学校の風紀を取り締まる委員会である。
しかし、一般的な学校と違い、桜城生としての品格を保つ事を重視しており、桜城の品格とは、それ即ち高貴な身分の者を敬い、一般市民はそれ相応の態度を弁えなさいと言うこと。
この風紀委員は、桜城校内では絶対的な力を持っており、その主な理由が多額の寄付金だ。
学校運営のおよそ8割といった巨額の資金が、委員の親御さんから払われていて、それ故に学校側もおいそれと口が出せないでいる。
貴族社会そのままだなと、蔵人は半分呆れたが、半分納得した。
貴族制度は、人類が巨大なコロニーを形成した時から根付いているもので、寧ろ平等な社会を作る風潮こそが新しい風と言える。
それ故に、黒戸が訪れた世界では、割と身近な制度であった。
そうではあるのだが、これ程に人間社会が成熟しているこの世界においても、まだこのような古臭い制度を目の当たりにする事になり、流石の蔵人もショックを感じた。
これも、第二次世界大戦が起こらなかったこと、GHQが財閥解体をしなかったことの弊害と言えるのだろうか。
蔵人の苦悶の表情に、鶴海さんは声を掛ける。
「大丈夫?蔵人ちゃん。気分が悪いの?医務室に行く?」
「すみません。大丈夫ですよ、鶴海さん」
蔵人は少し微笑んで、鶴海さん達を安心させようとした。だが、そんな蔵人を見て、鶴海さんは更に顔を暗くする。
我慢しているのが分かるか。流石は鶴海さん。
蔵人は前を向く。降壇した近衛先輩は、その鋭い視線で生徒達を監視している様だった。
「貴族連中には近付かない方が良いですよ」
蔵人が考え付く1番有効な手段は、それだけだった。
翌日、蔵人は教室で、昨日あった事を若葉さん達に話した。
すると、若葉さんが「なるほどね」と意味深に呟く。
「おっ、何か知っているのかい?若葉さん?」
蔵人が水を向けると、少し嬉しそうに頷く若葉さん。
「うん。いきなり風紀委員長さんが出てきた理由なんだけど、どうも桜城高等部の方で、一般生徒が多く所属する生徒会と、財閥系生徒で構成されている風紀委員の関係が良くないみたいなんだ」
若葉さんが言うには、今年の桜城高等部の生徒会がかなり強気な方が多いらしく、今までは風紀委員に従順だったのに、最近は結構ぶつかっているらしい。
特に、今は体育祭が控えており、そのすぐ後には文化祭も予定されている。その事で、普段は言いなりの生徒会が、今年は言う事を聞かず、風紀委員は苛立っているとのこと。
それで、なぜ中学生のこっちに風紀委員長が?と思った蔵人だったが、どうやら早めに芽を摘む為らしい。
桜城は中高一貫校で、多くの桜城中等学部生はそのまま高等部へと進学する。
つまり、中学生の内から桜城の"品格"を覚えさせて、今年の桜城高等部生徒会の様な輩が現れない様にしたい訳だ。
青田買いもいい所だと、蔵人は呆れた。
そんな時、蔵人の肩を後ろから叩く娘がいた。
西風さんだ。
「ねぇねぇ。それよりもさ。とうとう始まるんだね!校内ランキング戦」
待ちに待ったと言った様子で、西風さんの顔は期待で輝いていた。
今朝のホームルームで、矢代委員長がクラスのみんなに報告していたのだ。体育祭が近い事と、明日朝には校内ランキング戦の順位発表がある事を。
「蔵人君は何位になるんだろうね。もしかして、20位以内に入っちゃうんじゃない?全国大会で何人もAランク倒したもんね!」
いやいや。それは無いんじゃないの?
蔵人が有り得ないと首を振ると、それを見た若葉さんも手を振って否定する。
「残念ながらそれは無いね。蔵人は良くて800位代じゃない?」
「「は、800!?」」
西風さんと、何故か本田さんまで驚きの形相に変わる。
「蔵人様に向かって、なんて失礼な!」
「そうだよ!蔵人君はすんごい強いんだよ!?若ちゃんだってよく知っているじゃん!」
本気で怒っている2人に、蔵人は、まぁまぁと宥める。
怒ってくれているところ申し訳無いが、本当に気にしていない。校内ランキング戦を、これっぽっちも重要視していないのだ。
そんな3人の隣で、若葉さんは涼しい顔で解説する。
「毎年1年生の順位はランクで決まるんだよ。例えばAランクだったら20位くらい。Bランクなら80位くらい。Cランクは600位から後ろって感じで」
これは、1年生の実力が分からないので、とりあえず2、3年生の同ランク帯で一番最下位から後ろに1年生が順位付けされるらしい。
桜城中等部の全校生徒は、Aランクが20人弱、Bランクが60人弱で、残りの900人強がCランクだ。
因みに、Aランクより上のBランクや、Bランクより強いCランクは居ないらしい。
今までは、であるが。
「更に、蔵人君は男子だから、女子生徒の最下位より下の順位でスタートすると思うよ。…ねぇ、そんな睨まないでよ。私じゃなくて学校が決める事なんだから」
若葉さんが困った顔をして、2人に抗議する。
見ると、若葉さんに恨めしい目線を送る西風さんと本田さんが目に入る。
そんな風に、友達を睨まないの。
蔵人はそっと、2人と若葉さんの間に体を滑り込ませる。
蔵人が難しい顔を2人に向けると、2人は顔を背ける。
困ったものだと、蔵人はそっと息を吐く。
「俺は別に何位でも良いよ。強いて言うなら、960位代か96位だったら嬉しいけどね」
どっちも黒が着くからねと、割と本気で言う蔵人の様子に、周りのみんなは顔を見合わせて、ぷふっと吹き出す。
「さすが蔵人君。ブレないね〜」
若葉さんの突っ込みに、白井さんや林さんまで頷く。
蔵人は軽く、手を振る。
「本心さ。俺からしたら、1位よりそっちの方が嬉しいからね」
蔵人からしたら、学校で異能力順位を上げる事はメリットが少ない。安綱先輩や海麗先輩と本気で戦えるなら嬉しいが、その程度だ。
しかし、そう考えているのは蔵人だけで、周りはそう考えていなかった。
翌日、部活が終わった後。
「おいおい、なんだよこれ。なんの冗談だよ?なぁ」
「訳分からんわ。どないしたらこないな事になんねん」
頻りに、職員室前の壁にイチャモンを付ける、鈴華と伏見さん。
相手は壁なので、一向に返答は無いが、そんなことお構い無しにメンチを切る2人。
彼女達の目線の先。そこには校内ランキング戦の順位表がデカデカと張り出されており、若葉さんの予想通り、Bランクの鈴華が69位で、伏見さんが70位だった。そして、蔵人は、
「蔵人君が、866位…」
西風さんの擦れた声が、シンと静まり返った廊下に溶けていく。
蔵人の順位も、若葉さんが予想した通りだった。
寧ろ、こんなに高い順位とは彼女も思わなかっただろう。
男子である蔵人は、全ての女子生徒よりも低い順位を付けられる。全校生徒1022人中、男子生徒は158人。どんなに高くとも864位が男子での最高位だった。現に、蔵人の上には、Aランクである頼人と3年生のAランクしかいなかった。
しかし、周りはそう見ない。
全国大会である程度活躍した蔵人を見ている鈴華達は、鼻息荒く学校の処遇に難癖を付けている。
学校側は決して悪くない。
恐らく今までの習わしで順位を付けただけであり、男子の最上位に蔵人を据え置いているだけ、寧ろ柔軟な対応だと褒めるべきだ。
だが、蔵人を取り巻く彼女達には伝わらない。
鶴海さんなら分かってくれるだろうが、他の娘は精神面も中学生。それも1年生だ。
去年までランドセルを背負っていたと考えれば、致し方無しと言えよう。
蔵人は、彼女達の目の前に立って、両手を上げた。
「考えて欲しい。高い山を登った際に、徒歩で踏破した場合とロープウェイを使って山頂まで登った時の事を。同じ山頂まで登る行為だが、後者はまるで達成感がないであろう。違うか?鈴華」
「あたしはそもそも登山なんかしねぇよ、ボス」
うむ。人選を間違えた。
蔵人は視線を伏見さんに向け直す。
「どうだろう?伏見さん」
「流石 、カシラですわ!」
伏見さんは、瞳をキラキラさせて頭を振る。
「なるほど、そう言うことやったんですね!敢えて、低い地位から一気にのし上がる。かぁ〜っ。確かに、そないな事した暁には、周りのヤツらド肝抜きよるでしょうね!」
抜き去るつもりは、ないのだけれどもね。
蔵人は、取り敢えず場の雰囲気は収まりそうな様子に、胸を撫で下ろす。
伏見さんの目が、異様に輝いている事は、今は置いておこう。
校内ランキング戦なるものが始まりましたね。
「あ奴は興味がない様子だがな」
別に、進学を考えている訳じゃないですからね。
寧ろ問題は、風紀委員の方…。
「問題ないのではないか?何せ、そこには二条の者がいるのだろ?」
あっ、そうか。二条様がいらっしゃいましたね。
では、大丈夫…ですかね?