177話~黒騎士が横取りしたんじゃない?~
取材から数日たった、とある日の放課後。
蔵人はシングル部へと赴いていた。
今日は、シングル部を兼部することを挨拶に来たのだ。
兼部することにしてから数日経ってしまったが、仕方がなかろう。取材やファランクス部と結構忙しかったからね。
ローズ先生からも、ファランクス部を優先していいと言って下さったので、お言葉に甘えていた。
だが、流石に大会も近くなったので、ローズ先生に調整してもらって今日挨拶に来たのだ。
シングル部の訓練棟に入ると、今日は先生の姿は無く、数人の生徒が忙しそうに動き回っていた。
男子が数人。女子が10人程。
男子は、訓練用の器材らしきものを調整していたり、何やら書き物をしている。
彼らがマネージャーなのだろう。
女子は、床のモップ掛けや窓の雑巾がけ等を行っていた。
窓は、サイコキネシスの娘が雑巾を飛ばして拭いていた。
器用な事をする。あれを戦闘に生かせないだろうか。
蔵人が、部員の可能性を模索していると、こちらに複数人の男子が走り寄って来た。
「ちょっと、ちょっと!ダメだよ、勝手に入ってきちゃ!」
「マネージャー希望の子かな?朽木先生に言わないとダメだから、2階の観客席で待っててくれない?」
どうも、勘違いをさせてしまった様だ。
蔵人は、簡単に自己紹介と、シングル部に兼部の挨拶に来たことを伝える。
途端、男子達の眉が歪む。
「えっ!じゃあ、君が黒騎士なの?」
「本物かな?黒騎士の熱狂的なファンとかじゃないの?」
「あー、うちのクラスにも居るわ。黒騎士に成りきってビッグゲームごっこしている奴」
なんと、黒騎士のまねごとをしている者も居るみたいだ。
恥ずかしい事だが、こうして自分の考えが広まるのは悪い事ではない。
蔵人は、本人であることを示すために、盾でホーネットを作って見せる。
すると、男子達は驚いた。
「うぉおお!本物だ!」
「すげぇえ!これがあのミラドリルかぁ」
「ばかっ!違うだろ。ミラブレイクだ。写真より随分小さいけどさ」
彼らも、校内新聞を読んだ口か。
それからは、男子達もこちらの事情を理解してくれて、業務そっちのけで部活動の概要を説明してくれた。
練習は、16時から開始される。
ホームルームが15時過ぎに終わるので、凡そ1時間後のスタートだ。
それまでに、彼らマネージャーと1年生には雑務を終わらせる必要がある。
マネージャー達の業務は、その日に使う機器の始業点検や、選手達の記録の整理などだ。
1年生の女子達は、見た通りのお掃除。これは、ファランクス部も同じである。違うのは、ランクによってその仕事量が異なる事。
「Cランクの人は1階2階の床や窓、玄関の掃除。Bランクの人は、3階のトレーニング室の掃除。Aランクの人は、プロテクターとかの装備のチェックをしているよ」
なるほど。そう聞くと、圧倒的にCランクの仕事量が多い。
Aランクも、中々面倒な仕事だと思う。真夏の装備とか、涙が出る匂いがするからね。
そう思った蔵人だったが、詳しく聞くと、どうも違うらしい。
装備は、個人持ちの人が殆どらしく、Aランクは実質、自分の持ち物をメンテナンスするだけでいいのだ。
その為に、1年生の間でも集合時間が異なる。
Cランクは、ホームルームが終わると同時にダッシュで来場。全力でお掃除を行い、練習までに何とか終わらせる。
Bランクは、ゆっくりと来場。トレーニング室の床をモップ掛けして、時間までお喋りしながら機器を適当に拭く。
Aランクは、2,3年の先輩方と一緒に来場。ゆったりと準備をして、終わった頃に練習が始まる。
何と言う格差社会だ。
Cランクは、随分と酷使されているのだな。
蔵人がため息をついていると、別の男の子が口を開く。
「そんで、次は練習だね」
なんと、練習においてもランクによって格差があるらしい。
3年生は、どのランクにおいても練習の中心人物である。これは、ファランクス部も変わらない。
2年生は、ABランクは3年生と同じ訓練を受けており、Cランクは1年生の練習に付き合っている。
1年生のAランクは2年生との訓練を行い、1年のBランクはそれのサポートをしている。
そして、1年生のCランクはと言うと、
「基本的に、体力作りが主だね。異能力を使う練習は、最後の方にちょこっとやっているくらいだよ」
1年生のCランクは、走り回っているらしい。
勿論、新人戦等の選手に選ばれたBCランクの娘は、Aランクの訓練に参加できるらしいが。そんな娘は一握りだ。
部員数は、1学年で35人。Aランク5人、Bランク10人、Cランク20人だ。その中で、新人戦に出られるのは各ランク3名までである。
Cランクで言うと、選ばれる娘は2割以下だ。
確かに、史実でも中学生の部活動においては、1年生は雑用がメインであったと思う。
だが、個人の能力によって、ここまで明確な線引きはされていなかった。
これが、魔力絶対主義が浸透した結果か。
蔵人は深いため息をついて、肩を落とす。
と、その時、訓練棟の扉が開いて、女子生徒の集団が入って来た。
姦しい会話が聞こえる。
「それでさ、面接は上手くいきそうなんだけど、数学が足引っ張ってるんだよね」
「異能力面接なら、学力は見ないで欲しいですよね」
「数学なんて、社会に出て何の役に立つんだって話だよね。ランクが高いんだからいいじゃん」
「それそれ!分かります!先輩」
面接とか言っているので、どうも上級生のグループらしい。
リボンに赤色が目立つので、Aランクのグループか。
その内の1人に見覚えがあり、蔵人はその人をチラリと見た。
その人も、こちらを見た。
物凄く見返してくる。
穴が開くほど見つめられて、急に眼を反らす女子。
……誰だっけ?
「木村先輩?どうしたんです?」
隣の赤リボンの娘が、木村と呼ばれた先輩を覗き見ている。
木村先輩。
はて?何処かで聞いたような…聞いたことないような…。
まぁ、いいか。
蔵人は視線を男子マネージャー達に戻し、話の続きを聞こうとした。
したのだが、それよりも先に、蔵人のパラボラ耳にヒソヒソ話が迷い込んできた。
「ねぇ。あれって黒騎士じゃない?」
「えっ、うそ。ローズ先生が言ってたの本当だったの?Cランクが兼部してくるとかなんとか」
「黒騎士って、本当に男子なんだ」
その声は、蔵人を凝視していた、木村先輩達のグループから聞こえてくる。
「男子が選手として入るなんて、あり得なくない?」
「しかも、噂ではシールドなんでしょ?まともに戦える訳ないじゃん」
「だから、木村先輩も断ったんでしょ?確か、先輩が話を付けたって聞きましたよ?」
あっ、木村先輩って、ファランクス部に来た先輩か。
嵌めみたいな質問をしてきて、後で安綱先輩が怒りを向けたあの人だ。
漸く気付けた蔵人は、木村先輩の背中に視線を送る。
すると、先輩は慌てたように手を振っていた。
「違う、違う!あれは、だって、彼がファランクス部に入りたいって言ってたんだし」
「でも、そのファランクス部が、今年は全国行ったんでしょ?校内新聞では、全部黒騎士のお陰みたいに書かれていましたよ?」
「そんな訳ないじゃん。Cランクの男子が、どうやったらAランクを倒せるの?片腕切られて、動けると思う?」
「うっ、確かに。私、腕折った事あるけど、あれはヤバかった。ヒールするのに腕掴まれた時、めっちゃ叫んじゃったもん」
「ほらね。校内新聞では色々書かれていたけど、何処まで本当か分かったもんじゃないよ」
「幻覚異能力者かも知れないもんね。ドミネーターとか、人を騙す系の異能力者って、よく自分の異能力を誤魔化しているし」
「でも、シングル部に入るんでしょ?その黒騎士。先生達も騙されてるってこと?」
1人が質問を投げると、少しの間静かになる木村集団。
そして、木村先輩の背中が、少しピンッと張る。
「あれだよ!ファランクスって団体戦じゃん?全国大会での功績を、黒騎士が横取りしたんじゃない?」
「ああ…。そう言えば、誰かが言ってましたね。黒騎士はファランクス部のマスコットキャラみたいなものだって。部の象徴みたいな子だから、部活の栄光で輝いて見えているんじゃないかって」
「噂では、美原先輩が倒した人を、自分のキル数に数えているんじゃないかって話もありましたね。広島の呉戦だったかな?美原先輩と背中合わせで戦っていたらしいですよ、黒騎士」
「そう!きっとそれだ!」
どれだよ。
蔵人は軽く息を吐いて、首を振る。
ローズ先生の時も思ったが、シングル部は本当にプライドが高いな。
高すぎるが故に他者を見下して、自分の尺度でしか測らない。
…測れないのか。可哀そうに。
蔵人が首を振っていると、そのAランク集団に声を掛ける者がいた。
「ねぇ!木村さん。なんか楽しそうな話をしてるね」
「えっ?あっ、み、美原さん」
声の先では、海麗先輩が仁王立ちとなっており、木村集団にとても良い笑顔を向けていた。
「ファランクスとか、黒騎士とか聞こえたけど、ビッグゲームの事を知りたいの?教えてあげようか?何なら今ここで、実技でさ」
笑顔で肩を回す海麗先輩に、木村集団は一斉に顔を青くして後退りする。
その様子から、シングル部における海麗先輩の地位が、相当高い事が見て取れる。
やはり、あれだけ魔力を回せるのだから、有望な選手なのだろう。
木村先輩が、両手を全力で振る。
「み、美原さん。違うわよ。貴女、何か勘違いしているわ」
「そう、そうですよ、美原先輩。私達、ファランクスの事なんて話していないです」
「ふ~ん。ファランクスの事、なんて、ねぇ」
取り巻きの娘の失言に、笑顔を深める海麗先輩。
その彼女の様子に、
「さ、さぁ、みんな。もう練習始まっちゃうから、急いで着替えよう!」
「そ、そうですね!」
木村先輩達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。
その後ろ姿を見て、海麗先輩が小さくため息をついて、こちらに歩いて来た。
「ごめんね、蔵人君。君だったら、あいつらの会話聞こえちゃってたよね?」
「会話ですか?はて、何のことでしょう?」
蔵人がそう言ってすっとぼけると、海麗先輩は少し悲しそうな顔をして、蔵人の頭に手を置いた。
「我慢しなくていいよ、蔵人君。シングル部では、私が守ってあげるから」
おおっ。頼もしい先輩だ。
蔵人は心が暖かくなる。
「ありがとうございます、海麗先輩」
「うん。任せて!」
そう言ってガッツポーズをする姿は、何処となく朽木先生を思い出すな。
先日の安綱先輩は、何処となくローズ先生の雰囲気を纏っていたし。
指導者2人の影響が、個々の選手にも出ているのだろう。
海麗先輩が来てくれてからは、周囲の人からの悪意ある視線も無くなった。
代わりに、さっきまで親しくしていた男子達も遠のいてしまう。
海麗先輩が怖いのだろう。Aランクだからね、彼女は。
蔵人は、自分にべったり張り付いて、他者を牽制している海麗先輩に声を掛ける。
「海麗先輩。調子は如何ですか?」
「調子?うん、凄く良いよ。体のキレも、魔力のノリも凄く良いし、この前の模擬戦なんて、優火ちゃん…あっ、安綱さんね。優火ちゃんともいい勝負出来たんだ。最後は判定で引き分けになっちゃったけど、ローズ先生からはもう少しだったって褒められたし」
先ほどの笑顔とは打って変わり、とても清々しい笑顔で報告してくれる海麗先輩。
よかった。ビッグゲームで無理をし過ぎて、こちらに悪影響を及ぼしたらどうしようかと思っていたけれど、杞憂であったようだ。
蔵人が安心していると、海麗先輩が顔を近づけて、口に手を添えて小声で話しかけてきた。
「あと、まだみんなには内緒だけど、今年の全日本選手に、私が選ばれるっぽいんだ」
「おお。そうなんですか?」
なんでも、全日本への出場枠は、各ランク毎に3名となっているらしい。
桜城シングル部のAランクは、総勢15名ほど。その中の3人に、海麗先輩が選ばれたらしい。
まだ、内々定みたいなものだけどね。
でも、それだけ海麗先輩の実力が認められたという事であり、それだけ彼女が強いという事だ。
「それ程の倍率を勝ち抜いたとは、流石は海麗先輩ですね」
「えへへ。ありがと」
喜びを抑えきれずに、海麗先輩が照れながら笑った。
素直で可愛い人だ。
そうして、海麗先輩とお喋りをしていると、ローズ先生が現れた。
途端、木村先輩が声を上げて、部員達を集める。
「しゅうごー!」
先ほどまでの緩慢な歩き方が何処かに行き、先輩達はキビキビと小走りする。
Cランクの1年生は、ヘロヘロになりながらもそれに追従する。
全員が揃うと、ローズ先生が周りを見回す。
「安綱は生徒会と聞いているが、九条はどうした?副部長」
「家の用事と、言われて、いました…」
木村先輩の尻すぼみな回答に、ローズ先生が「これだから上流階級は…」と零す。
なるほど。九条様は部活動よりも家の事、社交界が忙しいのだろう。遊んでいる訳ではない。
それでも、部活に心血を注いでいる選手や先生からしたら、悩みの種なのかも。
先生が顔を上げて、こちらを見た。
「皆に紹介したい者が居る。巻島、前に出てきてくれるか?」
先生が手招きするので、前へ出て彼女の隣に並ぶ。
先生が蔵人の肩に手を置き、全員に鋭い視線を向ける。
「巻島だ。私が無理を言って、ファランクス部から兼部してくれることになった」
「巻島蔵人です。宜しくお願い致します」
そう言って深くお辞儀をすると、拍手が迎えてくれた。
意外であった。歓迎されていない雰囲気だったから、ブーイングでもされるかと思っていた。
とは言え、半分くらいの人は直ぐに拍手を止めてしまったけれどね。
位置で言うと左側、木村先輩の集団と、その奥の集団だ。
逆に、海麗先輩がいる右側の集団からは暫く拍手が続き、色よい視線も感じる。
何だろうな。派閥でもあるのだろうか。
蔵人が危惧しながら顔を上げると、ローズ先生の言葉が続いた。
「皆も知っているかも知れんが、巻島はこの夏のビッグゲームで活躍した選手だ。関東大会では、あの紫電と一騎打ちを繰り広げ、見事に撃退している」
おおっ。と言う声が巻き起こり、ローズ先生は一旦口を噤む。
声を出してしまった生徒達が小さくなるが、先生は特に咎めることもなく、話を続ける。
「私もこの前、手合わせしたが、確かに強い。今回は時期が悪く、部からの出場は見送るが、来年からは間違いなく選手候補となるだろう。男だからと侮っていると、痛い目を見るからな。佐野、樋口」
「は、はい!」「はぁい」
ローズ先生の鋭い視線に、青ラインの先輩達が頷く。
きっと、2年生なのだろう。来年はライバルになるぞ?と発破をかけているみたいだ。
だが、折角の先生のお言葉も、半分くらいの人には刺さっていなさそうだ。
相変わらず、左側の方からは蔑む様な視線を感じる。
まぁ、全員に好かれたい訳でもないから、良いのだがね。
蔵人はその後、シングル部の見学をさせてもらう。
ファランクス部へ戻っても良いのだが、折角来たので、練習風景だけでも学んで行こうと思った。
そして、その蔵人を案内してくれるのが、
「ここが、トレーニングルームだよ。基本的に、練習後に使う人が多いけど、やり過ぎて体を壊さない様にって、ローズ先生から言われているんだ」
海麗先輩であった。
大事な時期に、良いのかと聞いたのだが、良いらしい。
どうも、最近練習をし過ぎているみたいで、先生から「今日は休め」と言われてしまったらしい。
気を付けて下さいね?と、故障の怖さを伝える蔵人。
「しかし、凄い部屋ですね。最新機器まで揃ってる」
蔵人は感嘆の吐息を着く。
まるで都心のスポーツジムだ。ランニングマシーンやベンチプレスを始め、体中の筋肉を育てる素晴らしい機材が取り揃えられている。
数こそ数組しかないが、部員数も考えると十分であろう。
蔵人の様子に、海麗先輩も立派な胸を張る。
「この他にも、別棟にプールやヨガ教室、専用闘技場もあるよ。あと、1階には大浴場とサウナもあるんだ」
本当にスポーツジムじゃないか。流石はブルジョア学校の花形部活。
驚く蔵人だったが、練習風景を見て、更に驚いた。
3年生の練習を見せて貰ったが、なんと、アグレスを相手にしていたのだ。
…ああ、侵略者ではないよ。WTCに出てくる仮想敵の方だ。
何でも、入試で戦ったのは、このシングル部で使っているシステムなのだとか。
朽木先生の様なソイルキネシスが土塊を作り出し、それをイリュージョニストが加工し、敵に仕立て上げているらしい。
もしかしたら、WTCでも似たような技術でアグレスを生み出しているのかも知れない。
他にも、最新機器を使った訓練を見せて貰い、ファランクス部との資金力の差を見せつけられた。
…大丈夫だ。全国に行ったファランクス部は、きっと来年度の予算が上がるはず。そしたら、こっちも買うんだ。
「どうだった?蔵人君」
「ええ。凄く勉強になりました」
一通りの見学を終えて、ファランクス部へ戻ろうとした蔵人に、海麗先輩が聞いてきた。
本心で返した蔵人だったが、海麗先輩は首を振っていた。
「まだまだだよ、私達は。お金は凄い掛けているけど、こんなんじゃ駄目だと思う。少なくとも、これで満足していたら、おばあちゃんに怒られちゃうと思う」
ああ、そうか。海麗先輩のおばあ様は、あの渦を作り出した人だからな。
機械に頼り切りでは、見失ってしまうだろう。
蔵人は、海麗先輩と対峙した時の様子を思い出し、頷く。
「もし、お時間があれば、海麗先輩もファランクス部の練習を見に来て下さい」
「おっ、その顔は何かやってるんだね?分かった。また遊びに行くよ。蔵人君も、また…」
明るい笑顔だった海麗先輩だが、その先を言おうとして、口角を落とす。
うん?どうかしました?
「ううん。今のシングル部に来ても、蔵人君が辛いだけだよね。木村副部長とか、凄い嫌な感じだったし」
まぁ、彼女とはちょっとした確執があったからね。彼女の態度は分からんでもない。
だが、彼女の周りにまで敵視されるのは意外だった。
多分、それは…。
「何か、シングル部内で派閥とかあるんでしょうか?」
蔵人の問いに、海麗先輩はぎこちなく頷く。
曰く、シングル部内では、大きく3つのグループに分かれるそうだ。
安綱先輩が中心の実力主義派。海麗先輩はこちらに属する。
木村副部長の中立派。強い者に靡き、弱い者を裏で虐げるコウモリムーブをするのだとか。
そして、魔力ランクを重視する、もう一つの派閥があるとのこと。
奥の方に居た集団が、それらしい。
「今はローズ先生が顧問だから、実力派が強いけど、昔はランク派が強かったんだって」
なんと、ローズ先生ですらランク派ではないのか。
先日対峙する前のローズ先生の言動を思い出し、驚く蔵人。
「なるほど。シングル部も壁が厚そうですね。では、その壁を壊しにまた来ますよ」
「ははっ。君らしいね」
蔵人は海麗先輩にお礼を言って、その場を去る。
訓練棟を出る時、ランク派らしき人達の集団から、睨みつけるような視線を感じた。
シングル部。なかなかの伏魔殿だ。
蔵人は挑戦的な笑みを浮かべ、それらを笑い飛ばす。
シングル部の中を覗きましたが…。
ファランクス部とは大きく違いましたね。
「個々の能力が重要となる競技だからな。部の中の雰囲気は、違うだろう」
それ以外にも、桜城部活の花形と言うのも大きいでしょうね。
訓練棟入口には、歴代の栄光が飾ってあるらしいので。
「重ねた努力が栄光となり、何時しか傲りとなってしまったか」
ファランクス部がこうならないように、釘を打たないと。




