176話~それってまさに、黒騎士の姿だと思いませんか?~
とある日の朝。
蔵人は独りでの朝練を終え、朝のホームルームに参加していた。
そのホームルームで、
「巻島君。この後一緒に、職員棟まで来てください」
何故か、担任の先生から呼び出しを喰らってしまった。
な、何故だ?
最近は、何かやらかしたりもしていない。
この間のテストも、呼び出される程酷い出来ではなかった筈。
他に考えられることは…鈴華達が何かやらかしたか?
原因を探りながら、蔵人は先生に連れられて職員棟の教員室に入っていく。
中では忙しそうに先生達が行きかい、机に座っている先生達も、パソコン業務で忙しそうであった。
この世界でも、教員という職業は中々にブラックそうだ。特に、部活動の顧問となっている先生方は大変だ。
シングル部のように、顧問が2人も居てくれたら楽なのだろうが、そうでない顧問の勤務状況はブラックその物である。
桜城はお金があるんだから、設備よりも先ずそちらに資金を注ぐべきだろう。
それと、ファランクス部にも早く顧問を下さいな。
「失礼します」
そう言って担任の先生がノックしたドアには〈校長室〉の文字。
…一体、何が始まるんです?
蔵人が恐る恐る入室すると、そこには満面の笑みを浮かべた校長先生が待ち構えていた。
「まぁまぁ!朝早くからごめんなさいね。ちょっとお話したいことがあるから、そちらに掛けて」
そう言って、示されたのは豪華なひじ掛けソファー。
蔵人が座ると、校長先生も対面に座り、担任は部屋から出ていってしまった。
さてはて、お話したい事ってなんだろうか。
取りあえず機嫌が良さそうな校長先生の様子を見て、幾分か肩の荷を下ろした蔵人は、校長のお話を聞く。
「実はね。貴方達ファランクス部に、取材のお話が来ているのよ」
しゅ、取材?
思わぬ話の方向に、蔵人は目を白黒させる。
どうも、有名なスポーツ雑誌の記者さんが、桜城ファランクス部の練習風景等を取材したいとオファーして来たらしい。
その記事の中心と考えているのが、黒騎士であると。
「関東で初めてビッグゲームの表彰台に上がったチームを、是非とも取材させて欲しいそうよ。その立役者でもある貴方には特に、お話を聞きたいと言われているの。可能ならば、授業中の風景も撮りたいと言っているわ」
どうも、ビッグゲームの試合を観て、黒騎士の存在を知ったらしい。
1年で男子で、これ程までに活躍しているのは凄いと、話題性抜群だと食い付いたのだとか。
「櫻井部長さんと、鹿島新部長さんにも了承を貰っていて、後は貴方だけなの。どうかしら?受けてくれない?」
「部長のお二方が承知されているのでしたら、異論はございません。ただ、素顔を写すのだけはご勘弁願いたいです」
「そこは安心して。男の子は必ず、ヘルメットか後姿でしか撮影されない約束だから」
そこら辺のモラルは厳しいのだな、特区とは。
蔵人は安心する。
「分かりました。して、撮影はいつの予定なのでしょうか?」
「先方は、明日からでもと言っているわ」
あっ、明日!?
フットワーク軽すぎじゃない?
蔵人は若干、呆れ気味であった。
そして、撮影当日。
蔵人は朝練後直ぐ、校長先生に呼び出され、職員棟へと赴いた。
そこには、既に取材のクルーが待っていた。
「初めまして。スポーツ雑誌〈ナンバー1〉スポーツライターの高野です。本日は私達の取材を受けて下さり、誠にありがとうございます」
そう言って、礼儀正しくお辞儀をするのは、20代前半の若いイケメン男性だった。
…いや、違うな。
確かに黒髪短髪で、中性的な顔立ちではあるが、体系の丸みや声の質が女性であった。
安綱先輩とはまたベクトルの違う、宝塚系のイケメン女子である。
こちらに頭のてっぺんを見せる程、深くお辞儀をした彼女に、蔵人も頭を下げる。
「こちらこそ、貴重な機会をお与え下さり感謝しております。桜坂聖城学園中等部1年の巻島です。本日は1日宜しくお願い致します。今回は授業風景の撮影もあると伺っておりましたが、皆さんで行動されるのでしょうか?」
そう言いながら、頭を上げた蔵人は雑誌クルーを見渡す。
そこには、高野さんを含めて3人の人物がいた。
カメラマンらしき女性と、そのアシスタントらしき女性だ。
それなりの人数が居るので、授業中に教室内をうろつかれると迷惑になるのではないだろうか?
そう思って質問したのだが、高野さんは深くお辞儀をした姿勢で、頭だけを上げてこちらを凝視していた。
はい。なんでしょう?
「…あっ!いえ、その。あまりにもしっかりとした挨拶をされていたので、驚いて…って、違うよ!?君を馬鹿にしている訳じゃなくて、男の子でこんなにしっかりと受け答えしてくれた子が初めてで…」
そう言って、再び顔を伏せてしまった高野さん。
言いたいことは分かる。
中学1年生が、雑誌記者さんを目の前にしたら冷静でいられないだろう。
ましてや、特区の男の子は女性に対して過剰な程恐怖心を抱くから、何時かの颯太君の様にケツまくって逃げ出すのが関の山。
ちょっとやり過ぎた訳だな。
蔵人は反省する。
「頭を上げてください、高野さん。僕は何とも思っていませんから」
そう言うと、漸く顔を上げた高野さん。
そして、先ほど聞いた質問に答えてくれた。
曰く、授業の最中は教室の後ろで待機して、休み時間や体育等の動きがある授業だけ、撮影や取材をするとの事。
それであれば、みんなの迷惑にはならないのかな?
そうして始まった取材だが、授業中は特段ハプニングも無く、いつも通りの授業が進んだ。
ただし、
「本田さん。あまり後ろばかり気にしないで下さい」
「はいっ!すみません」
クラス中に、浮ついた空気が漂っていた。
雑誌の取材が来ているからね。お嬢様達からしても、気になって仕方がないのだろう。
頻りに髪を手櫛で整える娘や、襟を何度も正している娘もいる。
雑誌の写真に載った時のことを意識しているのだろう。流石に、お化粧を始めた娘には、先生から注意が飛んでいたが。
「う~っ。なんだか、背中が熱い気がするぅ~」
西風さんが唸っている。
心なしか、普段よりも体を小さくしている気がする。
写真に写らないようにしているのかな?
その隣の林さんも、同じように縮こまっている。
反対に、本田さんや白井さんは写真に写りたいのか、時々後ろを向いて「まだ撮らないの?」と言わんばかりにカメラを見つめている。
白井さん。流石に手を振るのは止めておこう。
同じくらい、カメラに情熱的な視線を注いでいるのは、我らが敏腕記者である。
「いいなぁ~。やっぱりライカーは違うなぁ~」
流石は若葉さんである。
カメラマンのカメラを見ただけで、良い物と判断しているみたいだ。
ライカーって、確か史実でも似たような名前のカメラメーカーがあったな。
ドイツだっけ?
そんな風に、クラス中から意識されている高野さん達だったが、彼女達は生徒達に惑わされず、しっかりと仕事をしていた。
休み時間中に、蔵人の後姿を撮ったり、体育の時間で、蔵人が異能力有ドッチボールで無双している姿も捉えていた。
体育の時は正面からの写真も撮っていたが、後で顔が分からないように加工するらしい。
昼休みには、高野さんから軽くインタビューを受けた。
昼食を摂り終わった蔵人達の席に、高野さんが手帳とペンを持って、カメラマンがカメラを構えてやってきた。
「えっと、いつもこんな感じで過ごしているの?」
「ええ。普段通りに過ごさせていただいています。とは言え、みんなカメラを前に緊張していますので、いつもよりは動きがぎこちなくなっています。是非そこは、ご愛嬌として取っていただけたらと」
「いや、そうじゃなくてね。蔵人君はいつも、女の子とこんなに親しく喋っているの?」
うん?
ああ。そう言う事か。
蔵人は隣を見て、頻りに髪形をチェックしている本田さんに話しかける。
「普段通りだよね?本田さん」
「はい!蔵人君はいつも私達といっぱいお喋りしてくれます!神対応です!」
う~ん。なんか、言わせた感が凄い。
蔵人は、もう1人証人を求める。
「どうだろうね?西風さん」
「えっ、ぼ、ぼくぅ?うん、そうだね。蔵人君はいつも…うわぁ!カメラ、カメラがこっち向いた!ダメだよ今日の僕、寝癖が酷いんだから!」
あら、また小さくなっちゃった。
寝ぐせなんて、殆ど無いように見えるけど?
仕方がない。鋼の精神力を持つ君に頼むとしよう。
「さぁ、若葉さん。君の出番だ」
「そのライカーのカメラ、ちょっと触らせてもらえませんか!?ちょっとで良いんです!先っちょだけ、ボタンだけ!1枚だけ撮らせて!」
「出番終了!戻れ、若葉!」
大変な者を、表舞台に解き放ってしまった!
蔵人が、若葉さんと取っ組み合いの押し問答をしていると、それを見た取材陣が目を瞬かせた。
「これが、黒騎士なのね…」
それから暫くして、ファランクスの練習時間になった。
カメラマン達は的確な位置から写真を撮り、高野さんは着々と選手達に取材を行っていた。
今日は準備運動と軽い基礎練の後、早々にミニゲームへと移行する。
遅くまで彼らを付き合わせては悪いからね。撮れ高が望める模擬試合を早めに行うのだ。
応用練習をあまり見られたくないという意図もあるのだが。
「くーちゃん!いくよ~」
今日の編成は蔵人、VS、慶太チームであった。
慶太チームには、鈴華も伏見さんも居る。
彼らは先ず、主力である蔵人を潰さんと、3人で挑んできた。
慶太は10㎝程のゴーレムを何体も繰り出してきて、それをこちらへと突撃させる。
シールドカッターを四方八方に飛ばして何とか凌いでいるが、無限に沸くゴーレム軍団の駆除に苦戦する蔵人。
味方であれば心強いが、敵となったら厄介だ。
「もろたでぇ!」
蔵人の目が地面に釘付けとなっている隙に、伏見さんが上空から急襲してくる。
蔵人はそれを魔銀盾で受けるが、その隙に、1体のゴーレムが蔵人の足に纏わり付いた。
その次の瞬間、
「よっしゃぁ!一本釣りぃい!」
纏わり付いたゴーレムが蔵人を引っ張り、蔵人の体が宙を舞う。
ゴーレムの一部が鉄で出来ており、それを鈴華が磁力で引っ張ったのだ。
見事な連携。この短期間で、良くもここまで。
鈴華方向に引っ張られながら、蔵人は3人を称賛する。
この3人がチーム戦に出られたらなら、面白い事になりそうだ。
「マグネ・パウンド!」
引っ張られた先で、鈴華が渾身の一撃を見舞う。
だが、蔵人もそれに合わせて拳を打ち込む。
空中を飛んでも、盾で姿勢制御出来るからね。
蔵人の拳と鈴華の拳が、一瞬拮抗する。
だが、直ぐに鈴華の拳が押し返され、彼女は吹っ飛ばされて床を転がる。
まだまだ、個の力では蔵人の方が上である。
「くっそー!行けたと思ったのになぁ~」
鈴華が悔しそうに声を上げ、慶太と伏見さんも彼女の傍に集まり、残念そうに肩を落とす。
そんなに悔しがる必要もないのだがな。
蔵人は彼女達を励まそうと、そちらに体を向ける。
だが、駆け寄るよりも先に、鹿島部長の声が蔵人を止めた。
「蔵人君!ちょっとこっちに来て。インタビューしたいそうよ」
おっと、そうだった。今日は撮影クルーが来ているのだった。
半分忘れそうになった事を反省しながら、蔵人は高野さん達の前に駆け寄る。
すると、高野さんが目を輝かせ、ポケットからメモ帳を取りだす。
「流石だね、蔵人君!今のミニゲームも凄かった!3人相手なのに、随分と余裕そうに見えたよ」
「とんでもない。彼女達の連携は、今作ったばかりの即興です。もっと修練を積み重ねれば、しっかりとした連携技になるでしょう」
蔵人の答えに、高野さんは目が点になった。
うん?なんだろう。求めていた答えとは違ったのかな?
そう思ったが、彼女は直ぐに再起動し、ペンを握り直した。
「えっと、蔵人君はこの部活で副部長をしているんだって?1年生でそれって凄い事だよね。部長さんから聞いたけど、ビッグゲームでの活躍が認められて、みんなから推薦されたらしいね。やっぱりこの部活において、蔵人君は無くてはならない存在、エースってことかな?」
グイグイと押してくる高野さんに、蔵人は苦笑いでそれを押し留める。
「えぇ…先ず副部長についてですが、仰る通り、元部長の推薦と部員の総意を持って就任いたしました。これは、夏の大会での功績も少なくないと自負しております。何度か作戦の立案にも携わらせていただきましたし、相手のエースと対峙したことも幾度かありましたので」
「なるほど、なるほど!」
嬉々としてボールペンを走らせる高野さん。
だがそこに、
「ですが、ビッグゲームでのエースは美原先輩でした。今後のエースについても、Aランクがこのまま入らなければ、Bランクである彼女達の誰かがそう成ると期待しております」
そう言いながら、蔵人は目下反省会中の3人を見た。
鈴華、伏見さん。
この2人の内、どちらかがこの部の象徴となっていくだろう。
多分鈴華かな?伏見さんは、エースと言うより部長枠な気がする。
蔵人の答えに、高野さんは難しそうな顔をして、ボールペンのお尻で頭を掻く。
「うーん…なるほど。蔵人君は凄く謙虚なんだね。普通これだけ活躍したら、もっと天狗になっても良いと思うけど」
「いえいえ。活躍したと周りは評価してくれますが、ファランクスは団体戦。皆が居たから成し得た成果なのです。そこに〈もし〉とか〈たら〉とか〈れば〉とかは存在しません」
そう蔵人が言うと、高野さんは半笑いで首を振り、足元のバッグから1冊の雑誌を取りだした。
その表紙に載っていたのは、黒騎士と伏見さんの背中。その向こう側に、崩れ行く鎧武者の姿があった。
彩雲戦の最終章、島津姉妹のユニゾンを倒した直後の写真だ。
「これは〈月刊ハイパワーズ〉っていう、異能力雑誌の中でも1,2を争う人気スポーツ雑誌だよ。この時期のパワーズは、いつもファランクスの特集をしていて、中でも高校のビッグゲームを中心に取り上げるんだ。でも、今回は中学のビッグゲーム、特に君たち桜城生の特集に多くのページを割いている。その理由は、この表紙を見ても分かるでしょ?」
表紙には、〈関東の初金星〉と銘打たれており、書かれている記事を流し読むだけで、黒騎士に対する賞賛の嵐が巻き起こっているのが嫌でも目に入る。
蔵人の頭上で、高野さんの熱弁は続く。
「勿論、この雑誌だけじゃないよ。テレビでもかなり報道されたからね、君たちの3位決定戦は」
それは、蔵人も目にしていた。
ビッグゲームが終わってからの1週間。テレビでは度々、彩雲戦の映像が取り上げられていた。
ニュースのスポーツ枠であったり、バラエティ番組での夏特集であったりと、様々な番組で使われていたのだ。
決勝戦の映像も偶には流れたけれど、3位決定戦と比べると酷く短い物だった。
中には、3位決定戦がビッグゲームの決勝戦だと誤ったテロップを流して、謝罪している番組も見かける程に。
「今、黒騎士の名前を知らない人は殆ど居ないよ。みんな、あの試合の凄さを目の当たりにして、君に興味津々なんだ。特に、関西と九州の方では、君の人気はうなぎ登りで、非公認だけどグッズとかも出回っていると聞くよ」
なんと!
それって、肖像権的に良いのか?
兎に角、それだけカオスな状況になってしまったのだな。
蔵人は頭を下げる。
「お騒がせしてすみません」
「違う違う!そうじゃなくて、もっとこう、自信満々にしていてもいいんじゃないかな?読者の中には、黒騎士の姿をそう思っている人も少なくないんだよ?」
高野さんのお話では、巷に流れる黒騎士の人物像は随分と高慢なものもあるらしい。
ファランクス部員を率いていた姿から、きっと学校では威張り腐っているだとか。高い実力に胡坐をかいているのではないかとか。
それは一部のアンチだけみたいだが、アンチでなくとも、黒騎士はいつも自信に満ち溢れた熱血漢と見られがちなのだそうだ。
極稀に現れる、戦える男性と言うのがそう言う人ばかりだったみたいで、黒騎士もこのイメージに当て嵌められているみたいだった。
なるほどなぁ。
高野さんは、黒騎士のイメージが大きく異なることに、戸惑っているみたいだ。
きっと、本社からある程度のストーリーを言い渡されているのだろう。
それとかけ離れた記事になってしまう事に、思い悩んでいると。
さて、どうしたものか…。
蔵人が悩んでいると、鶴海さんがひょこッと、蔵人の横から顔を出した。
「記者さん。こういう所も、巻島君の良い所だと思いますよ?謙虚で、真摯で、仲間思いで。でも、いざとなった時は全力で戦ってくれて、自分の信念をしっかりと持った芯の強さがある。それってまさに、黒騎士の姿だと思いませんか?」
高野さんにそう言った後、「ね?蔵人ちゃん」と微笑みかけてくる鶴海さん。
本当に、よく見てくれている。
蔵人は心が満たされて、そのままの自分で良いと自信が沸く。
「高野さん。私は私です。他の強者がどのような振る舞いをされているのかは存じませんが、これが黒騎士であり、巻島蔵人なのです」
「そ、そうですね。ごめんなさい。私達の勝手なイメージを押し付けてしまって」
そう言って頭を下げた高野さんだったが、その頭を上げた時には、既にペンとメモ帳を構えていた。
「でも今、彼女が言っていた信念と言うのは、どんなものなのかな?」
「え、ええ。それはですね」
蔵人は、それについて簡単に説明する。
魔力が重要なのではなく、技術が重要なのだと。
生まれを嘆くのではなく、なにクソ!と這い上がる意志が重要なのだと。
世界に限界はねぇんだぜ!その信念を持つことの意義を。
技巧主要論を推し進めるディさんもニッコリな回答に、高野さんも忙しくペンを走らせる。
「なるほど!これは良いですね!是非使わせていただきます!」
是非、使って下さい。
これも、技巧主要論を勧める一助になるかも知れませんからね。
そう、蔵人も内心でニヤけながら、その姿を見守る。
その後、蔵人は写真を何枚も撮られた。
全て黒騎士の甲冑に身を包んでの物だが、まるでモデルの撮影会だ。
それが終わると、ファランクス部員の集合写真や、鈴華と伏見さんとのスリーショットも撮られていた。
「良いよ!凄く良い!もうちょっとこっちに目線ちょうだい!」
そして何故か、鈴華には多くの注文が入り、その度に嫌々ポージングを取る彼女。
最後の方には、鈴華と黒騎士のツーショットや、鈴華1人で撮られる場面もあった。
…これは、主役交代か?
それはそれで、嬉しい蔵人であった。
後日、高野さん達からお礼の手紙が、学園宛に届いたらしい。
凄く感謝していたと、校長先生から直々にお礼を言われてしまった。
雑誌を発刊してみたら、飛ぶように売れて、重版も掛かったそうだ。
なんでも、黒騎士の新しいイメージが、とても好評だったとかなんだとか。
発刊前、本社編集部からは散々ダメ出しされたが、売れたら掌返しして来たと、手紙には痛烈に綴られていた。
イメージが直ったのなら良かったのだが、高野さんは〈次回もよろしく〉的な事を書いていたそうだ。
次回って、まさかまた、黒騎士の特集じゃないよね?
心配する蔵人の前で、校長先生が嬉しそうに語る。
「あの日に撮った写真を、何枚か頂いたから、学校のホームページと来年のパンフレットにするつもりよ」
それは良いですね、校長先生。
でもね、黒騎士のアップを表紙にしようとするのは、勘弁願えません?
まさか、雑誌の取材が来るとは…。
「随分と売れたそうだが、きっと西の奴らが買っているのだろう」
向こうはファランクスが盛んですからね。グッツも売っているそうですし。
「マージンを取らねばならんぞ?」
向こうのお金があっても、こっちでは使えませんよ。