175話~今日の練習はどうでした?~
3年生が引退し、蔵人がシングル部に兼部した翌日の放課後。
蔵人は、慶太を伴ってファランクス部に赴いていた。
この時間は、練習前の掃除の為に集まっている1年生しか居ないけれど、早めに顔見せする狙いで慶太を連れて来た。
訓練棟には、まだ鶴海さんと西風さんしか来ていなかった。
「2人共、お疲れ様」
「あっ、蔵人君!おつか…れ?」
「あら、蔵人ちゃん。その子はどなた?」
蔵人の声に振り向いた2人が、慶太を見て目を丸くした。
昨日、連れてくると言ったはずなのだが。もしかして、慶太が太っているから驚いたのか?
大丈夫だ。運動性能は多少落ちているかもしれないが、異能力の練度は小学生の時よりも格段に向上している。
今日の昼休みに確認しているので、入部に関しては問題ないと確信している。
もしくは、慶太の人間性を疑っているのだろうか?
それであったら、実際に会話する方が早いと、蔵人は慶太に挨拶を促す。
「この子が昨日言っていた、入部希望者の山城慶太だよ」
「オイラが慶太です。くーちゃんとは、幼稚園の時から一緒だよ」
慶太は、異能力部の女子2人を前にしても動じた様子はなく、満面の笑みで手を振る。
そんな様子に、西風さんはさらに驚く。
「うぇえええ!?!?お、幼馴染って、おっ、男の子だったの!?」
そこからか!
どうやら西風さんは、蔵人の幼馴染が男と知らなかったようだ。
ちゃんと言ったよね?
そう考えていたが、西風さんの隣の鶴海さんまで驚いていた。
「随分と親しそうな物言いだったから、婚約者でも連れてくるのかと思ったわ」
あれ?慶太が男って、言ってなかったか?
蔵人は昨日の事を思い出して、頷く。
…うん。言ってなかった。
「ごめん!言ってなかった!慶太は男で、ソイルキネシスで妨害を得意としてます!女じゃありません!」
蔵人は腰を90°曲げて、全力の謝罪をした。
そんな蔵人を真似して、慶太も頭を下げた。
「ごめんなさ~い」
いや、君は良いんだよ。
慶太の様子に、蔵人の頭の上で再度、驚きの声が上がる。
「お、男の子が、頭を下げてる…!?」
「さすが、蔵人ちゃんの幼馴染ね」
特区の外から来ているからね。他の男子達とは違うのだよ。
蔵人と慶太が顔を上げると、少し緊張した西風さんの顔が視界に入る。
「に、西風桃花です!よ、よろしく!」
「鶴海翠です。よろしくね」
鶴海さんは満面の笑みだ。可愛い。
挨拶し返された慶太も笑顔になり、ぱっと手を上げる。
「おおっ!オイラ、鶴海さん知ってる。テレビで見たぞ!くーちゃんのお姫様だよね?」
「やめてっ!思い出させないで!」
慶太が興奮して言葉を弾ませると、鶴海さんの顔がみるみる赤くなっていく。
慶太はそんな様子の鶴海さんの反応を見て、「ええ〜…カッコ良かったのに〜?」と、不思議がっていた。
慶太よ。鶴海さんはとてもデリケートなのだ。ガラス細工の様に扱いなさい。
そんな事をやっていると、鈴華と伏見さんも到着する。
蔵人は再び慶太を伴って、2人にも挨拶をする。
「山城慶太です!よろしく〜」
「なぁにぃいい!幼馴染って男なのかよぉおおお!!」
鈴華のシャウト。
彼女はそのまま、床に膝を着く。
「あたしの睡眠時間返せ…。寝てねぇんだよ。今日の事ずっと考えてて、眠れなかったんだよぉ…」
なんと、鈴華達も慶太が男であると思わなかったらしい。
そうだろうな。だって、名前すら言ってなかったもの。
蔵人はまた、全力の謝罪を行い、慶太もつられて頭を下げた。
そんな蔵人達を、座り込んだ鈴華は恨めしそうに見上げていた。
ああ、本当だ。いつもは色白の美しい彼女の顔に、化粧では誤魔化しきれない大熊が寝そべっている。
安心した顔の鈴華とは対照的に、伏見さんの顔は険しい。何なら、昨日よりも険しい。
「カシラ、その、疑っている訳やないんですが、ちょっと試させてもらってもええですか?」
伏見さんだけは、慶太が男ということに不信感を抱いているみたいだ。
彼女の反応は、昨日予想した通りだ。
蔵人は1人、安心して頷く。
「そうだね。今日のミニゲームは、特別編成でやらせてもらおうか。でも、慶太は俺と同じサポート型だから、君達みたいな活躍は期待しないでよ?」
「カシラがそれ言います?」
伏見さんのツッコミに、蔵人は苦笑いする。
だが、慶太に自分ほどの練度を求めるのは、酷だと思うがね。
蔵人がミニゲームの方針を決めていると、再起動した鈴華が立ち上がり、慶太に手を差し出す。
「まぁ、なんにせよ、よろしくな。あたしは鈴華だ。ボスの右腕、この部のNO.2だ」
「なに言うてん。右腕はウチやろが」
途端に、鈴華と伏見さんが睨み合う。
彩雲戦で共闘した時は、確かに友情に似た感情が芽生えた2人だったが、対立するのは変わらないらしい。
蔵人が、そんな2人の様子にため息を吐いていると、隣の慶太は、何かに納得したように頷いた。
「そっか。2人はくーちゃんの腕なんだ。じゃあオイラは、くーちゃんの足になる!」
「「…はぁ?」」
毒気を抜かれた顔をした鈴華と伏見さんに見られながら、慶太は満面の笑みで頷く。
慶太は、多分右腕とかの意味が分かってないんだろう。腕がダメなら、足で良いじゃないと、特に意味も考えずに放った言葉。
蔵人は、3人の様子を見て、堪らずに笑う。
やはり、慶太は大物だな。
そう思った。
慶太を含めての練習が行われた。
慶太の様子はどうだったかと言うと、まぁ当初の予想通りと言った所だった。
基礎練の部分は、着いてくるのがやっとで、途中何度も脱落していた。
最初の頃の西風さんや、鶴海さんと同程度の体力と言っていいだろう。
だが、ミニゲームでは活躍した。
鹿島部長にお願いして、蔵人と同じチームに加えて貰ったのだが、複数の人間を妨害するその能力は、今までの桜城ファランクス部に居ないタイプであった。
更に、蔵人との連携も抜群であったので、あの鈴華ですら言葉を失っていた。
最初は、「なんだよ、このちっこいゴーレム」と侮っていたが、それらが鈴華の体に纏わり付いて、足を鈍らせ、視界を奪うと、まともに動けなくなってしまった。
まるで、昨晩のローズ先生みたいだ。
そんなゴーレムを何体も出現させて、一度に3人の人間を行動不能にした慶太。鹿島部長からは文句なしの入部許可が降りた。
そんな楽しい部活の時間も、あっという間に終わってしまった。
1年生達は掃除をして、その脇を通って、2年生達が帰宅していく。
蔵人は、その様子に顔を顰めた。
「蔵人ちゃん?どうかしたの?」
蔵人の様子を、いち早く察知した鶴海さんが声を掛けてくれた。
蔵人は、帰っていく2年生の背中から視線を外して、鶴海さんに困り顔を向ける。
「鶴海さん。今日の練習はどうでした?」
「どうって、いつもと一緒だったと思うわよ?特に変わったメニューは無かったし」
「はい。変わった所はありませんでした。"変えられる事無い、いつもの練習"でした」
蔵人の含みのある言い方に、鶴海さんが大きなお目目を斜め上に向けて、考え中の顔になった。
そして、すぐにこちらを向く。
「えっと、つまり、蔵人ちゃんは今日の練習に、何か不満を感じたのかしら?」
「不満とまでは言えないのですが、今日の練習で、みんなが疲れている様に見えました」
蔵人は、練習後の2年生の歩き方に注目していた。
フラつく人や、若干足を引きずっている人も見られる。
「全国大会から、少し時間が開きました。テスト期間も重なったので、みんなの体力は一時的に落ちています。その中で、いきなりいつもと同じ練習量をこなせば、体へのダメージが大き過ぎます」
「まずはリハビリがてら、練習量を減らした方が良かったって事ね?確かに、私も体が痛いわ。でもそれって、効果的な練習だったと言えるのではないかしら?」
「確かに、筋肉は付きやすくなるかも知れませんね。でもそれは、食事療法も合わせないと意味がありませんし、そもそも、練習量過多は故障の原因になります。筋肉と柔軟性を付けない内に、高負荷の衝撃を与えれば、必ず関節や腰への負担が大きくなり、それが故障に繋がります」
自分も、それで膝を故障した事がある。
勿論、この蔵人の体では無いが、あの時は凄い後悔した。もっとゆっくり段階的に練習したら良かったと、一生付いて回る爆弾を抱えながら、考え続けた。
遠い目をする蔵人に、鶴海さんは大きなお目目を少し上にやりながら提案する。
「蔵人ちゃんは副部長になったんだし、練習内容についても意見出来ると思うわよ」
「おや?そうなんですか?」
鶴海さんが言うには、ファランクス部の練習内容は櫻井部長が決めたらしい。
顧問がいた時は彼女が決めていたが、産休で退いてからは、今まで行っていた練習を参考にしていたそうだ。
「まだ部長も残っているし、今から言いに行きましょうよ。ほら、蔵人ちゃん」
「え、ええ。着いて来てくれるんですね、鶴海さん。ありがとうございます」
鶴海さんに背中を押される形で、蔵人達は鹿島部長が帰ろうとしている所を捕まえた。
練習内容の話をすると、鹿島部長は難しそうな顔をした。
「ごめん。正直に言うと、そう言うのあまり詳しくないの。この練習しかして来なかったから、故障の事とか、筋肉の事とかを言われると…」
いきなり部長に就任して、新入部員の事とかもあるので忙しいのだろう。
蔵人だって、いきなり副部長という大役に、まだ違和感が残り続けている。
部長なら尚更だろう。
それに、練習は今までずっと同じ事を繰り返していた。
基礎練は走り込みと若干の筋トレ。それが終わったら応用練習で、その後ミニゲーム。
これを通年通して行っていた。
それ以外の練習を体験したことない人に、練習内容を変える相談は酷というものだろう。
経験したことのない事を考えると言うのは、物凄く難しいことだから。
「蔵人ちゃんなら、何か良い練習方法を知っているんじゃないかしら?」
「あ、それ良い!蔵人君にお願い出来ないかな?次の顧問の人も、まだ決まっていないみたいだし」
鶴海さんの発言に、部長が顔を輝かせて追従する。
部長曰く、夏終わりに来る予定だった顧問の人が、急遽取りやめになったそうで、また暫く顧問が居ないらしい。
なので、練習内容は部員で変えないといけないらしいのだが。
蔵人は、慌てて部長の提案を否定する。
「いえいえ。僕もそれほど詳しくはありませんよ。ただちょっと、練習量を調整したり、順番を入れ替えた方が効果的かとは思いますが」
「それで十分だと思うけれど?」
鶴海さんは、それだけでも良いと言ってくれた。
それに、部長も頷く。
「うんうん。やっぱり、練習内容は蔵人君にお願いするよ。なんたって、筋肉だからね」
「そうね。筋肉なら蔵人ちゃんですね」
「いや、どういうこと?」
蔵人が釈然としない顔でいると、2人は顔を見合わせて、再度蔵人に視線を向ける。
「だって、蔵人ちゃんは筋肉に情熱を捧げているでしょ?いつも怪しい薬をシャカシャカさせて飲んでいるし」
「海でも凄かったもんね。上半身裸で肉体美を見せつけていたし」
「お2人とも、言い方に悪意を感じます」
蔵人の懇願に、2人は再度顔を見合わせ、同時に笑い出す。
兎にも角にも、蔵人は練習内容を改革する権利を獲得した。
とは言え、部長達に言っていた様に、蔵人にはそんな大きな改革をするつもりはなかった。
変えたのは3つの事。
一つ、準備運動は念入りに”しない”
今までは、練習前の準備運動をしっかりと行っていた。それはもう、30分くらいかけて念入りに各所を伸ばし、ほぐし、怪我の無いようにと。
それが、怪我の元にもなると知らずに。
筋肉とは、ゴムに似た性質があり、一度伸びても元に戻ろうと収縮する。
だが、いくら戻るとはいえ、一度思いっきり伸ばすと繊維が伸びきってしまう。
そうなると、体はある意味リラックスした状態になってしまい、そこから運動をしようとすると、体が付いてこれなくなり、怪我をする。
では、どうするべきか。
筋肉を伸ばすなどの静的ストレッチではなく、関節を動かしたり、筋肉を動かす動的ストレッチを行うようにしたらいい。
動的ストレッチとは何かというと、ラジオ体操などで行う、動きながら屈伸や関節回しを行う物だったり、軽いジョギングがこれに該当する。
その為、蔵人は練習前にラジオ体操と軽いジョギングを取り入れて、念入りなストレッチは練習後に行うことにした。
二つ、曜日ごとに基礎練メニューを入れ替える。
今までは毎日同じ様に走り、軽い筋トレを行っていた基礎練だが、これを曜日ごとにメニューを変えていった。
具体的には、月曜、水曜、金曜は走る事だけを取り入れ、筋トレを除外。
逆に火曜、木曜、土曜は筋トレのみを行い、走るのは準備運動のジョギングだけに変えた。
これは、筋トレの効率を上げる為の試みである。
長距離を走った場合、筋トレの効果が著しく低下するために、走ることと筋トレを分けて行うようにしたのだ。
その為、今までよりも走る量は半減してしまうのだが、もともと蔵人達はマラソンランナーを目指している訳ではない。
なので、体力を維持するためだけであれば、週3で走るのでも十分な練習量だと蔵人は判断した。
これには部員達もにっこりだ。
元々走り過ぎていて、足が故障ぎみの娘もいたから、走る量を減らすことは故障の頻度を減らすことにも貢献した。
三つめは、応用練の前に瞑想を取り入れた。
蔵人は幼少期から行っていることだが、自分の魔力を体内で循環させることは、異能力の熟練度を上げることに大きく貢献する。
これは、ディさんとの会話でも分かったことで、もしかしたら、覚醒への一歩となるのかも知れない。
そう思った蔵人は、毎日応用練開始時に、各パートに分かれる前の30分程度をこの瞑想の時間に当てて、各人の魔力コントロールを向上させんとするカリキュラムを組んでみた。
今の所、ただ目を瞑っているだけの娘が多いが、コツをつかめれば蔵人や麗海先輩の様に、ぐるぐる魔力を回すことが出来るようになるだろう。
これら蔵人の改革は、特に大きな反発も起きずにファランクス部員に受け入れられ、早速翌日から実施された。
今のところは、練習後の体の痛みが少なくて楽であるという結果が得られているが、ここから筋力の上昇や、異能力の熟練度アップなどの効果も出てきたら良いなと、蔵人は期待している。
ちなみに、食事療法についても、質問する部員が多かったので、蔵人はみんなを集めて説明会を開いた。
特に、タンパク質だけは意識して取ってくれとお願いをした。
「嫌だよ。ボスみたいにマッチョになっちまうだろ」
鈴華は表立って嫌がるが、他の娘達も似たような感情を顔に出している。
うん。分かっている。女性は筋肉付けたくないものね。
「そこまで摂って欲しい訳じゃない。意識するだけでいいから」
ボディビルや、本格的に筋肉を付けたいと思うなら、かなりの量のタンパク質を取るように心がけないといけない。
具体的には自身の体重×2~3倍のグラム量。体重60㎏の人なら120~180gのタンパク質を一日に摂取するべきだ。
だが、そこまで必要ない人なら、せいぜい体重の1~1.5倍で良い。それだけあれば、筋肉を維持できるし、程よい筋力増強も出来る。そして何より、
「タンパク質は他の部位にも必要なものだ。女性で言うと、お肌のケアにもなる」
「な、なんだって!?」
お肌もキレイになるよ?と、蔵人がほのめかすと、殆ど全ての部員の目がマジになる。
嘘ではない。髪や肌、骨や皮膚などは全てタンパク質で出来ている。タンパク質をしっかりと取っていないと、どんなに化粧を施しても土台がガタガタになってしまう。背だって伸びない。
外見を気にする人なら、男女問わずタンパク質は最低でも1倍以上は取らないといけない。
蔵人が熱弁すると、鈴華が蔵人の両肩をがっしりとホールドする。
「ボス!タンパク質って何なんだ?どこにあるんだ!?ボスがいつも喰ってる怪しい粉がそうなのか!?」
「怪しくない!全然怪しくないぞ。あれは一般的に販売されているプロテインだ」
みんなが寄ってたかって怪しい粉扱いするので、蔵人は自然と眉間にしわが寄る。
「そのプロ何とかってあれか?はちみつのあれか?」
「鈴華ちゃん、それはプロポリスだと思うわ」
鶴海さんの突っ込みに、隣の席の祭月さんが顔を輝かせる。
「おお!筋肉はハチミツ喰えばいいんだな!私はあれ大好きだ!でも直接飲んだら、桜ねえにヘッドロック掛けられたぞ?」
「祭月ちゃん、ハチミツでは筋肉は増えないわ。脂肪が増えるだけ。そして、ヘッドロックはお姉さんが正しいわ」
おバカ2人が好き勝手言うので、鶴海さんが若干ツッコミ疲れを起こしている。
ツッコミ役の伏見さんはどうした?なに?話が難しくてついて来れない?なら仕方がないね。
蔵人は話を戻す。
「タンパク質を取りたいなら、プロテインの粉はあまりお勧めできないな」
この時代、プロテインの粉はスポーツショップとかにしかないので、ちょっと入手が面倒だ。
本当は、通常の食事の後にプロテインの粉を飲むのが一番手っ取り早く、計算も楽なのだが、手軽に入手できないと摂ることに挫折する人が出るかもしれない。
それに、この時代は味も殆ど一緒だから、苦手な人はそこでも挫折する。
「タンパク質を摂るのにおすすめなのが、先ずは肉」
「おお!肉!私は肉も大好きだ!焼肉行ったら絶対肉しか食わん!野菜ばっかり進めてくる桜ねえに、今度言ってやらないと!」
「待て待て。桜さんは正しいぞ。肉ばかり食べても、健康を害するからね。ちゃんと野菜も食べないと健康にはなれない。それに、肉ばかりだと体臭もきつくなるぞ?」
「な、なに!体臭!?」
祭月さんは、びっくりした後、少し冷静になって首を傾げる。
「あれ?何で蔵人は桜ねえを知っている風なんだ?」
おっと、いけない。
俺と桜さん達は面識がなかった。あるのは、GWで龍鱗として会っただけだから。
蔵人は、焦る感情を押しとどめ、素知らぬ顔で話を続ける。
「肉の中でも、鶏肉、特に胸肉がおすすめです。タンパク質が多く、脂質が少ないからです。肉以外で言うと、卵、牛乳、大豆、ブロッコリーなんかもおすすめですので、買いやすい物から無理をしない程度に摂ってください」
蔵人の説明に、卵なら取りやすいね、とか、牛乳なら毎日飲んでるわ、と言った声が聞こえてきたので、みんなの意識が前向きになっていると感じる。
そんなこんなで、練習内容や食事改善などをみんなに促して、新生ファランクス部は順調に滑り出したのであった。
シングル部の時とは違い、慶太君はすんなりとファランクス部に入れましたね。
「元々、ファランクスは男子部員にも理解があるからな。シングルとは違うだろう」
その寛容さで、主人公も入れて貰えたのでしたね。
そして、主人公のマッスル講座が始まってしまいました。
「うむ。将来が楽しみだ」
脳筋思想が加速しなければいいのですが…。