172話~貴方のその姿に、みんなは惹かれたの~
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今日は、ちょっと悲しいお話です。
蔵人が大寺君と再会し、日向さんと楽しく?電話会談した2日後。
期末テスト終了のチャイムが鳴ると同時に、蔵人の教室、1年8組にも安堵のため息がそこかしこで漏れ出た。
「んんーっ!終わったー!」
両腕を天井に伸ばしながら歓喜する本田さん。凝り固まった首の筋肉を解すように、大きく首を回している。
本田さんだけでなく、普段お淑やかなクラスメイトの数人が、少し気の抜けたストレッチに興じる姿が散見する。
かく言う蔵人も、指をポキポキと鳴らして手の疲れを癒そうとする。
本当は良くないらしい、この骨ポキポキ。骨が局所的に太くなるとの噂。
そう思いながらも、ついやってしまうのは、既に癖として染み付いたものなのか。
「お、終わったぁあ…」
西風さんが、息を吐き出すように、声を震わせながら机に突っ伏す。
本田さんの終わったとは違うニュアンスに、蔵人は軽く拝むだけに留めた。
今回のテストも、前回同様に結構難易度が高かった。
国語は、前回程時間に追われることは無かったが、数学と理科が難しかった印象である。
重箱の隅をつつく様な問題もあったし、数学のある問は、中学1年レベルじゃないと思われる。
つい中3で習う定理を使ってしまったが、習ってない範囲だと指摘されるかも。
兎にも角にも、テスト期間が明けた。
それは即ち、部活動が再開されるという事。
全国大会が終わってから、初めてファランクス部員が集まるのだ。
久しくみんなに会えることに、少し心が騒ぐ。
「さて、部活に行こうか。西風さん」
「終わった…今回赤点かも…」
西風さんが再起するまでに、ちょっと時間が掛かった。
蔵人がファランクス部の訓練棟前まで来ると、その異様な光景に、場所を間違えたかと思ってしまった。
訓練棟の前には、何十人という女子生徒が詰めかけていた。
リボンの色を見る限り、CランクやBランクの娘達ばかりが立ち並び、訓練棟入口に視線を集中させている。
もしかしなくても、出待ち?こんな早い時間から?
蔵人は疑問が頭を駆けるも、直ぐに振り払い、ここからどうやって訓練棟に入るかと算段を付け始めた。
だが、
「あ、蔵人様よ!」
「黒騎士様!?」
「黒騎士様よ!」
出待ちファンが蔵人に気付き、さささっと訓練棟までの道を空けた。
ちゃんと道を空けてくれる理性が芽生えてくれたか!
蔵人は内心感動しながら、お辞儀しながら空いた道を通って訓練棟の中に入る。
中では既に、鶴海さんがモップ掛けを始めていた。
蔵人も西風さんも、急いで支度をして、後から来た鈴華達も合流し、練習前のお掃除に取り掛かる。
「おう、ボス、桃。テストどうだったよ?」
お掃除中、鈴華が話しかけてくる。
蔵人の隣で、ビクリッと肩を揺らす西風さん。
「て、テスト?ナンノコト?ニホンゴムツカシイネ」
「なんで片言になってんだよ」
「おっ、その様子やと、桃もアカンかったんやな?」
鈴華の後ろから、ニヤリと笑う伏見さんが現れる。
「大丈夫や。今回のテストは、みんなドボンや。カシラや翠はちゃうかもしれへんけどな」
そんなことないけどな。
蔵人は、鶴海さんとアイコンタクトをして、頷き合った。
そんな風に少しお喋りしながら掃除をしていると、先輩達もチラホラやってきて、掃除を終える頃には部員全員が揃う。
先ずは基礎練。
と思ったが、先にミーティングを行うそうだ。
部長と副部長を前に、みんなで車座になって座る。
全員が揃っているのを確認して、部長が口を開く。
「みんな、改めてだけど、全国大会3位おめでとう!」
部長の歓喜の声に、自然と拍手が湧き起こる。
部長と副部長の顔が、堪らずにニヤリと笑みを零す。
大会での表彰式の様子でも思い出したのかもしれない。
そんな様子を自分でも意識したのか、部長は痰が絡んでもいないのに咳ばらいをして、気持ちを落ち着かせていた。
「みんなありがとう。みんながいたから、桜城ファランクス部にもう一度、栄光を取り戻す事が出来たわ。本当、本当に…本当は、もっとみんなと一緒に試合したいけど」
段々と、声に力が無くなっていき、最後は後ろを向いて肩を震わす部長。
そんな部長を、副部長と立ち上がった海麗先輩が背中をさすり、介抱する。
ちょっとだけ、ザワめく部員一同。
でも、誰もその場から動かず、部長が再起するのを待っている。
ああ、そうか、部長達三年生は、このビッグゲームが終わったら引退だった。
蔵人は、いつまでも続くと思っていたこのファランクス部が今変わるときというのを、部長の震える肩を見て実感した。
イカンな。年のせいで涙腺が緩んできた。
蔵人が、眉間をグリグリマッサージしているフリをしながら涙を我慢していると、部長が顔を上げた。
「ごめん、ありがと、もう大丈夫…みんな、私たち3年生は、これで引退です。そこで、次の部長と副部長を決めたいと思います!」
部長の言葉に、蔵人を含めた1年ズはポカンと口を開ける。
反対に、2年生は隣の人と言葉を交わしたり、周りの人間に視線を這わせたりしている。
ソワソワしている2年生の様子に、蔵人は、「ああ、2年生達は予感していたのだろうな」と思い、これが恒例行事なのだと推測した。
他の一年生が戸惑う様子に、副部長が説明してくれる。
「ビッグゲームが終わったこの時期は、毎年入替の時期なのよ。次の年代の部長と副部長を決めていくの。方法は、先ずは立候補ね。やる気のある人はこの場で申し出て、他の人の反対が無ければ、そのまま部長に決定。で、もしも立候補者がいなかったら、現部長が指名するのよ」
「そういう事。じゃあ早速、我こそはって名乗りを上げる人はいるかしら?」
部長の目が素早く、集まった下級生を見渡す。
何故か、その視線が蔵人の所でじっと止まったのだが、何を期待しているのだろうか。
まさか、1年生で立候補すると思っているのだろうか?
それは流石に、烏滸がましいだろう。
部長という役職は、最上級生が成るものだ。
特にこの世界では、男性は裏方に徹するのが習わしである。1年生の男子である蔵人が手を上げれば、いくら全国大会で活躍したとはいえ、調子に乗っていると取られるだろう。
部長の目が蔵人から離れて、再び全員を俯瞰する。
「いないみたいね。じゃあ、私から指名するわ。部長は鹿島雪音さん、貴女に頼みたいわ」
部長から指名された鹿島先輩が、すっと立ち上がる。
鹿島先輩の顔は、何処か疲れたような、それでいて目がしっかりと光っていた。
所謂、覚悟を決めた顔をしていた。
「で、出来るかどうか分かりませんけど、頑張ります!」
これは、事前に話を通していたな。
蔵人は、鹿島先輩の動揺の少なさからそう推測する。
まぁ、それが通常だろう。
指名するのであれば、ある程度本人とも話を付けていないと泥沼になる可能性がある。やるやらないで押し問答になったら大変だからね。
つまりは、この交代式というのは見せるための儀式であり、ある程度の道筋が決まっているのだろう。
部長が指名し、次の代を引っ張るリーダーを決める。そうすることで、周りから正当なリーダーだと認識させ、始動がしやすくなる。
なるほどなぁと、蔵人は理解した。
理解したつもり、だったのだが…。
「よろしくね。新部長。では、次に副部長だけど、巻島蔵人。貴方にやってもらうわ!」
部長が真っすぐにこちらを向いて、蔵人を名指しした。
勿論、蔵人に話なんてこれぽっちも通っていない。
なんなら、交代式があることも知らなかったし、3年生の引退は、もっと後だと思っていた。
つまりは、
「異議あり!」
反対意見が出てくるという事。簡単には決まらない。
ちなみに、反対意見を出したのは、何故だか蔵人だけだった。
おい!今、意思表明しないと、1年生の男子が君らを引っ張ることになるんだぞ?
蔵人は、独り佇む中で、周りに睨みを利かせる。
周りの顔は、何故だか明るい。
「異議を却下します」
「なんで!?」
つい、ため口になってしまった蔵人。
だが、そんな蔵人の口調を気にした風もなく、部長は淡々と告げる。
「本人からの異議は却下するルールなの」
「なんと横暴な!憲法の改訂を申請致します!」
「今年の通常国会は閉じたわ。来年に申請して頂戴」
「権威主義の横暴です!」
蔵人と部長のやり取りに、周りから忍び笑いが起こる。
部長も笑う。
まぁ、半分が冗談なのだ。みんなそれが分かっている。
部長が、笑いをこらえながら蔵人を向く。
「冗談はさておき、貴方に副部長をしてもらいたいのは本気よ。貴方なら出来る。そう思うの。どう?蔵人」
「私は1年で、しかも男子ですよ?それでもよろしいのですか?」
蔵人の問いは、部員全員に向けたものだった。
蔵人の言葉に、返答する声はない。だが、みんなの表情が言葉以上に意思を表明していた。
その意思を、部長が言葉にする。
「貴方がいなかったら、私たちは多分、都大会ベスト16で終わっていたわ。それを、全国3位まで引っ張ってくれたのは貴方よ、蔵人。貴方の異能力が強いのもそうだけど、貴方のその姿に、みんなは惹かれたの。貴方が頑張るから、私たちも頑張れた。あそこまで登れたのは、貴方が私達を引っ張ってくれた。貴方が副部長になってくれたら、またあの舞台に立てる…いえ、もっと高いところに手が届くわ」
蔵人の姿に惹かれた。
その言葉に、みんなが思い思いに頷く。
サーミン先輩が、拳を突き上げる。
「お前がいたから、俺も安心して戦えたぜ。礼二に一矢報いたしな!」
礼二とは、魔王の名前だったはず。そこまで仲良くなったのか。
サーミン先輩の言葉に苦笑いしながら、海麗先輩も頷く。
「私も、蔵人のお陰でまた立ち上がれた。今度はみんなを引っ張ってほしい」
部員みんなの熱い視線が、蔵人を焦がす。
蔵人は、立ち上がる。
「分かりました。不肖、この巻島蔵人、精いっぱい副部長を務めさせていただきます」
蔵人の言葉で、一斉に拍手が沸き起こる。
鹿島先輩が蔵人に歩み寄り、握手を求めてくる。
それに蔵人が答えると、部長と佐々木先輩も握手をしに来た。
ファランクス部の世代交代が、なされた瞬間だった。
部長達は、その後すぐに訓練棟を退出した。
本当は最後の新旧試合…3年生と1、2年生の試合をするのが恒例らしいのだが、部長は蔵人を見ながら、「今年は必要ない、と言うか、勘弁して欲しいわ」と言っていた。
蔵人が居る新ファランクス部の方が、3年生達旧ファランクス部よりも強いと思ったらしい。
部長はそう言ったが、蔵人はいい勝負が出来るのではと思った。
現に、今の蔵人は海麗先輩とほぼ互角であろうし、部長達Bランクと対等に戦えるのは鈴華と伏見さんくらいだ。Cランクで言うと、最近急成長中の西風さんが上手いこと相手を翻弄しそうだ。
2年生も、バッファーの鹿島新部長に西園寺先輩、サーミン先輩の急襲があるので、面白い試合になると思う。
やってみたいと蔵人は思ったが、3年生は受験もあるので、あまり我儘は言えない。
殆どの先輩は桜城高等部を受けるので、合格倍率は外部生ほど厳しくはない。だが、ちゃんと勉強しないと落ちるらしい。
海麗先輩は推薦でもう合格確定らしいが、彼女は冬にシングル戦が控えているので、このままシングル部の方に行くそうだ。
寧ろそっちが本業で、ファランクス部は彼女の好意で参加してくれていたのだった。本当に、感謝しかない。
しかし、彼女がいなくなってしまうと、この部のAランクが不在となる。それはちょっと不味い。
Aランクがいないとなると、Bランクの出場枠が増えるが、Aランク1人抑えるのに、Bランクは最低3人必要になると言われている。そうなると、Bランク1人分の損となる。
勿論、Aランクを蔵人が中心になって抑えれば、Bランク3人も必要ない。相手の練度に寄っては、蔵人1人でも十分だ。
だが、不利なのは変わりない。出来れば、誰かAランクが入部、いや、兼部でいいから来て欲しい所だ。
「やはり、頼人か」
一度は捨てた選択肢だが、もう一度検討するべきかもしれない。
彼は、守備主体ではあるが最上位のクリオキネシスだ。練度も、一緒に訓練していた蔵人だから保証出来るし、蔵人とのユニゾンも出来るので、一気に戦力アップになる。
蔵人がそんな皮算用を行っていると、鹿島新部長が首を傾げた。
「えっ?ライト?暗いの?」
「あ、いえ。部員のことを考えていました。うら…美原先輩が行ってしまうと、この部にAランクが居なくなってしまうので、どうしたものかと」
蔵人の意図を理解した鹿島新部長が、顎に人差し指を乗せる。
「んー。それもあるけど、Aランク以外にも、1年生の部員はもっと欲しいよね。今は6人だけだし」
蔵人、鈴華、伏見さん、鶴海さん、西風さん、祭月さんの6人が1年生の総勢だ。
今年は頼人のアイススケート部が波乱を呼んで、そっち方向に多くの新入部員を取られた。お陰でファランクス部の1年部員は定員を大きく割っている。
「もう一度見学会を開きますか?兼部もありって事にして」
蔵人が一案を出すと、鹿島部長は「そうね」と頷きながら考えて、顔を上げる。
「いっその事、今から見学会をやっちゃう?」
「えっ、今からですか?人が集まりませんよ?」
ただ訓練棟の入口を開けただけでは、兼部を考える人は入って来ない。せめて若葉さんに頼んで、人員募集のチラシでも張り出さないと。
いや、それだけでなく、知人や他異能力部にも声をかけて、出来るだけ集めないとな。
蔵人が色々と人集めの策を考えていると、それを不思議そうに見る鹿島部長。
「えっ?人なら集まって居るじゃない?」
なに?
蔵人は、まるで分からないという顔を鹿島部長に向ける。
その顔が面白かったのか、鹿島先輩の硬かった表情が崩れる。
「貴方も訓練棟に来た時に見たでしょ?外の、入口の群衆。あれ、全部入部希望者よ?」
なんだと!?
蔵人は驚愕した。
その日の練習は、普段よりもミニゲームに時間を割いた。
と言うのも、上で見る観客達へのサービスだ。
蔵人が少し顔を上げると、そこには見学者で満員になった2階スタンドが見えた。
みんな、真剣に蔵人達の練習風景を観察している。
中には、ただ観戦に来たっぽいお嬢様達も見受けられるが、半分近くは真面目に、兼部ないし入部を検討してくれているみたいだ。
ざっと200人。その内100人が検討しており、更に今回の練習風景を見て考えを改める人が出たとして、多くて50人くらいが入部希望を出したとする。
定員は25名で、蔵人達を除くと19名。
これは、篩落としが必要になってくるのか?
蔵人は、心配になった。
と言うのも、先日慶太を誘ったからね。
「鹿島部長」
「うん?どうしたの?」
「私も、入部者を1人推薦したいのですが、よろしいですか?」
「推薦?良いけど…実力は?あ、あとランク」
「ランクはCで、ソイルキネシスです。実力は、そうですね。鍛え直せば直ぐに物になるかと。幼稚園時代から、私と一緒に練習していたので」
今はちょっとおデブさんになっているので、体重を落として、少し走らせれば体力も元に戻るだろう。元々異能力の使い方は天才じみていたのだから、将来的には伏見さん並に実力が開花すると、蔵人は密かに期待している。
それに、彼ともユニゾンが出来る。
ユニゾンは今後強力な手札になる筈だから、必ず彼を仲間にしたい。
蔵人の思いが通じたのか、鹿島部長が1つ頷く。
「蔵人君の幼馴染で、幼稚園から訓練をね…分かったわ。今度連れてくてくれる?」
「はい。明日にでも」
明日にでも見学会に来て貰って、入部希望者が多いなら、慶太も一緒に篩分け試験を受けて貰おう。
なに、慶太なら大丈夫だろう。体力面は…まだ復活しないだろうけれど、異能力の有用性を示せば落ちることは無い。
蔵人がそう考えていると、蔵人のすぐ後ろで怒号が飛んだ。
「なぁにぃいい!ボスの幼馴染だとぉ!」
鈴華だ。凄い剣幕で蔵人の方にすっ飛んでくる。
いつも彼女を抑えてくれる、伏見さんや鶴海さんまで付いて来ている。
ミニゲームはどうした?
「おい!ボスどういうことだ!?幼馴染を連れてくるだと?幼稚園からの付き合いなのかっ!?」
「あ、ああ。そう、だけど?」
鈴華の剣幕に押されて、蔵人は歯切れ悪く肯定する。
俺に友達がいることに、そんなに驚いているのか?と、蔵人の心は悲しさが滲みだす。
鈴華の横から伏見さんが顔を出す。
「そんで、カシラ。その幼馴染っちゅうんは強いんです?」
「強い弱いかで聞かれると、微妙だな。サポート型だから、単独での戦力はそれほど期待できない」
「だけどな」と、蔵人は2人の顔を真っ直ぐに見て、ニヤリと笑う。
「俺とあいつが組めば、そこらの奴には負けない」
蔵人の一点突破と慶太の妨害。この組み合わせは、仮令、格上の相手でも圧倒できる。コンビネーションの練習をしっかりと積めば、たった2人で同格10人程度を相手も出来るだろう。
それだけの可能性を秘めているのが、慶太という男だ。
蔵人がそう言って、慶太の太鼓判を押すと、思いのほか集まったみんなの表情が硬くなる。
おや?慶太の実力が心配で聞いてきたのではないのか?
伏見さんが難しそうな顔で腕を組む。
「まぁ、強いんでしたら、うちは文句ないですわ。本当にカシラがそこまで言うほどか、入る時に試させて貰いますんで」
「ふんっ!どうだかな。ボスは甘いから、幼馴染ってだけで甘やかしてそうだぜ」
ああ、そう言うことか。
鈴華達は、蔵人があまりに褒めるので、蔵人の中でフィルターが掛かっていることを懸念している訳だ。
確かに、親友であり戦友である彼に、蔵人は多少甘い評価を出しているかもしれない。
だが、桜城に入るまでの実力は十分に知っているから、みんなの期待は裏切らないだろう。
大丈夫だ。
「是非に試してやってくれ。俺とあいつのタッグが、どれほど君たちに通用するかをな」
蔵人が自信を込めて頷くと、周囲の温度がまた一段と下がる。
「ふっ。カシラにそこまで言わすんや、本気で相手してやらんとアカンな」
「あたしが証明してやるよ。ボスの隣が誰の物かってのをな!」
伏見さんは嬉々としたステップで、鈴華は息巻いてミニゲームに戻っていった。
その様子を見て、蔵人は少し懐かしい気持ちになった。
蔵人が初めてこの2人に会った時も、彼女達は蔵人が男だからと突っかかって来た。
今回も、慶太が男なのでかなり心配しているのだろう。桜城ファランクス部の戦力を落とさないかと。
これは、慶太の入部試験は頑張らないとな、と蔵人が考えている横で、西風さん達が集まって会話していた。
「蔵人君の幼馴染かぁ。どんな子が来るんだろう…」
「きっと、筋肉ムッキムキの奴が来るぞ!」
「祭月ちゃんが普段、蔵人ちゃんをどんな風に見ているかが分かったわ」
「そういう翠はどうなんだ?どんな子が来ると思う?」
「そうね。蔵人ちゃんみたいに、みんなと仲良くできる子だったら嬉しいわね」
鶴海さん、大丈夫ですよ。奴のコミュニケーション能力は、他の追従を許しません。
1年ズがワイワイやっている横で、鹿島部長は独り、見学者達を見上げていた。
「これで、残る定員は18名か」
あれ?部長の中では、慶太が既に入部確定になっている?
1年生と2年生の温度差に、蔵人は風邪を引きそうであった。
部長達3年生が去ってしまうのですね。
何処か、物寂しいです…。
「人生とはそういう物だ。別れがあり、それと同時に出会いもある」
3年生はみんな、桜城高等部に受かってほしいですね。そうなれば、また遊びに来てくれますし。
そして…。
主人公、またやらかしてる…。
「それがあ奴の、通常運転だ」