171話~ならば、私が出しましょう~
※あくまでも”らしき”物です※
日曜日。
蔵人は自室で勉強をしながら、天井で盾を操作していた。
アクリル板でランパートを素早く作成したり、水晶盾から魔銀盾、魔銀盾から金剛盾と高速で合成させたりと、普通は集中しても難しい荒業を、勉強の片手間に行っていた。
いたのだが、
「おっと、ルーズリーフが無くなったか」
いつも間にか、ノートが一枚も無くなってしまったので、蔵人はどうするか考える。
裏紙を使うのもいいが、後で見返す時に不便であろう。それに、他にも買いたい文具やトレーニング機材がある。ここは…
「よし、買い出しに行くか」
という事で、アクリル板を足に装着した蔵人は、板を浮かせてスイスイと道を進む。
目指すは商店街。
ルーズリーフだけなら、近所のコンビニでも事足りるが、値段が張るし、他にもいろいろ買いたい。
それに、地元にお金を落として、地域活性化に繋げたいとも思った。
そんなことを頭の隅で考えながら滑っていると、目の前のコンビニの駐車場で、学生らしき若者が集まっているのが目に入った。
高校生くらいか。5人くらいの男子学生は、だぼだぼのスウェットにジャラジャラと貴金属を無駄に纏い、タバコやお酒”らしき”ものを飲んでいる男子もいる。いわゆる不良という奴か。
その彼らの中に、女子生徒が2人、男子たちに囲まれる様にして立っていた。
ぱっと見た限りでは、コギャルが不良たちに絡まれている様に見える。
だが、会話を拾うと、
「ねぇねぇ、この間の太田の奴見た?マジでウケたんだけど」
「見た見た!クラスの女子にちょっと脅されただけで、鼻水垂らして土下座してたよね。Eランクの泣き顔とか、チョーキモかったし」
どうも、絡まれている雰囲気ではない。
それどころか、周りの男子は女子2人の会話に「うんうん」と必死になって反応していた。
「お前も見てたよな?田中」
「うっす。マジでキモかったっす」
「はぁ?男のお前がキモいとか抜かしてんじゃねぇよ!」
「そうそう。底辺ランクの癖に!」
「す、すんません…」
大柄な男が、少女に怒られて小さくなっている。
特区の外では、女性よりも男性の数が圧倒的に多い。だが、その大半はEランクであり、このように肩身の狭い思いをしていた。
特に、女子に対しては。
「はぁ、なんかのど乾いたわ。田中、なんか買ってきて」
「あ、あたしも~」
「えっ、お、俺っすか」
「あんたのせいで無駄にのど使ったんだから、当たり前でしょ?とっとと買ってきなさいよ。あっ、タケオの分も買ってきて」
「俺の分は良いよ、ユミ。のど乾いてないし」
「ええ~。タケオは優しいなぁ」
「やっぱ、Dランクの男は違うね~」
タケオと呼ばれた茶髪の男に、女子2人が猫撫で声を出して寄り添う。
特区の外では、Dランクの男子は特別扱いを受ける。Eランクに対して、Dランクは貴重な存在だから。
これも、マデリーンの法則が影響しているのだろう。少しでも高ランクの男子と子孫を残せば、その子の魔力ランクは上がりやすくなる。
高ランクになれば、就職の幅も広がり、上手くいけば特区の超エリート職に就いて一生安泰になる。
ランクとは学歴のような、いや、それ以上のステータスとなるのがこの世界。
「あ、あの、田辺さん」
「なんだよ岡本。お前も私たちに何か買ってきたいのか?」
「い、いえ。あの、あそこで、こっちを見てる奴がいて…」
あそこ、と一人の男子が指さす先は、
蔵人であった。
おっと。いつの間にか立ち止まってしまった。
特区ではなかなか見られない光景に、蔵人は集団をまじまじと観察してしまった。
騒ぎになる前に、とっとと立ち去ろう。
蔵人は、何食わぬ顔で顔を背け、盾を発進させる。
スウィーっとコンビニから遠ざかっていく。
蔵人が小学生の時は、外出時は柳さんが車を出してくれたことも多かったので、あのような光景はあまり目にしなかった。
だが、どちらかというと、こういうヤンキーがたむろっていたりする方が、史実に近い風景に思える。
特区の中と外では、風潮に時代差があるように思えた。
うん?
蔵人のパラボラ耳が、足音を拾う。
後からだ。
振り向くと、さっきのコギャルの片方が、走って来ていた。
「おい!待てよっ!そこの男!」
見られていたことが癪に障ったのだろうか。凄い形相で追いかけてくる。しかも、結構早い。
このままでは追い付かれると思った蔵人は、盾を鉄盾まで合成し、速度を上げる。
それでも、少女は必死の形相で追いかけてくる。
鉄盾に乗っている今の蔵人は、時速40km/h程度。人が頑張って追いつける速度ではない。
それでも、離れないで追ってきている少女は、何らかの異能力を使っていると思われる。
蔵人は更に鉄盾を追加して、一気に少女と距離を開ける。
少女の顔が、歪む。
「ふ、ふざけるな!なんであたしが、追い付けないんだよ!あたしは、Dランクのエアロキネシスだぞ!?」
やはり、異能力を使っていたらしい。
余程、自分の力に自信があったようで、ちょっと泣きそうになっている。
イカンな。ここは、フォローしないと。
「Cランクなんで、僕。追いつけなくても仕方ないですよ?」
「なっ!?し、Cランク!?」
驚愕に彩られた彼女の表情。速度が一気に落ちた。
話が終わったみたいなので、盾の力の方向を前から上にシフトさせる。
浮遊。
そのまま空へと飛んでいく。
飛んでいく蔵人の背中を、呆然とした少女の目だけが、追いかけていた。
空を飛びながら、蔵人は河川敷まで来た。
眼下には河川敷公園を元気に駆け回る少年少女達が見える。
どうも野球をしている様だ。
白いユニフォームが泥だらけの子供が何人かいる。小学低学年かな?
この頃の子供は、男女の隔たりが比較的小さい。
年が大きくなるに連れて、徐々に男子と女子は別れて遊ぶようになり、逆に大学生くらいになると、また男女でつるむようになる。
精神構造が女子の方が早熟だからだろうか?男子が子供っぽいから、隔たりが出来るのだろう。
だが、この世界、特に特区ではそれも当てはまらない場合がある。
女子が、脳筋気味なのだ。
結構な確率で、異能力による解決を試みるし、逆に男子はそれを冷めた目で見ている。
女子に限った話ではないが、人とは、力を持つ者が力による解決に偏る性を持っている様に思う。
蔵人が、そんな事を考えながら飛んでいると、何かが迫って来た。
慌ててガードし、盾に当たった物を回収すると、それはボールだった。泥だらけの、野球ボール。
あっ、ヤバい。
蔵人は急いで下を見る。
そこには、こちらを見あげて唖然としている少年少女の姿が。
しまったなぁ。打ち上げたボールを取っちまった。
蔵人は、少年少女にボールを返そうとしたが、振りかぶった状態で止まり、考えを改める。
ここでそのまま返したら、アウトになってしまう。折角のホームラン、それは可哀想だ。
蔵人はクルりと後ろを向き、ボールを明後日の方向に投げる。
弱々しい弾道だ。肩を鍛えてなかったからな。
蔵人は少年少女に向き直り、声を上げる。
「ごめんねー!今のホームランだったよ!ナイスホームラン!」
蔵人の声に、しかし、未だに動き出そうとしない少年少女達。お目目まん丸にして、蔵人を見上げている。
なんだ?人が飛んでいるのが、そんなに珍しいのか?
「ホームランだってば!ほら、そこの女の子、走れ走れ!アウトになっちゃうぞ!」
ホームランなのだから、アウトにはならないのだけれど、こう言わないと走り出さないだろう。
案の定、蔵人の口車に乗せられ、一塁で止まっていた女の子が走り出す。それを皮切りに、他の子も動き出した。
これは、早めに降りないと、周りの迷惑になるな。
蔵人は、特区の外の様子に、少し戸惑った。
特区では、空を飛ぶ人間はそれほど珍しくない。学生だって飛んで登校する人もいるし、社会人の集団通勤も見たことがある。警察の機動部隊らしき人達とは、通学中でも良く見かける。今みたいに珍しがられる事もない。
だが、特区外ではそうはいかないみたいだ。
飛んでいる人なんて見かけず、空には旅客機か、時折飛び去る軍用機が幅を利かせていた。
これは、注意しないと。
蔵人は高度を下げて河川敷を進み、人気のない場所を探しながら心の中で呟く。
すると、河川敷の橋元、国道が通る大きな橋の下に人が集まっているのが見えた。
金髪茶髪の学ラン集団が、落書きが所狭しと描かれている橋桁に向かって、何かを喚いていた。
よく見ると、不良たちの眼先には少年が1人。コンクリートの橋桁に背中を押し付けて、随分と怯えている様だった。
学ラン不良の声が聞こえる。
「おい!いい加減に”出し”やがれ!それとも、痛い目見ないと分からねぇのか?この糞ガキ!」
出す?何を?
別の不良が、気持ち悪い猫なで声を出す。
「俺たちが誰だか分かんねぇのか?竜牙隊だぜ?俺たちのバックには、あの青龍会が付いてんだ」
竜牙隊?有名な不良グループなのだろうか?青龍会ってのは、明らかにあっち系の組織な気がする。
不良たちが何やらバッチみたいなものをチラつかせる中、少年が蚊の鳴くような声で答える。
「い、いやです。ぼ、ぼ、僕はそんなこと出来な…」
「ああぁっ!?なんだって!?」
半分泣きべそをかいている少年に、しかし、不良達の威圧は減る所か、増々ヒートアップする。
蔵人は、取り敢えず少年の間に入って、仲裁しようと高度を下げていった。
見逃す事は出来ない。
だが、蔵人が降りる前に、
「てめぇ、さっきからごちゃごちゃ抜かしやがって!」
金髪不良が、少年の胸倉を掴んだ。
どんな事情があるにせよ、手を出したのならアウトだ。
蔵人は、手のひらサイズのアクリル板を生成し、それを不良目掛けて飛ばす。
「いてぇ!な、なんだ!?」
アクリル板は、少年を掴んでいた不良の手の甲に当たり、その衝撃によって消えた。
なので、不良は訳も分からず、手を押さえながら呻いた。
そこに、
「おーい。何やってんだ?」
蔵人が声を掛けた。
不良達は声の出処を探る様に、あっちこっちに視線を迷わせる。そして、上を見て驚いた。
少年もこちらを見上げ、驚いている。
蔵人は、少年に手を振った。
「やぁ、久しぶり」
蔵人は、不良達に背中を向けて、少年の前に降り立つ。
少年は、尚も驚いていた。
それは、蔵人が空を飛んでいたからではない。
少年は、蔵人が空を飛べるのを2年も前から知っている。
彼が驚いたのは、ここに蔵人が居るからだ。
彼は、
「大丈夫かい、大寺君?」
蔵人の、小学生時代の同級生、大寺君であった。
「く、蔵人くん!?なんで、こんなとこに…」
驚く大寺君の疑問に、蔵人は答えずに背後を振り返る。
突然の空からの登場に、不良達の数人が半歩後退する。
「な、なんだコイツ…」
「宙に浮いてたぞ?」
「リビテイションか?」
「人間浮かすって、Eランクじゃ無理だろ!」
「じゃ、じゃあ、Dランクかよ…」
また、半歩下がる不良達。
自ずと、リーダー格の男が、前に出る形となる。
「おい、てめぇは誰だ?」
リーダー格の男が、一歩前に出て、蔵人との距離を詰める。
あと2歩前に出たら、彼が手に持つ獲物が届くだろう。
背丈は蔵人が見上げる程。180cm近くある立派な体格だ。髪は黒いが、ワックスでカチカチに固めてリーゼントにしている。手には1本の鉄パイプ。
酷く懐かしい昭和のヤンキーと言った風貌だ。
「中学生1人に寄ってたかる貴方達に、教える名などございません」
「ほぉ?言ってくれるじゃねぇか」
リーダーが、鉄パイプを撫でる。
ちょっとヤバそうな雰囲気。でも、蔵人は気にもせず、彼に質問する。
「貴方達こそ、ここで何をされているのですか?私の友達に、何を出させようとしているのです?」
あえて聞くが、こういう奴らが搾取しようとする物なんて、たかが知れている。
大抵は、お金だろう。
蔵人の質問に、リーダーはニヤリと笑い、撫でていた鉄パイプを振りかざした。
「それこそ、答える義理はねぇ!!」
蔵人の頭を狙った一撃。思いっきりの良さから、蔵人でなければ確実に病院送り。打ちどころによっては、即死レベルだ。
勿論、そんな攻撃は蔵人の盾に阻まれる。
カツンっと、鉄同士が響く音だけを残して、鉄パイプがリーダーの手から放り出される。
「がぁっ!」
鉄パイプから伝わった衝撃に、リーダーは右手を抑えて蹲る。
それを、蔵人は見下ろす。なんの色も浮かばない、冷たい目で。
「答えなくても結構。貴方達が欲する物など、お金か、それに類する貴金属ぐらいなものでしょう」
「チッ!だったら何なんだよ!」
リーダーが恨めしそうな顔で、蔵人を見上げる。
それを、蔵人は、
「ならば、私が出しましょう」
笑顔で迎える。
そんな蔵人に、周りの不良は目を見張る。自分達のリーダーを膝まづかせる程の相手が、急に下手に出た事に驚いていた。
蔵人の背後でも、驚きの声が上がる。
「ち、ちょっ!蔵人くん、何言って…」
しかし、大寺君の言葉は、そこで途切れる。
口を大きく開けた大寺君は、自分の真上を見上げていた。
そこには、何枚もの鉄盾が浮かんでいた。
「さぁ、貴方達が欲していた金属ですよ。なに?要らない?そう仰らずに、好きなだけお持ち帰り下さいませ」
蔵人の言葉と同時に、飛来する鉄の塊。
「金属・砲撃」
それらは、逃げ惑う不良達のすぐ近くに落下し、硬い地面に突き刺さった。
盾に当たって怪我をした者はいない。だが、地面に倒れ込んだ彼らの表情は、恐怖で引きつっていた。
「な、なんだこれ!」
「て、て、鉄の盾?リビテイションじゃなかったのか!?」
「鉄の盾って、コイツ、やっぱり」
「ああ、ハマーだ!砦中のハマーだぁ!」
「なんでここで、新人戦チャンピオンが出てくるんだよ!?」
ハマーとは、蔵人の元同級生の西濱のアニキの事だ。
どうも、同じクリエイトシールドという事で、在らぬ方向に勘違いをさせてしまったようだ。
「ヤベェ!殺される!」
「逃げろ!」
何人かの不良が、一方向に逃げ出す。そこには、数台のバイクが停めてあった。
ああ、それ君たちのだったの。
蔵人が再度腕を振るうと、地面に突き刺さっていた盾達が再び宙に浮き、高速回転をしながら、不良達を追う、
追いつく、
追い越して、彼らのバイクに突き刺さった。
人間大の大きさがある鉄盾に、全てのバイクは両断され、無惨な姿を地面に横たえる。
その様子を、理解が追いつかない不良達は、唖然と眺める。
蔵人は、そんな彼らの背中に、声を掛ける。
「今回はそれで許そう。だが、もしも次、君たちが同じような事を繰り返せば」
蔵人の声に、彼らはビクリッと肩を震わせ、蔵人に振り返る。
「その姿が、君たちの末路と思え」
「「「ひぇええああ!」」」
蔵人の脅しに、不良達は悲鳴と体液を撒き散らしながら、河川敷の土手を駆け上がる。
何人か、コンクリートの上ですっ転んでいたが、それは致し方ない。こういう輩には、しっかりとお灸を据えなければならない。
でないと、また同じことを繰り返す。実害を被らないと、痛い目を見ないと、人はなかなか学べない者だから。
「大丈夫だった?大寺君」
「あ、ああ、うん。僕は大丈夫だったけど…」
心配そうにこちらを見る大寺君。
蔵人は軽く手を振って、こちらは問題ないとアピールする。
「しかし、あまり嬉しくないのに迫られていたね。良くあるの?こういう事」
「こんな強く出て来たのは、今日が初めてだよ。でも最近になって、学校の近くで高校生の姿をよく見かけてたんだ。この前は竹内君が呼び止められて、ハマーの事をしつこく聞いてきたらしいよ」
「アニキを?」
ただのカツアゲかと思っていたが、どうも違うらしい。
首を傾げる蔵人に、大寺君が頷く。
「なんでも、ハマーに入って欲しいチームがあるんみたいだよ。他の学校も、陸上とかで入賞した男子が声を掛けられたって聞いててさ。今日も、ハマーの電話番号を教えろって言われて。僕が嫌だって言ったら、ここにハマーを呼び出せって言い始めて…」
それで、”出せ”って言ってたのか。
ただのカツアゲよりも、厄介なことになっているな…。
「分かった。ちょっと知り合いに当たってみるよ」
「本当に!?あっ、いや、有難いけど、あんまり無茶しないでくれよ?」
大寺君が心配してくれる。
君たちの方が大変な目に会っているだろうに、優しい子だ。
これは、彼らの為にも頑張らねば。
その日の夜。
「もしもし?久しぶり」
『おう、なんだよ。態々家に電話してきやがって』
頗る機嫌の悪そうな声が、スピーカーから返ってきた。
時間が悪かったかな?と思ったけれど、向こうは『構わねぇから話せ』と催促して来た。
なので、直球で聞いてみる事にする。
「今日、特区の外を飛んでいたら、青龍会って組織の下っ端が喚いていてね。俺の友達を脅していたんだよ」
『なるほどな。それで、俺に話を持って来たってことか』
彼女の声が、一気に華やいだ。
話が早いのは助かるけど、それが切っ掛けで青龍会と白虎会の抗争勃発とか、止めてくれよ?
「日向さんは、青龍会って聞いたことある?」
『まぁな。ここ10年くらいで出来た新参者。その癖、今じゃソコソコの規模まで成長している組織だ。女ばっかりが優遇される世界に不満があるとかで、男の会員をガンガン集めてデカくなったらしい』
なんと、それでは反社と言うよりも、アグリアと似たような集団ではないか。
いや、もしかしたら、その青龍会こそがアグリアの一部なのではないか?
世間的にテロ集団と名高いアグリアの名前で構成員を募るより、別の名前で勧誘した方が集まりやすいだろう。
看板を変えただけで、アニキの様な有望な人間を集め、犯罪者に仕立て上げるつもりなのだろう。
「なんて奴らだ…」
『あぁ?なんだ?まさか、お前にも話を吹っかけて来たんじゃねぇだろうな!』
日向さんのボルテージが、一気に上がってしまった。
いかん。
「違う違う!俺は大丈夫だ。だけど、俺の友達で、西濱って子が目を付けられていてね」
『西濱って言うと、あいつか。川崎フロストに来てた奴だよな?確かに、あいつならウチにも欲しいくらいだ』
「おいおい」
勘弁してくれ。
アニキの人生、手ぐすね引いているのが反社ばかりだ。
蔵人が嘆いていると、電話口で『くっく』と押し殺した笑い声が聞こえた。
『冗談だよ。だが、お前のダチが困ってるなら、一肌脱いでやるぜ』
「有難いけど、大丈夫かい?相手はもしかしたら、アグリアと深く関わっているかもよ?」
『はっ!なめんじゃね。白虎会がそんな雑魚共に負けるかよ。Dランクの異能力者が出てきても、ショットガンやガトリング砲で蹴散らしてやる』
おいおい。なんちゅう物を引っ張り出そうとしてるんだ。
「お、穏便に頼むよ?」
『くははっ!分かってるって。先ずは西濱の学校周辺に若いの張り付かせるだけにするさ。本格的な抗争になるまで、ハジキは使わねぇ』
どうやら、ガトリング砲は冗談だったらしい。
それでも、抗争になったら鉛弾が飛び交いそうで恐ろしい。
いや、この世界、銃器よりも異能力の方が恐ろしいのか。だから日向さんは、銃の扱いが軽いのかも。
それでも、
『久しぶりの実戦だ。最近怠けてた組員を扱けるって、お袋が喜ぶぞ!』
嬉々とした声を上げる戦友に、不安を拭い去れない蔵人であった。
特区の外のお話でした。
「作品のタグに、昭和も追加した方が良いのではと思ってしまうな」
時代が全然違いましたね。
しかし、アグリアの実働部隊が、こんなところにまで根を伸ばしているとは…。
「政府は泳がせていると言ったが、果たしてそれが正解なのか」
そこも、可笑しなところですよね。
アグレスを隠すために、そこまでする?と思ってしまいます。