167話~何てことしたんだよ!~
新章、スタートです。
日常回多めの章になりそうです。
9月1日。午前7時00分。
とても濃厚な夏休みが終わり、2学期初日の登校。
蔵人は相変わらず、特区外からの飛行通学を満喫していた。
二酸化炭素が少なくて緑地が多いからか、気温もそこまで高くない。
史実では、真夏に40℃を超える酷暑が頻発していたから、余計に涼しく感じる。
これも、異能力中心のパラレルワールド故のメリットである。エネルギーをクリーンな力に置き換えているから実現した理想の世界だ。
その反面、史実よりも難解な事になってしまっている。
蔵人は視線を戻し、前を向く。
先日のディさんとの邂逅を、改めて振り返る。
彼が言っていた事。それはどれも貴重な情報であった。
覚醒然り、この世界の成り立ち然り。
そして、この世界の脅威となっているアグレスの存在は驚愕であった。
海からか現れ、人類を襲う。それらに意思疎通は不可能で、まるで魔物の様な存在。
だが、その話には嘘が含まれていると思われる。
蔵人は一つ、ため息を吐く。
勿論、全てが嘘と言う訳ではない。
寧ろ、8割以上が真実であり、残り2割の嘘を気付かせないようにしていた。
その嘘だと思う部分が、アグレスの正体について。
仮に、アグレスの正体が地球外生命体だとすると、矛盾する部分がある。
一つは、雷門様の発言。
仲間を”この手に掛けた”と言われたらしいが、どのような状況であれば仲間を殺す必要が出てくるのか。
仲間が人類を裏切ったとすると、ではどうやって裏切るのかと言う話になる。
意思疎通が出来ないアグレスに、どうやったら与することが出来るのか。
操られたか?
ならば、操るアグレスを叩くだろうし、そうでなくとも、意志がないような生物が人間を操れるのか?
仲間を”見殺しにした”というのなら、情景が思い浮かぶのだが…。
そして、最大の矛盾点は政府の対応。
政府は国民に対し、アグレスの存在をひた隠しにしている。それこそ、目撃者であろう若葉さんのおばあ様を、未だに帰さない程に。
だがそれは、過剰過ぎる反応だと思う。
確かにアグレスの存在は脅威だし、公表されれば大きな混乱を招くだろう。
だが、混乱が起きたところで直ぐに持ち直す。
今現在、アグレスの侵攻を許していないのだから、寧ろ、人類が一致団結して事に当たる様になるかも知れない。
だが、政府はアグレスの存在を隠し、その存在を知った者までも管理下に置きたがっている。
バラされたところで、精々週刊誌を賑わせるだけであろうに。
それでも隠したい理由とは、何なのだろうか。
「いや、それは今、最重要事項ではないな」
蔵人は腕を組んで、更に深く考える。
理由はどうであれ、世界が隠す真実、それがアグレスであると言う確証を得られた。
そして、それがバグに繋がるとも。
史実と同様に、ラザフォード博士が分野の基礎を作っていた。原子物理学の延長線上に、史実のバグである原子爆弾が生まれた。
であるならば、異能力の延長線上に、この世界のバグが存在しているのではないだろうか。
それがアグレスだとすると、アグレスは人間が作った生物兵器かも…いや、それは考え辛いか?
何故なら、アグレスは意思疎通が出来ないからだ。
兵器を開発するなら、最低限の命令を聞かねばならない。
アグレスとは、無差別に災いをまき散らす災害そのものだ。そんなものを偶然開発することはあっても、世界全土で対応に迫られる程、量産しようとは思わない。
であるならば、アグレスは何処かの世界から召喚されたのか?
例えば、アグリアが召喚したのであれば、審判がアグレスのモヤを使った事にも納得出来るし、雷門様がアグリアに入ったお仲間を殺すという動機も想定できる。
召喚門を開いたはいいが、閉じられなくなったとかね。
それであれば、魔力絶対主義を覆したい政府の意向も何となく分かる。
人類の魔力総量が上がるほどに、門から出てくる個体が多く、強力になっていくのだろう。
魔力絶対主義が人類を滅ぼすと言った、ディさんのセリフにも繋がる。
あくまで仮説だが、あり得ない説ではないだろう。
これから俺が目指すのは、ただバグに対抗するための力を蓄えるだけではない。
様々な大会に出て、周囲に低ランクの有用性を示す。
それが、間接的ではあるが、バグを消滅させることに繋がる。
蔵人は組んでいた腕を解いて、下界を見下ろす。
遥か先に、白亜の城が視界に入る。
と、その時。
下界から、視線を感じた。
”家を出た時に感じた視線”とは違う、隠そうとしない大っぴらな視線。
そんな視線が、複数。
そちらを見ると、高級車の列が目に入る。
桜城へと登校している、学生達の車だ。
中には、車窓から身を乗り出して、こちらに手を振っている女子生徒の姿も見える。
飛行ルートが高高度であるが故、1学期は殆ど誰にも見つからずに登校出来ていたのに、2学期早々に登校ルートがバレているのは、やはり夏の大会の影響か。
これは、1学期よりも目立つ学校生活になるかもしれないなと、蔵人は気持ちを引き締めて、飛行からスケボースタイルに切り替える。
しかし、蔵人の決意は、校門を入ったところで砕け散ってしまった。
物理的に、大音量の爆音によって。
「「「「きゃぁあああ!!!!」」」」
「「「「うぉおおおお!!!!」」」」
黄色い悲鳴と野太い雄叫びの大合唱によって、蔵人の意思と鼓膜が大いに痛めつけられた。
何事かと、その音源に目をやると、人の壁が出来ていた。
前方を見渡す限りの人、人 、人。
視界いっぱいが人で埋め尽くされており、その誰もが蔵人に注目していた。
「来た!来たわよ!みんな!」
「巻島君だ!噂の黒騎士様だ!」
「全国大会の覇者が登校されたぞ!」
「スケートボード乗ってる!かっけぇ!」
「ああ、なんて凛々しいお姿なの!」
「今、私をご覧になられましたわ!」
その場にいる全員が、熱の篭った視線で蔵人を焼き焦がさんと見つめてくる。
校道を埋め尽くす人達だけでなく、校舎のテラスから見ている人も結構いる。
何故、こんなにも全国大会のことが広まっているのだろうか?
一昨日のサマーパーティーでは、ご令嬢のほとんどが自分の事を知らなかった。
情報通の財閥関係者でもそうなのに、一般家庭の子も多い桜城中等部で、これ程知名度があるとは…。
まぁ、原因はやはり、敏腕記者さんだろうな。
しかし、これでは校舎に入れない。
蔵人は、一瞬飛んでいこうかとも思ったが、飛んでいる蔵人を追っかけられたら大変だ。
徐々にこちらへと集まりつつある彼ら彼女ら。1人でも転んだらドミノ倒しとなってしまい、大惨事になるやも知れない。
蔵人は、盾を口に集める。
『すみません!通して下さい!』
蔵人の大声は、盾に反響して、更に大きく広く拡散していく。
しかし、その声を聴いた学生達は、一斉に色めき出した。
「きゃぁあ!!ドラゴニックロアよ!生ロアよ!」
「すげぇ!これで魔王とか言うの倒したんだろ?!」
「こんなのまともに受けたら、失神するのも分かるね!」
「私、既に失神しそうですわ!」
ダメだ。
普段は大人しい桜城生だが、そんな子達ですら熱狂の熱に当てられてしまっている。
どんな記事を書いたんだ、敏腕記者よ。
蔵人が頭を悩ませていると、別の集団がこちらに走ってきた。
「全員!道を開けろ!」
その先頭の集団に居た人が、大きな声を上げる。
彼女を見た子達は、瞬時に熱を引かせて、彼女の為に道を作った。
まるでモーゼの海割りである。
「大丈夫か?蔵人。怪我はない…いや、この言葉は君に相応しくないな」
そう言って笑ったのは、安綱先輩であった。
しまった!生徒会の手を煩わせてしまった!
「すみません!副会長。お手を煩わせてしまい、私が至らないばかりに…」
「謝る必要はない。寧ろ誇るべきだ。桜城ファランクス部の名前を、全国に響かせたのだからな」
そう言って、彼女は蔵人の手を取り、彼女が空けた道を進む。
2人の周囲には、同じ生徒会であろう女子生徒が盾になるように蔵人を守る。
うわぁ、VIP待遇だ。
蔵人は申し訳なく思い、生徒会の皆さんの周囲に盾を出し、いざという時の為に備える。
「副会長と黒騎士様のツーショットよ!」
「誰か、誰かカメラ持ってないの!?」
「蔵人さまー!!」
「黒騎士!こっちを向いてくれ!」
「黒騎士様!あ、握手して下さい!」
割れた海から、幾つもの手が湧き出てくる。
その度に、生徒会の皆さんが注意を飛ばす。
盾を張っていて良かった。お陰で、興奮した子達の手は、水晶シールドに手垢を付けるだけで終わる。
「うぉおお!!これが、黒騎士の盾かぁ!」
「シールド・ファランクスですわ!彩雲の前線を破ったあの!」
君達、よく知っているな。
蔵人は少し恥ずかしい気持ちを抑えながら、安綱先輩に導かれて校舎に入る。
そこでも生徒達の視線は凄いが、波は少し落ち着いた。
もう大丈夫と判断したのだろう。安綱先輩が手を離し、こちらに軽く頭を下げた。
「済まない。急に手を取ってしまって」
「とんでもない。大変助かりました。皆様も、本当にありがとうございました」
蔵人が生徒会の面々に頭を下げると、彼女達もこちらに頭を下げてしまう。
いやいや。貴女達は下げる必要ないんですよ?
そんな蔵人を見て、安綱先輩は笑みを浮かべる。
「ふふっ。そういう所は、夏休み前と変わっていないな」
「はい。何ら変わっておりません」
そういう所とは、頭を下げたところを指しているのだろう。
名前が売れたことで、天狗になってないかと心配されてしまったか。
大丈夫ですよ。寧ろ、これからもっと名前を売れと言われているので、胃が痛いです。
蔵人が胃痛を覚えていると、安綱先輩がこちらに手を伸ばし、頬を触った。
「いや。君は変わったさ。随分と強くなった」
そう言って彼女が触るのは、蔵人の頬に付けたシールドだ。
なるほど。少しは異能力の使い方が上手くなったと認められたか。
「今の君であれば、私にも勝てるかもしれんな」
「いやはや。そこまで過大評価されて、恐縮です」
正直、戦ってみたいと思う。
ビッグゲームでは多くのAランクと戦い、Sランクともドリルを交えた。
全ての戦法を使えば、あるいは…。
そんな蔵人の闘志に気付いたのか、手を下ろした安綱先輩が勇ましく微笑む。
その微笑は、とても美しく、とても様になっていた。
こいつは、女性から黄色い悲鳴が上がる訳だ。
「蔵人、後日時間をくれないか?相談したいことがある」
「相談ですか?ええ、何時でも。何なら、今日の昼休みとかでも」
「いや、折り入った相談…シングル部との兼部についての相談なのだ」
ああ。都大会後に言われていた奴ですね?
あの時は迷っていたが、バグを殲滅する為には必要な事であるので、是非とも受けたいと思う。
だが、安綱先輩の様子を見るに、一筋縄ではいかない様子。
少し時間が掛かるのかな?部員が反対しているとか。
それはあり得るだろう。部活訪問の時にも門前払いを喰らったからね。
「分かりました。ファランクスの練習に被らなければ、何時でも」
「助かる。では、次の部活終わりにでも、シングル部に来てくれ」
そう言うと、彼女は颯爽と去って行く。
今日は部活が休みなので、明日の練習後か。凄い遅くなりそうだ。
柳さんに言っておかないと。
そう心に刻みながら、蔵人は教室へと急いだ。
1年8組の教室に付いたのは、校門に入ってから20分程。
普段は5分で着く教室が、こんなにも遠いと感じるとは。
明日からどうしよう?
蔵人は悩みながら、教室の扉を潜る。
すると、目の前にポニーテールの女の子が見えた。
彼女は蔵人に気付いて、ニヤニヤした顔を向けてきた。
「おはよう!朝から大人気だねぇ」
蔵人は少し目を細めて、容疑者さんに鋭い視線を送る。
「発行したな?」
「大盛況でございます」
容疑者が加害者へと切り替わった。
やはりそうだったか。ギャランティを貰わねば。
席に座ると、他の班メンバーからも話しかけられる。
「おめでとう!蔵人くん!大活躍だったんでしょ?」
凄い笑顔の本田さん。
「凄かったよ。もう、3位決定戦の時は会場全体が揺れていたもの!」
林さんが思い出しながら語る。
「凄い。全国せーは」
白井さん。
白井さん?制覇してないからね?3位だよ?
「うぅぅ…なんで僕まで…」
西風さん。
西風さんが、めっちゃ疲れている。
聞いたところ、ファランクス部員という事で、みんなに祝福されたのだとか。
その祝福のせいで、とっても疲れているみたいだ。
これは、他の部員も大変だろう。
特に海麗先輩とか、部長とか、鈴華とか伏見さんとか。
サーミン先輩は…うん。大丈夫だろう。透明化出来るし、ハーレム王だし。
蔵人は疲れ切っている西風さんに、真実を伝える。
「西風さん。犯人はここにいるよ」
蔵人がそう言って若葉さんに視線を送ると、西風さんは首を傾げる。
どういうことか分かっていないみたいだ。解説せねば。
「つまり、若葉さんが全国大会の新聞を発行したんだ。それで、全校生徒は既にファランクス部の成績を知っていて、今朝大挙して押し寄せた。多分だけど、西風さんの事も少なからず書いていたんじゃないかな?」
蔵人がそう推測すると、満足そうに頷く若葉さんが補足する。
「3位が決まった時に、観客席から飛び出したでしょ?桃ちゃん。それがとっても絵になったんだ」
「何てことしたんだよ!」
西風さんの全力抗議に、若葉さんはてへぺろと舌を出した。
「だって、可愛かったんだもん」
おやおや?公平であるべき記者が、そのような芸術的視点で記録を付けていいのか?
蔵人は若干疑問を感じて、少し皮肉を言う。
「可愛いという観点で見れば、君自身もフレームに入るべきだったね。3位が決まった時に、とてもいい笑顔で手を振ってくれていただろう?」
記者席から彼女の姿は見えていた。普段冷静な彼女が、ピョンピョン跳ねて喜ぶ姿は、実に可愛らしい物であった。
蔵人がそう言うと、若葉さんはぽかんと口を開けた。俗にいう、ハトに豆鉄砲状態だ。
黒歴史を思い出して、思考停止になってしまったかな?
やり過ぎたかもしれんが、これで公平な判断を取り戻してくれると有難い。
1時限目は数学だ。
授業の初めに、夏休みの課題である問題集の提出があった。
本田さんが蔵人達5人分のテキストを纏めて持って行ってくれる。
「あっ!」
西風さんが短い悲鳴を上げる。
なんだ?テキストに名前でも書き忘れたか?
「どしたの〜?」
白井さんの眠そうな質問に、西風さんは段々と顔を青くしていく。
「ど、ど、どうしよう。僕、忘れてた!」
「なにを〜?」
「自由研究、あったの、忘れてて、なんも、やってない」
「あ〜」
自由研究か。あれは確か、理科の時間に回収だったな。
理科は今日はない。明日の回収だ。
蔵人が思い返していると、本田さんが申し訳なさそうに言う。
「ごめん、桃ちゃん。私の所に入れてあげたいけど、チームが別のクラスなの」
本田さんのチームは、バレー部のメンバーらしい。
そうか、自由研究ってチームでやる物なのか。
「そっか。うん、大丈夫。ありがと本田さん。若ちゃんは?あれ?若ちゃーん!」
「………えっ?呼んだ?」
西風さんの声に、数テンポ遅れて返事をする若葉さん。
らしくない。
さっきの事が尾を引いているのか?
ちょっと効き過ぎたのか。
可愛いと言ってしまったから変な気を使わせたか。
この世界の女の子は耐性がないから気をつけろと、頼人に言われたのに、しまったな。
そんな様子の若葉さんを察してか、西風さんが遠慮気味に首を振る。
「ううん、何でもないよ。アレはしょうがないよね。早く立ち直ってね」
「………」
若葉さんは、再び空を見上げる。
再起不能か。致し方ない。
ならば、
「では、俺と連名にしよう。西風さん」
俺のニュートン初心者コースに入れてあげよう。
「ホント!?良いの!?」
目をキラキラ輝かせて迫ってくる西風さん。
蔵人はその圧に若干押されながらも、首を縦に振る。
「だけど、放課後ちょっと付き合ってよ。あと数冊参考文献を加えたいし、なんなら少し追加実験したいんだ」
これは、半分嘘だ。
既に蔵人の自由研究は完成していた。
物体を高さを変えて落としてみたり、重さの違う球体を落としたり、球体と直方体を落としたりと、とりあえず中学生レベルの実験は終えていて、結論と拙い考察も添えている。
幸いにも、実験には蔵人の異能力が役に立ち、物を持ち上げるのは幾らでも出来たので、1日だけの実験だったが。
だから、西風さんは名前を書くだけでも良いのだけれど、それだと彼女が可愛そうだ。
西風さんの性格上、なんの手伝いもしていないで成果を上げるなど、納得出来ないだろうから。
少しでも手伝ったと言う実績を作らせてあげようと、蔵人は配慮した。
それに、彼女の異能力、エアロキネシスが加われば、確かに実験の幅は広がる。
蔵人はそう思ったのだが、
「うん!もちろん付き合うよ!大歓迎だよ!」
西風さん、そんな大きな声で言わないでくれ。
周りがめっちゃこちらを見て、「つ、付き合う!?」「蔵人様と西風さんって、ええっ!?」「わ、私も、ファランクス部に入る!!」と大変な騒ぎになってきたじゃないか。
ファランクス部関係ないからね?
案の定、数学の先生に怒られた蔵人達だった。
そして、放課後。
早速、追加実験からやろうと、蔵人達はグランドの1か所に集まった。
のだが、
「ボス!落とす鉄球って、こんなので良いのか?」
そこには鈴華と、
「自分、それどっから持ってきたん。なんや理科室で同じようなもん見た気がするで?」
伏見さんと、
「鈴華ちゃん。ちゃんと許可はとったの?」
鶴海さんが集まっていた。
西風さんと一緒に放課後歩いていたら、鈴華が遊びに来て、自由研究するから無理と答えたら。西風さん同様に顔を青くした。
伏見さんも同じで、鶴海さんは「面白そうね」と言って着いてきてくれた。
流石は鶴海さん。ちゃんと夏休みの課題は終わらせていたみたい。
「大丈夫だって!こんなんすぐ返せばバレねぇし。壊してもこんなんだったら100個でも200でも買ってやるよ!」
「流石、ブラックカードを持っている人は違うわね。そういう問題じゃないとは思うけど」
「くぅ〜、こんブルジョワが!」
ワイワイと騒ぐ3人。
「なんか、賑やかになってきたね」
蔵人と一緒に、少し遠くでその3人を眺める西風さんが呟く。
蔵人も、それに頷く。
夏が過ぎて、ファランクス部の1年生の間には、確かに絆が芽生えた様に思える。
この絆は、ずっと大事にしていきたい。
でも、はて?何か忘れて…。
「おーい!」
校舎の方で、こちらを呼ぶ大きな声。
見ると、窓から体を半分以上突き出して、今にも落ちそうになっている少女が1名。
「ファランクス部で集まるなら、私を呼べぇ!私を忘れるなぁ!」
忘れた訳じゃないよ、祭月さん。
だから、そんなに体を乗り出さないで。今にも落ち…あっ、
賑やかな日常が帰ってきたなと、蔵人は祭月さんを空中でキャッチしながら、そう思った。
後日、蔵人、西風さん、鈴華、伏見さん、祭月さんの5人の連名で提出した自由研究は、しっかりと受理されて、最高評価を賜った。
もっと簡単な、植物の観察日記レベルでも良かったらしい。
それって実験なの?
しかし、最高評価でも、この鉄球はどうしたの?と、先生から聞かれてしまった。
さぁ、鈴華。君のブラックカードの出番だぞ。
あ、無理ですか。
分かっていたよ。
主人公は、アグレスを異世界からの侵略者と仮定しているみたいですね。
そして、技巧主要論の正しさを証明すると。
「そう言うと語弊があるがな。あ奴が動くのは、バグを直すことただそれだけだ」
アグレス自体は軍隊に任せて、主人公は更なる侵攻を抑える事に注力するのですね。
「目立つ役回りだ」
苦い顔をしていそうです。