166話~マデリーンの法則を知らないのか?~
早いですが、今章はここまでです。
明日は閑話を挟み、明後日から新章となります。
「全国、お偉方と続いたが、次は?」
学校の日常に戻ります。
「戻るのか?」
戻ります。
蔵人が自分の強さの一端を垣間見た丁度その時、テーブル上のインターホンが点滅した。
『会議中失礼します。マスター、奥様からお電話が入っております』
受付の男性の声が、済まなさそうに、そう伝える。
ディさんは首を傾げながら通話ボタンを押す。
「うん?変だな。この時間は忙しいと、妻"達"には伝えていた筈だろう?」
ディさんは少し不機嫌にそう言って、電話を繋ぐように受付に指示を出す。
程なくしてディさんの携帯が鳴り、ディさんはジェスチャーで席を外す仕草をして、その場から消えた。
蔵人はお茶を飲んで、目の前の壁を見る。壁には絵画が飾られていた。ひまわり畑の中で、白い服を着た男性が微笑んでいる。
被写体が女性じゃない所が、この世界を象徴している。
その男性の笑顔が、細めた目が、蔵人を見下ろす。
全く、うるさい目だ。
蔵人は壁から浴びる視線から逃げる様に、外に目を向ける。
夕日を浴びていた富士は、頭上に赤黒く焼けた空と星を被っていた。
今のディさんの言い方からは、妻が複数人いるように聞こえた。
これが蔵人の勘違いで、ディさんが複雑な家庭、例えば複数人の夫婦とルームシェアとかしていたら、奥さんは複数人いるのも分かる。だが、もしも奥さんが複数人いて、それが当たり前なのだとしたら…。
蔵人の疑問は、早々に帰ってきたディさんの一言で、解明する。
「済まない。妻の1人がスケジュールを勘違いしていてな。それ程急用ではないので、後にして貰った」
やはり、ディさんは複数人の奥さんをお持ちの様だ。
そして、ディさんの表情から、それは別段特別な事情ではないという事が伺える。
「どうした?顔が青いぞ?なに、君がそんなに心配する事では無い。ただ私の声が聞きたいだけなのだろう。あいつも」
ディさんはどうやら、蔵人が奥さんからの電話を気にしていると勘違いをして、蔵人に気を使わせないようにそう言った。
なので、蔵人は正直に話す。
「お気遣いありがとうございます。ただ、私は驚いただけでして、ディ様は何人も奥様がいらっしゃるのですか?」
「5人いるが、それ程驚く数かね?」
5人って、ああ、やっぱりこの世界は一夫多妻制なのか…。
蔵人は嫌な予感が当たった気がした。
何時ぞやに鈴華が息巻いて蔵人を襲った時に、ちゃんと聞いておくべきだった。
いや、あの時は関東大会決勝を控えていたから、その後聞けば良かったのに、決勝の高揚ですっかり頭から抜け落ちていた。
蔵人のポーカーフェイスがすっかり剥がれ、落ち込んでいる様子に、ディさんは口元を抑えて笑みを零した。
「君も、その様な顔をするのだな」
楽しそうなディさんは、笑みを洗い流すために、一口お茶を流し込む。
「そう言えば、君は特区外から来たのだったな。特区の人間なら知っている事だが、特区の外には広めない様、規制がかかっている情報だったか。忘れていたよ」
そう言うと、少し真面目な顔になったディさんは、湯呑みを置くと、顔を少し伏せて蔵人を見上げる。
「君は、1970年に起きた集団渡航事件は知っているかな」
「いえ」
集団渡航事件?聞いた事がない。時代的にも史実とは大きく異なる事件なのか?
「1966年に中国で出された政策が元で起きた事件なのだが」
1966年…中国?
それは…。
「文化大革命の事でしょうか?」
毛沢東が主導で行った、青少年を唆して行わせた奪権運動だ。自分がトップに返り咲きたいが為に、多くの人、書物、文化を破壊した最悪の施策だ。
「文化革命?何だねそれは?」
蔵人の推測に、しかし、ディさんは首を傾げる。
どうも、違った様だ。
ここは史実じゃない。中国も、史実とは違う動きをしているのだろう。
「すみません。話の腰を折ってしまって」
「構わない。疑問があれば気負わず聞いてくれ。では、話を戻すが」
1966年。中国で1つの政策が出される。
それは、共有婚制度。
これは、高ランク男性に対し、複数の女性と結婚する事を推奨する制度。
言わば限定的な一夫多妻制であり、違うのは、Cランク以上の高ランク男性のみが対象で、結婚する人数はランクによって決まっている。
そして、推奨とは言うものの、それは中国政府の支配下では強制であり、中国は高ランク男性を特区と言う地域で隔離し、この制度を強制的に広めた。
こんな暴挙、幾ら中国でも反発が凄いのでは?史実の天安門事件の様な事が起こりそうなものだぞ?と蔵人は思ったが、事態は真逆だったらしい。
そう、中国の女性にはとても歓迎された。
それは、当時中国では高ランク男性の取り合いが激化しており、高ランク男性と婚姻できない高ランク女性が溢れていたからだ。
その状況が、制度で一変した。
女性達は無理に争わなくても高ランク男性を手に入れられるようになり、男性からしても、女性同士のギスギスした争いに巻き込まれなくなったので、反対よりも賛成派が圧倒的であったのだ。
そして、その制度の影響は世界にも広がった。
「その当時、中国程ではなかったが、日本でも高ランク男性を巡った女性達の問題は起きていた。主に、財閥の令嬢同士で争っていたのだが」
1970年、事件は起きた。
日本のとある令嬢が、中国に旅行へ行ったきり帰って来なかった。
令嬢は、かなり大きな財閥の次女で、Aランクであった。
警察が調べると、なんと帰って来ないのはその令嬢だけでなく、数百人単位の高ランク女性が中国から帰って来ない事が発覚。
それらの女性は、日本で高ランク男性の取り合いに敗れ、中国の高ランク男性と結婚する為に、集団で渡航していたのだった。
「それは日本だけはでなく、列強からも中国に渡る高ランク女性が後を絶たなかった。高ランクは国の国力そのもの。それが流出するのは、国が無くなるも同義。日本でも直ぐに一夫一妻制を見直し、今日の特例結婚を設置した。各地の特区も、そのころに制定されたものだ」
特例結婚。
当人同士の合意があれば、一夫一妻制に囚われなくても良いですよっと、簡単に言えばそんな特例処置。
それにより、日本でも高ランク男性に複数の女性が婚姻する事例が急増。中国に渡航していた令嬢達も、徐々に戻ってきたらしい。
まるでハッピーエンドと言わんばかりに、満足そうに湯呑みを取るディさんだが、蔵人はそうでは無かった。
「分かりませんね」
「…何がだ?」
蔵人の呟きに、ディさんが不思議そうに反応する。
蔵人は、首を振って、疑問を投げる。
「何故、彼女達は高ランク男性を求めるのでしょう?」
鶴海さんにも聞いた疑問だ。
史実でも、強い男性は女性に好まれやすくはあった。
だが、それはあくまで傾向であり、女性の趣味趣向は多岐に渡る。強いだけがモテる要素じゃない。
中には、Eランクだけどスペックの高い男性もいる。
特に、この世界は男性よりも女性が強く、そして稼ぐ世界だ。国を渡ってまで得ようと思う程に、強い男性に魅力があるとは思えなかった。
そんな蔵人に、ディさんはあり得ない物を見たかのような顔をした。
「まさか君は、マデリーンの法則を知らないのか?」
ディさんの声には、若干非難の色すら伺える。
マデリーン?はて、何処かで?
蔵人は、思い出そうと頭の引き出しを引っ張り出し、直ぐにぶち当たる。
古い、古い記憶の中に。
あれは、そう。蔵人が赤子の時。
元母親の書斎で書物を漁っている時に見た、不自然な本達の姿。
破られたページ。
必ずそこにあった名前が、マデリーンの法則。
元母親の、秘密。
「ここだ。これが、マデリーンの法則だ」
ディさんがテレポートで取り寄せた書物をテーブルの上で広げ、1箇所を示す。
そこに書かれたいたのが〈マデリーンの法則〉であった。
それは、高ランク男性と高ランク女性の間に産まれる子供は、高い確率で高ランクになると言うもの。
夫婦のランクが高ければ高いだけ、子供のランクも高くなるらしい。
だから世の女性は、高ランク男性を求める。政府もそれを認め、世界が高ランクの男女を求める。
それが、この世界のランク制度の根幹だった。
蔵人は、その表に目を通す。こんな感じだ。
父A×母A=(A:75%、B:20%、C:5%)
父(母)A×母(父)B=(A:45%、B:35%、C:20%)
父B×母B=(A:30%、B:50%、C:20%)
父(母)A×母(父)C=(A:20%、B:35%、C:35%、D10%)
父(母)B×母(父)C=(A:5%、B:20%、C:55%、D:20%)
父(母)B×母(父)D=(B:10%、C:70%、D:15%、E:5%)
父C×母C=(B:10%、C:70%、D:15%、E:5%)
父(母)C×母(父)D=(B:5%、C:20%、D:55%、E:20%)
うん。覚えるのは難しいが、何となく法則性があるのは分かる。
これが、マデリーンの法則か。
思ったよりも明確な法則性に、蔵人は舌を巻いた。
そんな蔵人の様子に、少し安心したディさんが、ソファーに背中を預けて座り直す。
「マデリーンの法則は、この異能力社会の大元を作ったとも言われるほど有名なものだ。それを発見したマデリーン・ラザフォード博士が、異能力の母と言われるくらいにな。故に、特区の学生なら小学校までには習う筈なのだが、特区の外ではそうではないのか?」
ディさんの問に、蔵人は首を振る。
小学校では一切、このような授業は受けなかった。
「なるほどな。特区内外では異能力のカリキュラムが異なると聞く。特区と違い、外でマデリーンはかなり遅くに教えるものかもしれんな」
特区では小学生の時に習うのだそうだ。
これも、特区と特区外の大きな違いだ。
何はともあれ、これでもう一つの疑問も解決した。
高ランク異能力者ばかりを優遇して、高ランク異能力者が増えると言う、ディさんの言葉。
優遇されるのなら、高ランクの子供を産もうとして、無理に高ランクの遺伝子を求めてしまうのだろう。
それが過熱した現在であるから、ディさんは余計に技巧主要論を推そうとしているのか。
だが、何故元母親は、これを頑なに否定していたのだろうか。
研究者でありながら、本のページを破り捨てると言う愚行まで犯して…。
「おっと、もうこんな時間か」
蔵人が思考していると、ディさんがインターホンに付けられたデジタル時計に目をやる。
時刻は20時を過ぎていた。ここに来てから早2時間弱も経過していたのか。
彼は、話を切り上げるかのように、席から立ちあがる。
それに、蔵人は一瞬声を上げようとした。
まだ聞きたいことが一つ残っていたからだ。
若葉さんのお婆さんの行方、それを聞かねばと。
「早いものですね。とても興味深いお話で、あっという間でした」
だが、蔵人は言葉を呑み込み、そう言い繕いながら立ち上がった。
この場で聞いても、意味をなさないと思ったから。
何せ、先ほど語った彼の言葉の中には…少なからず嘘が含まれていたからね。
ここで望月の名前を出しても、確かな答えを貰えるとは限らない。
悪戯に、若葉さんも巻き込んでしまう事になるだろう。
蔵人が立ち上がると、ディさんは柔らかく微笑んで、再び手を差し出してきた。
「そう言ってもらえると、私も助かる。君とは今後も連絡を取り合いたいのだが」
ディさんがそう言うので、蔵人は一瞬考える。
嘘は幾つか混ぜられたが、彼が有用な情報を幾つも提供してくれたのは事実で、これからも多くの情報を流してくれるだろう。
何より、バグがアグレスである事は、モヤの件からも確定であり、彼との接点が無ければ、バグとの関りも難しくなってしまう。
そう考え、蔵人は自分の携帯番号を彼に教えて、連絡方法等を決めた。
蔵人はディさんと握手をして、ディさんの異能力でテレポートされる。
すると、目の前には見知った風景が広がった。
てっきり、スタート地点である桜城高校正門に飛ぶかと思ったが、そこは我が家の門前。
嬉しい誤算に、蔵人は生き生きとした声で帰宅を告げる。
「ただいま帰りました、柳さん」
〈◆〉
「ふぅ」
一つ、息を零して、私はソファに身をゆだねる。
目の前には、主を無くした湯飲みが一つ、中身をきれいに飲み干されてポツネンと置かれていた。
巻島蔵人。彼が座っていた場所だ。
軽く二三言話して終わる筈だった彼との会合は、気付けば2時間に渡り白熱してしまった。
これ程楽しい時間を過ごしたのは久しぶりであった私は、躊躇いながらも指を鳴らす。
すると、対面のソファーの後ろに、5人の人間が現れる。
軍服を着た男女が4人。それと小さな女の子1人。男性は3人とも黒髪だが、女性の髪色は真っ赤に染まり、パイロ系の高ランクなのが分かる。
緊張した面持ちの彼女達に、私は少し口角を上げて問いかける。
「さて、聞かせてもらおう。巻島蔵人はどれ程の嘘を付いていた?」
私の問いかけに、一番端の男性が半歩進み出て、答える。
「はっ!対象の会話に、一切の嘘はありませんでした!」
「そうか、ふふっ」
私は、つい安堵して笑いを漏らしてしまった。
彼らには、隣の部屋で巻島蔵人を監視させていたのだ。
蔵人が可笑しな行動をしないか、また操られていたり、嘘の証言をしないかを。
だが、分かってはいた事だが、彼が見栄を張って出まかせを吐くような人間ではなかった。
それ以上に、やはり私が見込んだ相手であったのだ。
それが、嬉しかった。
「大佐!質問の許可を!」
女性がキツめの目でもって、私に問いかけてきた。
許可を出すと、彼女は心配そうな目をする。
「あのような子供に、軍事機密を教えて良かったのでしょうか?確かに、彼が活躍することは、我々の活動にとっても大きなプラスになると考えます。しかし、彼は軍人でもない一般の、ただの子供です。口約束だけでは…」
「君の懸念は最もだ。彼には監視を付けよう。ただし、彼をただの子供だと侮るなら」
そう言って、私はその女性に向けて手を翳す。
先ほど、蔵人に行ったのと同じように。
すると、彼女は顔を強張らせ、半歩後退した。
私はそれを見て、頬を吊り上げる。
「鍛え抜かれた君達ですらその反応をする。だが、彼は違った」
「それはっ!ただ、彼が無知で、背伸びしたいだけの少年であって…」
「いいや違う。彼は分かっていたさ。私の力がSランクという事も、私にその気がない事もな」
その上で、彼は笑ったのだ。
大した洞察力。そして胆力である。
そんな彼の凄さは、しかし、彼女達大人には理解し辛いのかも知れない。
子供というフィルターに掛けてしまい、どうしても彼の本質を見ようとしない。
で、あるならば、同じくらいの年齢である彼女であればどうだろうか。
「君は、彼をどう見る?美来くん」
予備兵士補佐期間である少女に、私は同じ質問をする。
すると、彼女はあどけない顔で、さらりと言う。
「私は、逆だとおもいました」
「逆?」
「はい。なんて言うのかな?背伸びじゃなくて、縮こまっているって感じ?頑張って自分を小さく見せていて、それでもやっぱり大きいし、角とか尻尾は出ちゃってるっていうか」
彼女の言葉はあやふやで、しかし、私にはしっかりと伝わる。
それは、私も感じていたことである。
蔵人は、こちらに合わせようとしていた。軍上層部の人間に対して、失礼のないようにと。
それだけでも十分に、子供離れしていた。
いつの間にか私も、同年代と会話している感覚に陥っていたから。
しかし、更に驚く瞬間があった。私が鎌をかけた時だ。
あの時の彼は、無知な少年などではなく、寧ろこちら側の人間であった。
その表情が、あまりに自然で、あれが彼本来の姿なのではと思った。
「それに」
美来くんは続ける。
「気づいてましたよ、彼。私たちが隣で見ているの」
「なに?」
私の鋭い目に、美来は無邪気な笑みで答える。
「何度か視線が合ったし、その度に窮屈そうに眉を顰めて、どっか別のところ見てたし」
壁越しの視線に気づいていた?あり得ない。
そう思う自分がいて、しかし、彼なら出来なくもないと思ってしまう自分もいた。
私は、笑いが込み上げるのを抑えきれなかった。
「ふふっ。やはり彼との繋がりを持ったのは正解だったようだ」
「大佐、あの子は一般人ですし、巻島家には怪しい影も見えます、よろしいのですか?」
赤髪の女性が、遠慮気味に聞いてくる。
彼女の言う通り、一般人との接触はとても危険だ。
主に情報漏洩の危険と、相手に何かリスクを負わせた場合、こちらの罪が非常に重くなる点において、一般人とのリスクはとてつもなく大きく、リターンは少ない。
また、巻島蔵人自体には怪しい動きはなかったものの、巻島家、特に本家の周りをうろつく怪しい影があったのは事実。
あれが誰なのかは分からないが、それがアグリアとの繋がりがあった場合、取り返しがつかない汚点となる可能性もある。
例えば、今回のイギリス王子の護衛で、怪しい審判の女が出現したみたいに、軍部の情報が漏えいする可能性もある。
あの審判の様に、特区の中でもアグリアの影響を受けている者は少なくないのだからな。
そういうリスクがあるのは、重々承知している。
しているが、
私は喉の奥の笑いを抑えながら、言う。
「構わない。寧ろ、今彼との接触を断てば、我々は大きな鯛を逃した事になるだろう」
私は、巻島蔵人を最初に見た時、先ず考えたのは彼の”背後”だ。
齢10と少しの少年が、自分で考え、行動することは極々稀だ。必ず、彼の行動には親や親族、若しくは教師などの外的思想が関与している筈。寧ろ、それらが彼を作り上げていると思っていた。
だが違った。
いくら調べてみても、蔵人に直接影響を及ぼせる人間は、執事の女性と遠い親戚だけ。
更に、その親戚は確かに名門の武術家ではあったが、彼との接触は驚くほど少なかった。
それでは、多少の武術を彼に教えられたとしても、とても覚醒という奇跡を起こせるとは思えない。
執事も同様だ。彼女は戦闘の素人であり、蔵人の世話役と言うこと以外は極々普通の一般人だ。
故に、彼の見えない背後を炙り出せればと、この邂逅を望んだのだが。
結果は、彼自身から覚醒の秘密を聞き出せたという顛末。
彼自身が、この偉業を成し遂げた張本人だったという驚愕の事実。
これを、軍事会議にそのまま出せば、必ず失笑と精神鑑定を呼ばれる羽目になるだろう。
だが、
「彼の編み出した技巧は、我々日本の、いや、世界の新たな進むべき道を指し示す光となる」
「はっ!失礼いたしました!」
今度こそ、彼女は引き下がった。
そんな彼女達に、私は軽く手を上げ、テレポートで基地へと送った。
誰も居なくなった部屋で、私は窓際へと歩みを進める。
そこからは、森の中に聳え立つ、霊峰富士の姿が見えた。
「済まない、蔵人。何の”罪”も無い君に、大きな責務を背負わせてしまう。こんな不甲斐ない我々を、恨んでくれ」
真摯な態度で向き合ってくれた彼に、しかし、我々は全てをさらけ出すことが出来ない。
汚い大人の世界に苛立ちが募り、それに染まった汚い自分が、醜くて嫌気が差す。
私は、苦々し気に窓の外を睨む。
そこに見える富士山は、昼とは違った、夜の顔をしていた。
「それでも、君に賭けたい。この世界の限界を超えようとする、君の技巧に。もう二度と、”あのような大罪”を繰り返さない為にも、君の力が必要なのだ」
辛辣に呟いた私の呟きは、1人寂しく闇夜へと消えていった。
罪?大罪?
一体、軍の上層部は何を隠しているのです?
イノセスメモ:
・特例結婚制度…合意があれば、一夫一妻制にこだわらなくても良いという制度。中国の共有婚制度に対抗する制度であり、特区はこの制度を可視化するためにも役立っている。
・マデリーンの法則…親の遺伝子が高ランクであればある程、子供も高ランクになり易いとされる法則←何故、母親はこれを破る程に、憎んでいたのか?