157話~彼の身分は私が保証いたしますわ~
複雑なので、改めて頼人君と主人公の兄呼びの整理を。
・頼人…戸籍上の兄。巻島家の人間や公式の場では、頼人を兄と呼ぶ。
・蔵人…頼人自身が兄と呼ぶ。その影響で、頼人と面識がある者(学校関係者)は蔵人を兄と呼ぶ。
「面倒だ。統一せよ」
難しいですね…。
8月29日。午前7時11分。
サマーパーティー当日の朝である。
蔵人は、パーティーの準備という事で、朝から忙しなく手を動かしていた。
姿見鏡の前で、黒いスーツをキッチリと合わせ、濃い青色のネクタイの結び目をしっかりと首元まで誘う。
オールバックにした黒髪は、しっかりと整髪料を塗っているので、ちょっとやそっとでは崩れはしない。
しっかりとした正装。それに比べて、このままだと顔が幼く見えてしまう。
そこで、細くてスポーティなサングラスを掛けてみる。
うん、どこから見てもセキュリティサービスである。素晴らしい。
「ぼ、坊っちゃま。本当に、その恰好で行かれるんですか?」
久しぶりに、本来の自分の姿に近づけた喜びに浸っていた蔵人に、柳さんがおずおずといった口調で確認をしてくる。
蔵人は、再び姿見に自身を映し、隙の無い黒装束にニヤケそうになる頬を留めて、柳さんに振り返る。
「いかがでしょうか。完璧とは思いませんか?」
そう言って少し微笑むと、背筋を伸ばして襟を正した。
夏休み最後の土曜日。本日執り行われるサマーパーティーは、桜城高等学校の記念式典ホールで開催される。
参加するのは東京特区の学校に通われる財閥のご子息ご息女達。更に、先日来日したイギリスからの使節団からも参加される。
その使節団の中には、イギリス王室の人間もいるらしい。
関東大会が終わった頃に、柳さんから聞いた情報だ。
王子自らが参加すると言っていたが、本当だろうか?
何時もなら、貴族の方々はそれぞれに護衛を付けてパーティーに参加されるとの事。
だが今回のパーティーは護衛が一切入場できない。
それどころか、大学生以上の大人も、別会場で別のパーティーを開くとの事。
高等部のサマーパーティーに参加するのは、中学1年生から高校3年生まで。給仕やコック、受付等のスタッフ以外は全員未成年である。
お陰で、いつも頼人を守ってくれている火蘭さんは勿論、招待状を送られていない水無瀬さん達も全員門前払いである。
そんなカオスなパーティーに、本当に王子が参加するのだろうか?と蔵人は疑問に思っていた。
疑問と言えば、蔵人がこの会に呼ばれたこと自体が疑問の塊だ。
招待状を送られた子は皆、それ相応の家柄の子供だけだからだ。巻島家の様な小さな財閥は、余程家業がうまく行っている家か、子供自体に価値があるかの3パターンである。
その”価値”というのが、勿論異能力の事であり、具体的には魔力量と異能力種である。
そう、頼人が呼ばれたのは、Aランクのクリオキネシスだからだ。
だが、蔵人は違う。
Cランクの男子程度では、呼ばれる筈が無いのだ。
勿論、ファランクスで有名になったからとも考えたが、それにしては対応が早すぎる。
なんせ、ファランクス大会が終わってから、まだ1週間も経っていない。
あのテレビを見た有力者が、主催者サイドに口添えでも行ったかと蔵人は考えていた。
そう考えれば、急に氷雨様が蔵人を呼び出した事にも繋がってくる。
態々、婚約の話をチラつかせた後に話題を振って、断り辛い空気まで作って参加させようとした事も。
「坊ちゃま。確かに、よくお似合いなのですが、今回はかなり立場の高い方々がいらっしゃいます。頼人様の付き添いとは言え、ある程度はおめかしをした方が良いかと。こちらのパーティー用ドレスを流子様から預かっておりますので、こちらに…」
そう言って柳さんが手に持つ物体は、金色の煌びやかな装飾でデコレーションされた青いスーツであった。まるで、どこぞの王子様が着るような代物である。
こんな恐ろしいものを見たのは異世界の、それも幼少期の王太子殿下がお披露目会で着たところだけだ。
蔵人は、その物体からスーッと目を逸らして、玄関の方へと移動した。
「…さて、そろそろ行かねば、頼人を待たせてしまいますね」
蔵人は逃げるように玄関のドアを開けて、空へと消えていった。
独り取り残された柳さんは、肩を落としながら1つため息を付いた。
「坊っちゃまの黒い物好きには、困ったものです」
「ほぉ。ここが桜城の高等部か…」
蔵人は、見上げる程大きな白亜の門を前にして、感嘆の息を吐いた。
桜城中等部の、実に倍近い大きさだ。本当の王城の城門かと思ってしまうくらいだ。
「あれ?兄さんは初めて?」
王太子殿下が着る様な、煌びやかな赤スーツを着た頼人が、蔵人の横に立って尋ねる。
蔵人はそれに、小さく頷く。
「ああ、正面からは初めて見たよ。頼人は?」
「僕は前に一度。3年後に通う学校がどんな所か見に来たんだ。そう、丁度兄さんと会った日だよ。確か九条さんと闘ったって日」
ああ、あの日か。
蔵人はそんな昔では無い日を、懐かしむように思い出す。
今なら九条様にも勝てるだろうと、謎の方向に思考が行き始めていた蔵人。それに、話し掛ける人がいた。
「ごきげんよう。招待状はお持ちでいらっしゃいますか?」
見ると、門の端にメガネをかけたお嬢様が座っていた。
受付みたいだが、結婚式場のウェルカムスペースみたいに豪華な机だ。
座っている女性も大人っぽい深緑色のドレスを着こなしている。ロングドレスって奴かな?すみません、あまり詳しくはありませんので。でも似合っていますよ。
蔵人は懐から二通の招待状を出す。
すると、受付嬢は驚いた顔を蔵人に向ける。
「し、失礼ですが、お二方がご出席という事で宜しかったでしょうか?」
「ええ。私達2人です」
そう言うと、受付嬢困った様な顔で、蔵人見上げる。
「申し訳ございませんが、護衛の方は同席出来かねます。本日は一般の方の入場をご遠慮させて頂いておりまして、中等部の方に控え室を設けさせて頂いていますので、そちらに…」
受付嬢はどうやら、蔵人を一般の護衛と思っている様だった。もしかしたら未成年というのも疑っているかもしれない。
蔵人は、受付嬢の手元に置いてある、自身の招待状を指さす。
「そちらをご確認下さい。私の名前がリストに載っていると思いますので」
リストには、確かに蔵人の名前が記されていた。更に、異能力のランクも、種類も書いてある。
やはりこの世界、名前と同じくらいに異能力を重視している。
しかし、受付嬢の顔は浮かばない。
「そ、そうですね。確かに載っています。ですが、その、一度上の者に確認させていただけませんか?参加規定を満たしておりませんので」
なんと、ドレスコードならぬ異能力コードがあるのか?
確かに、羅列されるリストの面々は、それなりの家柄か異能力を持っている。
招待状だけでなく、こうして門でも選別が行われているから、王子様を安全に迎えられるのだろう。
それは仕方ないと、蔵人は待とうとした。でも、1時間くらいは待たされると受付嬢から言われてしまった。
…それは長い。
頼人だけ先に行ってもらうというのも、護衛としてどうかと思うし、頼人自身が良い顔をしなかった。
さてはて、どうしたものか。
そんな風に困っていると、後ろから声を掛けられた。
「彼の身分は私が保証いたしますわ、清水谷さん」
凛とした声。
振り向くと、そこに居たのは。
「お久しぶりです、蔵人様。いえ、今は黒騎士様とお呼びするべきでしょうか?」
呑み込まれそうな程に黒い瞳。底が見えない笑みを浮かべた彼女。
広幡朝陽様が、そこに居た。
凡そ2年ぶりの再会。
彼女は、あの頃よりも一層に大人に、美しくなられていた。
蔵人は、しっかりと腰を折って頭を下げる。
「ご無沙汰しております、広幡様。またお会い出来た事、嬉しく思います」
「私もですわ。九条様が貴方様もお呼びしたとお聞きして、この日が来るのを楽しみにしておりました」
そう言って、彼女は蔵人の近くに歩み寄る。
なるほど。主催者と巻島家に圧力を加えていたのは、九条家だったのか。
そして広幡家、もしくは広幡様は九条様と近しい存在である、と。
「蔵人様。もしよろしければ、会場までエスコート致しますわ」
差し出される彼女の手。
ここで断るのはナンセンス。
白く美しいその手を取ると、少しだけ手の皮が硬くなっているのが分かる。
ご令嬢とは言え、この世界では何か武芸をするのが当たり前。
彼女もそれに漏れず、日々努力されているのだろう。
「宜しくお願い致します」
蔵人と頼人は、広幡様に連れられて、桜城高等部の学園内を進む。
桜城高校は中学に負けず、それ以上に豪華な白亜の塔が整列していた。それでいて、各所に緑が設けられていて、日当たりも抜群である。
本当のお城の中は、これ程日当たりは良くない。特に中世のお城は意外と汚い所も多く、魔道具が発達していない世界だと糞尿だらけだったりと…止そう。ここはあの世界じゃない。比べるまでもなく、この世界は衛生観念がしっかりと発達しているから。
「広幡様」
蔵人は、直ぐ隣を歩く彼女に視線を向けながら、尋ねた。
「先日、広幡家から婚約のお話を頂いたと、巻島家当主から伺ったのですが?」
「はい。私ですわ」
やはりそうか。
蔵人は彼女の前に出て、深く頭を下げる。勿論、サングラスは外してポケットの中だ。
「申し訳ございません、広幡様。何分、このようなことは不慣れでして」
蔵人の謝罪に、しかし、広幡様は声を返さない。
恐る恐る顔を上げると、そこには顔を手で覆って、俯く少女の姿があった。
うわっ!泣いてしまった!
「ひ、広幡様!誤解しないで頂きたい!今の私に余裕がない為に、今回はお話を見送らせていただいただけにございます。決して、送っていただいた方によって返事を変えたりは致しておりません!」
必死に弁明する蔵人。
それに対し、
「はい。存じておりますわ」
スッと顔を上げて、少し悪い笑みを浮かべる広幡様。
その目には、一滴の涙も見えない。
ウソ泣きかい!心臓に悪いわ!
蔵人が冷や汗を拭っていると、それを面白そうに見つめる広幡様。
「貴方様がお忙しいのは重々承知です。黒騎士として、今後もご活躍されるのでしょう?それを阻むような事は致しませんわ」
全てお見通しという事か。
蔵人は苦笑いする。
先ほどの黒騎士発言といい。この人は、
「広幡様は、もしやビッグゲームをテレビでご覧にならたので?」
「いいえ」
あら?見てないの?
「私はしっかりと、会場で拝見させていただきましたわ」
そう言う事!?
「そ、それは、ありがとうございます。お陰様で、何とか3位に手が届きました」
「本当に、あの試合は素晴らしかったですわ。圧倒的強者に立ち向かう蔵人様とその従者たちの気迫、熱意。巨大ゴーレムを倒した時など、私も、私と共に来ていた者達も、気持ちが高ぶってしまいました」
思い出すように語る彼女の様子は、幾分か彼女を幼く見せた。
でも、直ぐに顔を悲しみに染める。
「ですが、その前に行われた試合は、見ているのが辛かったです。片腕を失っても戦い続ける黒騎士の姿は、とても…」
広幡様が、蔵人の左腕を慈しむように撫でる。
あの試合まで見て下さったのか。
色んな人に心配を掛けてしまったなのだなと、蔵人は反省し、広幡様にも謝ろうとした。
でも、その前に、
「えっ!?腕を、失う?」
頼人の、驚いた声が後ろからした。
しまった。岩戸戦の話は頼人に伏せていたのだ。火蘭さん達にも、あの試合を見せない様にお願いしている。
絶対に心配するから。
「ちょっと!兄さんどういうこと!?」
「頼人よ。戦というのは、勝つ試合ばかりではないのだ。晴明との試合の様に、負けることも多々ある」
「それは知ってるよ。でも、怪我したの?」
「頼人よ。戦というのは、相手を倒すだけではないのだ。時には倒され、怪我もする。それが格闘技というものだ」
そう言っても、頼人の顔は晴れない。
相当心配してくれている。やはり、この子は優しい。
これを見たら、頼人が俺を追ってファランクス部へ入らなくて良かったと思う。
彼がこのような世界に入って、同じような大怪我を負ってしまい、心を閉ざしたら取り返しが着かない。
頼人や慶太のような、心優しい子達は入らない方が良いのかも。
そう、蔵人は思った。
「お兄さま。蔵人様は、私たちの為に戦って下さっているのですわ。私達の様な低ランクの者の為に、お兄さまと同じ男性の為に、道を指し示しているのです」
よ、よくご存じで、広幡様…。
蔵人が驚愕している横で、広幡様に言い含められた頼人は、幾分か顔色を戻した。
「そうか。そうだね。兄さんは昔からそうだったね」
何処か諦めにも似た表情で、頼人は納得してくれた。
そうして暫く歩いていたが、国会議事堂かと思うくらいに大きな建物の前で広幡様が止まり、くるりとこちらに振り返った。
「こちらが記念式典ホールです、蔵人様。私は九条薫子様をお待ち致しますので、ここで」
やはり、九条様と広幡様は懇意にされているのか。
「広幡様。ここまでのエスコート、そして、入場門でのご助力、誠にありがとうございました」
蔵人が深く頭を下げると、それに釣られて頼人も浅く頭を下げる。
顔を上げると、広幡様がすぐ目の前までいらしていた。
うん?何でしょう?
「蔵人様。私、諦めた訳ではございません。貴方様が突き進み続け、やがて振り返るまで、私はお待ちしておりますわ」
「…ありがとうございます」
まぁ、そう言う意味で送られていたのだろう。
何せ、婚約の話を一番最初に持ってきたのは、彼女と聞いているから。
あの島津家よりも早いのは、それだけの思いがあるという事。
うん。困った事だ。
蔵人は広幡様に感謝の意を伝えると、頼人と共に講堂の中へと進む。
入り口には屈強な女性が立っており、中には案内役の男性が居た。
彼に連れられて、会場へと歩みを進める。
講堂内は、真っ白な壁に趣味の良い調度品が並べられており、これだけで一般人である蔵人は押し出される思いだった。
「凄い所だな」
「そ、うだね」
蔵人の呟きに、しかし、頼人は返すのが精一杯といった様子だ。
見ると若干顔色が悪い。
「どうした?具合が悪いのか?」
腹でも下したか?そう思って聞いたが、どうも緊張しているだけの様だった。
それでも、少し休んでいくか?と聞いたら、大丈夫だと蔵人を先に促す頼人。
結局、頼人は顔色を青くしながら、会場へと続く大きく白い扉を開いた。
そこにはまた、別世界が広がっていた。
赤いワインレッドの絨毯と中央には大きな丸テーブル。その上には見事なキャンドルツリーが各テーブルに置かれており、天井から吊るされたシャンデリアの灯りでも充分明るいのに、その先に灯された火の灯りで、幻想的な空間を演出していた。
会場の奥の方に設置されたステージには、オーケストラらしき交響楽団が楽器を奏でており、静かな音色を会場中に漂わせていた。
既にかなりの人が集まっており、中央に何組かの集団と、壁際に小規模のチームが幾つも集まり、談笑していた。
その殆どが、鮮やかなドレスを纏ったご令嬢達である。
因みに、今回は立食パーティーだ。椅子は壁際しかなく、今は殆ど使われていない。若者ばかりだからね。
蔵人は同い年位の集団か、若しくは男性のいるチームを探す。
パーティーは先ず挨拶が礼儀だが、それも順番がある。
主催者や位が最も高い者に1番に伺うので、2番目3番目を探す必要はない。そして、挨拶も位が高いものからお伺いを立てる。
巻島家は財閥だが、運輸業主体の小さな新興財閥なので、それほど地位は高くない。
銀行とか、ゼネコンとか、戦前からの華族とかいう大名家に比べたら、弱小貴族である。
蔵人は事前に流子さんから教わった、この現代日本のやんごとなき世界の常識を頭の中で復唱する。
それでも、態々招待状を送ってきて貰うだけのコネがあるのは、1つは氷雨様の努力の結果と、もう1つは…。
「あらっ、ご覧になって!」
「えっ?どちらですの?」
「あちらですわ!今入られた方、巻島頼人様よ!」
「まぁ!お美しい銀の御髪ですわ!」
令嬢の興奮した声を、蔵人のパラボラ耳が拾う。
その声の元に顔を向けると、笑顔という仮面を着けた令嬢達が、そのロングドレスを物ともしない素早い動きで、しかし優雅にこちらに進撃してきた。
もう1つの理由はこれだ。巻島頼人。男子のAランクにして上位能力のクリオキネシス。
男子でこれだけの有力物件持ち合わせる者は、この東京特区の中でも片手で数える程。蔵人の代で言えば皆無だ。
それ程貴重な存在であるが故、一部の社交界では頼人のことを”巻島家の秘宝”と呼んでいるとか。
そんな秘宝と呼ばれる頼人は、令嬢の存在に気付くと、青い顔を更に青くして蔵人の腕を掴んだ。
無意識で掴んだ彼の手は、僅かに震えていた。
なるほど。先ほどから顔色が悪いのは、コレか。
蔵人は頼人より一歩前に出て、令嬢達から頼人を半分だけ隠した。
ズンズン近づいてくる令嬢達。その迫力に、蔵人も「盾を展開するか?」と一瞬迷ってしまう。
相手は異能力を発動していないが、頼人に危害が出る場合は異能力の使用を許可されている蔵人は、しかし、ギリギリまで待つことにした。
イザとなったら、頼人を担架盾で運んで逃げてしまおう、と。
だが、令嬢達は蔵人の許容範囲ギリギリで立ち止まると、すっと腰を折って挨拶してきた。
「お初にお目にかかります、頼人様。稲葉紗栄子と申します」
「梅園亜紀と申します。頼人様にお会いできて光栄ですわ」
「桜城高等部1年の粟田紗夜と申します。私達、弓道部に所属しておりまして、一度頼人様のお姿を部室棟近くでお見かけ致しましたのよ?ご存知ありませんか?」
どうも、彼女達は桜城高等部の1年生らしく、同じ弓道部に所属しているそうだ。
ファランクス部ではあまりなかったが、他部活では中等部に高等部の先輩が指導しに来ることもあるそうで、弓道部の指導で中等部に訪れた際、頼人の姿を見た事があると言っていた。
なるほど。では、高校生とも何時か戦えると言う訳だ。
蔵人が内心で違う方面に皮算用していると、視線を感じた。
見ると、熱意の籠った眼差し6つ。真っ直ぐに蔵人を貫いていた。
その視線は、その後ろで縮こまっている頼人を目指していたが、肝心の頼人は蔵人の背中に回り、姿を完全に隠してしまった。
その様子を見て、令嬢達の眉が潜む。
令嬢達のコソコソ話が、蔵人のパラボラに届いた。
「なんで護衛がいるのかしら?」
「頼人様は特別に、護衛を許可されているのではなくて?」
「それはないわよ。だって、アイザック殿下以外の男の子達は、誰も付けていないですもの」
「そもそも、一般人は入場出来ないわよ。あの護衛も何方かの血縁者って事ですわよ」
「何方の?」
内輪で話していた令嬢の目が、蔵人に注がれる。そして、一人がずいッと蔵人の前に出てくる。
「失礼ですが、頼人様とはどのようなご関係で?」
そう言うご令嬢の視線は、かなり厳しい物になっていた。
前話で影が見えた広幡さんが、ついに再登場しましたね。
「相変わらず、一筋縄ではいかん娘だったな」
主人公が翻弄されていましたね。
流石は生粋の大貴族様です。
「あ奴の争奪戦に、また強力な駒が増えたな」
はてさて、開幕から波乱ですが、無事にサマーパーティーを乗り切ることが出来るのでしょうか?