154話~それでも構わねぇか?~
※前話にて、セリフの一部を修正しております。
開幕、他者視点です。
3位決定戦は凄い試合だった。
試合開始から相手校が一斉に突撃してきて、相手の応援団もほら貝みたいのを吹いていた。
まるで戦国時代にタイムスリップしたんじゃないかって、僕は観客席に居るだけで震えちゃった。
でも、そんな僕よりも、フィールドに居る桜城の先輩達の方がよっぽど怖い思いをしていた。
みんな青い顔で、赤い波の前に晒されていたんだ。
このままじゃ桜城が負けちゃう!
そう思った僕だったけど、兄さんが動いた。
とても大きな声で味方を激励すると、今度は兄さんたちが盾ごと相手に突撃していった。
「「「うぉおおおおお!!」」」
「凄い!開始早々なんて試合だ!」
「両校ともぶつかり合いや!さっすが、ビッグゲームの最終日やで!」
「関東の学校も、なかなかやりおるばい」
会場は大盛り上がりだ。
20人以上の選手達が、一斉に激突しあうその様子は、本当の戦争みたい。
まるで戦国時代の合戦みたいだと思ったのは、多分僕だけじゃないはず。
これがファランクス。
シングルやチーム等の異能力戦とは全く違う大規模な戦闘に、実況も、観客も、勿論僕自身も白熱した。
凄い!熱い!でも楽しい!
戦争と言っても、何処かお祭りのような雰囲気も感じる。
両校の応援合戦が一層に大会を盛り上げていて、会場の応援席は大波が寄せて返すように、選手たちの一挙手一投足に反応していた。
『乱戦!乱戦だぁ!桜坂の一斉突撃で、前線は個々に分断された!彩雲の急襲は出鼻をくじかれ、得意の殲滅スタイルが完全に潰されてしまった!』
「「「うわぁあああああ!!!」」」
『彩雲の島津巴選手と桜坂の美原選手が中央で激突!凄い攻防だ!これがAランク同士の戦い!あまりの衝撃に周りの選手が退避する!』
「巴さまぁ!!」
「御館様ぁ!負けるんじゃなかと!」
「海麗先輩!がんばれぇ!」
「桜城のプライドを魅せなさい!」
『更に、左翼では島津円選手と桜坂の黒騎士が激しい攻防を繰り広げる!全国レベルのBランクに、流石の黒騎士も防戦一方だぁ!』
「まどかぁ!九州女子の力ば見せちゃれ!」
「退くんやなかと!攻め時やけん!やっちゃれ!」
「黒騎士さまぁ!負けないでぇ!」
「負けたらぶっ殺すぞ!黒騎士!」
兄さんが苦境に立たされている場面も結構あった。
でも、僕の近くで応援していた西風さんは、兄さんが負けるなんて全く考えていないみたいだった。
「大丈夫。今の蔵人君はまだ余裕だよ。如月戦の時と一緒だもん」
そう言った彼女の横顔を見て、僕も嬉しくなった。
兄さんの凄さは、分かる人にはちゃんと分かってもらえるんだって。
一緒に見ていた火蘭さんは、何処か挙動不審で、よっぽど兄さんが負けそうに見えて動揺していたみたいだった。
でも、結局は兄さんのペースになり、相手の選手は地面を転がった。
西風さんの言う通り、兄さんが勝った!流石!
僕は嬉しくて、隣の西風さんとハイタッチをしたりして喜んでいたが、よく考えると女の子とこんなに近くで話しても、襲われそうにならないのは珍しいことだ。
流石、兄さんのお友達だね。
試合も終盤、兄さんたちの前にまたしても試練が訪れる。
大きな土人形が突如として現れた。
実況の解説では、相手の主将とエースがユニゾンをしたらしい。
ユニゾン。異能力の高等技術。
僕も、兄さんとした事がある。
なんだか体がキラキラして、とっても楽しい時間だった。
きっと、仲の良い兄弟なら出来るのかと、僕は土の巨人を見ながら思った。
でも、
『し、信じられない!ファランクスでユニゾンだとぉ!?ランクが異なる同士のユニゾンなんて、初めて見たぞ!』
実況さんの驚き具合を聞いていると、どうも違うみたいだ。
僕の斜め後ろに座っていた、望月さんという女の子が教えてくれた事だけど、ランクに差がある同士のユニゾンとなると、適合率は著しく下がるんだって。
それでも、島津姉妹はユニゾンを成功させた。
しかも、かなり使い慣れた様子だった。
土人形の中の人が、これは島津家の秘術だって言っていた。
それを聞いて、僕は更に驚いた。
だって、家の秘術って言ったら、とても大事なものだ。
巻島家にも、代々伝えられるアクアキネシスの技があると聞いたことがあるけれど、僕も見せて貰った事がない。
代々当主だけが伝えられるものだって、聞いている。
それ程大切な技を、出さざるを得なかったんだ。
それだけ、兄さん達が凄いってこと。
僕は、嬉しい感情も湧いてきたけど、それよりも、心配で心臓が痛かった。
兄さん、こんな巨人を相手にするの?
でも、それすら兄さん達は覆してしまった。
Sランク級だと言われる巨人を、Bランク2人だけで、しかも、全員1年生という驚きのメンバーで、兄さん達は倒してしまった。
ドリルみたいに回転する大盾が、巨人の胸を貫いて、大きな穴を開けた。
芝生を滑って止まった兄さんが指を上げると、会場中で大歓声が響いた。
空気が割れて、近くの電光掲示板にノイズが走ったのには僕もびっくりしたよ。
それを西風さんに教えようとしたら、彼女は既に、観客席から飛び出して、兄さんの元に駆け寄っていた。
僕も。
そう思って立ち上がった僕を止めてくれたのは、火蘭さんだった。
ありがとう、火蘭さん。危うく、兄さんに迷惑をかける所だった。
そんな風に思う反面、僕は悔しかった。
白銀の騎士達に胴上げされて、宙を舞う兄さんの嬉しそうな顔を見て、僕はそう思ってしまった。
やっと報われた兄の今この瞬間に、近くに行けない僕自身に、何故そうなったのかと悩む。
小さな頃は、自分達の成果を一緒になって喜び会えたのに。
今の僕達は、こんなに近くて、こんなに遠い。
僕がAランクなんて力を持っているからそうなのかな?
兄さんと一緒のCランクだったら、僕も…。
「頼人様?」
いつの間にか顔を伏せていた僕を心配して、火蘭さんが声をかけてくれた。
僕は、何でもないと言いたかったけど、嘘を言うみたいで耐えられなかったから、ただ頷いた。
「火蘭さん、僕…」
そして、決意する。
「あの事を、相談するよ。兄さんに」
僕がここに来たもう1つの理由を果たすと、決意した。
〈◆〉
3位決定戦が終わり、無事に全国3位の称号は獲得できた蔵人達は、決勝戦を会場の大型モニターで見ていた。
会場のボルテージは最高潮。
観客席の至る所で、興奮した人達の姿が散見した。
両校の応援団も、試合開始30分前から演奏を開始していた。
本番で疲れやしないかと、蔵人は要らぬ心配をしてしまう。
そんな中、
「みんな!買ってきたよ!」
「いっぱい買ってきたから、好きなの取って」
部長達3年生が、大量の食べ物を買ってきてくれた。
焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、イカ焼き、りんご飴。
外の屋台で売っていた物だ。
蔵人達は先輩方に感謝を伝え、手に手に好物を抱えて観戦した。
そしてすぐに、ビッグゲームの決勝戦が始まった。
始まったのだが…。
『両校、中立地帯での睨み合いが続きますね』
『事前情報によると、獅子王の選手は殆ど2軍を投入しているらしいです』
どうも、獅子王は最大戦力で挑めなかったらしい。
そりゃ、あれだけ彩雲にやられたら、たった2日では回復しないだろう。
準決勝で、桜城がそうならなくて良かったと胸をなでおろしていると、
『対する晴明も、動きが悪いですね』
『久遠選手が欠場ですからね。要を失った晴明は、かなり苦しい1戦でしょう』
『準決勝、桜坂の黒騎士に受けた影響は大きかったか』
なんだと!?
久遠選手がお休み!?
俺のせい!?
蔵人が驚きで周囲を見ると、こちらに親指を立てている若葉さんが見えた。
よくやった!じゃない!彼女は大丈夫なのか?
蔵人が心配している間にも、試合はゆっくりと進んだ。
結局、20分間戦って、57%の領域を獲得した獅子王が優勝した。
でも、会場の様子は随分と静かなものだった。
ファーストタッチが出ず、中央での攻防が一進一退するばかりであった。
実況も、
『静かな試合でしたねぇ』
と言ってしまっていた。
そりゃあ、3位決定戦の様な捨て身の試合と比べたら、多少は見劣りするだろう。
そうして、決勝も終わったことで、次は表彰式へと移った。
ビッグゲームに出場した学校は、全校が残っていたので、開会式と同様にフィールドには色とりどりの選手達が並ぶ。
その選手達の中でも、一際異彩を放つ者がいた。
「うわぁ…ホンモノだ」
「本当に鎧が傷だらけだね」
「左腕は、付いてる?」
「大丈夫だよ、命。ちゃんと付いてるから」
はい。異彩を放っているのは、俺みたいです。
自然体で立っているだけなのだが…。
蔵人は困り顔で周囲を見る。
そうして目が合うだけで、周囲の娘達は驚いたり、喜んだりする。
…とりあえず、認知度は上がったみたいだ。
プラス思考で捉える事にした蔵人。
そんな時、選手達を掻き分けて、誰かが近付いてきた。
赤い甲冑に身を包んだ、彩雲の選手。
島津姉妹であった。
「黒騎士様。ビッグゲーム3位の称号、改めてお祝い申し上げます」
そう言う円さんの横で、お姉さんの巴さんが、恭しくお辞儀してくる。
嫌味とかではなく、本心でお祝いしているのだろう。
彼女達の目色からは、痛いほどのプラスの感情が伝わってくる。
鷹を通り越した、ティラノサウルスの瞳孔だ。
ちょっと恐ろしい。
「円さん。お言葉、とても有り難いのですが、正直複雑な心境です。一歩、いえ、半歩違っていれば、この座に座っていたのは貴女達ですから」
「黒騎士様、それは違います」
円さんが首を振ると、後ろの巴さんが頷いた。
「我々、島津の秘儀を持ってしても、貴方には勝てませんでした。直接受けた私達だから分かります。仮令、何度同じ場面を繰り返そうと、結果は覆らないと」
「岩戸戦、晴明戦を拝見して、私たちは貴方様を理解した気になっておりました。ですが、まだまだです。黒騎士様は、我々の想像をはるかに超えて、私達の秘術を越えられました。私たちが負けたのは当然の事。流石は、黒騎士様です」
そう言うと、円さんは跪き、こちらを見上げた。
「是非、私達と共に、島津家へおいで頂きたく存じます」
「歓迎いたします、黒騎士様」
巴さんまで座り出した。
うん?なんだ?まさか、表彰式が終わったと同時に連れていこうとしているのか?
いや、流石にそれはないか。
蔵人は、いやいや、と首を振る。
すると、熱っぽい瞳でこちらを見上げてくる円さん。
「えっと、円さん?」
円さんに問いかけるも、ただジッとこちらを見上げている。
これは、梃子でも動かないな。
さて、どうしたものか。
蔵人が思案していると、目の前に誰かが割り込んできた。
海麗先輩だ。
「こらこら。勝手にうちの部員を誘拐しようとしないでよ」
言葉と表情は穏やかな先輩だが、目だけは鋭く2人を睨んでいる。
彼女の後ろには部長と佐々木先輩も仁王立ちとなり、島津姉妹を牽制していた。
流石の2人も、「分かりました。出直します」と言って、自校の列に戻っていった。
「助かりました、先輩」
蔵人が軽く頭を下げると、今度は海麗先輩に手を掴まれた。
「君を狙っているのは他にもいるからね。私達と一緒に、先頭に並ぶよ」
という事で、蔵人は3年生達と同じ位置に立つことになった。
安全だけど、もう表彰台には近づかないよ?
3年生の皆さんで受け取ってくださいね?
『これより、表彰式を始めます!』
全国の表彰式も、都大会、関東大会の流れと同じであった。
3位に桜城が呼ばれると、一際大きな歓声が沸き上がる。
そこには、桜城が東日本だからとかで、侮蔑の視線を送る人は1人もいなかった。
東も西も関係なく、惜しみない拍手を送ってくれていた。
加えて、会場の巨大モニターには彩雲戦の激闘が映し出され、巨大鎧武者を倒した蔵人と伏見さんが手を上げた部分がクローズアップされた。
まるで優勝並の扱いだな…。
2位と1位の表彰でも、同じように決勝戦の様子が映されたが、少々盛り上がりに欠けると思ってしまう。
やはり、巨大ユニゾンを破った絵は強いか。
そんな事を思いながら、蔵人は横一列に並ぶ晴明の選手達に拍手を送る。
そこにも、晴明主将、久遠葉子さんの姿はない。
これは…お見舞いに行った方が良いのだろうか?
蔵人が迷っている内に、MVP発表式が始まった。
今度こそ、受賞は無いだろうなと警戒する蔵人。
そこに、
『今大会のMVPは、獅子吼天王寺、北小路選手です!』
ふぅ。
蔵人は安堵の吐息を吐く。
流石に、全国は猛者ばかりだからね。強豪校のAランクを差し置いて、貰う訳にはいかない。
そう思って、肩の荷を下ろした。
のだが、
「「「えぇえええっ!?」」」
「なんで獅子王なんだっ!?」
「可笑しいやろ!運営!」
「ちゃんと試合ば見んね!キル数カウント違うとるっちゃろ!」
拍手の中に、多くのブーイングが入り交じってしまった。
何故、3連覇した学校の主将が、ここまで言わねばならんのだ?
蔵人は訝しげに周囲を見回していると、トントンと肩を叩かれた。
鶴海さんだ。
「蔵人ちゃん、何かあった?」
「ええ。何故ここまで荒れるのかと思いまして…」
「そうね。何時もの大会だったら、ここまで荒れないわ。何時もの、僅差の大会ならね」
「…と、言うと?」
蔵人が首を傾げると、鶴海さんが教えてくれる。
MVPとは、主にどれだけのキル数を稼いだかで決定される。
そこには数だけでなく、倒したランクも関わるらしく、CランクよりもAランクを倒した方が選ばれ易い。
そして、今大会のキル数上位は、
海麗選手…8人(A:1人、B:2人)
北小路選手…13人(A:1人、B:5人)
島津円選手…19人(A:1人、B:9人)
となっていた。
つまり、しっかりと試合を観ていた人は、彩雲の円さんこそMVPに相応しいと。
「違うわよ、蔵人ちゃん」
…違うらしい。
「キル数28人、Bランク9人、Aランク2人。これ、誰の事か分かる?」
桁違いな成績だな。
誰だろうなぁ〜。
…はい。俺です。
ジッと見つめている鶴海さんに、蔵人は項垂れるように頭を下ろした。
それを見て、鶴海さんは微笑む。
「これだけ成績に差があったら、ちゃんと試合を見てなくても分かっちゃうわ」
それに呼応したかの様に、観客席からコールが始まる。
「黒騎士様がMVPやなかと!?」
「ウチは数えとったで!黒騎士のキルは30を超えとった!」
「Aランクも、5人ぐらい倒しとったばい!」
「くっろきし!くっろきし!」
「「「くっろきし!くっろきし!」」」
おいおい。本当に数えていたのかい?
そう思う蔵人だったが、会場のボルテージは冷めやらない。
あまりに周囲の反感が激しいので、運営はMVPの授与式を省略すると発表した。
指名された北小路選手が、授与を拒否したのも影響したらしい。
それだけ反感を食らっても、一向に蔵人へMVPを授与しないのは、運営の意図か。
男がMVPだと、何かあるのかも知れない。
全国の大舞台だと、色々としがらみが有りそうだ。
そう邪推しながらも、蔵人は動き出す。
閉会式が終わったので、選手達が徐々に帰ろうとしていた。
選手の合間を抜けて、たどり着いたのは、
「音張さん!少しお時間よろしいでしょうか?」
如月の陣営であった。
音張さんは、片眉を上げて少し意外そうな顔をするも、すぐに頬を釣り上げて笑った。
「良いぜ。貴重な質問権を使うんだろ?ここで聞いてやる」
「えっと…ちょっと込み入った、貴女のプライベートな質問をしたいのですが…」
「尚更だ。これだけ騒がしく、人が入り乱れていりゃあな、超聴覚も聞き取れやしねぇ」
なるほど。一理ある。
蔵人は頷き、彼女の耳に顔を近づける。
「雷門重三さんについて、貴女が知る情報を頂きたい」
そう言った瞬間、蔵人の頬に電流が走った。
攻撃された!という程強くない。
音張さんの感情が余りに昂り、静電気が漏れ出てしまったみたいだ。
彼女は鼻に皺を寄せる。
「はっ!ジジイの何が聞きたい」
やはり関係者。それもお孫さんだったのか。
かなり鋭くなった音張さんの瞳を見ながら、蔵人は口を開く。
「雷門様の過去を。1950年前後で活躍された、広島と長崎でのテロ撲滅戦について教えて下さい」
蔵人の問に、音張さんは殆ど睨み付ける様にこちらを見て、ふぅと息を吐きながら首を振った。
「わりぃが、あたしもその件についちゃ殆ど知らねぇ。あのジジイがその事件に関わっている確証も、得られてねぇからな」
では、何故記念式典に出席を?
蔵人が疑問を投げかける、その前に、
音張さんが顔を上げた。
ジッと、何かを問う様に、蔵人を見据えた。
「だから、ここからは不確定な情報だ。あたしの推測も入った、汚ねえ情報。それでも構わねぇか?」
「分かりました」
蔵人が頷くと、音張さんは「そうかよ」と面倒そうに頭を搔いた。
「ジジイは昔、よくあたしを連れて広島の記念式典に参加していた。今でも行くみてぇだが、あたしは二度とごめんだね。何時も気丈なあのクソジジイが、あん時だけは泣きやがる。顔面をグシャグシャにして、老人みてぇにな」
なんと、あの武人が公の場で涙を流すのか。
一体、何があったのだ?
蔵人が熱を込めて見つめる中、音張さんは話を続ける。
「一度、ジジイに聞いたことがある。何がそんなに悲しいのかってな。そうしたらジジイは、"儂が仲間を殺した。仲間をこの手に掛けてしまった"って抜かすばかりでな」
『仲間を大切に、のぉ』
そう言って、寂しそうに背中を丸める雷門様の姿が、ありありと思い出された。
「つまり、雷門様のお仲間が裏切り、アグリアに寝返った。そして、軍に所属していた雷門様は、仲間を殺さねばならなかった。という事でしょうか?」
「まぁ、そんなとこだろうよ。それとな、気になる言葉も漏らしていた」
「気になる、言葉?」
蔵人の問に、音張さんが小さく頷く。
「周りから賞賛された後にな、偶に小さく呟いたんだ。"あれは、儂の力じゃ無い"とな」
どういうことだ?
自分の力じゃない?
それは、テロ撲滅は雷門様が関わっていないという事?
いや、それなら仲間を殺したと嘆かないか。
では…。
思案する蔵人に、音張さんが小さく手を振る。
「あたしも推測しか出来ねぇがな。ジジイは誰かの功績を奪ったんだ。絵本にまでなった話は全部、作りもんだったって事だ」
「そう、でしょうか?」
蔵人は疑問を投げる。
「それでは、仲間を殺したと嘆く意味が分かりません」
「はっ!大方、仲間の情報をリークしたとか、仲間は殺したが、絵本で語られる程の活躍はしてねぇとかだろうよ」
なるほど。それなら繋がる。
蔵人が納得していると、音張さんは踵を返し、後ろ手で蔵人に手を振った。
「あたしらはシングル戦も出るからよ、またやり合おうぜ、龍鱗」
去っていく彼女の背に、蔵人は深く頭を下げる。
貴重な情報、感謝しますと。