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12話〜この身は龍ぞ〜

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブクマ、いいね、評価、ありがとうございます。励みになります!


本日も2話連投していきます。

こちらは、1話目です。

「慶太。お前の意思、受け取ったぞ」


たった1人、蔵人がフィールドの真ん中へと歩み寄る。

すると、壁際にいた2人の内、片方の少女がこちらに近づいてきた。

長い亜麻色の髪を、後ろで一つに結んだ()だ。その立ち居振る舞いからは、凛々しさとか、伸びた背筋の美しさよりも先に、何処か武人たる勇猛さを感じる。

留まったもう片方の少女は、背中を壁にぺったりくっ付けて全く動く気配すらない。どうやら1対1(サシ)でやり合ってくれるみたいだ。


『神凪白羽(しらは)選手が前に出ます。本山選手は動く気配がない。白羽選手と恵比寿選手の一騎打ちの様です』


「妹との試合、見させて貰ったよ。実に見事だった」


白羽選手が蔵人の目の前まで来て、そう言った。

彼女との距離は5m程。腰に差した鞘には手を触れず、自然体で蔵人と対峙している。その彼女の様子からは、不意打ちを狙っている様には見えない。本心からの賛辞なのだろう。

彼女は口の両端を持ち上げて、薄い笑顔を向けて来た。


「次は私が相手をさせて貰うから。神凪白羽。さっき貴方達が戦ったお姉さんの、姉よ」

「恵比寿と申します。胸をお借りしたく思いますので、よろしくお願い致します」

「えっ?…ええ。よろしく、ね」


蔵人が腰をキレイに45°曲げてお辞儀をすると、戸惑いながら返す白羽選手。

蔵人の大人びた対応に、こいつは本当に園児なのか?と不思議に思っているのだろう。

だが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、彼女はクルリと後ろを向いて、何歩か歩いて立ち止まった。そして、妹さんと同じ、刃を潰した競技用の刀を抜いて、こちらに構える。

何処からでもかかって来なさい。

そうとでも言うように。


「では…!」


蔵人は深く構え、そして、


『両者フィールドの中央で構えます。緊張の一瞬。先に仕掛けるのはどちら…恵比寿選手だ!速い!一瞬で10mの距離を詰めた』

『あれだけの距離を一瞬で…。恐らく、足の裏にクリエイトした盾を貼り付けて、それを高速で動かしているのだろう。だが…』

『何かあるんですか?』

『ただ浮かすだけでも相当の修練が必要だ。それを、高速で動かして、ましてや自身の体重を乗せるとなると、一朝一夕では身につかない。十数年、何十年と積み重ねて初めて得られる技術だ』

『そ、そんなに…』


確かに、解説者の言う通りかもしれない。だが、蔵人は魔力を流す器官が極めて柔軟な赤ちゃん時代から訓練していた事で、大人の時の訓練とは比べ物にならない位の効率で技能を培ってきた。


更に、他の世界で魔法を使っていた知識、技術を持っていた事も大きなアドバンテージとなった。それが、十数年を数年にまで縮める結果となったのだ。

そして、そのアドバンテージはこれからも…。


『恵比寿選手の左ジャブ!速い!だが、白羽選手はギリギリ躱す!再び恵比寿選手の左!右のワンツー!足払い、からの後ろ蹴り!しかし、白羽選手はこれを刀で受け切った!金属同士が削り合う不協和音がフィールドを駆け抜ける!』

『足の一部にもシールドをくっ付けているのだろう。そのシールドを操作することによって、人離れした高速移動だけでなく、刀と鍔迫り合いをする程の攻撃を可能としている』

『白羽選手が大きく刀を振り抜いた!恵比寿選手が受け切れずに大きく後退!やはり体格差は埋められないか。白羽選手もバックステップで距離を取る…ああっと!逃がさんとばかりに恵比寿選手が突進!一瞬で白羽選手の間合いの内側に!そして休まず繰り出される拳が白羽選手を襲う!』


相手は中距離型。蔵人は近距離型なので、離されれば相手が圧倒的に有利。逆に、手が届く程の射程ならば、相手の攻撃手段は極端に減る。

是が非でも相手に引っ付く必要があるのだ。でないと、さっきみたいに刀を振り続けられたら、こちらの盾が先に砕ける。それだけの力量差が、蔵人と白羽選手の間には立ちはだかっていた。


『速い、速い!恵比寿選手の攻撃が、私の目では追えない程のスピードで繰り出される!流石の白羽選手も防戦一方。抜け出せない!』

『あの距離は恵比寿選手の間合いだ。刀を使う白羽選手では攻撃の手段が限られる。何とか距離をとらないと苦しいだろうな』

『では、このまま恵比寿選手の勝利も?』


そんなに単純な相手だったら良いんだがね。


『いや、あくまで攻撃手段が少ないだけだ。躱すだけなら、白羽選手であれば難しくない。現に、恵比寿選手の攻撃を、殆ど紙一重で避けている』


そう。あくまで攻めている"風"に見えるだけ。

実際は、攻めきれない蔵人の方が徐々に体力と魔力を削られ、白羽選手がチャンスを伺っているという構図。


『見事な異能力の使い方だが、それはあくまでクリエイトシールドとしてだ。彼の攻撃は、一般の武術家のそれを超えない。異能力を使った格闘戦を幾度もくぐり抜けてきた白羽選手には、足りはしない』

『な、なるほど。流石はBランクの実力者、白羽選手という訳ですね』


足りない、か。

蔵人は、己の拳が空ばかり切る中で考える。

要は、攻撃が予測出来るから避けらている訳だ。あくまで空手、ボクシング、ムエタイ等の技をそのままの形で出しているだけだから。

ならば、これならどうだ?


蔵人は大きく右腕を振りかぶり、放つ。

当然、白羽選手はその大振りな攻撃を難なく躱す。今回も紙一重で。

だが、


『恵比寿選手の右!だが躱されて…、ああ!躱されたはずの右拳が、白羽選手の顔面に突き刺さった!なんだ!?何が起きた!?確かに躱したはず!』

『急に軌道が変わった。躱したはずの右拳が、まるで磁石に引っ張られるかのように、白羽選手の顔面へと飛んだ』

『ええっ!?そんな事が出来るんですか?あっと、今度は恵比寿選手の蹴り!外し…ってない!イナズマのようにジグザグと足が宙を蹴り、白羽選手の腕と肩と側頭部を次々と強襲!更に恵比寿選手の左!右のワンツー!よろけた白羽選手を綺麗に捉えたぁ!』


かなりの手応え。

いくら体重の軽い園児の攻撃でも、こう何度も頭に衝撃を喰らえば、大人でも脳みそが揺れる。

現に、一瞬だが、白羽選手の目が虚空を見つめた。

このまま攻めきれるか?

蔵人は、更に踏み込む。


が、その途端。

空虚だった彼女の瞳が、グルンと蔵人を見下ろした。

同時、身体に異常が発生する。

全身が、痺れる。

腕が、足が、悲鳴を上げる。


くっ、流石に無茶をし過ぎたか。

人間が通常では取り得ない動きを、盾で無理やりに引っ張ることで繰り広げたのだ。筋を違えてもおかしくない。

身体が酷く痛い。まるで焼けるよう、って、え?焼けてる?

本当に、服が焼けてる!?

違う!これは異能の力!

白羽選手の異能力だ!


『でたぁあ!白羽選手の電磁フィールドだぁ!』


バチッ、バチッという何かが弾ける音。己の体表を、何か白い物が走る。

電磁。電気。エレキネシスか!


『白羽選手のエレキネシスが炸裂!静電気を何十倍も強力にした広範囲攻撃は、無理に近づけば身体に取り返しの付かないダメージを負う事になります!これには堪らず、今度は恵比寿選手が距離を取った!』

『心理的にそうなるだろうな。痛みに対して、少しでも楽な方へ逃げるのは生物の本能だ。離れれば、電磁力も弱まる。だが…』


白羽選手の白い腕がこちらに向けられる。

何かある。

そう思って盾を目の前に出した蔵人だったが、次の瞬間、

その盾が一瞬にして砕け散った。


攻撃。

見えなかった。

でも分かる。

雷撃だ。


『白羽選手のスパークだぁ!』

「「「うぉおおおお!」」」


スパーク。

そんなヤバい技もあるのか。

蔵人の苦言に答える様に、解説の乱舞さんが声を響かせる。


『離れれば離れる程、白羽選手の間合いとなる。彼女の雷撃は、距離を取っても避けられない』


発動も、弾速も、頼人のクリオキネシスの比ではない。エレキネシス特有の速さもあるのだろうが、それに加え、白羽選手の熟練度の賜物でもあるだろう。

蔵人がどう足掻いても、相手の発砲動作を見てからだと間に合わない。

かといって、盾を構えて待っていても、相殺するのが関の山である。

そうなれば、その先は蔵人の魔力切れ一択。一方的な敗北の未来しか待っていない。


『これは不味いと、恵比寿選手が前に出る!が、やはり電磁フィールドの浅い所までで引き返しました』

『白羽選手の電磁フィールドは、中心…つまり白羽選手が居るところに近づけば近づく程、威力が強くなる。仮令(たとえ)訓練された兵士であっても、生身では1mも侵入できないだろう』


『ああっと、撤退する恵比寿選手に、白羽選手のスパークが追い打ちをかける!辛うじて盾で軌道を反らせたが、恵比寿選手、防戦一方。打つ手はあるのか!?』

『難しいな。スパークは何とか避けられるかもしれないが、電磁フィールドの攻略は、クリエイトシールドでは辛いだろう。何か遠距離攻撃があれば少しは希望があるのだが…』

『難しいのですか?』

『ああ。仮令シールドを飛ばしても、スパークで撃ち落とされてしまう。Dランク戦で私が遠距離型と当たった時は、絶えず剣を飛ばしまくって魔力切れを狙ったりもした。だが、相手はBランク。私でも魔力が持たん。小さな彼では、勝負にすらならないだろう』

『やはり、最後はランクの差が立ちはだかるのか!』


乱舞さんの言う通り、外からの攻撃では勝ち目がない。とは言え、このままでも試合が長引くだけ。

ならば、あれしかない。

だが、あれは未完成な技だ。こんな土壇場で出しても、意味があるか…。

蔵人が迷っていると、スパークで鉄盾の上辺が吹き飛び、破片が仮面を打ち付ける。


迷っている場合じゃない。未完成でも、それしか打開策が無いのだから。

もし上手くいかなくても、後で頼人達と反省会でも開くとしよう。

蔵人は、覚悟を決めた。


『さぁ、両者睨み合い!先に動くのは…おっ?恵比寿選手が両手を突き出して、彼の周囲に複数の盾が生成されました。これは?』

『盾の投擲をする為に出したのだろう。だが、それでは…』


『えっ、あれ?折角出した盾が、粉々になってしまいました!魔力切れか!?』

『いや。魔力切れなら、クリエイトした物はそのまま消えてるだけだ。なんだ?粉々になった欠片が、集まっていくぞ。恵比寿選手の体に、どんどんくっ付いて…』


観客席から不安そうな声が幾つも聞こえるが、蔵人はそれらを全て除外し、ただ意識を集中した。

体に先ず、三重の膜を。

その膜を隙間なく覆うように、盾を…否!鱗を敷き詰める。

腕に、肩に、体に足に、そして顔に。


『これは…盾の、鎧?恵比寿選手の全身が、盾で覆われています!』

『ああ、だが、これは?』


時間にして、ほんの数秒。その間に、蔵人の全身が鈍く輝く鉄の鱗で覆いつくされた。

頼人を助け出した時に使用した技。


(ドラグ)(スケイル)


『こんなことも出来るんですね。乱舞さん』

『いや…。私も、初めて見た。クリエイトアーマーなら、似たような事も出来るだろうが、彼はクリエイトシールドのはず。現に、今でもシールドが細かく集まって服を形成しているだけで…でも、わざわざ何の為に?』


四方から戸惑いの声が上がる中、

蔵人は、動く。

スピードは明らかに遅くなっているが、仕方ない。龍鱗でも全速力で走れる様になった成長を、ここは誇ろう。


『恵比寿選手が動いた!先程よりは遅いが、このまま電磁フィールドに突っ込むのか?』


電磁フィールドに近づくまで、白羽選手は全くスパークを撃って来ず、ただ蔵人を見ていた。

余裕のつもりか。まぁ仕方ない。相手からしたら、苦肉の策に見えるだろう。

だが、


『電磁フィールドに今、恵比寿選手が突入した!と、止まらない!張り巡らされた電磁波が身体中に当たっているはずなのに、恵比寿選手はただ止まらない!ただ真っ直ぐに突き進む!』

『盾だ!身体中を覆った盾が、全ての微細な電撃を跳ね除けてる!そうか、これなら電磁フィールドでも戦えるッ!』

『半分まで行った!まだだ、まだ止まらない!それどころか加速している!白羽選手のスパークが強襲!恵比寿選手に直撃!だが、う、腕で受け止めた!』


目を見開き、驚く白羽選手の顔が前方に見える。まさかあの攻撃を!?と聞こえてきそうな表情だ。だが彼女は、直ぐに表情を引っ込めて、次のスパークを撃とうと構える。

だが、遅い!

俺の方が先だ!


『速い!恵比寿選手が白羽選手の懐に飛び込んだ!すかさずアッパー!白羽選手は刀で受けたが、恵比寿選手は続けざまに回し蹴り!これも受ける、が、白羽選手の体勢が崩れた!そこに、恵比寿選手の裏拳が白羽選手を襲う!これも刀で受け、ああ!刀が折れたぁ!?恵比寿選手が止まらない!勢いそのままに回し蹴りが炸裂!白羽選手、腕で受け止め…受けきれない!吹き飛ばされたぁあ!!』

「「「うぉおおっ!!?」」」


どよめく歓声を背に、蔵人は地面を転がる白羽選手を追う。

白羽選手は派手に転がりながらも、その勢いを利用して立ち上がった。だが、蔵人の回し蹴りを受けた腕が、ブラリと垂れ下がっている。

腕も折れたか?

だが、眼光は死んでない。いや、それどころか、より一層に鋭くなった。

やっと、蔵人を敵と認識した様子だ。


蔵人は、立ち止まる。

この状態では、迂闊に間合いに入れない。

刀も片腕も折れた少女だが、彼女から漏れ出る威圧は、先ほどよりも数段上がっている。

心は折れず、寧ろ鋭利に研磨されたか。

恐らくこれが、彼女の本気。

最初から本気を出されていたら、近づくことすら出来なかっただろう。


蔵人が立ち止まると、白羽選手は、笑った。


「まさか、電磁フィールドを破られるとはね」


悔しさ半分、興奮半分といった表情。


「スパークも、腕のシールドだけで防がれるとはね。本当に、恐れ入ったよ」


白羽選手の自傷じみた笑みに、しかし、蔵人は首を振って、

吼える。


「シールド?否、断じて否!」


自身の鱗を、自身を指さす。


「其は龍鱗(りゅうりん)、この身は龍ぞ!!」

「「「うぉおおお…」」」


どよめく観衆。

蔵人の勇ましい言葉に、心揺さぶられる女性達。

だが、その挑発とも取れる言葉の矛先は、己自身。

自分の心を猛らせ、奮い立たせる為に放った言葉であった。

そうでなければ、燃える彼女の目に、挑めないから。

その目が、嗤う。


「龍、か。大きく出たね」


そう言って、大きく構える白羽選手。

彼女から漏れ出ていた威圧が、白い稲妻へと変化していく。


「ならば私も、本気を出させてもらおう!」


白雷(はくらい)を纏う麗美な獣が、牙を剥いた。

電気とは厄介ですね。ただ、異能力の電気は、視覚的に捉えることも出来る…みたいですね?

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