145話~行け、行って、分からせてやり~
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
今回は他者視点です。
桜坂の羽虫を潰したことで、向こうの応援団は漸く黙った。
全く、たった1人の選手だけで、この名門、晴明が揺らぐことなんてないのに。
それも、相手は1年生だ。
「さて、狩りましょか」
そろそろ良いだろう。
男をメンバーに入れる程に愚かな者達でも、いい加減気付いた筈だ。
その選択が、如何に間違いであったかを。
そう思って、私が総攻撃の指揮を取ろうとした矢先、
桜坂側の観客席から、大歓声が響いた。
なに?何事?
観客達のあまりの変わりように、私は少しだけ動揺してしまった。
でも、その原因が分かった途端、緊張した自分がバカバカしくなった。
その先にいたのは、たかがCランクの、それも男子だった。
「はっ、あほらし」
口を突く言葉は、心底うんざりしたものだった。
周りの女どもが何故こうも、男子に対してきゃーきゃー言うのかが分からない。
可愛いとか、かっこいいとか、本当に目が見えているのかと疑いたくなるような言葉を男共に投げかけては、必死に追いかける。
そんな彼女らを見ているだけで、同性として情けなくなる。
よく見てみなさい。あいつらは自分一人じゃ何もできない癖に、直ぐに集まって、群れて、偉そうにこちらを値踏みする。
その癖、こちらが少しでも強いことを思い出させてやると、やれ暴力だの、野蛮だの声高に叫びだして、周りの慈悲を乞うようなみすぼらしい生き物だ。
この日本は女が作っているのに、さも自分たちが世界の中心とでも言うように振る舞い、女性を使い潰そうとする。
大昔、この日本を戦争という大罪に巻き込み、沈没させそうにしたのは、男共だったのに。
男は害悪だ。弱く、意地汚く、女を食い物にするだけの寄生虫だ。
そんな物を使っている時点で、桜坂も呉も全国に出る資格はない。
それなのに、
「おお!ボス!」
「蔵人が来てくれた!みんな!ここからだよ!」
『全員、防御陣形を展開!前線を再構築!』
桜坂の陣営まで、うるさくなった。
「「くっろきし!くっろきし!」」
「黒騎士さまぁ~!」
観客もうるさい。
みんな、急に騒がしくなった。
たった1人の男が現れただけなのに、彼女たちはみんな、熱にうなされたかのように発狂しだした。
これが男だ。
女を狂わせる。
世界を狂わせる。
母を狂わせ、私の家を狂わせた、全ての元凶。
腐ったミカンは、取り除かねばならない。
全力で。
「4、8、10番以外、全員行きなはれ」
私はそう言って、今中立地帯の右翼からフィールドに足を踏み入れた96番を示す。
そんな私の指示に、一瞬顔を見合わせる彼女達だったが、直ぐに走り出す。
見ると、既に晴明の右翼が迎撃に走っていた。
流石は名門の晴明ファランクス部員。しっかりとマーク付けが出来ている。
そんな晴明選手を、黒騎士は、
一瞬で吹き飛ばした。
『決まったぁ!黒騎士のシールドばぁああしゅ!晴明21番ベイルアウト!入場と同時に吹き飛ばした!さすがは黒騎士様だぁ!!』
「「「わぁあああ!!!」」」
「「いいぞぉ!いけぇ!」」
「これを見に来たんや!」
「「黒騎士さまぁ!」」
男は猛然とフィールドを駆け続け、こちらに迫ってきた。
我が物顔で、そうすることが当然とでも言うように。
その姿に、太々しい態度に、
「行け、行って、分からせてやり」
私は、静かに怒る。
私が男を指し示すと、私の周りの魔力が具現化し、幾つもの幻獣を形作った。
鹿、鷲、狐。
屈強な鹿は大人よりも大きく、鷹と狐はナイフのような爪と牙を持つ。そんな強力な兵隊が、20体以上出現する。
半透明のその子達は、1体でもCランク1人を倒すのに十分な強さを持つ。
それを全て、あの忌々しい男に向ける。
一時、桜坂を攻撃する手が薄くなるが、そんなことは後でいくらでも取り返せる。
桜坂は今、死に体だ。動けるのは、先ほどの8番くらいな物。
それに、今はこのフィールドを汚している病原体の駆除が先である。
私が繰り出した幻獣軍団は、先に駆け出していた晴明選手と合流し、雪崩のように男へと押し寄せた。
前から左から右から、果ては上空からも押し迫られる男は、しかし、逃げるどころか立ち向かって来た。
余程バカなのか、見栄が勝って引き返せないのか。その両方か。
つくづくバカな生き物だと私が憐れんでやると、さすがのバカでも圧倒的な戦力差に気付いたのか、その場に立ち止まった。
しかし、それだけだ。
逃げるということすらできないくらい、男は怯えていた。
いつも誰かに守られていた愚かな黒騎士は、それが自分の力だと慢心し、いざ1人で戦うとなった時に初めて、自分の小ささに絶望していた。
そんな男に教えてやろう。この世界は女の世界なのだと。
「思い知りなはれ。あんたさん達が、如何に矮小な生物やったかってことを。この世界に、もうあんたらの居場所なんて無いって事を」
これで正常に戻る。
いつも通りの、女と女の戦いになる。
本当の強さを持つ、女だけの世界。
男は世界を壊し、女が世界を作り出す。
だから神様は、女だけに力を与えたのだ。
だから私達は、男に力を与えてはいけないのだ。
それは、過去に記された歴史の数々が示す事実だ。
男などといった異物を入れたりしたら、高貴な異能力大会が壊されてしまう。
思いを新たにし、私が桜坂の円柱で固まっている人達に視線を戻そうとした時、
それは聞こえた。
「盾・一極集中」
腹の底に響くような、低く重い声。
それは、男から発せられた声。
見ると、男はその腕を突き出し、そこに何枚も、何枚もの盾を集め、重ね、そして回しだした。
巨大な盾の塔。
手のひらより小さな盾が寄り集まり、巨大なピラミッドを作り出す。
しかし、そこはやはり男。やっている事が浅はかだ。
折角、必殺技を繰り出そうとしているのだろうけど、全くの無意味。
だって、そいつは拳を我々に向けるのではなく、空高く、天井を示しているのだから。
伊勢岩戸戦の様に、強力な一撃を我々に目掛けて放ちたいのなら、こちらに向けるべきだったのだ。
あのように天高く向けてしまっては、ただ打ち上げ花火の様に空をクルクル舞ってお終い。
あれだけの巨大な異能力、急な方向転換は難しいだろう。
何せ、その大きな塔のような盾は、男の背をはるかに超えて、ぐるぐる回転しているのだから。
失敗したのだろう。何と運のいい奴か。
もしもこちらに向けて撃ってくれていたら、それこそカモであったのに。
今、晴明の選手達は、男を取り囲むように全方位から迫らせている。
男がこちらに突き進んできた時点で、奴の側面、後方から無数の礫を浴びせる事になっている。
あのドリルの弱点は、前方向しかカバー出来ない事だ。
それを分からせる為に、練習までしたのに。
本当に運のいい奴。
自分の技の欠点も知らずに、沈んでいくのだから。
本当に男とは、物事を深く考えないお気楽な生物だ。
女の苦労も、努力も気付くことは無い。
私達の力を知らなかったから、今になって怯えているのだ。
決して、人類に異能力が与えられなくても、同じ結果になっただろう。
「終わらせてやり」
せめて一思いに。
そう思ったと同時に、
一瞬、胸が苦しくなった。
なんだ?私の、第六感?何故、今働いたの?
勘違い?試合の疲れ?
多分そうだ。
現に、晴明の精鋭達と私の幻獣軍団が、一斉に男へと躍りかかった。
それはまるで、オカピに群がる雌ライオンのようで、腹をすかせた捕食者たちが、今…。
その捕食者の一匹、先行していた幻獣の狐が、中空でビクンッと止まった。
何かあったのか?そう私が思って見つめた先で、
その狐は、地面に横たわる。頭に大きな穴があり、直ぐに体が消えてしまった。
活動限界。頭を何かに撃ち抜かれた?
消えた狐の足元には、撃ち抜いた何かが突き刺さっていた。
銃弾?狙撃?
いや、違う。あれは…盾。
手のひらよりも小さな盾。
あの男の盾だ。
そう、気付くと同時、
男の声が、フィールドに響いた。
「白日・凍死」
男がそう叫んだ瞬間、
塔が一瞬膨れて、その後、いきなり弾けた。
それはバベルの塔のようにバラバラに、そして一斉に砕け散る。
砕けた破片が、まるで花吹雪のように四方八方へ吹っ飛んだ。
その破片は、超高速で回っていた運動エネルギーを内包したままに放たれたので、一枚一枚が凶暴な弾丸となって、男を貪り食おうとしていた獣達へと飛来した。
その弾丸が解き放たれる瞬間、男に殺到していた晴明の選手は一斉に姿を消した。
テレポート。ベイルアウトだ。
危険を予知した運営が、選手生命を失う前に行った処置。
その処置が正しかったかどうかは、誰の目にもすぐに明らかとなる。
凶弾降りしきる中に、取り残された子達が居たからだ。
残された幻獣達は、降りしきる凶弾の中で、無慈悲な最期を遂げる。
空から男に狙いを付けていた鷹は、羽を捥がれ、力なく地面に墜落していく。
男の足元から噛みつこうとしていた狐は、一瞬で上半身を吹き飛ばされて、下半身だけが弱弱しく消えていった。
屈強な体躯で男を吹き飛ばそうとしていた牡鹿は、まるで踊るように撃ち抜かれ続け、ボロ雑巾の様になった体を芝生の上に横たえた。
20体以上いた精鋭達は、その一瞬の内に、すべて掻き消えてしまった。
『べ、ベイルアウト!ベイルアウト、ベイルアウト、ベイルアウト!!何ということだ!一気に5人のベイルアウトだぁ!Bランク2人とCランク3人。そして、20体以上の幻獣軍団全員を、一瞬で消し飛ばした!!信じられるか!信じられない!こんなことを、Cランクが出来るわけないぃい!黒騎士は、Cランクの皮を被ったAランクだぁ!!』
「なんやと!?いっ、痛ぅ…」
私の精鋭達が一瞬で消失ことで、私の魔力が一気に減り、頭の上辺りで痛みが走った。
今ので全魔力の6割は消し飛んだ。
「なんなんや、あんた…」
痛みに顔を歪ませながら、久遠が黒騎士を睨んでいる時、
桜坂のベンチから、声が上がった。
『全員全速力!残った晴明選手を倒して!』
「「「おおぉおおお!!!」」」
桜城の円柱で丸くなっていた亀共が、今一斉に駆け出した。
狙いは円柱ではなく、我々。数を減らした晴明選手。
不味い。このままでは!
「退け!退きなはれ!!」
私は、柄にもなく叫びながら、赤い袖をブンブン振って全軍を後退させようとする。でも、全軍と言ってもたった4人。私を抜いたら3人しかいない。
対する桜城は8人いる。このまま攻められたら全滅する。
名門晴明が、無名の桜坂にパーフェクトゲームなど、あってはならない!
私は、今残る魔力の半分を使い、目の前に大鷲を作り出す。
その姿は、さっき作った幻獣達のような薄いものではない。
太陽の光を乱反射させるダイヤモンドの鷲。Aランクの魔力で作られた、最高級アニマルズだ。
私はそれに飛び乗り、自軍領域上空へと退避する。
目下では、桜坂の選手達がこちらを悔しそうに睨みつけ、何人かは私の足元で遠距離攻撃を繰り出す。
私は、万が一でも墜落させられない様、更に高度を上げて、地上から30mまでの高さまで飛翔する。
この30mが、ファランクスでは上限とされているので、これ以上は飛べない。
でも、これだけ飛んでしまえば、Cランクの攻撃は届かず、Bランクでは届いても威力と命中率がガタ落ちして、とてもダメージなんて出せない。
ここで時間を稼げば、我々の勝ち。
卑怯だなんだと下で喚いているが、力がないから届かないだけであり、所詮負け犬の遠吠えだ。
それを理解したのか、足元にいた桜坂選手達は、私を諦めて晴明の円柱へと進んでいく。
少しでも勝てる可能性に賭けて、円柱タッチをしに行くのかもしれないが、そこまで時間はないだろう。
試合時間は13分55秒。
コールドまで、あと1分程度。
地上では残った晴明選手が自軍円柱の前で桜坂を何とか押し止めている。更に、空飛ぶ金髪にやられた交代要員2人も合流し、簡易な防御陣を構築した。
5、対、8。
防御に専念するなら、何とかなるだろう。
これなら、時間切れで晴明の勝ちだ。
そんな風に、私がほくそ笑んでいると、
「「「うぁあああ!!!」」」
足元で、歓声が爆発した。
『信じられない!なんなんだ彼は!?』
実況まで?
何だ?
そう、私が思って、下を見たら、
私に向かってくる何者かがいた。
何だ?人間!?まさか!桜坂に飛行能力者!?
そう思った瞬間、何かが迫ってくるが見えた。
私は大鷲を羽ばたかせ、急いで急旋回させた。
私が今までいたところに、一枚の刃、じゃない、盾が通り過ぎた。
そう、盾だ。
あの、憎い盾が、超高速で襲ってきた。
だから、つまり、今私に向かってきているのは…。
黒騎士だった。
黒騎士が、空を飛んでいた。
「なっ、くっ!」
何故と言う言葉を飲み込み、私は大鷲を滑空させる。
兎に角この場から逃げる。それが今1番大切な事だと、私の勘が伝えていた。
私は逃げる。
桜坂領域に入らないよう、自軍領域の中だけでの戦闘機同士の空中戦闘。
限られた領域では、速度を付けることが難しく、黒騎士の突撃を交わすので精いっぱいだ。
このままでは、いずれ落とされる。
私は、高度を徐々に下げていき、高い場所にいる有利を捨てながら、落下速度が合わさった速度によって、黒騎士の追撃を振り切ろうとする。
だが、
『速い!速い!両者なんという速さだ!』
黒騎士は、そんな私に追いついて来た。
ダメだ。このままでは時間内に追い付かれる。ピーちゃんでは逃げ切れない。
私は地面に降り立ち、大鷲を魔力に変換し、更に膨大な魔力も加えて、新たな下僕、最強の下僕を創り出す。
私が現段階で出来うる全力のクリエイト。
最強の、分身。
「九尾!」
9本の美しい尾を靡かせる大狐が、白銀の毛並みを一気に逆立て、主に迫る強敵に敵意を向ける。
「行きなはれ!」
「リゲル・ダウンバーストォオ!!」
九尾が戦闘態勢となると同時、黒騎士の大盾が回転しながら突っ込んできた。
九尾と黒騎士が激突する。
黒騎士はいつの間にか、あの大きなドリルを作り出していて、その切先が九尾の尾と交わる。
ギィイイイイイインンッッ!!
乱反射する盾が、乱反射する尻尾を削らんと高音を奏でる。
拮抗。
押し返せない。
でも、押されない。
押されて溜まるか。
こっちはAランク。負ける訳が無い。
『ベイルアウト!晴明中3番!15番連続ベイルアウト!』
実況の声に、自軍円柱方面を見ると、なんと守りに徹していたはずの晴明が攻撃に転じている。
いや、攻撃と言うよりも特攻だ。
桜坂が円柱に迫り、タッチされそうになるのを防ぐ為、玉砕覚悟で桜坂前衛の中で暴れている様だ。
『桜坂11番!20番!晴明14番ベイルアウト!混戦だ!晴明円柱前は混戦だ!』
チラリと電光掲示板を見る。
試合時間は、14分48秒。
もう、10秒程しかない。
桜坂は円柱前10mくらいで足止めされている。
多分、円柱前の晴明選手は全員やられる。それでも、もうタッチは間に合わない。
この黒騎士との競り合いさえ負けなければ、
勝った。私達の勝ち。
この九尾さえ倒されなかったら、私達の。
そう、思った瞬間、
九尾が、ブレた。
違う。ブレたんじゃない。
九尾が、九尾の体が、くの字に折れた。
右側に大きく、まるで、何かに押される様に。
「チェストォオオオオ!!!」
そこには、美原選手がいた。
全力で九尾にタックルした美原選手は、九尾と一緒に地面を転がる。
馬鹿なっ!前半で魔力を使い切った筈!
何故動ける!?
「くっ、くら、とぉおおお!!」
転がりながら、青い顔で叫ぶ美原選手。
そのまま、彼女は九尾の尾に埋もれるように、気絶した。
限界のその先に行ってまでも、邪魔しに来たと言うのか。
この、男の為に。
その男は、彼女の最後の願いを聞き届けたかのように、
凶悪なドリルを、私に向けた。
ドリルが、私に迫る。
その凶器との距離は、もう10mも無い。
時間は?あと、何秒?
8秒?!
だっ、ダメだ、逃げないと。
私は、背を向ける。
後ろには、凶悪な音を奏でる殺人兵器が迫る。
ダメだ、逃げられない。
殺される!
そう思った瞬間、足がもつれて、前のめりで芝生を滑る。
綺麗に化粧した顔にも、整えた爪にも、思いっきり土が入り込む。
でも、今はそんな事気にしていられない。
私が後ろを向くと、もう、すぐそこに、それが来ていた。
「いや」
泥だらけになった手を、目前に翳す。
「いやぁあああ!!!」
ガードを。
そう思って創る幻獣はしかし、動物の形にもならない、何か奇妙な物で止まってしまう。
それでも構わず、ドリルに向けて投げつける。
でも、まるで蒸発する様に、凶悪な刃に触れた瞬間にそれは吹き消える。
まるで、私の未来を暗示するかのように。
私の肉体も、同じように消える。
削り飛ぶ。
死ぬ。
心に突き刺さったその言葉が、私の体を凍りつかせる。
目の前がチカチカして、高速回転する刃がゆっくりに見えた。
その刃は、盾の集合体だった。
ただの縦長の盾がぐるぐる回っているだけの、まるで扇風機みたいな作りをしているみたいだ。
なんの変哲もない、ただのCランク盾。そんな盾が、ただの男が、こんなにも恐ろしいなんて。
その暴風の中に、紫色の瞳を見つける。
それが、黒騎士だった。
燃えるように揺らめく紫色の瞳は、私を殺すことに喜んでいるかのように、ユラユラ揺れていた。
でも、直ぐに瞼を閉じられて、見えなくなった。
紫眼が消えた瞬間、
盾が、消えた。
「…ぇ」
なんの、攻撃だ?
私は訳が分からず、その盾が消える瞬間の、花びらが舞うかの様な幻想的な光景を、ただ呆然と見ていて、
次の瞬間、私の方に跳ねてくる何かに気づく。
それは、傷だらけの鎧。
まるでゴムボートの様に跳ねて来るそれは、私の足元で漸く止まる。
震える私の足を、まるで彼岸に連れて行こうとしているかのように、黒騎士の腕が私に伸びていた。
なにが、なんで、なに?なんなの?
私のぐちゃくちゃになった頭の中は、突然の大きな音で思考を止める。
『ファァアアアアアン!!!』
『試合終了!』
終了。
終わり。
地獄の終わり。
その言葉を聞いた瞬間、私は、
「あっ、ああ、ぁぁあああっ!!」
赤ん坊の様に、口から目から、恐怖と安堵でグチャグチャになった感情を吐露し続けた。
試合、終了?