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11話〜オイラもまだ戦いたい〜

『さぁ、続いての2回戦第二試合目は、これまた珍しい、男性チーム同士の試合となりました!今試合最年少でありながら、Aランクのブルー選手が全てを凍らせる特異なチーム、オメンジャーズ!対するはCランクの風間選手を軸とした連携抜群のチーム、豪風ファイターズ!どちらのチームも1回戦で素晴らしい動きを魅せましたが、解説の乱舞さんは如何(いかが)見ますか?』

『豪風は何度か他大会でも出場していて、経験値はなかなかのもの。加えて、風間選手の巧みに風を操る近接戦闘は、遠距離攻撃主体であるブルー選手には脅威だろう』


『おお!では、豪風ファイターズが有利と?』

『いや、そうとも限らない。豪風の初戦は辛勝と言えるほどの戦いだった。それ故に、未だ体力も魔力も回復し切っていないだろう』

『なるほど。その点、オメンジャーズは初戦、ブルー選手以外全く消耗していないですし、ブルー選手も余裕が見られましたね。むむ、これは全く予想が付かない試合となりそうです!皆さん、まばたき禁止です!』


「「「わぁ~!!」」」

「「風間くぅ~ん!頑張って」」

「「ブルーちゃん!ファイトぉお!」」

「ヒグマるちゃ~ん!!こっち向いて~!」


『す、凄い数の声援ですね。それも、新規参戦のオメンジャーズメンバーにまで…風間選手は特区からの応援団が来ているみたいなので分かりますが』

『ブルー選手はAランクの最上位種だからね。既にファンクラブが出来上がっていてもおかしくないだろう』

『ではヒグマるは…さすが大人気アニメ、魔法少女プリプリのマスコットキャラ、ということなのでしょうか?それとも、中の人の魅力?』

『響さん。中の人などいないよ。子供の夢は壊してはいけない』

『これは失言でした!さぁ、主審が中央でフラッグを掲げる。そして……』


「試合、開始!!」


『今始まった!早速飛び出した風間選手!風を纏って凄い速さでオメンジャーズに差し迫る!狙いはブルー選手か!』

『エアロキネシスで推進力を増しているのだろう。懐にさえ潜り込めば、風間選手の独壇場だからね。これは予想通りの動き』

『一気に距離を縮める事に成功!ブルー選手ピンチ…と、おおっと、どうした!?風間選手がコケた!』


「「きゃぁぁぁ!」」


『観客席からも悲鳴が上がる!なんだ?アクシデントか!?』

『これは…足か!足元に出現した土で転んだんだ。誰かの異能…オメンジャーズのクマが土で突起を生み出したんだ』

『なんと、それに(つまづ)いて、風間選手が転倒したのですね!』

『クマ選手は、ソイルキネシスだったのか』


「「あああぁ…」」


『ああっと、惜しい!ブルー選手のアイスニードルが、あと一歩の所で風間選手を捉えられず、風間選手は一旦後退!そのお返しとばかりに、田村選手がサイコキネシスで小石を投げつける!』

『良い援護だ。お陰で風間選手は無事に撤退出来た。だが』

『ああっと!今度は田村選手の両手が土まみれだ!前に出すぎてクマ選手のソイルキネシスに捕まってしまった!』

『サイコキネシスの練度がもう少し高ければ、距離を取った援護が出来るのだが、惜しい事だ』


『ここで無情にもブルー選手のアイスニードルが田村選手を刈り取る!下村選手がアクアキネシスの盾を貼るが、そんなもの関係ないと、盾を凍らせながらの力技!』

『流石はAランク。Dランクでは太刀打ち出来ない』


『しかし、諦めない豪風ファイターズ!風間選手が再度突入する!今度は随分とジグザグとした動きですね!』

『経路を悟らせない事で、土トラップとアイスニードル両方に対応出来る良い手だ』

『流石は大会経路が豊富なチームです。オメンジャーズはなにか手があるの…ええっ!?ま、またもや風間選手がダウン!なんだ?さっきのコケ方とは少し違うぞ!?』

『仰向けに倒れたな。何か頭に当たったか?何も無かった様に見えたが…何か割れる様な音も聞こえたし…なんだ?恵比寿選手の異能力か?』

『2度も転倒させられた風間選手、流石に今度は回避出来ません!ブルー選手のアイスニードルで戦闘不能!残った下村選手は勝てないと判断して棄権です!』


「「「わぁああああ!!!」」」

「ブルーちゃん素敵!私のお婿さんになってぇえ!」

「クマちゃんも凄いわ!私の息子になって欲しいぃい!」

「恵比寿ちゃんも頑張ってぇ!」


『棄権は仕方ない。上位互換のクリオキネシスが相手にいるのだ。むしろ冷静な判断をした下村選手を私は称えたい』

『これでオメンジャーズが3回戦進出!新進気鋭のこのチーム、何処まで登りつめるのか!?期待が募りますね!』

『ブルー選手の能力は言わずもがな、クマ選手の纏わり付くソイルキネシスは厄介だ。あの幼い容姿とは裏腹に、恐ろしい程の可能性を秘めているぞ。それに、まだ恵比寿選手の異能力が明らかではないし、勝ち続けるポテンシャルは十分にあるだろう』

『期待大ですね!さて、続いての試合は…』


〈◆〉


「………」

「………」

「………」


2回戦が大方終了し、これから3回戦が始まると言った時。蔵人達の待合室では、とても安らかな沈黙が支配していた。


「…くーちゃん、これ」

「しっ」


蔵人は慶太に向かって人差し指を真っ直ぐに立てて、口を紡ぐ様にジェスチャーする。


「柳さん。お願いします」


蔵人は静かな声で、後ろに控えていた柳さんに頭を下げる。彼女も、心得たとばかりに頷く。

そして、ひっそりと柳さんに抱き抱えられながら退場するのは、柳さんの肩に小さな頭を乗せる頼人であった。彼の寝顔は、とても安らかであった。

2人の後ろ姿を、ただジッとと見送る蔵人と慶太。


「…まぁ、あれだけ異能力を使って、控え室ではしゃいでたら、こうなるわな」


魔力切れよりも、体力切れが先に来るとは。

幼さ故の敗北だなと、蔵人は苦笑いを浮かべる。


「んーんー!んんんん?」


慶太が何か言っている。

うん?なんでクマの口押さえながら喋っているんだ?ああ、そうか。


「もう静かにしなくていいよ」


蔵人の指令を、律儀にずっと守っていたみたいだ。息まで止めないで良いのに。


「ぷはぁーっ!ねぇ、くーちゃん。次の試合どうする?」

「…そうだな」


次の試合。

このチーム戦は3対3がルールだ。だが、それは最大人数の話であって、別に2人でも1人でも参加する事は可能だ。

現に、今大会でも2人で参加しているチームが2組いる。そして、3人チームが1人2人欠けた状態で戦っても問題ない。公式戦でも、魔力温存の為にあえて1人を休ませて戦う事もあるのだとか。

ある意味、戦術である。

そう、慶太は次の試合を、2人だけで出るかどうかを蔵人に聞いているのだ。


「慶太はどう思っている?もっとやりたい?」


思えば、半強制で連れてきてしまった慶太だ。元々優しい性格の彼に、無理やり試合をさせる必要は無い。

頼人も、心の底から楽しかったから、あれだけはしゃぎ、疲れて眠ってしまったのだろう。大会に参加した意義は、十二分に達成したと言える。

だが、


「くーちゃんがやるなら…オイラもまだ戦いたい!」


慶太は薄目を開いて、キラキラした瞳で蔵人を見返す。


「そうか。よし、分かった!」


彼のハッキリとした意志に、蔵人は力強く頷く。

いつの間にか、眠れる獅子を呼び起こしてしまったのかもしれない。


「次の試合、相手は明らかな格上だ」


Cランク1人、Bランク2人。大学生と高校生のチームで、実績もあるらしい。勝てる見込みは限りなくゼロに等しい。

それでも、


「行くぞ!クマ。ブルーの分まで」

「おー!じゃなくて…クマ~!!」


参加選手が殆ど居なくなった控え室で、2人の掛け声だけが小さく響く。




熱気を感じる。

観客達の熱意が、ここまで伝わって来ているのではと錯覚を覚える程の熱量。スタジアムに集まった観客の視線と声援がこれでもかと降り注ぐ中で、蔵人は自然体で立っていた。

この格好が1番良い。疲れにくいし、程よい緊張が保たれる。


観客席を見回すと、人の壁が蠢いているように見える。

前後左右、何処も観客でいっぱいだ。蔵人が立っている芝生のフィールドは、サッカーコート並みに大きいので、この会場の収容人数は計り知れる。

ざっと、3,4万人と言ったところか。…凄いな。


蔵人が観客達に圧倒されている中、慶太は彼女達から求められるままに、手を振って答えている。

そら、また黄色い声が「可愛いぃいい」を連呼した。

あまり試合前に体力を使うなよ。頼人の様になるぞ。


『さぁ、次の試合は、神凪(かんなぎ)選手率いるチーム雷華と、新進気鋭のチーム、オメンジャーズ…なのですが、オメンジャーズのブルー選手が、なんと欠場です』


「「「ええぇぇえっ!!?」」」

「ブルーちゃんいないのぉ!?」

「ブルーちゃん見に来たのにぃ…」

「だったら帰りなさいよ!私はクマちゃんを見に来たのよ!」

「嫌よ!私もクマちゃん見ることにしたもん!」


『観客席からどよめきが起こっております。一体何があったのでしょう?チームリーダーの恵比寿選手に聞いてみましょう』


そう言われて、蔵人の前に1人の女性が唐突に現れた。

テレポートしてきた様子だ。

そのマイクを蔵人に差し出すので、受け取ってマイクのonを確認する蔵人。


『え~、すみません。らぃ…、ブルーは体力の限界が来ましたので、撤退致しました』


危ねぇ!今、本名言いそうになった!

蔵人の鼓動が、マイクに伝わるのではと思う程、強く刻まれる。


「「「ええっ!?」」」

「ブルーくん大丈夫!?」

「何があったの!?」


観客は、そのことに一切気付いた様子もなかったが、余計に心配をかけてしまった様だ。

出来れば詳細は濁して、頼人の尊厳を守りたかった。だが、これだけ頼人を慕っている人達に、心配をかけたままは不味いだろう。

蔵人は再度、マイクで観客に呼び掛ける。


『え~、ご心配には及びません。ブルーは戦い疲れて休眠に入ってしまっただけです。戦士の休息、という奴です。お騒がせして申し訳ない』


「「ああ~!」」

「良かった~!」

「寝ちゃったのね!ブルーちゃん可愛い!」

「えびす君すごいしっかりしてる~!」

「社会人みたーい!可愛いぃ!」


何?社会人が可愛い?どういうこと?

まぁ、誤解が解けたみたいなので良しとしよう。

蔵人はマイクをテレポーターに返して、対戦相手に向き直る。


『恵比寿選手、ありがとうございました。まだ小さいのに凄くしっかりとした説明でした。是非とも将来の選択肢に実況者を入れて頂きたいものです。と、私の願望は置いておいて、今、主審がフィールド入りしました!いよいよ3回戦開始です。前大会3位のチーム雷華。Bランクの林選手に代わって、Cランクの神凪選手の妹、咲々音(ささね)選手が入ったが、それがどう出るか』

『咲々音選手もいい動きをする。今回は3位以上を狙える可能もある』

『そして、Aランクのブルー選手が欠場となったオメンジャーズ。Dランク2人となった今、どのように戦うのか?』

『2人ともとてもいい物を持っていると私は思う。落ち着いて、精一杯の力を魅せて欲しい』


「頑張れ!オメンジャーズ!」

「えびすちゃん!勝ってぇ!」

「「クマちゃ~ん!」」

「ほいほ~い♩︎」


クマへの声援で、慶太が手を挙げてぴょんぴょんする。


「「「「きゃぁぁぁ!!可愛いぃぃいい!!!」」」」


す、凄まじい声援だ。耳が痛い。

しかし、慶太のお陰で観客席は完全ホームだ。相手が可哀想になるくらい、チーム雷華への声援は掻き消えている。

慶太も、あまりの声援にびっくりしている。

嬉しくて、つい飛んでしまったのだろうけど、ちょっとは計算して動いて欲しい。観客のお姉様方は最早、お前の応援団だぞ?

ここで俺もぴょんぴょんしたら更なる追い討ちに?いやいや、逆効果でしかない。


「クマ、そろそろだぞ」

「了解クマ」


蔵人の声に、慶太が構える。

主審のフラッグが、今、


「試合、かいしッ!」


降りた!

だが、相手は攻めてこない。

それどころか、


『おおっと、これは、どういう事でしょうか?咲々音選手だけが前に出て、神凪選手と本山選手が壁際まで下がったぞ』

『恐らく、咲々音選手だけ相手するということだろう。Dランクの、それも子供相手だ。3人で寄ってたかっては色々と不味い』

『なんと、そういう事でしたか。これはチャンスだ、オメンジャーズ!』


そうだな。これは良い状況。最悪、速攻で沈められると思ったが、これなら少しは戦えそうだ。


「いけぇ!オメンジャーズ!」

「勝ってぇ!お願い!」

「くーま、くーま、くーま」

「「「くーま、くーま、くーま!!」」」


やばい。1人がクマコールを始めると、吊られた観客達が合唱し始め、すごい事になってきた。

女子高生の咲々音選手が、若干泣きそうになってるよ。可哀想に。

だが、これはチャンスだ。

蔵人は、走り出しながら声を上げる。


「クマ、目潰しだ!」

「クマ!」


『恵比寿選手が前に出た!なかなか速いぞ!おっとぉ!咲々音選手の顔面が土で覆われた!クマ選手のソイルキネシスだ!』


「「「きゃぁぁぁ!!クマちゃ~ん!!」」」


『だが直ぐに、風で吹き飛ばされてしまった!咲々音選手のエアロキネシスの前には、クマ選手の異能力は相性が悪いのか!?』

『確かに、攻撃する上ではそうだが、これは陽動。時間稼ぎには十分だったみたいだ』


『恵比寿選手の蹴り炸裂!土を払っている隙の一撃ぃい!?マトモにお腹に喰らった咲々音選手、身体がくの字に折れる!これが幼児の攻撃なのか!?』

『いや、強すぎる。身体強化(ブースト)か?いや、それにしては…うん?何か手の裏に付いて…』

『ここで堪らず咲々音選手、後退!エアロキネシス噴射で一気に距離を開ける』

『エアロキネシス使いは、風を噴出することで移動がし易く、試合の流れをコントロール出来る。オメンジャーズは、これをどう攻略するかが鍵…』

『って、ええっ!?』


「ええ!?」


解説の声と、咲々音選手の声が、蔵人の耳に重なる。

そう、逃げたはずの咲々音選手の目の前に、既に蔵人がいたのだ。

怪しく輝く、蔵人の黒い瞳。


「逃がさん」

「くっ!」


『どういう事でしょう!?咲々音選手は10m以上距離を空けた筈です。それを、一瞬で追いついた恵比寿選手。やはりブーストなのでしょうか?』

『…う~ん』


『恵比寿選手の蹴り!今度は避ける咲々音選手!お返しとばかりの刀の斬撃だ!これは咲々音のエアカッター!普通の斬撃より射程は圧倒的に長い、が、あれ?』

『防がれたな。鈍色の…スチールシールド?そうか、そういう事か!』

『何か分かったのですか?乱舞さん』

『恵比寿選手の蹴り、あれはシールドバッシュだ』

『えっ?シールドバッシュって、盾で相手を殴るあれですか?でも蹴りですよ?』

『クリエイターは武器を自在に創り出す能力だが、練習すれば宙に浮かせたり、自在に操れる者もいる。あれはその応用で、足の甲に貼り付けた盾を高速で移動させ、蹴りの勢いを補助しているのだろう』


解説者さん、その通り。

ちなみに、先程の高速移動も、足裏に盾を貼り付けて高速移動させただけ。これなら時速30km…つまり、10mを1秒ちょいで詰められる。


『ええ、そんな事出来るんですか?私の周りでクリエイターって、武器創って皆に配る人ってイメージしかありません』

『……熟練度の高いクリエイターなら、武器を複数操って攻撃もするぞ。剣で"乱舞"したり』

『えっ?あ!ご、ごめんなさい。乱舞さんって、クリエイトウエポンでしたね。私、すっかり…』

『それはいい。それより実況』


『えっ、ああ!すみません!試合に動きがありました!両者睨み合いから、今は激しい攻防を繰り広げております!恵比寿選手の蹴り!突き!躱す咲々音選手はお返しにエアカッターを付与した鋭い斬撃を返す!だが、盾で弾かれる!』

『盾は受け流しているな。正面で受け止めると吹き飛ばされて、テンポロスも魔力消費も大きい。そもそもDランクの盾では、Cランクの攻撃は一発を受けきれるかどうかの強度しかない。故に受け流す。いい選択だが、相当の技術が必要だ』


『そうなんですか?恵比寿選手は難なく防いでいる様に見えますが…おっと、どうした?咲々音選手の斬撃に、鈍りが!』

『クマだ!咲々音の腕に土が付いている!土の重さで斬撃を鈍らせた。これは不味い』


『ああっと!恵比寿選手は見逃さない!咲々音選手の横っ腹にリバーブローがめり込む!堪らない!咲々音選手がよろめきながら逃げだ…逃がさない!恵比寿選手が咲々音選手をピッタリとマーク。離れません!そして、恵比寿選手のアッパーカットぉお!入った!クリーンヒットぉ!咲々音選手の顎が上がるぅう!そして、今、咲々音選手が仰向けで倒れた!これは………うご、かない。立てない!決まったぁああ!!強制退場(ベイルアウト)だァ!!』


「「「「「どぁあああああああ!!!」」」」」


『歓声が、地響きの様にスタジアムを揺らすぅ!なんということでしょう!Dランクが、幼児が、Cランクを倒してしまったぁあ!』

『正にジャイアントキリング。決して咲々音選手の動きは悪くなかった。それでも、恵比寿選手の熟練した技と、クマ選手の絶妙な妨害が勝利を掴んだ』


「いいぞぉ!2人とも!この調子でBランクもぶっ倒せ!」

「行ける!行けるぞ!」

「エビちゃん!かっこいいぃ!!」

「クマちゃんもかっこいいよぉ!」


まるで試合が決した様に湧く会場に、蔵人は苦笑いを浮かべる。

やっと1人、それも残りのメンバーは更に魔力量が上位である2人を相手にするのだ。今の戦いは前哨戦と言っても良いだろう。

そう思って、気を引き締めている蔵人の頭上から、

悲鳴が降りかかった。


「クマちゃ~ん!こっち向い…きゃぁぁぁ!」

「「きゃぁぁぁ!」」


会場でクマへのラブコールが、悲鳴へと急変した。


なんだ?

後ろか!

慶太!?


蔵人が異常を感じて振り返ると、慶太が膝を付いて、前のめりで(うずくま)る所だった。


「お、おい!けい…クマ!しっかりしろ」


相手に背を向けてでも、慌てて駆け寄る蔵人。

咲々音選手は遠距離攻撃も持っていた。何か気付かぬ内に攻撃されていたのか?


「あ、くーちゃん」


しかし、慶太は蔵人が駆け寄ると、少し間の抜けた声で笑い返してきた。


「どうした?攻撃を受けたのか?」

「んーん~。違うよ。ちょっとオイラも…ふぁ、ふぁぁあ…」


慶太はそう言うと、大きな欠伸をした様子だった。お面付けているから、恐らくだけど。

なるほど。体力切れか。

蔵人は念の為、慶太の身体を触診したが、出血等はなかった。

多分、よく動いた事で体力を使い、かなり遠距離からの異能力使用で集中力も使ったのだろう。

蔵人は戦友の肩に手を乗せ、頷き返した。


「お疲れ様。凄かったぞ。最後のアシストなんて特にな」

「ん~。そう?オイラ夢中で。う~、ごめん。オイラ、もう…くーちゃん1人に、させちゃうね?」


慶太は蔵人に支えられながら、こくこくと頭が落ちそうになっている。

そんな状態でも、蔵人を1人残す事に心配している慶太だった。

蔵人は、心が温かくなるのを感じる。


「安心しな。俺1人でも、最後まで足掻くさ」

「ん~、くーちゃん、なら、かてる、よぉ…」


そう言いながら、慶太は力尽きた。

本当に限界まで戦ってくれたのだろう。お疲れ様。

蔵人は、慶太を入り口まで運んでやろうと立ち上がる。すると、次の瞬間、蔵人の目の前に20代くらいの男性が現れた。

突然の事に驚く蔵人。

だが、その男性の胸には、STAFFの文字が浮いていた。

ああ、なるほど。これがテレポーターか。本当に一瞬で出現した。

男性が、若干強張った笑顔で両手を差し出してくる。


「お疲れ様。男の子なのに、よく頑張ったよ。僕、凄く感動しちゃってさ。さぁ、こっちに来て、私の手に捕まって。医務室まで飛んで行くよ」


『どうやらチームオメンジャーズ、ここまでの様です。幼いながらも巧みな技を繰り広げ、実に素晴らしい戦いを魅せてくれました!』

『特に今の戦闘は目を見張った。魔力も体力も経験も上の人間に、異能力の使い方を工夫して挑み、見事に勝利した。それに連携も見事。彼ら3人の成長がとても楽しみだと、私も、この会場の誰もが思った事だろう』


うん?なんだ?俺もリタイアすると思われているみたいだな。

蔵人は男性テレポーターに慶太を渡すと、壁際の2人の元へと歩みを向ける。

蔵人が来ないことに、目を見張る男性。


「えっ?き、きみ?まさか、まだ戦うってのかい?」

「ええ。すみませんが、その子をお願いします」


慶太に託された思い。無駄には出来ない。

蔵人が男性に振り向いて頭を下げると、男性は少し戸惑いながらも、大きく頷いた。


「そ、そうか。うん、分かった。頑張ってな!」


そう言った次の瞬間には、2人の姿は掻き消えていた。

蔵人は止めた歩みを、再び向ける。

蔵人を待つ、2人の強敵に。


『こ、これは!まだ恵比寿選手の炎は消えていない!試合続行か!?』

『どうやらその様だ。最後まで力を尽くそうとするその姿勢。素晴らしい。同じクリエイターとして誇らしく思うよ』


「うぉおおお!マジかよ!」

「だ、大丈夫なの!?1人で…」

「えびすぅう!お前は漢だぁ!」

「エビちゃ~ん!勝ってぇ!」

「怪我しないでね!」


蔵人は立ち止まる。2人との距離は10mちょっと。試合開始がこれくらいの距離だったからな。

さぁ、始めよう。ここからが、ラウンド2だ。

ようやく本格的な戦闘が始まりましたね。

しかし、相手はBランク。1ランク違うだけで世界が違うのであれば、2ランク違いは次元が違う。

果たして、五体満足で試合を終えられるのでしょうか…?


イノセスメモ:

・チーム戦は、欠員があっても出場できる。

・ランクが上の者を倒した場合、”ジャイアントキリング(GK)”と呼ばれる。

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