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9話〜お前への餞別だ〜

何時もお読みいただき、ありがとうございます。

遅ればせながら…

※本書はパラレルワールドであり、実際の人物、団体とは一切関係がございません。文章中に似たような団体があると思われても、全く別の組織です。ご了承下さい。

冬。年が明けた清々しい朝。

現在の蔵人は6歳となっており、幼稚園の年長さんであった。来年は小学生である。

そう、まだ小学生の手前である。


この世界に来てから既に6年余り。しかし、未だにこの世界のバグが何かを把握するどころか、その予兆すら掴むことが出来ていなかった。

勿論、テレビや雑誌での情報収集は欠かしていないが、それには限界がある。あれらの情報はメディアを通してしまう分、大衆が受け取りやすいように加工されてしまっている。この世界を壊すレベルのバグであれば、偉い人達が隠してしまう。


とは言え、今の蔵人に出来ることは、力を付けることだけであった。バグを殲滅するにせよ、金を稼ぐにせよ、人脈を作るにせよ、元手となるのは己の技術だ。努力は必ず、後々に役に立つものだから。


そんな決意を胸に抱いていた蔵人は今、柳さんの運転で、巻島家の新年会へと赴いている最中であった。

今年もまた、母親(あいつ)は仮病を使って頼人と共に雲隠れ中である。

まぁ、本家から来る招待状には、もう何年も前から蔵人の名前が直接書かれているので、巻島本家も母親を呼び出すのを諦めた様子だった。

少なくとも、新年会に招くという事においては、であるが。


「蔵人様。着きました」

「何時もありがとうございます、柳さん」


いつも通り、柳さんが送り迎えをしてくれている。


「それでは、行ってらっしゃいませ」

「はい。お迎えよろしくお願いします」


蔵人は、再度車に乗り込む柳さんにお辞儀して、踵を返して正門へと進む。

一昨年から、蔵人は1人で新年会に赴くようになった。柳さんは参加すると言ってくれたが、巻島家以外の人間が参加するのを、巻島本家の方々はあまりよく思っていないみたいであった。

毎回、蔵人が宴会に参加している間、柳さんはずっと寒い廊下で立たされていたのだ。それはとても心苦しいので、新年会が終わるまでは特区の観光でもしていて欲しいと、蔵人から願い出たのだった。



さて、6歳になった蔵人だったが、この間の修行で、大きく成果が出ていた。


先ず、魔力量について。

頼人の協力も得ることが出来て、今では鉄盾を15枚まで生成可能となっていた。そして、鉄盾を10枚を合成することで、より分厚く、大人1人を余裕で隠せる巨大鉄盾が生成可能であることが分かった。

今は、アクリル板から鉄盾が生成されたように、鉄盾の更なる上位盾が生成出来ないか試行錯誤中である。


次に、魔力制御について。

速度は、鉄盾なら原付並みまで出せるようになっていた。また、重量は、蔵人の体重なら、高さ10mくらいまで持ち上げられる。なので、鉄盾に乗れば、人間離れした速度で走る事も可能となっていた。

アクリル板だと、その半分程度の出力である。蔵人を乗せた状態で、自転車並の速度を出せる。


最近の訓練内容としては、魔力操作等の基礎訓練に加えて、盾の早出し、盾の高速移動、盾の重量上げ、盾の同時操作を行い、最後に全身に龍鱗を纏わせて動くと言った流れを日々繰り返していた。。

その結果、龍鱗を全身に纏わせても、普通の歩行とゆっくりな空手の型を演舞するくらいは出来る様になった。

まだ実戦で使えるレベルでは無いが、拳だけ、足だけに纏わせて戦うなら、そこそこ戦えるのでは?と蔵人は自負していた。


そう、あくまで主観での感想だ。そこで終わっている理由は、なかなか実戦経験を積めていないから。

偶に、慶太や頼人と模擬戦を行う事もあるが、それは頼人達が異能力を使いこなせる様にする為の訓練であり、蔵人はただ盾で的になってやっているだけである。とても、自身の技が通用するか試す段階ではなかった。


出来るなら、今回の宴会後に、流子さんや蒼波さんに揉んで貰えたら嬉しいと考えていた蔵人だったが、それも無理そうだ。何せ、あの演目はあくまで"巻島家"の演目で、巻島家の直系でも、その門下生でもない蔵人がしゃしゃり出る訳にも行かないらしい。



そんな事を考えていると、いつの間にか御当主様へのご挨拶となっていた。蔵人は、恒例となってしまった流子さん達と一緒の挨拶を行う。

ご当主様へ深々と伏礼を行い、頭を上げると、氷雨様の冷たい目とかち合った。何時もは殆どこちらを見向きもしない氷雨様が、蔵人に向かって言葉をかける。


「お前の兄に伝えておけ。今年の春までに、準備を整えておけと」


掛けたのは、そのたった一言。

言い終わると、直ぐに蔵人を視界から外している氷雨様。

春までに。

それは、つまり…


「あら、頼人君を本家に召し上げるつもり?姉さん」


流子さんの問に、氷雨様は鼻で笑う。


「元々、Aランクが特区の外で遊んでいる事がおかしい。ただでさえ巻島は、日本は他国より出遅れていると言うのに」


出遅れと言うのは、強力な異能力者の輩出率を言っているのだろう。毎年、年初の挨拶で懸念を表明している氷雨様だからね。


「姉さんだけ狡いですわね。それでしたら、私は蔵人君を召し上げても文句はありませんよね?」


流子さんは、そう言ってその豊満な胸の中に蔵人の肩を埋もれさせる。

蔵人は眉をひそめる。

何を戯言を。お姉さんに対抗する為の買い言葉とはいえ、それは無理がある。


「何を世迷言を。それはDランクですらないのだろう?」


案の定、今度は嘲笑混じりの溜息を吐きながら、氷雨様が冷たく言い放つ。

彼女の言う通りだ。Dランク以下の魔力量では、特区への永住権はそうそう得られない。数日間だけの入場は出来るが、繰り返しとなると、それ相応の理由とコネが必要らしいし。クリエイトシールドのEランクとなれば、永住権は夢のまた夢である。

勿論、流子さんもそれはご存じだ。ご存じなのに、余裕の笑みを浮かべる。


「ええ、分かっているわ。もしよ。もしの話」

「……もし、なんだ?」


氷雨様が怪訝な顔を流子さんへ向けると、流子さんは口元を扇子で隠しながら、笑う。


「もしもこの子が、Cランクの魔力を身につけたらの話よ」


そう言って笑う流子さんに、氷雨様はとうとう呆れた顔を返すだけになってしまった。




「…という訳で、頼人は小学校から特区の学校に通う可能性がとても高い」


新年会が終わり、家に帰ってきた蔵人は、早々に頼人を呼んでそう言った。

兄に言っておけと仰せつかったので、蔵人は頼人に事の顛末を伝える。

あの教室凍らせ事件以来「何時かは特区に行くかもしれないぞ?」と言い含めていた蔵人だった。だが、実際に時期が決まると、頼人がどんな反応を見せるか少々不安で、何時でも龍鱗を纏う準備をしていた。


「うん。わかった。にぃちゃんは、いつ来るの?」


だが、思いの外、彼の反応は薄かった。

少し肩透かしを食らい、龍燐の準備を解きながら、蔵人は答える。


「まぁ、直ぐには行けないな」


今の魔力量がどれくらいか測ってないので、確かな事は言えない。でも、テレビ等で放映されている異能力戦を見ていると、まだCランクには達していないと思う。Cランクのクリエイターは、鉄盾よりもキラキラした武器を幾つも作り出していた。

まぁ、その異能力者はクリエイトシールドでは無く、クリエイトウェポンだったのだが。


「そうなんだ…」


蔵人の答えを聞いて、急に落ち込む頼人。泣き出したりはしないが、可哀そうなくらいに肩を落としてしまっている。

そんな頼人の肩を、やさしく叩く蔵人。


「まぁ、そんな顔するな。聞いた話、小学生からは異能力測定も毎年するらしいし、早ければ1、2年でそっちに行くかもしれないぞ。何せCランクに上がったら、巻島スクールの師範が俺の先生になってくれるらしいからね。そうなれば上達も早いだろう」


そう。小学生からは頻繁に魔力測定も実施され、異能力を使った授業等も始まるらしい。もう、能力熱等を怖がらなくていい歳になったと言うことだろう。


「1、2ねん!?うん!わかった!」


蔵人の思案を聞いて、頼人の顔が一気に晴れる。

あれ?何か早とちりをさせてしまったぞ。マズい、マズい。


「ちょっと待て。それは早くてだ。下手すりゃ、中学卒業まで上がらんかもしれないぞ」


それどころか、結局Cランクまで上がらない可能性もある。

まぁそうなったら、Dランクの大会で優勝し、飛び級でCランクの大会に出て成績を残すしかない。それで特区に入る人もいるらしいから、最悪はそこを目指す。かなり狭き厳しい門らしいが。


「ちゅうがく?」


頼人が頭をコテンっと傾げる。

そうか、幼稚園生では、小学生から先の人生が見えていないのか。


「ああ、俺達が15歳くらい…つまり8年強だな。それくらいかかる…」


8年と具体的な数字を出した瞬間、再びどんよりと顔を曇らせる頼人。

蔵人は慌てて、言葉を繋ぐ。


「まぁ、それは最悪だ。俺も頑張るし、もっと早く入れるように努力するよ」

「……ぅん……」


ああダメだ。めっちゃ落ち込んでしまった。

蔵人は考え、閃く。

仕方ない。あれを出すか。


「頼人。お前が特区に行く前に、一つ、盛大に遊ばないか?」

「…ぁそび?」


涙がいっぱい溜まった瞳を上げた頼人に、蔵人は三日月のような笑みを浮かべる。


「ああ、とても楽しい、お前への餞別だ」




それから数日後。

ひだまり幼稚園。


「かしわレアルたいかい?」


慶太の疑念マシマシの声が教室の中で響き、蔵人は再度、三日月の笑みで頷く。


「そう。柏レアル大会。特区外で行われる大会の中では、最大級の異能力バトルフェスだ。横浜マリアン大会や、川崎フロスト大会の方が有名だし、そのまま特区への大会出場権なんかも付いて来るんだが、柏レアルにはアンリミテッドルールが適用されるんだ」


息巻く蔵人に対し、慶太は目をしょぼしょぼさせて、理解が出来ないと訴えている。

うん。そりゃそうだ。自分だって先日、蒼波さんから聞いた時は同じ反応をしていたものだ。

蔵人は頼人にしたように、慶太にも説明を行う。


異能力を競う大会は、ランク毎、年齢毎に別れており、Dランク以下の大会は殆ど特区外で行われる。

だが、Cランクから上の大会は全て特区で行われるので、特区外に住んでいるCランク以上の人達は、大会に参加し辛くなってしまう。


それを避けたい政府は、特例として一部の大型大会で、ランクも年齢も厳しく問わないアンリミテッドルールを採用することもあるのだ。

勿論、それに勝ったからと言って、公式戦のように全国へ行けたり、特区への永住権を獲得出来たりはしない。

それでも、国からしたら埋もれた原石を掘り起こす事が出来るし、特区外の人間達からしたら、特区並に盛り上がる大会を開くことで、特区に対する鬱憤を晴らすことが出来る。

特区と特区外では、娯楽のレベルが大きく違うらしいから。


柏レアルのアンリミテッドは、その中でも特に制限が緩い。重犯罪経歴を持たない限り、ランク、年齢、国籍なんかも不問となっている。

但し、15歳以下の参加者は保護者の了解が必要となっているので、この問題は柳さんにお願いしている。


「出場するのは、3人1組のチーム戦を考えている。頼人が来年から特区入りしちゃうからさ、その前に俺達の実力を試してみようと思ってね」


ちなみに、異能力バトルには1対1のシングル戦、3対3のチーム戦、5対5のセクション戦がある。

今回は、頼人も慶太もシングルで戦い抜く実力が付いていないと思い、チーム戦を提案した。これなら、個人で足りない所を、チームで補えばいい。

慶太は、ほけーっとした顔をしていたが、蔵人が力強く説明すると、うんうんと頷いた。


「うん、いいね。やろう!…ってか、らーちゃんも特区いっちゃうの!?」


そして、蔵人の言葉を咀嚼しきれた所で、薄かった目を見開いて驚く慶太。


「もしかして、くーちゃんも…?」


亮介も特区入りして、身近な友達の半分が特区へ行っているから、慶太は心底心配している様子だった。

蔵人は慶太を安心させるため、少し大げさに手を振る。


「ないない。俺はEランクだぞ?」


特区入りする人間なんて本当に稀だ。頼人の様に、能力が元々あって特区へ"戻る"ならいざ知れず。


「寧ろ、慶太の方が可能性ありだ。今Dランクで、まだ伸びてるんだろ?」


可能性は十二分にある。なんせ、危険と言われている幼少時での能力開発だ。蔵人と一緒でまだまだ伸びるだろう。

勿論、慶太にも亮介にも、魔力循環を会得させてから異能力訓練を行っているので、能力熱が出る予兆も見られない。しっかりと魔力の扱いを習得している者には無縁の話なのだと思う。


「そうだよ!」


いきなり頼人が叫び出した。

おいおいどうした?


「けーちゃんも一緒にとっくへ行こうよ!」

「へぇ?」


頼人に手を取られて、慶太が首を傾げる。


「にぃちゃんと一緒にランク上げて、とっくに来てよ!」

「ええっ!?そんな、とっくなんて、オイラにはムリだよ〜!」


目を白黒させる慶太に、頼人が笑顔で迫る。

何はともあれ、頼人が元気になってくれて良かった。




それから、大会が開かれるまでの2ヶ月間、蔵人達は各々の能力開発は程々に、3人の連携を中心に練習を行った。

特に、慶太との訓練時間は幼稚園の中だけだったので、念入りに連携の確認を行う。

その為、彼個人の技能向上までは手が出にくくなっていた。

もっと集中的に訓練できる時間を取りたかったが、稀にお泊まり会を3人で開いて訓練出来ても、そ

の機会は多くなかった。なにせ母親(あいつ)が頼人をなかなか手放そうとしないからだ。 


余談だが、頼人の特区招集について、母親には一切話していない。もしも話せば、頼人に何をするか分からない。下手すると、2人で夜逃げする恐れもある。

頼人の為の大会までの残り時間、あいつに邪魔される訳には行かない。それを柳さんに陳情した所、大会が終わるまでは黙っていてくれる事となった。

本当に、柳さんには頭が上がらない。この人が本当の母親だったらと、蔵人は本気で悔いていた。


「よし、頼人。慶太が攻撃した後、直ぐにアイスニードルだぞ。慶太、よろしく!」

「あいよ!石ぽいぽい!」


慶太の異能力を蔵人が盾で受ける。牽制には上出来だ。

大会では、慶太は撹乱と妨害の役割を担って貰うつもりなので、これで十分である。


「良い攻撃だ!次、頼人!」

「うん。あいすにーど〜!」


頼人のアイスニードルが、5m向こうに設置した盾に、バシバシと当たって小気味いい音を奏でる。

うん。ここからでも何とか盾の操作が出来る様になってきている。アイスニードルの威力も、鉄盾に刺さるレベルだ。…いや、貫通して盾が消えてしまった。素晴らしいぞ。


「良い威力だ!後は精度と、発射までの時間を短縮させよう」

「うん!」


嬉しそうに頷く頼人。

しかし、やはり鉄盾の強度は高くない。Cランク以上の攻撃は、受けるよりも受け流す方が良さそうだ。


「そうなると、頼人達の立ち位置は、もっと内側に寄らせないとダメか。でもな、そうなると射線が確保出来なくなるぞ?う〜ん…」


蔵人が考えモードに移行する。

すると、頼人達は顔を見合わせて笑い、蔵人から少し離れて別の練習を始めた。

訓練の構築も、3人は連携が取れる様になっていた。

主人公の魔力量と技量は、着実に上がっていっているのですね。

まだCランクの域には到達していない様ですが。


イノセスメモ:

・異能力戦には参加条件が一部緩和されるアンリミテッドルールが存在する。

・異能力戦の種類には、1対1のシングル戦、3対3のチーム戦、5対5のセクション戦が存在する(現在までに分かっている範囲では)

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