124話~プランなんて聞いてないです!~
ご覧いただき、ありがとうございます。
新章、激闘篇のスタートです。
「名前からして、戦闘メインと考えていいんだな?」
いいんです。
様々な想いが入り組んだ、大会出場校発表の日から3日。
今日は、全国大会への出立の日である。
朝日が顔を出し始めたばかりの時間帯。
蔵人は大きな荷物を盾に乗せて、玄関で靴を履いていた。
「では柳さん、行ってきますね」
立ち上がり、こちらに心配そうな顔を向けている女性に向かって、蔵人は微笑む。
だが、そうしても、彼女の表情は晴れない。
「蔵人様、くれぐれもご注意下さいませ。大阪特区は東京よりも女性の割合が高いと聞きます。つまりそれだけ性犯罪リスクが高まると言うことですから…」
「ええ。1人で出歩かない様に注意しますよ。何かあったら直ぐに電話する。そうでしたね?」
蔵人の返答に、柳さんは渋々頷く。
「私も、2回戦からは観戦に行きますし、皆さんが帰るまで区内のホテルに滞在しますので、それまでくれぐれも無茶はなさらないで下さい」
「分かりました。向こうで合流して、何か食べに行きましょう。串カツとか、有るんですかね?」
そもそも、大阪特区に新世界とかあるのかな?あったら食べ歩きをしたい。凄い久しぶりの大阪だ。
蔵人は、記憶の中の大阪名物に心を踊らせながら、ドアを開ける。
強い朝日と青い空が見える。
快晴。我々の旅立ちを祝うかのように。
蔵人は自身の背中に盾をくっ付ける。カブトムシの様な羽が浮力を生み出し、体を浮かせる。
「蔵人様。行ってらっしゃいませ」
深々と一礼する柳さんに、蔵人は敬礼した。
「巻島蔵人。ビッグゲームへ行って参ります」
検問を通り、通学コースを飛ぶ。
家を出た時は涼しい風が頬を撫でていたが、今では太陽も本気を出し始め、ジリジリと背中を焼きに来ている。
早いな。
史実の夏も、こんなに太陽の登るスピードが早かったっけ?
もしも天体の動きがバグっていたりしたら、俺ではどうしようもないぞ?
暑さでおかしな事を危惧し始めた蔵人。
その背中に向かって、自分を呼ぶ微かな声が聞こえた気がした。
警察かな?速度超過してない筈だけど?
蔵人が後ろを振り返ると、
誰もいなかった。
気のせいか?暑さで幻聴でも聞こえた?
いや。
気にせず突っ切ろうとも考えたが、とりあえず耳の盾を立てて、より広範囲の音を拾う。
…いた。
下から声が聞こえていた。
良く見てみると、足や背中から、火炎をロケットブーストしている女の子が、必死になってこちらに手を伸ばしていた。
「待って!君、ちょ、ちょっと、待ってよ!」
一生懸命に飛んでいる彼女を、蔵人は巡航速度を落として待つ事にした。
別に急いでいる訳じゃないからね。
早めに家を出れば、涼しい時間帯で通学出来る。
早く学校に着いた分、軽い練習が出来ると期待していただけだ。
「はー良かった。やっと追いついた」
そう言って、飛鳥井さんが額の汗を拭いながら、蔵人に笑顔を向けた。
笑顔が輝いていて眩しい。
蔵人は若干、目を細めた。
「朝が早いんですね、飛鳥井さん。部活か何かですか?」
「えっ?あっ、うん。そう、部活でね。じゃなくて!」
急に声を大きくする飛鳥井さん。
眉間にしわを寄せて怒っているみたいだけれど、あんまり怖くはない。どっちかと言うと可愛い。
西風さんタイプの子だ。
しかし、何に対して怒っているのだろうか?
「どうかしました?」
「名前!どうして私の名前を知ってるの?」
そりゃ、以前に一度戦ったし、なんならユニゾンの師匠だ。知っていて当然である。
なんて、言える訳が無いので、蔵人は笑って誤魔化す事にした。
「それは、飛鳥井さんは有名ですから。チーム戦期待のホープ。同年代として誇らしい限りです」
「…私達、そんなに有名じゃないよ?3年くらい前までは、特区の大会にも出たけど、最近だと、偶に特区外のアンリミに出るくらいで、後は海外のツーマンセル戦ばかり出ていたから。天隆のチーム部でも、私達を知っている人は少なかったよ?」
えっ、そうなの?
蔵人が苦悶の表情を浮かべると、それを白い目で見る飛鳥井さん。
これは、なんとかせねば。
「そうなのですね。僕は特区外のアンリミ大会も見た事があり、その時に貴女達の事を知ったのですよ」
3年前の横浜のアンリミでは相当有名だったので、蔵人はそう言って誤魔化した。
すると、
「えっ?君って特区の外にいたの?もしかしてDランク?」
興味が移ってくれたみたいで、目が輝き出す飛鳥井さん。
良かった。
蔵人は内心ホッとしながら、首を振る。
「いいえ。Cランクですよ。家が特区外にあるので、外の事に詳しいんです」
逆に特区の内側ことが疎くて、カルチャーショックに悩まされているんだけれどね。
蔵人が苦笑すると、飛鳥井さんも「そうなんだ」と1つ頷く。
よしよし。上手く話が流れた。
蔵人は内心で拳を握る。
「あっ、名前」
飛鳥井さんの質問が戻ってきた。
くそっ!回避したと思ったのに。戻ってきやがった!
そんなに重要か?自分の名前が何処から漏れたのかが。
重要だな。真名を握られたら、不死身のヴァンパイアだって消滅出来る。呪いにも使われる事もある。
蔵人が1人悶絶している中、飛鳥井さんは構わず続ける。
「あの、君の名前、教えてくれる?この前、私聞きそびれちゃって。ちゃんとお礼言いたいと思って、今日、君を追いかけちゃったの」
ごめんね、と、申し訳なさそうに笑う飛鳥井さん。
とても良い娘だ。
性格の良さがその笑顔に滲み出ている。
呪いだ、なんだと考えていた自分が恥ずかしいと、蔵人は内心で反省した。
「そうでしたか。名乗るのが遅れてすみません。巻島蔵人と言います。桜城の1年生です」
「巻島君だね!私は天隆1年の飛鳥井紅葉です。あの時は、本当にありがとうございました!あの日に遅刻しなかったのも、巻島君のお陰だよ」
飛びながら、蔵人の手を取ってお礼を言う飛鳥井さん。
彼女からは、純粋な感謝の気持ちだけを感じる。
「いえいえ。間に合ったようで良かったです」
「巻島君も、今から部活なの?」
飛鳥井さんの問に、蔵人は一瞬悩んでから答える。
「ええ、はい。部活、と言いますか、今から大会に向けて出立するんです」
「ええっ!大会?凄いね!部活は何部?飛行系異能力者だから、やっぱりフライング部?」
フライング部。そんなものが天隆にはあるのか。
驚きながらも、首を振る蔵人。
「ファランクス部です。13人対13人でやる異能力戦なんですけど、ご存知ですか?」
関東ではマイナーな異能力戦だから、もしかしたら知らないかもと思って聞いた蔵人だったが、それは杞憂だった。
目を輝かせた飛鳥井さんが、大きく頷く。
「勿論だよ!だって天隆では今、全国大会出場だって、みんな盛り上がってるもん。試合はテレビでもやるから、ソフィアちゃんと観ようって約束していて…」
急に、飛鳥井さんの言葉が尻すぼみになる。
彼女の目は大きく見開かれて、蔵人を見ていた。
「えっ、じゃあ、巻島君も、桜城も出るんだね?全国大会」
「ええ、そうです。桜城も関東大会ベスト5に入れましたから、僕も大阪まで行くんですよ。今から新幹線です」
態々、優勝したと言うのもどうかと思い、順位を濁した蔵人。
天隆より上だ!と自慢したなんて思われたくないからね。
「そうなんだね。全国大会…。桜城の先輩も頑張ったんだね。天隆の先輩達も、ユニフォームがボロボロで帰ってきたもん」
如月と戦った学校は、等しく大破しているだろう。
蔵人は同意する。
「ええ。全国大会出場が悲願でしたので、桜城の先輩方はみな、凄く喜んでいましたよ」
「そうだよね。天隆のチーム部も、最近は都大会止まりだから、先輩達凄く必死だよ。だから、全国大会出場って凄さがよく分かるよ」
目を瞑る飛鳥井さんは、本気でファランクスの成果を褒めてくれていた。
嬉しいものだ。
蔵人が感謝していると、彼女が目を開けて、笑顔を向けてきた。
「じゃあ、巻島君は先輩達のサポートをしに行くんだね?1年生だから、色々と雑務ばっかりで大変だよね」
やはり、天隆の部活動でも、1年生は雑用がメインになるみたいだ。
蔵人もファランクス部でなかったら、ずっと日の目を見ずに居たかもしれない。
「ええ。全力で先輩達をサポートして、先輩達が勝てるように頑張って来ます」
「巻島君が応援するなら、きっと桜城の先輩達も頑張れるよ!私も、桜城を応援してるね!」
ライバル校であるのに、応援してくれるのか。優しい娘だ。
「ありがとうございます」
そのまま暫く飛行し、蔵人達は天隆校の上空辺りまで来ていた。
「じゃあ、私はこっちだから。頑張ってね、巻島君。その…天隆と戦わない限り、応援してる!」
確かに。
蔵人はニヤリと笑い、頷く。
「飛鳥井さんも、部活頑張って!」
「ありがと!」
飛鳥井さんと別れ、学校へ到着した蔵人。
集合時間まで時間があったので、予定通り異能力の訓練をしていたら、気付いた時には先輩達が既に来ており、蔵人の個人技をマジマジと鑑賞していた。
来てたなら声掛けて下さいよ。
東京駅までは、予約していたバスで移動した。
鶴海さん曰く、関東大会の時と同じバス会社らしい。
本当に、鶴海さんって周りの事よく見ている人だ。
東京駅は、蔵人の記憶の中よりも数倍大きくて豪華だった。
駅に隣接しているステーションタワーなんて、見上げるのが大変なくらい高い。
新幹線は、記憶の中に姿そのままだった。
N700系のぞみが、新幹線乗り場に堂々と臥せっている。
「おお!かっちょええ!」
思わず、と言った声が上がる。
一瞬、鈴華が上げたのかと思ったが、伏見さんだった。
伏見さんは言葉にした後、子供っぽかったと思い直したのか、顔を少し赤くして下を向いていた。
別に良いんだけどな。中学生らしくて素直だ。
逆に鈴華は、旅に疲れたサラリーマンの様な瞳で、新幹線に視線を落としていた。
ああ、そうか。お嬢様な鈴華からしたら、乗り飽きているのか。
蔵人は1人、納得していた。
全員で同じ車両には乗れなかったみたいで、3両に別れて乗車する。
蔵人達1年生は部長と南先生と一緒だ。
1番手のかかる子供という位置づけなのだろう。
彼女達の予見、それは正解だった。
乗車早々に、問題児達が暴れまわる。
「ボス!揺れる車内で何処まで立っていられるか勝負しようぜ!片足立ちだかんな」
「鈴華、他のお客さん迷惑なるから止めなさい」
「カシラ!めっちゃ凄いで!外の風景がビュンビュン通り過ぎとる!ほら、あっ!富士や!富士山や!」
「伏見さん。分かった。うん。凄いね。分かるから、ちょっと声のボリューム落とそう。ね?」
「蔵人君、すごいよ〜。このジュース、飲むとなんか、僕の体が内側からポカポカしてくるんだよ〜」
「あぁあ!それはイカン!西風さん、その手の缶をこっちに頂戴。お金は立て替えるから、新しいジュース買ってあげるから!」
「…青春ね」
「鶴海さぁん?貴女もこっち来てぇ!」
車内はてんやわんやになっていた。
鶴海さんはのんびりとこちらを見ているだけだけど、是非とも手伝って頂きたい。と言うか、助けてくれ。
そもそも先生や部長は何しているんだと思ったら、普通に寝ていた。
そんなことをしていたから、新大阪駅に着いた時には、蔵人は爆睡していて部長に叩き起された。
「全く。これだから1年生は世話が焼けるわ」
やれやれと首を振る部長。
理不尽だ。
蔵人は部長の言葉に肩を落とす。
と、そんな事を考えた蔵人だったが、こうして学友と旅をするのは楽しかった。
久しぶりと言うのもあるし、大阪特区もかなり綺麗な所で、自然とテンションが上がった。
だが、そんな楽しい旅行気分はホテルに着くまでであった。
部長が連れて来てくれたホテルは、傍から見ても最高級のホテルの様相で、部員全員が飛び跳ねて喜んだ。
ロビーも豪華で、金ピカの調度品と噴水が目を引いた。
そんな中、みんなの幸福な時間が、
「えっ?予約が、無い?」
消し飛んだ。
ホテルのエントランスに入って、盾でみんなの荷物を輸送していた蔵人の耳に、部長の掠れた声が届いた。
「いえ、無いのではございません。当ホテルのお部屋の予約では無いプランをお申し込み頂いている状況でして」
ホテルの受付も、とても言いにくそうに、机の前で唖然としている部長の顔を見上げている。
部長も受付嬢も、額に汗が流れ出していた。
蔵人は気になったので、荷物は壁際に避難させて部長の横に歩み寄る。
部長の震える声が聞こえてくる。
「えっ?どういう事?プラン?私、確かに電話で宿の予約をしましたよね?!32人で9泊って。プランなんて聞いてないです!」
「いえ、ですので、お客様がご予約頂いたプランが…失礼ですが、代表者の方はいらっしゃいませんか?」
「私が代表者です!」
「いえ、その、引率の先生様などは…」
受付嬢もかなり困っているみたいで、先生に様を付け始めた。
ちなみに、南先生は別の宿を取っていて、そちらにチェックインしに行っている。
先生は、校長先生から引率のお願いをされたのが遅かったので、我々とは違う宿になってしまった。
本当は、同じホテルにしようとしたのだが、今はどこも満室で、先生の取った宿も、2日ごとに別のホテルや民宿に移動しないといけないらしい。
それくらい、今の大阪は混んでいる。
理由は言わずもがな、このファランクス全国大会のせいだ。
異能力の大会なだけあって、全国から観客が押し寄せている。
下手したら、他国からも来ているとか。
「ど、どうしよう、海麗〜」
とうとう部長が泣き出してしまった。
近くを通った海麗先輩に飛びつき、胸の中で泣いている。
何時もなら、ただイチャイチャしたいだけの行動と思われる部長だが、今回はガチみたいだ。
まぁ、仕方がない。部長はこう見えて、まだ中学生である。
ホテルの予約とか、慣れていないだろう。
それに加え、新幹線やバスの予約とか、全国大会への出場申請とか、学校への提出書類とか、全部1人でやっていたのだ。
そりゃ何かしらのミスがあっても仕方がない。
蔵人は抱き合う2人を隠す様にフロントの前に立ち、受付嬢と対面する。
「申し訳ありません。もう一度、プランの確認をさせて頂けないでしょうか?」
「え?あ、はぁ…」
なんか諦めた様な顔で見てくる受付嬢。
こんな男の子に話しても、みたいな顔しないでくれません?説明は、貴女のお仕事でしょう?
そうして、ぼちぼち話してくれた内容は、こうだった。
予約はこのホテルの部屋ではなく、提携しているキャンプ場の物だった。
そこはこのホテルの敷地内にあり、10人程が泊まれるコテージを3つ抑えているのだとか。
このコテージの欠点として、キッチンはあるけどお風呂がない。勿論ご飯は自炊となる。
要は素泊まりのちょっとアウトドアなプランを選んじゃったのね。素敵だと思うけどな。
蔵人は内心で喜びながら、受付嬢に視線を送る。
「そのプランに、今から朝食と夕食、それと入浴を付け加える事は出来ませんか?勿論、人数分です。料金が嵩むのは大丈夫…ですよね?」
蔵人は受付と交渉しながら、お金の面は大丈夫だよな?と不安になったので、後ろを向いて部長に問う。
部長は目を真っ赤にさせながら、ちょっとだけこっちを向いて…頷いた。
うん。そうだよね。だってこのプラン、ホテルの宿泊より断然安いんだもの。少しくらい追加しても足は出ない筈だ。
蔵人は、受付嬢に向き直る。
「如何でしょう?」
「ええっと…そうですね。当館の温泉へのご入浴は可能でございます。ですが、お食事は難しいかと。申し訳ございません。元々人数分の食材や食器、席しかご用意出来て居らず、現状繁忙期という面もございまして、当館のキャパシティでは食事の量を増やすことが難しい状態です」
まぁ、そうだろうね。
蔵人は社会人時代に出張した時の事を思い出しながら、その言葉を受け取った。
繁忙期だと食材の確保も難しいし、キャンセル待ちとかも望み薄だろう。
特に、こういうイベントで満室になっている場合、周辺のホテルからの融通も宛に出来ない。
下手にキャパシティ越えの客を入れてしまうと、他のお客様の迷惑にもなる。
この受付嬢の判断は正しい。
「分かりました。では、入浴だけ付けて下さい。キャンプ場の注意事項とかは、ここで聞いた方が良いですか?何処か他に受付あります?」
「キャンプ場へは、こちらのパンフレットをご覧下さい!ここに管理棟が御座いますので、そこで詳しい説明や、必要な道具の貸出なども行っております!」
急にハキハキしだした受付嬢。
うん。話が通る人間が出てきて、安心しているな、この娘。
受付嬢は「少々お待ちください!」と言って、何処かに電話を掛け始めた。
手元でめっちゃペンを走らせているな。予約の変更を手続きしてくれているみたいだ。
と言うか、パソコンじゃないんだな。時代を感じる。
「お待たせしました!32名様コテージ泊のご入浴付きで、ご予約変更させて頂きました!今回は私共の不手際が御座いました為、入浴プランへの変更で生じる費用は頂きません。申し訳御座いませんでした!」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
お、ラッキー。
元々入浴代など、たかが知れているだろうが、付けて貰えるのなら有難く頂こう。
「とんでも御座いません!また、キャンプ場の方からも、バーベキューセットと花火セットをサービスさせて頂きますので、どうぞご緩りとお寛ぎ下さいませ!」
うわぁ、めっちゃサービスしてくれるじゃん。
蔵人は頭を下げる。
「色々とお騒がせしてしまってすみません。ご丁寧に対応して頂き、ありがとうございました。では、早速コテージに行ってみます」
「とんでもございません!また何時でもお声がけ下さい!お気をつけて行ってらっしゃいませ!!」
受付嬢が勢いよくお辞儀してくれたので、なんだか済まない気持ちよりも、嬉しさが勝った蔵人だった。
さて、では行きますかと後ろを向くと、部員全員がこちらを見ていた。
「「「………」」」
先輩達の視線が痛い。
何だ?キャンプが嫌だったか?でも、ここ以外宿泊出来る場所は無いと思うぞ?この大阪の中には。
蔵人が、若干後ろめたく思っていたのだが、
「すげぇ〜」
「なんか、ホテルの人とやり合ってたね」
「ちょーカッコよかった!」
「大人って感じだったね!年下のはずだけど」
「蔵人君カッコイイ!」
どうやら杞憂だった様だ。
先輩達が口々に褒めてくれた。
終いには、
「ありがと!!蔵人!!」
部長が抱きついてきた。
レズレズの部長が男に抱きつくなんて、余程の事だ。それだけ嬉しかったのだろう。
それは良いのだが…。
部長。貴女も相当デカイのお持ちなんだから、ちょっとは、その、考えてくれんかね?抱き着く相手の性別とかを。
蔵人は抱きつかれながら、難しい顔をしていた。
先ずは旅立ち、というお話でしたが…。
「早速トラブルだな。あ奴にとっては、大したことない出来事だったが」
部長さんや皆さんからしたら、大事ですよね。
何せ、まだ社会に出たことのない子供達なのですから。
「それでよく、関東大会まではスムーズに行けたな」
今回は大混雑していたみたいですからね。イベントの時のホテル予約は大変です。
「出張先で、コンサートとか開かれると起きる奴だな」