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123話~この世界は、女のもんや~

ご覧いただき、ありがとうございます。

ちょっとした注意事項です。


※この世界の異能力大会において、三重県は中部に属します※


細かい事ですが、宜しくお願い致します。

夏休みも後半戦に入り、2学期の足音が徐々に聞こえ出したことに、哀愁を漂わせる生徒が出てきた頃。

桜城のファランクス部員達は沸いていた。

全国大会に赴くまで、既に3日を切ろうとしているのだ。


「盾役!立ち位置が甘い!ちゃんと遠距離の射線を開けて!」

「遠距離!本当には当てるなよ!動きの確認だけだ!」


先輩達の練習は、いつもよりも慎重な掛け声が多くなっている。

と言うのも、今日の練習は鎧を付けての実戦練習であった。

先日メンテナンスから帰ってきた先輩方のユニフォームは、訓練棟の照明を浴びて、キラキラと光っている。


その様子に目を細めながらも、蔵人はシールドを展開して、先輩達のフォーメーション確認を”手伝う”。

そう、お手伝いだ。蔵人は練習メンバーに含まれていない。

何故かと言うと、蔵人だけ、ユニフォームが届いていないからだ。


如月戦で、かなりのダメージを受けた先輩方の鎧であったが、蔵人が受けたダメージに比べればマシであった。

その為、先輩達は簡単なメンテナンスだけで帰ってきたのだが、蔵人の鎧は痛みが激しかったので、時間が掛かっているのだ。

果たして、全国大会に間に合うのだろうか?

蔵人が心配しながら、先輩達の鎧を見る。すると、そこに部長の声が掛かった。


「蔵人!来たわよ!」


そう言って、彼女が浮かせているのは、大きな段ボールの箱が数個。

受け取って開けてみると、そこには、如月戦直後と全く同じ、ボロボロの鎧が入っていた。

それを見た蔵人は、鎧を発注した時を思い出す。



それは関東大会が終わった翌日。蔵人が、西濱のアニキと邂逅した日の午前中の事である。

この日蔵人は、傷だらけの鎧を持って、とある場所に急行していた。

その場所と言うのが、


「よぉこそ!黒騎士君!我が研究所へ!」


筑波中であった。

海水浴から帰る直前、丹治所長に声を掛けてもらっていた。

「何かあれば、我々を頼ってくれ」と。

その時は曖昧に返事をしていたが、いざ鎧を外注しようとした際に、蔵人の鎧だけ1か月近く掛かると言われてしまったのだ。

それでは、全国大会に間に合わない。

そう言う事で、所長の誘惑に乗ってみたのだが。


「さぁ、見てくれ!これが新しいグレイト10。いや、グレイト11(ダブルワン)だよ!」


何故か、新コスチュームお披露目会をされてしまった。

そこには、グレイト2より一回り小さい黒色のロボットが鎮座していた。

何でも、今後の大会ルールで、ユニフォームの大きさが規定されてしまうのだとか。

それに合わせて、グレイトシリーズも小型化し、その試作機が目の前の11なのだとか。


「小さくした分、10の装甲が余っているからね。それを、君の鎧の補強材に使ってあげよう!」


何と、10と共に戦えるらしい。

胸熱である。



という事で、蔵人のユニフォームは丹治所長に預けて、今日と言う日まで待っていたのだ。

それが今、ここにあるボロボロの甲冑だ。

手元に戻ってきた甲冑を、蔵人はしげしげと眺める。


表面上は、大きく変わりはない。紫電との決戦が終わった直後の容姿をしている。

装甲は至る所に無数の切り傷があり、大きく裂傷している箇所も見られた。

直せずに戻って来た。という訳ではない。

傷を直さずに修理してくれと、蔵人が要望したのだ。


日向さんとの約束で、全国大会へ持っていくと豪語した手前、どうしても傷を埋めて修理するのではなく、新たな装甲を元の装甲の下に当てる方法をお願いした。

そのせいで、普通のメンテナンスの何倍も時間を取られることとなり、丹治所長に頼らざるを得ない状況になったのだ。

だが、その修理方法に関しては、部長も妥当な方法だと蔵人を褒めた。


深く抉られた傷を、ただ埋めるだけでは強度が弱くなり、試合中に鎧が壊れる可能性が高い。

部長の頭の中では、全国大会は予備の鎧を使うしかないと考えていたらしいのだが、追加装甲が間に合うならそっちの方が良いとの事。

鎧はその分重くなるが、防御力が上がるので、Aランクとも戦う蔵人にとってはそちらの方が良いとの事。

盾で鎧を浮かせるので、重量も関係ないでしょ?と言われてしまった。


流石に、全く関係が無い訳ではない。

重量が重くなるだけ、盾の持ち上げる力が減ってしまう。

今、蔵人の鎧は、総重量30㎏近くにまで増えていた。

改造前が20㎏程度であったから、凡そ1.5倍になってしまった。

盾の持ち上げる力が200㎏までなので、10㎏分の力が鎧を持ち上げる事に割かれてしまう。


とは言え、メリットもある。

一つは、単純に防御力が上がったこと。

装甲が二重になったので、その分の耐衝撃性、耐斬撃性、耐熱性などが上がっている。

殆どの攻撃は盾で防いでしまうが、盾で防ぎきれなかった攻撃や、跳ねた石や破片をしっかりと防いでくれるだろう。


そしてもう一つのメリットは、突撃の威力が上がっていること。

重量が10㎏増えているので、その分、蔵人が相手に突っ込んだ際の威力が上がっている。

他にも、打撃技などの威力増加も期待できる。

とは言え、振り回されないように、しっかりと慣らし運転をしないといけないが。


「はい、みんな!ちょっと早いけど、今日は練習終わり!集まってちょうだい!」


蔵人が鎧を持ち上げながら、ワクワクしていると、部長が声を上げた。

先輩達は練習を止めて、ぞろぞろと部長の前に集まって座る。


時刻は午前11時。

8時30分から始まった練習は、本来は12時30分まで行われる予定であったが、1時間以上早く終了となった。

何故そうなったか。理由は、全国大会の詳細が決まったからだった。


部長が、A4用紙を部員全員に配る。

そこには、全国大会へ出場する34校の名前がずらりと並んでいた。

各ブロックから勝ち抜いた、選りすぐりの猛者たちである。


北海道、札幌天星学校。

宮城県、仙台(はぎ)中学。

愛知県、岡崎中学。

大阪府、獅子吼(ししく)天王寺学園。

広島県、広島高校付属中。

福岡県、福岡第一中学。

沖縄県、琉球中学。


何処が強いかは分からない蔵人だったが、学校の名前だけで全国から集結していることだけは明らかだった。

それでも、強い相手を知っておきたいというのが人の性というもの。

蔵人は、斜め後ろに座っていた鶴海さんに、小声で話しかける。


「この中で強い所って、何処ですか?」

「ええっと、この大阪…」


小声で答えを返そうとしてくれる鶴海さん。

だが、話の途中で、大きな声に寸断されてしまう。


「こらっ!蔵人。今から説明するから、前を向きなさい」


部長に怒られてしまった。

蔵人は鶴海さんにジェスチャーで「ごめんね」と謝ると、急いで前を向く。

部長は、蔵人が前を向くと、説明を始めた。


「先ず、ファランクス全国大会、通称、ビッグゲームは大阪特区の中央区WTCで行われるわ。プロも使う立派な会場よ。期間は8月19日から24日の約1週間。19日は開会式と組み合わせ抽選会、23日は中休みで試合は組まれないから、実質試合がある日は4日間。勿論、これは順調に勝ち進めたらの日程で、負けたらそこで終了。24日の決勝戦後に行われる閉会式には出場するから、その間の空いた日はみっちりと練習するからね」


部長は細かい日程や、有名どころの学校情報をみんなに告知する。

大まかに要約すると、こうだ。


大会の日程。

8月19日…開会式。組み合わせ抽選会。

8月20日…第1回戦。

8月21日…第2回戦。

8月22日…準々決勝、準決勝。

8月23日…中休み。

8月24日…3位決定戦。決勝戦。表彰式並びに閉会式。


・出発は3日後の8月17日。ホテルに着いた後は会場の視察や現地でのアップを行う予定。

・現地までの移動は、バスと新幹線を利用する。


・原則、部員は全員参加。家の用事や補習でどうしても来られない部員は、後ほど交通費を部費で清算するので、途中参加してもよい。


・引率する先生は異能力セクション部の南先生。少しでもファランクスに近い知識を持っている人をと、校長先生が配慮してくれた。朽木先生も来たがっていたが、シングル部の強化合宿に行かねばならなかったらしい。


・出場する中学校は、何処も猛者ばかりだが、注意が必要なのはやはり、近畿、九州ブロックの1位2位である。


「特に危険なのが、近畿大会1位の大阪、獅子吼(ししく)天王寺。通称、獅子王よ」


部長が、声高らかに注意を促す獅子王中学校。

曰く、2年連続で全国優勝しており、今年も圧倒的な力で近畿大会を制覇、優勝候補筆頭の強豪校とのこと。地元である大阪特区では、公式のファンクラブまであるのだとか。


次に危険なのが、近畿2位の京都府特区の晴明学園。

京都の中でも1,2を争う名門学園であり、平安時代から続く由緒ある学校なのだそうだ。

そこの部長さんがとんでもなく強いAランクらしく、彼女1人で勝利した試合もあるのだとか。


他にも、九州大会1位の久留米彩雲中学は、かなり好戦的な学校らしく、血流沙汰になったり、大半の選手がベイルアウトする試合も珍しくないのだとか。

特に、1人のBランク選手が相当強いそうで、独りで敵陣のど真ん中に飛び込んで行って、片っ端から相手を滅多斬りにする戦闘狂とのこと。


他の出場校にも、嘘か誠か分からないような逸話や武勇伝が転がっており、部長が次々とぶち上げる相手情報に、先輩達の顔が引きつり出した。

これって、部長は用心しろと言いたいのかもしれないけれど、逆に先輩達のやる気を削いでしまわないだろうか?

ちょっと心配になる蔵人だった。


そうして、蔵人達が右往左往している同じ頃に、ビッグゲームへ出場する他校にも、大会の詳細が出回っていた。


〈◆〉


大阪府特区、天王寺区。

獅子吼天王寺学園、ファランクス部訓練場。


「全員集合」


獅子王の進藤監督が、しわがれた小さな声を囁くと、彼女の近くに控えていた男子マネージャーが、慌てて両手を振り回し、枯らさんばかりに声を張り上げる。


「集合!しゅうごぉお!!全員集まって下さい!」


その声に反応し、練習中であった選手達はすぐさま練習を放り出して、キビキビとした動きで進藤の前に集まり、静かに座った。

ファランクス部顧問である進藤は、厳しい目付きで座った生徒1人1人睨みつけ、相変わらず小さな声で呟く。


「ビッグゲームの参加校が揃った。ほぼ例年通りだ。西片」


西片と呼ばれた男子マネージャーが、手元の資料を急いで(めく)り、お目当ての紙を探し当てると、噛みまくりながら参加校のリストを読み上げる。

彼が何とか読み終えると、進藤はまた、選手達を睨む。


「…質問は?」


言葉は問いを投げかけているのだが、彼女の厳しい視線と(いか)めしい風貌からは、変な質問をしたらタダじゃおかないぞ?と脅されている様に聞こえる。

それは、集まった選手が全員感じている様で、誰一人として声を上げず、身動(みじろ)ぎもしない。


進藤は1つ満足そうに頷くと、選手達の最後尾に視線を投げる。

そこには、未だに座ろうとしない選手が1人、突っ立っていた。


「北小路」

「なんです?監督」


北小路と呼ばれた少女は、進藤の鋭い視線に怯む様子もなく、ただ真っ直ぐに見つめ返す。

進藤は、そんなふてぶてしい態度の少女に対し、声を荒らげるどころか、少し柔らかい口調になって問いかけた。


「足はどうだ?感覚は、まだ戻らんのか?」

「まだですわ。やっぱ右膝の曲がる感覚が鈍い気ぃします。とは言うても、京都の女狐狩るんに何の問題もありゃしまへんけど」

「そうか。お前は、このリストで何処か気になる事はあるか?」

「ん〜…強いて言うなら、関東の1位と2位が知らん学校ですね。天隆が3位になっとるんやなって」


北小路の質問に、しかし、進藤は顔を(しか)める。

最近は顔の皺が濃くなってきたことを気にしていたのも構わずに、眉間に皺を寄せる。


「知らん。東のファランクスはお遊びだ。お前らが気にする必要はない」


進藤の不機嫌そうな声に、部員達は顔を青くするが、そのキッカケである北小路は「分かりました」と興味を失った様に、適当に頷いていた。

そんな彼女を、進藤はしばし見つめた後、身を縮ませる選手達を見回す。


「兎に角だ、我々、獅子吼天王寺は今年も優勝する事が当然であり、周りからもそうやって見られている事を肝に銘じろ。分かったか?」

「「「はいっ!」」」

「分かったら行け!練習時間を無駄にするな!」

「「「はいっ!!!」」」


蜘蛛の子を散らすように、選手達は慌てて練習に戻る。

その様子に、進藤は満足気に「ふんっ」と鼻を鳴らす。


〈◆〉


京都府特区。京都市北区。

晴明学園の選手達が一堂に会しているのは、畳張りの広い道場。

そこで座禅を組んで瞑想を行っていた選手達だったが、顧問の声で顔を上げる。


「皆さん。座禅はそのままで良いです。耳だけ傾けていて下さい」


そう言って、全国大会に出場する学校についてを語り出す。

西日本の有力校は丁寧に、東日本の学校は名前だけを読み上げる顧問。


「なんや、去年と顔ぶれは変わらんな」


顧問の話しが終わると、1人選手が詰まらなそうに声を上げた。

赤い振袖に似たユニフォームを着た選手で、黒い艶やかな髪を肩まで伸ばしていた。

切れ目の端で見る様は、妖艶さが際立っており、とても中学3年生とは思えない。

そんな彼女の呟きに、顧問もゆっくりと頷いた。


「そうですね。全国大会ともなると、大方決まってしまうものでしょう。強い学校というのは、確立した教育方法がありますからね」

「では、順位が入れ替わっている所は無いんですか?」


また別の選手が手を上げると、顧問は再び用紙に目を落とす。


「中部大会で去年3位やった伊勢岩戸が、今年は1位になっとりますね。あそこの学校は、選手達の動きが統一されていて、監督の采配一つで流れるように攻守を切り替えてきます。気付いたら大波に呑み込まれてまうんで、注意しないといけないです。後は、中国四国地方1位の広島呉中ですね。去年に引き続き、あの魔王君が居りますから、彼1人で試合がひっくり返されてしまうんで、ここも注意しておいてください」


顧問の注意に、またスッと手が上がる。

1番最初に声を上げた、赤い振袖の生徒だ。


「どうしました?久遠(くおん)さん」

「先生。うちらが男なんて入れとる所に負けると思うてはるん?」

「久遠さん。そうではなくてですね、何事も油断は禁物だという事です」


顧問の言葉に、しかし、久遠と呼ばれた生徒は薄ら笑いを浮かべて、それを手で隠す。


「先生。油断やありません。これは事実ですわ。男なんて軟弱な生き物を入れとる時点で、うちらの相手にはならんですわ。男は弱い。それがこの世界の常識です。異能力が産まれる前は、散々偉そうにふんぞり返って、女泣かせて、何人も死んでまう戦争やらかした男には、もう居場所なんてありゃしません。異能力は女のもん。この世界は、女のもんや」


久遠の言葉に、周りの生徒達が一様に、うんうん、と頷く。

その様子に、久遠は満足そうに薄ら笑い、自慢の黒髪を耳に掛ける。

すると、その耳に付けたイヤリングが、きらりと光った。

百合の花が象られた、銀のイヤリングだ。


顧問はそれを見て、眉を顰めた。


「久遠さん。あまりそう言うのを学校で広めないでくれますか?容認はしていますが、公認はしていませんよ?」

「ちゃいますよ、先生。うちはただ、うちが思ったままに言うただけです。その思いが、ただ多くの人の心に響いとるだけです」


久遠の薄っすら開いた瞳には、燃えるような色が揺らめいていた。

それを見て、顧問は何か言うことを止めた。

この子には逆らわない方がいい。そんな風にも見える、顧問の顔色。


「さぁ、皆さん。瞑想に戻りましょ」


久遠の言葉に、部員が一斉に目を瞑る。

誰も、彼女に逆らおうとしない。

それが正しい行いだから。

それが、この学校の常識だから。

晴明学園ファランクス部部長、久遠(くおん)葉子(ようこ)の前では、これが日常であった。


〈◆〉


同時刻。

某所。


赤い絨毯が敷き詰められた豪華な部屋の一室に、2人の人物が大きな机を挟んで相対していた。

その内の1人は、背筋を伸ばして直立し、もう1人のソファーに座る男性に向かって手を差し出す。


「マスター。こちらを」

「うん?何だね?このDVDは?」


男がそれを受け取って首を傾げると、問われた少女は右手をおでこに当てて、ビシッと敬礼する。


「はっ。以前ご命令があった物であります」

「…ああ。あれか。面白い者がいれば、報告を上げてくれと言っていた件だな?よく覚えていたな、あんな昔の口約束を」

「はっ!遅くなり申し訳ございません。確認に少々、時間がかかってしまいました」


少女の言葉を受け、男性はその整った金色の眉を寄せ、サングラス越しでも分かる程度に不愉快さを表した。


「確認?もしかして、妻達にか?…やれやれ、あいつらにも困ったものだ。私の立場を何だと…っと、済まない。君に言うべきことではなかったな」


少女に対して謝りながら、男性は指を鳴らす。

すると、何もなかったテーブルの上に突然、1台のパソコンが現れた。

男性は、そのパソコンにDVDをセットする。


「忙しい君が、任務と学業の合間に探してくれた逸材だ。早速見させて貰うとしよう」


そう言って、男は動画が流れ出したパソコンの画面を俯瞰(ふかん)する。

最初は、片手にワイングラスを持ちながら、ソファーの背に体を預けていた男。

次第に、場面が進んでくると、


「ふむ。紫電か。やはり彼女が鍵か」

とか、

「おぉ。あの方のお孫さんも居るのか」

と呟いて、楽し気に鑑賞していた。


だが、


「………」


ある時を境に、男は黙ってしまった。

ソファーから背を離し、じっと画面を凝視し続ける男。

いつの間にか、ワイングラスも消えている。

その様子に、直立不動であった少女も、不安げに黒髪を揺らす。


「如何、でしょうか?」

「ふむ……」

「…マスター…違い、ましたか?」


問いかけても芳しくない反応に、少女は諦めかけていた。

その時、


「ふっ、ははは」


いきなり、男が笑い声を上げた。

普段声も荒げない彼が感情を声に出したので、いつも無表情な少女も少しだけ目を開く。

だが、そんな彼女の珍しい表情にも気付かず、男はただ画面を見ながら、愉快そうに頬を緩ませていた。


「素晴らしい。久々に見たな、これ程までに昇華した者は。この者は、明らかに”覚醒”している」

「やはり、覚醒者でしたか」

「ああ。それも、オリビアやシンリー、紫電とは比べ物にならない程の素質だ。剣聖並み…いや、下手をすると彼と、癒し手と同等の存在と成り得るぞ」

「それでは…!」

「ああ。先ずは会わねばなるまい。この者に」


男は、少女の言葉に頷きながら、画面を見る。


「巻島蔵人に」


そこに映る、白銀の歴戦騎士に向かって、男は青い瞳を輝かせた。

全国大会直前となり、参加校が明らかとなりました。

でも、桜城は歯牙にもかけられていない様子。


「ファランクスでは無名なのだな、桜城は」


そうですね。主人公は喜びそうです。

反対に、謎の勢力には注目されてしまいました。


「しかも、名前までバレていたな」


果たして、青い瞳を持つ男の正体は…?


これにて、長きに続いた逡巡篇も御しまいです。

お付き合いくださり、ありがとうございました。

新章は、明日開幕です。


イノセスメモ:

・覚醒…異能力が変異したことを示す言葉か?←そうすると、主人公の周りでも幾人か覚醒者がいることになるが…?


・百合のイヤリング=百合のブローチ?

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― 新着の感想 ―
[一言]  2周目だから言ってもいいよね、な一言。  結局、”獅子王”の実力って分からずじまいでしたよねぇ。  まぁ、2年連続で制覇しているのだから相当強いだろうし、戦術もストロングスタイル(正統派…
[良い点] 少々語弊がありましたが、情報が多いのはとても良いことです。私、未知の情報があればあるほど面白く感じる人種ですので毎回この量でも全く問題ありません。ですので、私の感想で書かれる「情報が多い」…
[良い点] 情報の量がえげつないですね。とてもワクワクするこの感じ、たまりません。小説を読んでいて一番楽しいこの一時、イノセス様には心より感謝を。 [気になる点] 覚醒。おそらくは異能力の枠をこえても…
感想一覧
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