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121話~ウチは、どないしたらええんや~

次の日に、事件は起こった。

全国大会に出発するまで、残り2週間程度。

部活の練習も本格的に始まり、先輩達もビッグゲームに向けての意識が高まっていた。


現在は基礎練を終えて、それぞれのポジション練習を行っていた。

蔵人は今日、遠距離役のポジションで練習をしていた。

幾多のダミー土人形をシールドカッターでなます切りにしていると、先輩達が半分引きつった笑みでこっちを見てくる。

最近は、蔵人の異常とも呼べる異能力技術に、皆さん半笑いになる事が多くなってきた。

呆れられているのかな?


蔵人が外聞を気にしていた、その時、

2Fフロアの扉が思いっきり開け放たれ、そこから鈴華が飛び出してきた。


「ボス!早紀がやられた!」


伏見さんが?

血相を変えた彼女を見て、蔵人は急いで、近距離役が練習する3Fフロアまですっ飛んで行く。

するとそこには、既に部長も来ていた。

だが、肝心の伏見さんの姿は無い。

一体、どうしたというのか…。


蔵人達が暗い顔をしていると、部長が説明してくれた。

曰く、伏見さんが練習中にケガをしたらしい。

ファランクスでは、こうした事故も珍しくないが、今回の原因は伏見さんの注意散漫が主因とのこと。

全くの無防備な状態で、先輩の攻撃を避けずに喰らったらしい。


そう言えば、今日の基礎練の時に、彼女の様子が何処かおかしいと、鶴海さんが気にしていた。

調子が悪い日だったのだろうか?

女の子は、そういう日は練習に参加しないようにと、部長からも学校からも言われているのに、無茶したのかもしれない。


幸い、直ぐに医務室に連れて行ったこともあり、伏見さんの怪我は軽傷で済んだらしい。

とは言え、この世界の基準で軽傷だ。

異能力が無い世界で言えば、手術が必要だったかもしれない。


そう思うと、蔵人は居ても立っても居られず、練習の僅かな合間をすり抜けて、医務室へとお見舞いに行った。

だが、そこで蔵人達1年生を出迎えたのは、もぬけの殻となったベッドだけであった。


「あの、ここに伏見…ファランクス部の1年生は来ませんでしたか?」


男性医師に聞くと、既に帰宅したとのことだった。

直ぐに帰宅しないと不味い状況なのかと、蔵人は固唾を呑む。

顎にクリーンヒットさせた時も、後で顔を出した彼女だ。後遺症で、体調でも崩したのだろうか。


そう思った蔵人だったが、医師は首を振った。

どうも、気分が悪いので帰りたいと、本人から申し出があったそうだ。

医師見立てでは、怪我は完治しており、身体に異常はなかったとの事。


「なんだよ。ズル休みかよ」


医務室から訓練塔に戻る最中、鈴華は安心したように、ちょっとからかう調子でそう言った。

彼女はそう言うが、体に異常が無いのに帰ったとなると、より深刻な可能性がある。

身体的ではなく、精神的に来ているかもしれないからだ。


元々、異能力戦で早めにベイルアウトするのは、精神的ダメージを軽減する為の処置だ。

痛い思いをすることで、戦う事に拒否反応を出させない為に行っている。


小学生の頃は、怪我をする前にベイルアウトさせることも多かったし、先日の関東大会においても、明らかにダメージを受けると分かっている攻撃には、事前に退避させていた。

少年少女の心とは、それだけナイーブである。


伏見さんもまだ中学1年生。実戦経験も豊富とは言えず、実際に怪我をした回数も多くはないだろう。

下手をすると、蔵人からもらったアッパーが初めてだったかもしれない。

だが、あの時は一瞬で意識を刈り取った。

今回がどんな怪我をしたかは聞けていないが、多かれ少なかれ、恐怖を感じてしまったのかも知れない。


トラウマになっていなければ良いのだけれど…。

蔵人が少し俯いて伏見さんを心配していると、隣で非難の声が上がる。


「ちょっと、鈴華ちゃん!その言い方はあんまりだよ!」

「そうね。真面目な早紀ちゃんが帰る程だもの。鈴華ちゃんは心配にならない?」


西風さんと鶴海さんが、少し強めに抗議する。

向けられた鈴華は、ちょっとバツの悪そうな顔をして、両手を上げる。


「あの早紀だぞ?ちょっとやそっと骨を折ったくらいじゃ訳ないって。ボスもそう思うだろ?」


くるりと振り返り、子犬の様なつぶらな瞳で、蔵人を見上げる鈴華。

笑いを取るために投げたボールが、予想外な剛速球で帰ってきて焦っているのだな。


ここで蔵人が、伏見さんの精神面の心配を口に出せば、3人から責められる形となる鈴華。

ちょっと笑いを取ろうとして、集中砲火に晒されるのは些か可哀そうだ。

鈴華のモチベーションがダウンする恐れもあるし、大事な試合前にそれは不味い。


だからと言って、鈴華の肩を持つのは違うだろう。

仲間を思う気持ちは、彼女にも持って貰いたいからね。

だからここは、


「どちらにせよ、様子を見に行った方が良くないですかね?御三方」


肯定も否定もせずに、次の話題へと進めるが吉。

伏見さんのお見舞いに行こうと、提案する蔵人。

流石の鈴華も、ここは空気を読んで頷いてくれた。




桜城からバスで30分くらい揺られて着いたのは、閑静な住宅街。

特区の外から来た蔵人からすると、かなりの高級住宅街に見えるのだが、特区に住む人達からすると、リーズナブルな地区に分類されるらしい。

そう聞くと、超高級マンションに住んでいる西風さんが、自分の家は普通だよと照れていたのは、案外謙遜でも何でも無かったのかもしれない。


「それじゃ、頼みますね」


そう言うと、蔵人は買ってきたお見舞いの品を、鶴海さんに渡す。


蔵人は今回、伏見さんの家に上がらない。

怪我は完治しているとは言え、養生中の異性のプライベートスペースに、いきなり押し掛けるのは好ましくないだろう。

ましてや、中学生という多感なお年頃の女性宅であれば猶更だ。


蔵人はそう判断し、伏見さんの家の前で待つことにした。

幸い、近くにコンビニがあるので、暑さに耐えられなくなったらそこに避難するつもりだ。


「分かったわ。少し待っててね」

「ごめんね、蔵人君。もしも女の人に襲われそうになったら、直ぐに呼んでね」


西風さんが蔵人の心配をしてくれる。

でも、襲われるって…。

流石はあべこべ世界だ。


蔵人が「頼らせて貰うよ」と頷くと、嬉しそうに頷き返す西風さん。

いい子だな、と蔵人が感心している横で、鈴華が一言。


「そんじゃ、あたしもここで待ってるわ」


うん。言うと思ったよ。

俺は行けないだけで、見舞う相手が男だったら行っていたんだよ?

蔵人は別に、まぁこの娘はそう言う奴だから、それでも良いかと思ったが、目の前の2人は白い目で鈴華を見ていた。

流石の鈴華もそれには溜まらず、大人しく伏見さんの家に入っていくのだった。


さて、伏見さんがもしも精神面を病んでいた場合、どうやってケアしていくのが良いだろうか。

蔵人がそう、考え出した矢先。

西風さんと鈴華が、家から出てきた。


西風さんの表情には哀愁が漂い、鈴華は憤慨している。

何かあったみたいだ。


「どうしたんだ?随分と早いお帰りじゃないか。鶴海さんは?」


堪らず、次々と質問する蔵人。


「えっと、それがね…」

「聞いてくれよ、ボス!」


2人の話では、伏見さんの部屋の前で追い返されてしまったらしい。部屋のドアも開けてくれなかったとか。

そして、鶴海さんはその場に残り、もう少し対話を試みる事にしたとの事。


「これは、想定以上だな…」


蔵人は呟いて、伏見さんの家を仰ぎ見る。

お願いしますよ、鶴海さん。

そう、思いを込めながら。


〈◆〉


「何やっとるんやろな」


自室のベッドに倒れ込みながら、本日何度目になるか分からない自問を繰り返す。

天井を見ると、部活のみんなの顔が見えてくる気がして、急いで目を反らす。

すると、自室へと繋がるドアに貼り付けた猫のポスターが目に入り、そいつまでこちらをジッと見つめてきた。


「…何見とんのや」


ポスター相手に話しかけてしまった。


本当に、ウチは何しているのだろうか。

なんで、部活をサボってしまったのだろうか。

なんで、怪我なんてしてしまったのだろうか。

あそこで怪我なんかして、みんなに心配をかけて、大事な時期にヘマしてしまった。

こんなことでは、みんなに会わす顔が無い。


そう。だからウチは、部活をサボってしまった。みんなの調子を狂わせたくなかったから。

折角ここまで、全国大会出場まで来たのに、先輩達のやる気を削いでしまいそうで、居たたまれなくて、保健室からそのまま帰ってきてしまった。


コンッ、コンッ


小さく、ドアを叩く音がした。

今日はお母ちゃん、仕事で遅くなるって言っていたから、妹の美樹(みき)か。

ウチは具合悪いって言ったのに、なんだろうか。


「美樹か?姉ちゃん具合悪い言うたやろ。今日は大人しゅう下で遊んどきぃ」

「あっ…お姉ちゃん、お客さんだよ」


お客?誰だ?

ウチが何か言う前に、別の声が外から聞こえてきた。


「こんにちは、鶴海です。具合はどう?早退したって聞いたから、お見舞いに来たわ」

「早紀ちゃん、大丈夫?あっ、桃花だよ。分かる?」


お見舞い。

心の中がジンッと温かくなる。

なんてことだ。みんなに心配かけて、こんな所まで来させてしまった。


「なんやみんな、すまんな。こんな所まで」


急いでベッドを降りながら、答える。


「心配かけてもうて、ほんま…」


歩きながら謝る。

ドアノブに手をかけて、鍵を開けようとして、


「なんだ、元気じゃん。ほらな。あたしが言った通りだったろ?」


鍵のツマミにかけた手が、止まった。


「おーい、早紀。お見舞いにプリン買ってきてやったぞ。翠がコーヒーゼリーで、桃がヨーグルト。んで、こっちのプロテインバーが…」

「帰って」


言っているウチでも驚くくらい、キツい声が口から飛び出た。


「お、おい、早紀。帰れって…」

「早紀ちゃん。僕たち、その、心配で来て」

「ええから、帰ったって!」


ぐしゃぐしゃだ。心の中。

さっきまで少し暖かかったのに、一気に冷たくなった。暗い気持ちに、塗りつぶされてしまった。

あいつの声が聞こえた途端、色んな光景が頭の中で駆け巡る。


ドアの向こう側で、ゴソゴソと人の声が聞こえた気がする。

鈴華辺りが、何か不満を漏らしているみたいだけど、今回ばかりはあいつが正しい。

だって、ウチは折角来てくれた友人を追い返そうとしているのだから。

そうしないと、爆発しそうだから。


こんな状態のウチに会っても、みんなが気分悪くなる。会わない方がいい。みんなもそれが良い。みんなの為なんだ。

それもこれも、みんなの事を思ってやっているだけなんだ…。


「早紀ちゃん」


また、ドア向こうから声が聞こえた。

最初と一緒。翠の声。


「なんや。帰ったって言うたやろ。ウチは今、誰とも会いとうないんや」

「私だけよ。他の2人には帰って貰ったわ。もう」


翠の言葉に、


「鈴華ちゃんは居ないわよ」


重かった心の重りが、少し軽くなった気がした。

鈴華が居なくなった。

それだけで、なんでこんなに違うのか。


元々、あいつの事は好きではなかった。

同じBランクで、似たような攻撃スタイルの異能力という事もあるが、何よりも性格が合わなかった。

適当だし、よくサボるし、態度がデカいし、胸もデカいし、部長やカシラに迷惑ばかりかける。

人としてどうかと思う場面も、幾つも見てきた。


それなのに、みんなから可愛がられる。

先輩からはよく良く遊びに誘われているみたいだし、カシラには抱きついても怒られない。怒られない所か、偶に頭を撫でられている時もある。

普通の男子にそんな事したら、良くて生徒指導室行き。悪ければ、転校させられるだろう。

…カシラのことはこの際置いておく。あの人は全てが規格外だ。


兎に角、鈴華はズルい。やりたいことやっているのに、周りから評価される。

まともな努力もせずに、自由奔放で適当なのに、結果が後からついて来る。

なんて、ズルい奴…。


何を言っているのだろう、ウチは。

そんな事考える方が、ズルいだろ。


「ねぇ、早紀ちゃん」


ウチの心が、段々と重くなっていった時、翠がゆっくりとした口調で話しかけてきた。


「何か辛いことがあるんじゃない?私に、話してくれない?」

「なんも無いわ。そんなん」


反射的に、否定の言葉が口から漏れる。

本当は、あるのに。

辛くないかと言われて分かる、自分の感情。

そうか。これは、この重さは、辛かったからなのか。


「本当にそう?」

「本当…やない」


自然と、否定した言葉を取り下げる。

翠には敵わないなと、思いながら。


「なんか、嫌やねん。心臓の辺りが、こう、ぎゅって締め付けられる様な。考えれば考える程、イライラして、むしゃくしゃして。でも、そんな自分が益々、嫌になっていってるんや」

「そう。辛かったのね。何時からそうなの?」


何時からだろうか。

今日の朝?

違う。もっと前な気がする。


「…昨日の練習終わった後から…やったと思うわ。心の中がざわつき出したんわ」


そう考えると、ただ疲れが溜まっているだけなのかもしれない。

最近の練習はハードだし、自主練にも力を入れているから。

ウチはそう思ったけど、翠はそう考えていなかった。


「それは、もしかして学校新聞を見てからじゃない?みんなの活躍を、鈴華ちゃんが褒められているのを聴いた後だったりしない?」


翠の言葉に、ウチは息が詰まりそうだった。

その場面を思い出すだけで、心が痛い。


昨日の夕方。

カシラや1年のみんなで見に行った、校内新聞。

そこには、都大会と関東大会で活躍する先輩達の勇姿が、キラキラと輝いて貼り出されていた。

その中に、銀髪をなびかせるあいつの姿もあった。


試合の時は、堂々と戦っていたあいつ。

カシラと一緒に、天隆のAランクに立ち向かう姿。

相手の前線に突っ込んで、見事にキルを取る輝かしい戦績。


ウチとはエラい違いだった。

ウチが出た試合では、カシラに迷惑をかけてしまった。

確かに、あの試合でファーストタッチを取ることは出来た。

でもあれは、美原先輩が道を切り開いて、先輩達が相手を牽制して道を作ってくれたから出来たのだ。

ウチ自身の力ではない。お膳立てされた、キレイな道を走っただけだ。

あいつとは、雲泥の差


なんで、なんでなんや。


「なんであいつばっか、先に行けるんや!」


感情が溢れた。

言葉が、止まらない。


「初めっからそうやった。あいつは、練習サボっとって、練習試合でも手ぇ抜いて。せやのに、本番では活躍しとる。どんどん新しい技閃いて、相手倒して、先輩達にも認められて」


ドアの猫と、目が合う。


「ウチかって努力しとんのに、なんでや。なんで、あいつばっか先に行ってまうんや」


いつの間にか、ライバルと思っていたあいつは、手の届かない所まで登っていた。

それが弛まぬ努力なら、納得したかもしれない。

カシラみたいに。


あの人は、並々ならない努力をしている。

四六時中練習しているし、頭の中は常に戦う事を意識している。

練習中も天井を盾が飛んでいるし、授業中もそうだと桃から聞いている。

食べ物だって、体を作る為に余念が無い。pf何とかって言って、みんながドーナッツ食べてる横で、不味そうな栄養バーを齧っていた。


あんな事、ウチには出来ない。何度かやろうとしたけど、辛かった。

練習量は朝練を少しするので精一杯だったし、栄養バーはパサパサして無理だった。

だから、カシラは尊敬している。何時かあんな人間になれたらと、目標に出来る。


でも、鈴華は違う。

特別な努力はしていないし、練習で手を抜いている分、ウチの方が努力している。

それなのに、全然追いつけない。

練習したこと直ぐに出来るようになって、試合でも上手く立ち回って、先輩にも、カシラにも認められて。

ウチとは、全然違う。


「ウチは、どないしたらええんや」


努力で埋められない差は、どうしたら詰められるのだろうか。

このまま、カシラにも、鈴華にも、後輩にも、みんなにも、どんどん置いていかれるだけなのか。

気付いたら、部活のお荷物。

そんなのは耐えられない。


ウチの弱音に、翠は優しい声で答えた。


「私は、早紀ちゃんは凄いと思うわ。私達1年生の女子の中で、貴女ほど真剣に、部活の練習に打ち込めている子はいないもの」

「そんでも、結果は鈴華の方が上や」

「それは…確かに努力が必ずしも報われるとは言えないわ。でもね、努力しなかったら、絶対願いは叶わないわ」


確かに、そうなのかもしれない。

努力しないと前には進めない。努力しないと、あいつとの距離は縮まらない。


「ほな、努力せいっちゅうことか?あいつに勝てるくらいに、もっと練習せいっちゅうことなん?」


今でも、かなり頑張っていると、ウチは思う。

みんなには言っていないが、朝練もしているし、カシラを真似て筋トレや、休日のランニングも取り入れてる。

授業中や飯の時も、どう戦えば良いか考えて…それで成績落ちたのはお母ちゃんには言えない。


兎に角、出来るだけは努力した。

考えつく努力はしてきたと思う。

これ以上どうしろと…。

そんな事を、翠に言っても仕方がないと、無言になってしまったドアを見つめて笑う。

何やっとるんやろな、ウチは。


「すまん。こんなん言うたかて、翠も困るわな。忘れて…」

「いいえ。大丈夫よ。でも、私では答えきれないのは確かね。こういうのは、専門家に聞くべきよ」

「せんもんか?何のや?」

「もちろん、努力の専門家よ」


翠の言っている事が分からなくて、首を捻って…

いや、分かった。


「…もしかせんでも、カシラの事言うとるんか?」

「部屋の窓から外を見てくれる?」


ウチの質問に、翠は答えず、そんな事を言う。

何でや?と言おうとしたけど、翠が言うんやから、言われた通りにしてみる。

薄ピンクのカーテンを恐る恐る開ける。夏の眩しい陽光が顔に当たり、目を細める。


「見えたかしら?家の外の、下の方」


下?

言われた通り、そこを見ると、

カシラがいた。

1人で立っていて、道路の方に目線を下げて、何かを考え込んでいる。


何を悩まれているのだろうか?

ウチがそう思っていたら、カシラが急に顔を上げた。

目線が合う。


「蔵人ちゃんも来てくれているのよ。だから、直接聞きましょう。どうしたら強くなれるか」


カシラは、まるでこちらの話が聞こえていたかの様に、片手を上げ、握りこぶしから親指を立てて、

ニカッと笑った。

逡巡篇、最後のお一人は伏見さんでしたか。


「天才である久我を見続けた伏見は、才能の差に自信を無くしていたのだろうな」


凡人にとって、才能ある人は眩しくて、目を閉じてしまいますからね。


「ある意味、あ奴と紫電との関係に近いのかもしれんな」


周囲に認められた日向さんと比べると、まだ開花していない伏見さんは余計に辛いでしょう。

主人公がどのような処方箋を出すのか、楽しみですね。


「…あ奴が修復するのは、人の心では無く、世界の歪みの筈なのだがな…」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「…あ奴が修復するのは、人の心では無く、世界の歪みの筈なのだがな…」  人の沈んだ心も放っておけば"歪(ゆが)み"となり、それがさらに捻じれてそのままくっついて修復不可能になってしまえば…
[良い点] やはりいいですね、この作品。全ての人物がちゃんと生きている。天才と比べてしまう苦悩、努力をしても比例しない実績。現代人である私も少なからず似たようなことがあったので、思わず感情移入してしま…
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