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114話~そして、ここまで来た~

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話は、他者始点のお話となっております。

では先ず、1人目…。

魔力を爆発させて地面を掻くと、一瞬で黒騎士の間合いへと飛び込む。

一歩。ただ一歩が、

黒騎士が必死に作った紫電との距離を、すべて無かったことにする。


その強靭な腕を、振るう。

手のひらに伸ばした凶刃(きょうじん)な爪を、振るい下ろす。

その刃は、振り下ろす度に屈強な盾を切り裂いて、白銀の甲冑に黒い傷跡を残していく。


穢れを知らない無垢の鎧が、みるみる傷だらけになっていき、純白の騎士は皮肉にも、呼び名の通りの黒騎士となっていく。

圧倒的であった。

やはり紫電は最強だ。

紫電様万歳。

そんな声が周囲を満たす。


「うるぅうあああああ!!!」


それでも、紫電は止まらない。

黒騎士の肩に、甲冑の胸に、深い傷を切り刻む。

それでも、紫電は満足しない。

黒騎士の手甲に、甲冑の腰に、小さな跡を残す。

それでも、紫電は焦り続けた。

黒騎士の兜へと振り下ろした刃が、空を斬る。


黒騎士への攻撃が、徐々に浅くなり、狙ったように当たらなくなってきた。

何故だ?

紫電は、自問する。

何故当たらない。

紫電は、苦悩する。

最速の攻撃。

最短の過程。

その全てを選んでも、黒騎士の動きがそれを凌駕しつつある。


そんな訳がない。

俺は最速だ。

俺は最強だ。

俺が、どれだけの努力を積み重ねてきたと思っている。

俺が、どれだけの思いを募らせてきたと思っている。

4年間。その積み重ねが、


「届かねぇはず、ねぇだろぉ!!」


紫電の最速の、最強の一撃。

それを、黒騎士は一枚の盾だけで防ごうとする。

ただの透明な盾。Cランクの盾。

そんな物。


「お前ごと、切り裂いてやっ!」


盾も、黒騎士も、真っ二つに切り裂いてやる!

そう思って振り下ろした刃は、

振り下ろす前に、止まってしまった。


刃は、盾に突き刺さっていた。

盾のど真ん中、そこに、埋もれてしまっていた。

ドロドロのスライムみたいなものに、埋まってしまっていた。

なんだ?これは?


「ランパート」


黒騎士が、言葉を放った。


「俺の、新しい盾だ」

「チッ!」


まただ。

また、こいつとの距離が離された。

俺が追い続ける背中が、また小さくなる。


紫電は舌打ちを発すると同時、そのヤバい盾から爪を引き抜く。

そのまま後退し、仕切り直しを、

しない。


ただ真っ直ぐに、最速の速度で、黒騎士までの最短ルートを突っ走る。

黒騎士の正面。

そこから、黒騎士の横をすり抜け、背後に。

背後から、一撃を見舞う。


そう思った紫電が見たのは、黒騎士の瞳。

こちらを見下ろす、黒と紫が渦巻く黒騎士の目だった。


何故だ。なぜ、こちらを見ている!?

最速の筈だ。俺の動きは、最速だったはず。

なのに何故、目で追えているんだ!?


惑う紫電。

そこに、黒騎士の拳が迫る。

咄嗟に、腕を前に出して、その拳を防ぐ。


「ぐぁっ!」


拳に押しつぶされるように、後ろへと押し戻される紫電。

その忌まわしい拳が引っ込められると、既にそこには、次の攻撃モーションに入っている黒騎士がいた。


「なめるなぁ!」


紫電は、振り払うように蹴りを放つ。

黒騎士が避けるために、後ろへ退くと、今度は紫電が回り込み、黒騎士の背後から攻撃を繰り出そうとする。

だが、

既にそこには、黒騎士の拳があった。


「くっそ!」


何とか躱す紫電。

そして、更に回り込む。

黒騎士の背後。今度は、黒騎士も殴った直後なので、態勢を崩している。

これなら、振り向く時間も取れない筈。


紫電の鋭い拳が、黒騎士の背中にと伸びていき、そして、

黒騎士の背中を突き刺すその直前で、黒騎士の裏拳に弾き飛ばされた。


「なっ!」


なぜ。

そう吐こうとした言葉は、紫電の腹に食い込んだ黒騎士の回し蹴りによって、途中で止められた。

紫電は、芝生を二転、三転、転がった。

止まって、歯を食いしばって立ち上がると、そこにはこちらを見下ろす黒騎士が居た。


何故だ。

「なぜ!なぜ俺が見える!」


紫電は一歩前に出ながら、吠える。

黒騎士は、そんな紫電を見据えながら、構える。


「見えてはいない。ただ感じるのだ。溢れんばかりの君の殺気を。そして何より、聞こえるんだよ、土を掻く音がね」

「音、だと?」

「ああ。俺は耳が良いんでね。特に、君の足音はよく聞こえる」


黒騎士の目が、(たの)し気に笑う。


「君のその身体強化(フィジカルブースト)された足は、特にな」


紫電は、目を見開く。

自身の秘密を、こうも易々と見破るこの男に。


「お前はいつだってそうだ、黒騎士」


紫電は、構える。

深く、深く構える。


「いつもそうやって、俺の上を行く!」


紫電は、突っ込む。

真正面。

黒騎士が待ち構えるそこに。

勝つための行動じゃない。

これは、伝えるため。


「いつもそうだ!お前は態々(わざわざ)膝を折り、俺の目線に合わせようとする!本気で俺と戦おうとしない!」

「している。これが本気だ」

「嘘言ってんじゃねぇ!」


連打。連打、連打!

紫電の連打を、黒騎士の拳が尽く迎撃する。


「てめぇの本気はそんなもんじゃねぇ!てめぇの本気は、あの時のお前だ!お前の本気を、俺は知っているぞ、黒騎士!」


紫電が息を継ぐために生まれた一瞬。

その一瞬のスキを突いて、黒騎士の盾を纏った拳が繰り出される。

その拳をワザと受けて、勢いを利用し、後ろに飛び退る紫電。


両雄の間に再び距離が出来る。

その空間は果たして、守るための間合いか。

それとも、次の攻撃を生むための滑走路か。

紫電は、浅く構える。


「悔しかったよ。お前達に付いていけなくて。あの時、俺だけ、置いて行かれた気がして」


医務室で目が覚めた時、試合は既に終わっていた。

激戦の中、天才と言われた格上2人を圧倒していたことが、まるで夢の様だった。

三つ首の黒龍にユニゾンし、圧倒的な暴力で2人を蹂躙したあの時間が。


目覚めればそれは、本当に夢であった。

儚い夢。お前が見せてくれた、ひと時の幻。

自分の力ではなかった。お前が引っ張って、登って目にした一瞬の光。

それを、掴めなかった。

俺が、弱かったから。


紫電は、構えた拳を強く握る。


「だから俺は、走り続けた、ずっと、ずっと、ずっと。わき目も振らずに、ただひたすらに」


次は、光を掴むために。強くなって、手に入れるために。

お前がやったみたいに。お前が見せた世界に近づくために。

お前に、成る為に。


紫電が、拳を開き、地面を指さす。


「そして、ここまで来た。お前と戦うため、俺は来た」


その指を、黒騎士に向ける。

ただ、真っ直ぐに。


「お前の、その背中だけ追い続けて!俺は!ファランクス大会(ここ)まで来たんだ!」


紫電の指の先、憎らしいほど誇らしい、その勇猛な少年が、

ゆっくりと頷く。


「そうか」


そう言いながら、黒騎士は構える。


「重荷になってしまったか。あの戦いが」


少年の目が、真っ直ぐに紫電の目を捉える。見えるはずのない、その目を確かに。


「分かった。ならばその勝負、受けて立つ」


静かに言う彼の言葉とは裏腹に、気迫が一気に押し寄せる。

黒騎士の甲冑に、半透明の盾が幾つも張り付く。

来る。

紫電は、黒騎士が踏み込むと同時、前へ出る。

紫電の両爪が、黒騎士の拳と激突する。


「今度こそ、お前に勝つ!」

「ああ、俺もそのつもりで君に挑む。そして」


爪と拳、フルフェイスと兜がぶつかり合いながら、黒騎士の目が嗤う。


「この3分間、全力で楽しもう、戦友よ」


〈◆〉


『またもや激突!紫電選手と黒騎士選手が、音張選手が放った電撃フィールドの中を駆け巡り、互いに必殺の一撃を交わし、ぶつかり合う!まるで頂上決戦!全日本の決勝戦そのものだ!いや、それ以上、それ以上と言えます!一昨年の全日本、絶対王者の剣聖と紫電のあの戦い。あれを超える激戦が、今!我々の目の前に繰り広げられているのです!!』


2人が戦い始めて、もうかなり経つ。

私の周囲にいる男子先輩達は、楽器の演奏もほどほどに、声が枯れるほど叫び続けている。


「くろきしぃい!今だぁあ!そこだァ!!」

「頑張れぇえ!お前なら出来るぞ!」


『Cランク異能力界に突如として現れた謎の貴公子、紫電選手。一昨年の全日本では圧倒的な力を我々に示し、国内に敵なしと言われ続けた剣聖を脅かしたもう一人の天才。その彼の目の前に再び立ちはだかったのは、無冠の男子、黒騎士!ですが、男子であること、今まで無名であったことを侮る者は、最早この会場に居ないでしょう!間違いなく、今目の前で激突する両者は、最強の名前を奪い合うにふさわしい、中学Cランクの2台巨頭だ!』

「「「しでんさまぁああ!!」」」

「紫電様負けないで!」

「勝てます!もう黒騎士くんもボロボロです!」


「「「し、で、ん!し、で、ん!」」」


「「「くっろきし!くっろきし!」」」


紫電と黒騎士の応援コールで、会場中が埋まってしまう。

ファランクスの試合なのに、まるでシングル戦の様な会場の雰囲気。

そんな中で、私も自然と声が出ていた。


「巻島くん!頑張って!」


もう目でも捉えられないくらいに、2人は高速で動き回り、激しく殴り合っている。

あんなことが、Cランクの人間に出来るなんて。

私はいつの間にか、巻島君達の戦いに魅入っていた。

彼に勝って欲しいと、願っていた。


初めて会った時は、あんなにも彼が恐ろしかったのに。

鋭い目付き、濁った瞳。大きな体。

私は彼を見た時、ただただ怖くて、震えて動けなかった。

私が知っている、あの人に良く似た彼の姿に。

自分の復讐心を満たす為だけに、人々を(あや)め続けた、あの人物に。


でも、全然違った。

巻島君は、とても優しく、誠実で、何よりも真っすぐだった。

Cランクで、男子で、周りからチヤホヤされているのに、全然偉ぶらないで。

性別的に不利な異能力部に入っても、弱音一つ吐かずに練習し続けて、女の子ばかりの中でも堂々としていた。

そして、あの日、


『勝つよ、必ず』


都大会で言った、あの言葉。

絶体絶命のあの時でも、勇ましく笑ったあの笑顔は、今でも変わらず輝き続けている。

クリエイトシールドと言う、恵まれない異能力なのに。私と同じCランクなのに、彼は私とは違った。

彼は最後まで諦めずに、頑張り続けている。

どんな困難でも、どんなに壁が大きくても、それを超えようと必死に戦い続けている。

今も、全日本チャンピオンなんて言う大きな存在と戦っている。

普通なら、しり込みしちゃう所なのに、彼は全く動じていない。ちゃんと、向き合っている。


私と同じだと思っていた彼は、前へ前へと進み続ける。

じゃあ、私は?

私はどうなの?

私は向き合えているのかな?自分自身に。

林映美という人物に、しっかりと向き合えているのかな?


『電光石火の一撃を見舞い続ける紫電と黒騎士!あまりに速すぎるその攻防で、芝生が黒く焦げてしまっているぞ!2人の拳劇(けんげき)が、燃える程の火花を散らしているのだ!熱い!危ない!この2人の舞闘会は危険すぎるぞ!』

「「紫電さまぁあ!!」」

「「いけぇ!くろきしぃい!」」


私は、もう一度彼を見る。

既に甲冑はボロボロで、紫電さんに殴られた所が真っ黒になって、白く輝いていた甲冑が、黒く傷だらけになっている。

でも、それでも、その様子がとても勇ましく、カッコよく見えた。

必死で生きるその姿に、知らない内に、感動している自分がいた。


「私も、変わりたい」


そう呟いた私の声は、歓声に押し潰されてしまった。

けれど、確かに私は、それを口にした。


「まきしまくん!がんばれぇえ!」


掠れた声援は、不思議と響いた気がした。

紫電さんはずっと苦悩していたのでしょうね。

自分の力が足りないばかりに、あの試合で負けてしまったと。


「だがそれが、彼女をここまで成長させたとも言える」


幸せ、なのでしょうか?


「さぁな。だが、選んだのは本人だ」


選んだ道を、見失ったりしなければ良いのですが…。

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― 新着の感想 ―
去年の鮮血は別の人だったってことかな?
[良い点] いい感じですね。着々と蔵人氏の周りがドロドロしつつあります。クラスメイト、部活の先輩、昔の知人、色々な方が彼に恋愛感情を向けてますね。蔵人氏を好きな女性同士でなあなあにハーレムを築くのでは…
[良い点] 憧れが重い...(´・ω・`)
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