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102話~貴方も必ず、決勝までいらっしゃい~

大会4日目。午前11時。

蔵人はベンチで、桜城選手達の奮闘を見守っていた。


別に、昨晩の影響で、スタメンを外されている訳ではない。

昨晩はあの後、海麗先輩が部長にしっかりと説明してくれたので、(取り敢えず)収まっている。

だが、その影響なのか、今日は海麗先輩と共に部長もフィールドに出ている。

指揮官は鶴海さんだ。補助として鹿島先輩が横に付いている。


これは、部長が海麗先輩と一緒に出たい、という思いも確かにあるのかもしれないが、一番は相手の強さだ。

今日の相手、千葉県第1位、日本帝国大学付属柏中学。

千葉県の1位ではあるが、それ程強くないのだとか。

現に、今現在の試合の状況も、桜城の優勢が続いている。

その為、部長を抜きにした状態でもしっかりと指揮が出来るかの練習をしているのだとか。


こう見ると、1回戦で戦った筑波の方が何枚も上手であったと分かる。

と言うよりも、彼女達が引っ提げて来たロボット達が優秀だったのか。


「そうね。筑波の強さは、あの特殊装備が大きく引き上げていたと思うわ」


鶴海さんも、蔵人の意見に賛同してくれる。

聞けば、元々関東で強いのは東京と神奈川位の2県で、次いで群馬との話。

千葉や茨城、埼玉はそれ程強くないのだとか。

という事は、去年の桜城は相当弱かったのだろう。茨城の1位に負けていたのだから。


そして、今年の筑波も異常だったという事。

装備だけで、あれだけ戦況が有利になるのであったら、次回からのファランクス大会は地獄絵図になりそうだ。

お金のある学校は、(こぞ)ってパワードスーツに身を包むことだろう。

10年後とか、各校がワンオーに乗って戦う、超ロボット大戦になってしまうのではないだろうか?

蔵人が危惧していると、鹿島先輩が首を振ってそれを否定した。


「それは大丈夫よ。きっと、ルール改正が入ると思うから」


どうも、今回のは流石にやり過ぎなのだとか。

特に、グレイト10。あんなデカいロボットまで持ち出されては、それこそ異能力戦の定義が崩れてしまう。

異能力戦とは、本来国民の異能力レベルを上げるために設けられており、装備の向上を目指すのは別競技となるからだ。

装備はあくまでサポート。そう考えると、今回のはやり過ぎと。


「そうね。これまでのファランクスは、いえ、異能力戦は色々と改正を繰り返しているから、今回も歴史の転換点になるわね」


そう言うのは鶴海さん。

異能力戦が開催されたのは、凡そ60年前。その頃はまだルールもしっかりと出来ておらず、何でもありのドタバタ劇だったらしい。

重火器云々だけでなく、例えば、ヒールで無限に生き返って試合に出たり、ドーピングをし過ぎてチーム全員が体調を崩したこともあったのだとか。

そう言う抜け道を一つづつ潰して出来たのが今のルールであり、これからも改正を重ねていくだろうと、鶴海さんは言う。


そういう所は、他のスポーツと似ている。

でも、蔵人は少し残念に思った。

白熱したあの試合を思い出し、出来たらもう一度、グレイト10とは戦ってみたいと思った。


「そろそろ頃合いね」


そう言って、鶴海さんはメガホンを片手に持ち、こちらを見てくる。


「蔵人ちゃん。そろそろ交代の時間よ。本当に、お供は鈴華ちゃんで良いのね?」


鶴海さんの質問に、蔵人は後ろを振り向く。

そこには、親指を突き上げる鈴華の姿が。

蔵人は視線を戻し、大きく頷く。


「2人で、相手に止めを刺して来ます」




蔵人達が投入されたポジションは、円柱。

試合時間は、現在8分43秒。戦況は桜城領域:61%、柏中領域:39%。

前線は桜城が優勢だが、戦況はまずまずといった状況。

円柱に人員を割かずに、前線の維持に努めた結果だ。

それは、これから行われる作戦の為に、相手前線を削る必要があったからである。


蔵人達がフィールドに入ってすぐ、桜城前線が動く。

海麗先輩を中心に、佐々木先輩と部長が中央部に猛攻を仕掛ける。

そこで、蔵人は立ち上がり、盾を生成する。


「では行こうか。鈴華」


そう言いながら、蔵人は何枚かの鉄盾を鈴華に渡す。


「おう!こっちはバッチリだ!」


鈴華は両手に鉄盾をくっ付け、そして、足にも敷く。

その盾が、フワリと浮いた。


「よし、行くぞ」


そう言いながら、蔵人は背中に鉄盾の鱗を張り付けて、周囲を水晶盾で覆う。

その格好のまま、フィールドへと駆け出す。


盾密集形態(シールドファランクス)騎士特急(ナイトエクスプレス)


走り出す蔵人と、それに追従する鈴華。

鈴華は、磁力で蔵人の背中に引っ付いてスケボーしているだけなので、かなり楽ちんに見える。

陸上版ウェイクボードとでも言おうか。


「ヒュー!最高だぜ!」

「お客様。当機は隠密中ですので、お静かに」

「そうだった。ごめんよ、ボス」


軽い謝罪に、蔵人も軽く手を上げる。

そのまま、激戦が続く中央部へ。


『フォォオオオオ!!』


中立地帯へ入ったと同時に、蔵人が汽笛を鳴らす。

すると、前線で相手の盾を削っていた海麗先輩達がこちらを見て、すぐさま横にズレた。

蔵人はそのまま、海麗先輩達を通り過ぎ、ボロボロの相手前衛に突っ込む。

途端、蔵人の盾に追突されて飛ばされていく柏中選手達。


『ベイルアウト!柏12番!15番!21番!連続ベイルアウトだぁ!!』

「見たかぁ!これがボスの力だぁ!」


実況の声と、鈴華の声が重なる。

鈴華よ。嬉しいのは分かるが、ここは既に相手領域。はしゃぎ過ぎて両手の鉄盾を落とすなよ?


蔵人が心配している中で、早速盾に何かが当たる。

相手中衛の攻撃だ。

だが、蔵人達には当たらない。蔵人達を囲む水晶盾が、全て弾いてくれる。

更に、


「よし、鈴華。反撃開始だ」

「よっしゃあ!行くぜ!ロケットシールド!」


そう言うが早いか、鈴華の手から猛スピードで放たれたのは、蔵人の鉄盾だ。

鈴華の磁力により、手にしていた鉄盾が磁力によって弾き飛ばされ、蔵人達を狙い打っていた相手へと飛んで行った。

そして、


『柏中18番!ベイルアウト!』


見事に、相手の中衛に当たり、そのままベイルアウトとなった。

素晴らしい。これぞ正にエクスプレス。

いや、装甲列車か。


阻む者が居なくなった蔵人達は、正に独走状態。

そのまま一気に柏中の円柱にアタックを掛けて、見事にファーストとセカンドタッチを決めた。


『決まったぁ!桜坂がファーストタッチとセカンドタッチの両方を一気に奪いました!これで桜坂の領域は79%に(61%+800+400+400+200)なったぁ!そして…今!前半戦終了!この時点で、桜坂のコールド勝ちです!準々決勝は見事、桜坂の勝利となりました!』

「「「うぉおおおお!!!」」」

「「くっろきし!くっろきし!」」

「鈴華さまぁ!流石ですわ!」

「お姉様すてきぃ!」


おお。黒騎士応援団だけでなく、いつの間にか鈴華ファンまで発生しているぞ。

蔵人は相手領域を走りながら、後ろの車両で遊んでいるであろう鈴華を振り返り、そのことを教えようとする。

だが、振り返った鈴華は少し浮かない顔をしていた。

どうしたの?


「今、あたしの名前を叫んでいるあいつら、クラスメイトなんだよ。教室でやたら話しかけてくる奴なんだけど、なんでこんなところにまで居るんだ?」

「そりゃ、お前さんのファンなんだろうさ。モテる女は辛いな」

「面倒だな。あたしがモテたいのはボスだけだぞ?」


そう言う事をしれっと言わないでくれ。

蔵人は何と返していいか分からず、ただ前を向いて頬を掻いた。



試合終了後、蔵人達桜城選手は、軽いミーティングの後、クールダウンをする為に会場を後にした。

このままホテル近くの訓練施設まで行き、軽い柔軟と次の試合のミーティングを行うらしい。

道中、次の試合の相手について、先輩達が話している。


「前橋中でしょ?実力で言えば、帝都中とそんなに変わらないんじゃ無かったっけ?」

「去年まではね。でも、今年は更に尖っているらしいよ」

「尖ってるって、装備がか?」


サーミン先輩の軽い口調に、周囲の先輩は笑い声を上げる。


「神谷君。それは無いよ~」

「装備尖らせてどうするの?動き辛いだけじゃない?」

「その棘で体当たりするんだよ!きっと相手は痛がるぜ?」


冗談交じりに言うサーミン先輩に、先輩達は楽しそうに笑う。

1回戦では落ち込んでいた彼女達だが、今では雰囲気がとても柔らかくなっている。


「違う違う。尖ってるっていうのは、攻撃型に寄せているって事で、話に聞くと超速攻型の陣形を組んでくるらしいよ」

「速攻ってことは、飛行型かな?前線無視して突っ込んでくる、天隆タイプってこと?それちょっとヤバくない?」

「だから麗子は遠距離役を温存したんでしょ?あと蔵人君も」

「あ、そういう事か!だったら楽勝だよね?今回は海麗もいるし、天隆を倒した蔵人君もいるからさ」


先輩達がこちらを見ながらそう言うので、蔵人は素早く首を振る。

天隆倒したのは、俺1人の力じゃないですよ?


蔵人は、先輩達の会話に内心で突っ込みながら、少し危惧していた。

連勝によって、また頼れるエースの復帰によって、先輩達の気が緩んでいる事に。

これは、少し危ない状態だな。

そう思った蔵人だったが、それは外から見ても同じように思われていたようだった。

笑い合う先輩達の向こう側から、鋭い突っ込みが飛び込んできた。


「あら?随分と腑抜けているのね。桜城のカカシさん達は」


そうそう。腑抜けた桜城の案山子…って、案山子?

随分な言い様に蔵人が目線を上げると、そこには赤龍の鱗を纏った集団が、ズラリと並んでいた。

その竜騎士団の先頭には、背中の両翼を広げた美女が嘲笑を張り付けて、こちらを見ていた。


部長の唸り声が響く。


「天隆…!河崎美遊!」


天隆の河崎選手が、部長の鋭い視線に嘲笑を向ける。


「そんなに睨まないでくれる?私は、真実を言っただけじゃない。まさか、私たちに倒される前に、何処ぞの馬の骨に負けたりされたら、私たちの立つ瀬がないものね。あははっ!」

「「「クスクスクス」」」


河崎選手の言葉に、後ろに連なる天隆選手団からも忍び笑いが起こる。


蔵人はその様子を見て、おやっと思った。

以前会った時と比べて、彼女達の雰囲気が幾分も柔らかくなっている気がしたのだ。

以前なら、こんな笑いも起きない位にピリピリしていたし、表情がもっと張り詰めていた。

そもそも、河崎選手が先頭を歩いているなんて。


少しは変わってくれたのかなと、蔵人は嬉しくなった。


「ちょっと、喧嘩売ってるの?」


部長の横から海麗先輩が割り込んで入り、部長を河崎先輩から隠す様に前へ出た。

その海麗先輩を見て、河崎選手が少し目を開く。


「あら?貴女も戻ってきたのね。都大会の決勝にいなかったから、てっきり私に恐れをなしたのかと思っていたわ」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ」

「そう。それは楽しみね」


河崎選手が海麗先輩と楽しく?雑談していると、河崎選手の横に天隆選手が顔を出す。


「河崎先輩、そろそろ行きませんと」


会話に割り込む。

以前の河崎美遊なら、問答無用で平手打ちが飛ぶ場面であろう。

だが、河崎選手は、横から割り込んだ娘に少し驚いた顔を向けて、ほんの少しだけ微笑んで見せた。


「あら。もうそんな時間?早く行って、如月とか言う、無名の中学に負けたカメさん達を見物しに行かないとね、皆さん」

「「「はい!」」」


天隆の皆さん、とってもいい顔をしているな。

っと、それも大事なことだが、もっと大事なことをサラッと言ったな。

亀、つまり、冨道が負けたのか。


蔵人は、少しワザとらしく漏らした河崎選手の言葉に、眉を顰める。

これで全国大会進出校は、桜城、如月、前橋、そして、今から始まる天隆と神奈川第2位のどちらかとなる。進出校は5校だから、如月に負けた冨道もまだチャンスはある。明日の5位決定戦に勝てばいいだけの事。


蔵人が考え込んでいると、横から声が掛かる。


「…巻島蔵人」

「えっ?あ、はい。御用でしょうか?河崎先輩」


わざわざ天隆選手団の足を止めて、河崎選手が蔵人に声を掛けてきた。

先ほどまでの張り付けた嘲笑ではなく、何処か思い詰めたような、真剣な表情。


「私達は勝つわ、次の試合」

「は、はい」


うん。勝てるだろうね。天隆の実力なら格下と言っていい相手であろう。


「その次の試合も、勝ってみせるわ」


その次。それは、如月戦。

Aランクの全国一位を打ち負かすと、河崎選手は蔵人の瞳を真っ直ぐに見つめて、宣言した。

河崎選手は続ける。


「勝って、必ず決勝で貴方達桜城と戦うわ。貴方にもう一度、今度は最初から全力で挑む」


蔵人は、なんと言っていいか分からず、ただ、頷く。

それを見た河崎先輩は、少し表情を緩めた。


「あれからたった2週間。それでも私は、私達は変われたわ。あの試合があったから、貴方の言葉があったから。今の私たちなら、もう、あの時のような試合にはならない。だから」


そう言うと、河崎選手は踵を返して、歩き出す。


「だから、貴方も必ず、決勝までいらっしゃい」


それは、桜城に対する河崎選手なりの激励であり、宣戦布告なのだろうと、蔵人は思った。


「はい!」


蔵人は、天隆選手団の背中に、大きくなった河崎先輩の背中に、答えを響かせた。




しかし、

その約束が果たされることはなかった。

第3回戦はあっさりと桜城の勝利です。

これで、全国大会出場は確約されました。

あとは、どれだけ良い順位で出場できるかですね。


「不穏な雰囲気も流れているからな」


…嫌な空気です。

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