変わらない事
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
さっきの友人から聞いた話が耳にこびりついてぼぅ、としていたら前を歩いていた人にぶつかってしまった。
そして、驚いた。それは件の青年である、リュートだったからだ。青い髪と瞳は知的さを与えるが、その奥には何か危険なものがある気がした。
「シスター、君は女神様についてどう思う?」
「ーー私は、エリネティーシャ様の良き理解者であるだけです」
教科書を拾って礼を言ったリーゼロッテには興味がないと言いたげにリュートは話しかけてきた。リーゼロッテは警戒しながらも流暢に返す。
「エリネティーシャ、ね……」
何かを含んだ言葉が返ってきた。緊張した面持ちのリーゼロッテに軽く空気を含ませた笑い声を出すと、リュートは改めて名乗った。
「そういえば申し遅れたね。僕はミイシュルト学園が2年生、リュート。祝福名は『廉潔』。よろしくね」
僅かに弧を描いた瞳は、リーゼロッテへの嘲りを感じた。
「言っておくけど、『彼女』の事が一番好きなのは僕だ」
彼女とは、どっちなのだろう。『女神様』か『エリネティーシャ』か。それとも両方か。
その答えは出ないけど、一つだけリーゼロッテは分かった。このリュートと名乗る青年が、エリネティーシャの想い人なのだと。
「過去に縋るのは、得策ではありませんよ」
リュートがどちらの彼女の事が好きなのかは定かではないが、言ってみる。すると少しリュートの笑顔が崩れた。
「阿呆で愚鈍なシスターには言われたくないよ」
そう捨て台詞を吐いて、彼は来た道を戻っていった。
それを見届けてから、リーゼロッテはペタリと座り込んだ。阿呆で愚鈍と直球に言われたせいか、エリネティーシャの想い人と対峙したからかは分からない。
「好きになる人の趣味悪いよ、エリネティーシャ様」
小さく呟くと、漸く肩の力が抜けた。




