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シスター·リーゼロッテは眠りについた

「ごちそうさまでした」

「えぇ」

 食べ終わったスープの皿を、机にエリネティーシャは置いた。カタン、と音が鳴る。

 それを空虚に見つめていると、エリネティーシャが膝を叩いた。筋肉痛かと首をひねっていると、「いらっしゃい」ただ一言そう言われた。

「無理です」

「いいからいらっしゃいな」

 グイグイと意外と強い力に引っ張られる。暫し無言の戦いが起こったが、結局リーゼロッテが負けてエリネティーシャの膝に頭を乗せてしまった。柔らかく、ぽす、と音がした。

「こういう、なんでも無いことをわたくしはしてみたかったの」

「……成る程」

 膝は温かくて柔らかくて段々眠気が誘われる。上手く働かない思考の片隅で、リーゼロッテは口を開いた。

「エリネティーシャ様は、何故『女神様』を辞めたいと思ったんですか? 辞めると言った割に尊大な態度ですし」

「うるさい」

「すみません」

 膝に座って見上げると、少しむくれた幼い表情の顔がよく見える。そっと頬に触れると、すり、と頬ずりされた。

 エリネティーシャは、リーゼロッテの頭を撫でながらつぶやいた。

「わたくし、好きな方がいるの」

 ぱりん。何かが割れた気がした。頬から手を離す。

「でもね、好きな方はわたくしを『女神様』としか見てくれないの。だから、その人が傷つくって、わたくしは分かっていたけれど辞めることにしたの」

 勇気を出して顔を見つめる。エリネティーシャの顔は、凪いではいたけれど微熱を含んでいた。

 何故か、涙が一粒。

「エリネティーシャ様に想われているその人は、幸せ者ですね」

「もうわたくしは『女神様』ではないのに?」

「それでも、ですよ」

 ずっとこの3日間考えていた。自分は『女神様』では失くなろうとしているエリネティーシャをどう思っているのか。まだ答えは出ない。だけど、一つだけ言えることがある。

「だって私は、どう足掻いたって貴方が好きだから。貴方を形作る全てが、好きなんです」

 優しい眼差しも、柔らかい言葉も、たおやかな思い出も全てちゃんとリーゼロッテの中にある。それは『女神様』という権能が失くなったから色褪せるものではない。ちゃんとリーゼロッテの心の大切な所にある。だから、彼女の熱狂的な信者であったリーゼロッテだからこそ、エリネティーシャの門出を祝おう。

「エリネティーシャに、これから沢山の幸せが訪れますように」

 エリネティーシャは、少し泣きそうな顔で笑っていた。

「ありがとう、リーゼロッテ」


 今だって、受け入れがたい気持ちは変わらない。だけどリーゼロッテは思い出してしまった。エリネティーシャに体温がある事を。柔らかさがある事を。ーー誰かを慈しんだり、恨んだりする心がある事を。

 だから、もうシスターはおしまい。願わくば、信者と女神様という関係がなくなってもこの縁が消えませんように。


 シスター·リーゼロッテは、ゆっくり微睡んでから、目を閉じた。

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