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微熱

「この子は『万能』の祝福を授かっています」

 神官にそう告げられ、とても両親が喜んでいるのは5歳のリーゼロッテにも分かった。抱きしめられ、頬にキスをされ、本当に、リーゼロッテは幸せだったのだ。


 だけど、そんな日々は直ぐに閉じることとなった。

「ねぇリーゼロッテ。どうして、S+までの評価でAまでしか貰えないの?」

 わからないよ、おかあさん。

「リーゼロッテ、どうして剣技の大会で3位までにしかなれないんだ」

 分かりません、お父様。

「何故一番になれない」「何故中途半端なのだ」「何故『万能』なだけなのだ」

 分からない分からない分からない分からない!


 だって、リーゼロッテに与えられたのは『万能』だけだから。

 知力、武力、全てにおいて最高峰のミイシュルト学園に入学したときも、それに入学出来た事よりも、両親は入学試験の順位が11位だったことを気にした。


 そうやって、リーゼロッテをあげつらう両親に彼女は何時もこう返す。

「今度こそ、期待に応えてみせます」

 何時しかそれが、リーゼロッテの口癖となった。そして、この口癖を重ねる事に、両親から期待の炎は消え、失望の光があらわになった。

 巻き返さないと。今後こそ『完璧』にならないと。そう願い努力をしても、まるで最悪の結末を指で辿っていくように失望される未来は揺るぎない。

 女神様に出逢ったのは、家に居場所がなくて図書室に入り浸っている時だった。

 彼女に「シスターにさせてください」と頼んだのはまぎれもない本能。だけどこの本能をリーゼロッテは尊重しよう。だってこれのおかげで、『象徴』である女神様の側にいけるのだから。

 女神様の唯一のシスター。皆のリーゼロッテに注目する点は何時しかそれになった。両親も、尊い存在であるエリネティーシャのシスターになったことを喜んでいた。女神様に祈って、お話して。何時しかリーゼロッテは、彼女の存在によって自己が隠れていることを悟った。そしてこれは何よりも嬉しい誤算だった。

 それに気づいてから、より一層真心込めてリーゼロッテは女神様にお仕えした。


 リーゼロッテの汚い、穢らわしい本音。本来は清い女神様の側に近寄る事すら許されない邪悪な心。

 それが見抜かれていた。ずっと前から。多分、最初から。

「女神、様。私は、それでも誠心誠意貴方様に仕えてーー」

「貴方がわたくしを隠れ蓑にしていた、その事に言及するつもりは元から無いわ」

 女神様に言葉を遮られ、グゥと黙る。女神様はそんなリーゼロッテを一瞥してから続けた。

「だけど問いますリーゼロッテ。貴方は、わたくしが卒業した後どうするつもりだったの? わたくしの居ない学園で何に縋って生きるつもりだったの? 答えなさい」

「私、は」

 何も、続けられなかった。本当はリーゼロッテだって気付いていた。彼女と離れた後自分は何に縋るのだろうと。

 考えない事は無かった。だけどすぐ感情に蓋をした。

「だったら、私はどうすれば良かったのですか? 出来る努力は全てしました。全てです。それでも叶う事はなかった。

 そんな私は、一時の安らぎだとしても、止まり木が欲しかったんです」

 ボロリと大粒の涙が溢れた。漸く立ち上がると、驚いたような顔でエリネティーシャがこちらを見つめていた。

「さっきの問いに答えます。貴方様が居なくなった後、熱心な女神様の信者であった私はこう言うでしょう、『女神様が居ないのなら、私は死んでしまおう』と」


 リーゼロッテの女神は死んだのだから。

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