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つつかれた信者の記憶

春の思い出が、脳裏を駆け巡った。あぁ、どうして女神様はあんな事を。何がいけなかったのだろう。ダメだったのだろう。

 廊下を速歩きでかけていく。リーゼロッテ達が混乱している間に、エリネティーシャは講堂を去ってしまった。今しがた正気に戻ったリーゼロッテは、彼女がいそうな部屋を転々とする。何時もの教会。教室。何処にも居ない。

「女神様、教えてください。今何処にいらっしゃるのかを。これでは貴方の御声を聞くことすら叶いません」

 祈る。リーゼロッテは献身的なシスターだから。ーーだけど女神様は、そんな信者に答えてはくれなかった。

 くるぶしまで伸びたスカートが邪魔で上手く走れない。そもそもリーゼロッテは、運動は人並みより出来るけど決して得意ではないのだ。案の定、スカートに足を取られ転んでしまった。受け身を取ったため顔等は無事だったが、膝が痛い。ジンジンと痛む。

 涙が一つ、ゆっくり溢れた。鼻水も出てくる。鼻を啜りながら蹲っていると、直ぐ側の図書室のドアが開く音がした。

 体に影がかかる。ゆっくり顔を上げると、そこには見たことがない程仏頂面の女神様がいた。

「間抜けな顔だこと、リーゼロッテ」

 何時もみたいに丁寧な口調でもない。

「女神様」

「その名前ではもう呼ばないで頂戴な、不愉快よ」

 慌てて口をつむぐ。女神様に嫌われたくなんて無い。

 口を抑えて黙っていると、暫く無言が続いて耐えられなくなって、そぉっと顔を上げた。しかしただ無情にエリネティーシャはリーゼロッテを見下ろしている。下からだと、ベールに隠された彼女の顔がよく見えた。一対の碧眼。彼女を女神だと足らしめる十字。神秘に満ちた瞳を囲う宝石よりも価値のある黄金の髪。

 やっぱり綺麗だと、リーゼロッテは思う。そんなリーゼロッテを嘲笑するように、女神様は告げた。

「わたくしはただの人間となりました。これからはエリネティーシャと呼びなさい」

「……無理、です」

「何故?」

 片眉を器用に上げ、エリネティーシャは問を投げかけた。その言葉に、リーゼロッテは上手く答えられない。だってこれが『当たり前』だったのだから。彼女と出逢った11ヶ月前からずっと。

「貴方は私の無二の女神様なのです。無理です、私には。貴方様を呼び捨てにするだなんて」

 リーゼロッテは自分でも驚くくらい震えていた。だから、余計な言葉を出してしまった。

「それに、貴方様の祝福は『象徴』なのでしょう?」

 言った瞬間、後悔をした気がした。だがリーゼロッテの思考が定まる前に、リーゼロッテの顎を強引に持ち上げられ上を向かせられる。痛くはないが、そこにはエリネティーシャの静かなる怒りが含まれていた。

「それを貴方が言うのね、リーゼロッテ」

 青の瞳と、リーゼロッテの緑の瞳が絡み合う。全ての時間がとまったような錯覚を受ける中、そんな物を壊すように脳内に流し込むようにエリネティーシャが声を発した。


「『万能』の祝福を受けながら、決して『天才』にはなれなかった貴方が」

 全てを見透かす青に、囚われた。その十字に、懺悔した。

 リーゼロッテの枯れた花のような記憶を。

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