出会いの日
リーゼロッテが女神様に会ったのは、遅咲きの桜が舞う、4月の事だった。
リーゼロッテはまだ入学して日も浅いのに、図書室に入り浸る生活を送っている。その日も、太陽が沈みかけるまで勉強をしていた。
「いけない、もうこんな時間」
ペンを動かす手を止めて、一人ごちる。もう帰らなければならない。まだ残っていたら、巡回中の教員に諌められてしまうだろう。面倒事が起きる前に帰ろうと、若草色の髪を揺らしながら、リーゼロッテは茜の斜陽がさす廊下を進んでいた。
下を向きながら歩く。そうしていると自分の体に影が落ちたのが分かった。上を向く。
その瞬間、リーゼロッテは自分の心臓が飛び跳ねたのを感じた。驚いたからでは無い。眼の前に立っている白いレースのベールを被った何かに、酷く魅了されてしまったからだ。
「まぁ、こんな時間まで残っているなんて、先生方に怒られてしまいますわよ」
見た目の神聖さとはかけ離れた気安い口調に漸くこれは人だと分かった。だけどそれでも、どくどくと、何時もより大きな音を立てる心臓を抑えきれない。
「貴方、は」
「わたくし? わたくしはエリネティーシャ。祝福名は『象徴』。ミイシュルト学園が2年生のただの一般生徒ですわ」
ただの一般生徒? あり得ない。彼女は明らかに常軌を逸していた。そんなリーゼロッテの心を読んだかのように、少し恥ずかしそうにエリネティーシャは付け加えた。
「わたくしが言い出したのでは無いのですが、この学園で所謂『女神様』という呼称がついていますわ。それで、貴方のお名前は? わたくしだけ名乗るのはフェアではないですから」
その言葉に正気に戻る。いや、上気した頬はそのままだし、潤んだ目を拭ってもいない。だが思考は確かにリーゼロッテに司令を下した。
「私は1年生のリーゼロッテです。ーーそして、貴方につかえると、今決めた者です。私を貴方のためだけのシスターにさせてください」
目を真ん丸くしたあと、エリネティーシャは少し笑みを作った。
「それなら、これから宜しくお願いしますわ」
その顔からは、さっきのような気安さは鳴りを潜めていた。




