女神たらしめるもの
エリネティーシャは『象徴』という祝福を授かった。そんな彼女が何故『女神様』という烙印を押されたのか。それは、5年前に遡る。
「あ、づい。あぁぁぁ!…………熱い、いだいよお母様ぁ!」
「大丈夫ですエリネティーシャ。これは魔力で刻みつけているだけですから視力は無くなりません」
お門違いな事を言う母に、心底寒気がした。でもそんな事に構っていられない程に目が、痛い。
「貴方は『象徴』なのです。それならば他者とは違う何かがなければ」
教会で祝福を授かってから、母は狂信的な信者になってしまったようだった。今だってそう。痛がるエリネティーシャには目もくれず、ただエリネティーシャの瞳に十字が刻み込まれるのを待っている。
「はぁ、はぁ」
泡を吐きながら倒れると、漸く痛みは終わった。
「これで貴方は、完璧な『女神様』になれたわ」
そんな言葉は、届かなかった。
この日から、ずっとずっとエリネティーシャは目が痛い。それは昔の痛みを反芻しているだけか、今も痛むのかは、定かではない。
それから、色んな人がエリネティーシャを女神様と持ち上げるようになった。眼の前にいる少女だってそうだ。急に「貴方の為だけのシスターになる」、だなんて言いだした。急速に心が冷えていくのを感じた。それから、リーゼロッテの事がエリネティーシャは嫌いだった。だってエリネティーシャの嫌いな人たちと同じ事を言うから。
そんな、ある日だった。
丈の長いスカートに引っかかって転んでしまったのだ。幸い周りにリーゼロッテ以外の人が居なかったから良かったが、それでも恥ずかしいし、打ち付けた膝が痛い。
「痛そう、女神様。早く医務室に行きましょう」
その言葉に、目を見開いた。普段なら『女神様だから大丈夫ですよね?』それで今まで出会った人は終わらせてきた。それなのに、リーゼロッテはまるで『人』のような扱いをしてきた。
「え、だってわたくしは女神様だから……」
「それでも、痛いですよね?」
鼻がツン、と痛くなった。何時も痛みを訴えていた眼が痛くないと驚くと、その拍子に涙が溢れる。
そんなエリネティーシャを見て余程痛いと思ったのか、リーゼロッテは抱きしめて背を擦ってくれた。
「大丈夫ですよ、女神様」
そうして慰められて、漸くエリネティーシャは気づいた。リーゼロッテは確かに自分を『女神様』と認識しているけど、リーゼロッテはちゃんと『エリネティーシャ』を見てくれているんだと。
エリネティーシャでさえ気づけなかった事を、見ていてくれているのだと。
「痛い、わ。とても痛いのリーゼロッテ」
「ーーはい、医務室にいきましょう」
その日から、眼の痛みは消えた。そしてそれと引き換えに、リーゼロッテの事を、エリネティーシャは好きになった。




