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Menu 2 ~ ハンバーグ ~

ソニアの案内で、アリアータの町の商人ギルドへ連れて行ってもらい、商人としての登録と、店を出す許可が与えられたことを示す1枚のカードを発行してもらった。


「タクトさん。それがあれば、いつでもどこでもお店を出せたり、行商することができますよ。」

「へぇ……もっといろいろ、面倒なことをしないといけないのかと思った。」


この辺りはやっぱり、前の世界とこの世界の感覚の違いみたいなものなんだろうな。


「しかし、受付の方も言っていましたが、露店や一般的なお店を出すための資金は、全額自己負担です。こちらの世界に来たばかりのタクトさんに、そのようなお金があるとは……」

「おう。今はまだ無一文……えっと、まったくお金を持って無いな。それに、さっき唐揚げを出したスキルの制約で、お金そのものを出現させることは禁じられてるんだ。」

「では、どのようにして店を出すつもりですか?」

「確かにスキルでお金を出すことはできない。けど、それ以外の物なら出せるみたいだから……あれを出してみるか。」


俺とソニアは人気の無い場所まで移動し、スキルを使って、手押し車式の屋台を出現させた。


「これなら、空いてる場所へ好きな時に移動できるからな。」

「移動式のお店!?タクトさんの世界には、そのような物もあるのですね。」

「驚くようなことかな?この世界にも行商人……商品を卸すために、各地を移動する人が居るだろ?あれの食べ物屋さんみたいなモンだと思ってくれればいいよ。まぁ、俺はこの町から出るつもりは無いし、資金が貯まったら普通のお店にするつもりだけど……」

「それを聞いて、安心しました。それでは、私はそろそろ仕事に戻ります。夜になったら、ご飯を食べに来ますね。」

「おぅ。ありがとな、ソニア殿。助かったよ。」


手を振ってソニアと別れ、俺は今出したばかりの屋台を見る。


「さてと……屋台を出したのは良いものの……ちょっとした疑問ができたな。女神様に訊いてみるか。」


俺は言われた通り、強く念じる感じで女神様を呼んでみる。


『は~い。どうされました?拓斗くん。』

「いきなり呼び出して申し訳ありません。ちょっと、女神様に尋ねたいことができたので……」

『はい。何でしょう?何でも訊いてください。』

「今、昔ながらのラーメン屋さんみたいな移動式の手押し屋台をスキルで出したんです。普通の店をこっちの世界で買うための資金を、コイツで稼ごうと思いまして。」

『はい。』

「それで、この屋台に調理器具を搭載していくとして、水道はさすがに無理だとして、ガスコンロは欲しいと思ったんですが……こっちの世界って、剣や魔法の世界なんですよね?ガスや水道って使えるんですか?」

『使えますよ。水道もガスコンロも。』

「使えるんですか!?」


女神様からの返答は、俺が思っていた予想を遥かに上回っていた。


『仕組みは少し異なりますが、水魔法・炎魔法を使った、似たような器具がそちらの世界にもあるんです。なので、拓斗くんがその屋台で、お客さんが見ている前で調理しても、『 ちょっと珍しい形だなぁ 』と思われるくらいで、特に疑われる……不思議に見られることは、無いと思いますよ。』

「へぇ……割と高度な技術が、この世界にもあるんですね。それを聞けて安心しました。使えなければ、違う方法を模索しないといけなかったので。」

『うふふ。またいつでも、そちらの世界の方に訊くことが難しい疑問に思うようなことができましたら、いつでも語り掛けてくださいね。』

「はい。ありがとうございます。」


念話終了


「さてと……何でガスが使えるのかは、この際考えないとして……調理機材が使えることが判ったことだし、必要だと思う物を準備していくか。あと、気になることを確かめに、市場にも行っておかないと……」


開店するのは、ソニア殿が来るであろう夜になる。

それまでに、ある程度の準備は済ませておかないとなぁ。


***


何やかんやしているうちに、空の一部でオレンジ色と紫色が混ざったような感じになってきた頃


時計があるのか、まだこの世界のことを知らない今、屋台の一角に小型の目覚まし時計を置いておくのはどうだろう?と思ったので

スキルで懐中時計を出し、確認したところ……どうやら、現在18時50分のようだ。


「こんばんわ。タクトさん。」

「おぅ、待ってたぜ。ソニア殿。」

「そんな、『 殿 』だなんて……呼び捨てで呼んでいただいて、構わないですよ?」

「いや、この世界の水軍のお偉いさんに、そんな恐れ多いと思って、こう呼んでたんだけど……本人からお許しが頂けたなら……」

「えぇ。許しちゃいます。それより、タクトさん。何を食べさせてくださるんですか?」

「それなんだけど……大体の物はスキルで出せるし、自分でも作れるからな。ソニア……の要望っていうのか?食べたい物を出そうと思ってたんだ。」

「うふふ。ありがとうございます。そうですね……今日は水上訓練をして、とても疲れました。なので、ガッツリと!お肉が食べたいです。唐揚げも良いのですが、できれば今回は鶏肉以外で……お願いできますか?」

「そうだな……それじゃ、コレはどうだろう?」


俺は【 創造 】のスキルでメイン料理とパンを出現させ、日中に作っておいたコーンスープをカップに注いで、ソニアに提供する。


「タクトさん……これは?」

「ハンバーグっていう、挽いた肉を使った料理だ。まぁ、とりあえず一口食べてみな。」

「はい!……では、いただきます。」


ソニアは熱した鉄板の上に置かれ、未だにジュウ、ジュウと音を立てているハンバーグを、上品にナイフとフォークで切り分け……口の中へと運んだ。


「熱っ……もぐ……ん、んっ!美味しい!どうやって作っているのかは判らないですが、これも肉汁がとめどなく溢れ出て……スパイスが効いているのも良いですね!」

「この世界の肉事情はまだ知らないけど……牛肉と豚肉を食べたらいけないみたいな、法律は無いよな?」

「えぇ。そのような法律は無いので御安心ください。ですが、なるほど……1つの肉だけではなく、2つの肉を合わせているのですか。」

「1つの肉だけで作るパターンもあるんだけどな。俺はこの合い挽きが好きだから、今後もこれを提供するつもりだ。」

「もぐ……えぇ、良いと思います……ぁ……」

「ん?どうした?」

「夢中で食べていたら、パンとスープが余ってしまいました……これはこれで凄く美味しいのですが……タクトさん……その……」

「おかわりか?」

「……はぃ。」


少し照れた表情を浮かべながら、ソニアが木製の部分を持って鉄板を差し出して来た。


「おかわりしてくれるのは良いんだけど……その……ハンバーグは肉の塊だからな?あんまり食べると、えっと……」

「えぇ。タクトさんの言わんとしていることは解ります。明日の訓練量を増やさないといけませんね。」

「頑張れ。まぁ、ソニアが食べたい時には、いつでも用意してあげるからさ。」

「うふふ。ありがとうございます、タクトさん。」

「はいよ!2個目、どうぞ。」

「……あの、タクトさん。このハンバーグの上で溶けているのは……?」

「ん?チーズっていうんだけど……この世界に無い物か?」

「いえ!チーズやバターというものはあります……が、チーズはお酒のおつまみとして、切り分けられた物をそのまま食べるのが一般的なので、こんなに薄い物を見たことはありませんし、お肉と一緒に食べるということが初めての事なので……」

「なるほど。まぁ、唐揚げの時みたく、騙されたと思って食べてみな。」

「はい。では……」


先程と同じ要領でソニアがハンバーグを一口、口の中へ運んだ。


「…………今日は驚かされてばかりです。タクトさん!これ、凄く美味しいです!チーズのコクがお肉の味と合わさって……」

「喜んでもらえたようで良かった。それにしても……」

「どうかされました?」

「ハンバーグやスープを美味いって言ってくれるだろなぁとは思ってたけど……パンまで凄く美味しいって言ってくれるとは、ちょっと思ってなかったな。」

「このパンは、タクトさんが居た世界では一般的な物なのですか?」

「ん?そうだな。バターロールっていう、割と一般的な物だとは思うんだけど……」

「そうですか……このように上質な白パンが一般的だなんて、とても良い世界だったのですね。」


白パン……童話か何かで、そう表現されているパンがあるということは、情報で知っている。


「この世界で白パンは珍しいのか?」

「一応、パン屋さんで出回っていますが、ここまで上質なのは珍しいですね。あと、普通の御家庭の方々もちゃんと買える値段なのですが、やや固いながらも白パンよりも少し安い値段の黒パンの方を購入される傾向はあるみたいです。」

「そっか。でも、一般の御家庭でも購入できる値段っていうのなら、こうして普通に提供しても問題無いか。」

「えぇ。大丈夫だと思いますよ。」


そんな話をしながら、ソニアは本当に美味しそうにハンバーグを食べ……そして


「ふぅ……ごちそう様でした。」

「おう。御粗末さまでした。」

「では、タクトさん。お支払いなのですが……お幾らですか?」

「値段……あ、そういえば考えてなかった。」


スキルを使って出しているから、材料費とかは無料なわけで……あと、この世界の物価がどれくらいなのかも判らない。


「ん~……よし。今回は俺の奢りだ。日中世話になったしな。」

「えぇ!?いえ、さすがにそれは……」

「明日の昼までには、ちゃんと考えておくから!それに、少しでも美味いと思ってくれたら、今後も利用してくれると嬉しいかな。」

「わかりました。えぇ、必ず!今後も足を運ばせていただきます。では、タクトさん……その、本日はごちそう様でした。」

「ははっ、またの来店、お待ちしております。」


昼と同じように笑顔で手を振ってソニアと別れ、ふぅっと軽く溜め息を吐く。


「料金に関してはマジで考えてなかったな……明日の朝にでもまた、お金関連のことを女神様に訊いておかないと。」


そう独り言を呟き、俺は重い腰を持ち上げ、皿洗いを済ませた。

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