Menu 1 ~ 鶏の唐揚げ ~
ふっと目を覚ました俺の目に、まず最初に視覚から得た情報は、水平線……どうやら俺は今、海……浜辺に居るらしい。
「此処が……異世界?」
『拓斗くん、拓斗くん、転生の女神です。今、貴方の脳に、直接語り掛けています。』
「コイツ……直接、脳内に!?っていうお約束は、しておいたほうが良いですか?」
『それはまた追々。さて、拓斗くん。貴方が居るその世界は、拓斗くんが生前好んで遊んでいたゲーム……剣と魔法でモンスターを倒す、RPG……ファンタジーな世界です。』
「おぉ。それはちょっと……いえ、かなりテンションが上がりますね。」
『では、拓斗くん。右手を軽くかざしてみてもらえますか?』
「右手を……軽く……」
女神様に言われた通りに右手を動かすと、ヴン……という小さな電子音のような音と共に、何も無い空中に、そこそこ大きな長方形の画面が立体映像のように表示された。
『そちらが、ステータス画面になります。』
「なるほど。えっと……」
【 タクト 】 Lv・20
種族・人間
年齢・18歳
性別・男性
身長・180cm
職種・-
HP・5400
MP・1200
【 STR 】・450
【 VIT 】・430
【 INT 】・400
【 MND 】・400
【 DEX 】・800
【 AGI 】・1000
<< 適性 >>
【 歩兵 】 A 【 騎兵 】 A 【 弓兵 】 B 【 海兵 】 A 【 空軍 】 F
【 魔導師 】 D 【 工作兵 】 F 【 軍師 】 B 【 間諜 】 F 【 築城 】 F
【 統率力 】 C 【 行商 】SS+
【 剣術 】A 【 短剣術 】B 【 槍術 】A 【 弓術 】A
【 格闘術 】S+ 【 魔術 】D 【 機械操作 】A
<< スキル >>
〇 創造 Lv・Ⅰ 『 パッシブスキル 』
属性:-
消費MP:-
*自分の記憶にある物・1度見たことある物を、『 お金 』以外なら作り出すことができる。
*スキルで出現させた物の細かい微調整をすることができる。
「他の人のステータスを知らないから、比較ができないんだけど……【 行商 】の適正?が高いから、そっち方面でやっていくのも、アリかもな。」
『うふふ。あ、その【 創造 】のスキルについてなのですが、項目にもある通り、この世界のお金や、拓斗くんが元居た世界のお金を出現させることはできません。』
「まぁ、俺が元居た世界のお金なんて、この世界で使えるとは最初から思ってませんでしたが……」
『ですが、それ以外の物でしたら何でも出現させることが可能です。生の食材から、それを調理するための器具。もちろん、完成された料理を出すことも可能です。』
「あ……器具のことまでは考えてなかった。ありがとうございます、女神様。」
『どういたしまして。それでは、説明することは以上……ですかね?また何か判らないことがありましたら、念じるようにして強く呼びかけてください。私の方からは……拓斗くんにこの世界を楽しんでいただきたいので、あまり干渉しないようにします。』
「わかりました。この世界の情報は、RPGみたく、現地の人とのやり取りで何とかしますよ。」
『えぇ。頑張ってください。それでは!異世界生活、頑張って!楽しんでくださいね。』
通話……念話?終了。
「さてと……とりあえず、まずは腹ごしらえだな!」
よくよく思い返してみたら、結局親子丼も食ってないし……あぁ、何だか無性に鶏肉が食いたくなってきた。
「早速、スキルを試してみるか。」
生きていた頃、爺ちゃんの飯を用意していたので、料理自体はできるのだが……とにかく腹が減った!
この状態で仕込みからなんて、やってられるか!
なので、最初のスキル利用は、完成している料理を出そうと思う。
「そういや最近、唐揚げ食ってねえなぁ…………どうせ唐揚げを出すなら、奮発してみるか。」
俺はスキルを発動した直後に出現した、ステータス画面と同じ……いや、少し大きい画面を、タッチパネルを操作するように利用して
『 料理 』の項目から『 唐揚げ 』→ 『ももから脛にかけて 』と、部位を選択した。
すると、太股から脹脛辺りまで衣が付いてカラッと揚がった唐揚げが、皿と一緒に出現した。
「おぉ!出た!」
俺は脛の辺りを紙で巻き、豪快に太股肉にかぶり付いた。
ザクリとした歯ごたえの衣と共に、ジュワっと肉汁が口いっぱいに広がる。
「うん!うん!味付けも良い感じだな。もう1つくらいならイケそう……ん?」
浜に打ち上げられた丸太に座り、デカい唐揚げにかぶり付いていると視線を感じたので、ふっと視線を上げてみると
軽装ではあるが青い防具を装着した、金髪の1人の女性が、ジッとこちらを凝視していた。
「えっと……あの……?」
「ぁ……ごめんなさい。あまりにも良い匂いがしたので、気になって……つい……」
「流石に俺の食べかけを渡すのはな……待っててくれ。すぐに同じ物を出す。」
俺は先程と同じ操作で、自分が食べている物と同じ唐揚げを出現させ、女性に差し出す。
「どうぞ。周りに他の人は居ないみてぇだし……豪快にかぶり付いて、食べてくれ。」
「え……えぇ……できる範囲で、貴方の真似をしてみます。」
そう言いながら女性は唐揚げに噛みついた。
「はむ……んっ!?熱っ、ん……何これ!?肉汁が……凄い、美味しいです!こんな料理、産まれて初めて食べました!これは何という料理なんですか!?」
「え?若鶏……かどうかは判らねえからな。こいつは『 鶏肉の唐揚げ 』って料理だ。」
「鶏……?これが鶏のお肉ですって!?」
「そんなに驚くことなのか?」
「……貴方はこの辺りの人ではないようですね。この港町『 アリアータ 』近辺で出回る鶏肉は、内陸の都市から流れてきた卵を産み終えた廃鶏……年老いた鶏のお肉なのです。その身は固く、パサパサしているうえに、匂いも悪いので、好んで食べる人が少ないんです。」
「そうだったのか……いや、実は俺、この世界に来たばかりで、何も知らないんだ。」
「この世界?」
「あ……」
迂闊だった。
異世界転生の話なんて、どうせ信じてもらえないだろうから、適当な言い訳を考えてやり過ごすつもりでいたのに……
かといって、今からごまかすのも変だよな……仕方ない。
「信じてもらえるかどうかは判らないけど、実は……」
俺は元々別の世界の人間だったということ
女神様に頼んでこのスキルを得たこと
今食べた唐揚げは俺が元居た世界の食べ物だということを
目の前の女性に、正直に話した。
「なるほど。そういうことでしたら、納得です。」
「信じてくれるのか!?自分で説明していても、夢物語みてぇな話だなと思ってたのに。」
「これでも、人を見る目がある方だと自負していますので。それに、この料理……私も他の町、他の大陸の料理を全て知っているわけではないので、偉そうなことは言えませんが、少なくとも、この唐揚げと同じような物を提供できる店は、この辺りにはありません。」
「そうなのか……それはやっぱり、さっき言ってたこの辺りでは良い鶏肉が入手できないからか?」
「それもありますが、根本的に、このような調理方法があること自体知らないという点です。廃鶏の肉の問題点はやはり肉の固さと臭いなので、肉を少しでも柔らかくするためと臭い消しのために、香味野菜と香辛料、調味料と一緒に煮込むのが、基本的な調理方法になるんです。」
「なるほど。」
この感じだと、この辺りでは鶏以外……豚や牛の肉も、煮込んで調理するのが基本になるんだろうか?
「なので、この世界では絶対に御目に掛かれない料理を出した貴方の話を、私は信じることにしました。それで……貴方は今後、どうされるおつもりですか?」
「そうだな……さっき言ってた、アリアータ?って場所で、飯屋を開店させようかな……と……考えて……」
「それは素晴らしい考えです!開店した暁には、是非とも最寄りにさせていただきますね!」
「とはいっても、土地や店を購入する金が無いから、しばらくは屋台……露店販売になるだろうけどな。」
「それでも充分です!では、まずは手続きをしないといけませんね。私が案内して差し上げます。唐揚げのお礼と、これからも美味しい物を食べさせていただけるであろう期待からくる先行投資です!」
「ははっ、助かるよ。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はタクト……飲食店経営希望者とでも言っておこうかな。」
「私は『 ソニア 』。アリアータの町で水軍都督を務めさせていただいています。」
俺がこの世界で初めて知り合った女性は、水軍のお偉いさんでした。