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Menu 9 ~ ホットケーキ ~

8時30分。


「さてと……今日も昼か夜に向けて、準備しておかねぇとなぁ。」


「おはよう、タクト。」


自分を呼ぶ声がしたので顔を上げると、裏路地のほうからセシルが歩いて来た。


「おぅ!セシル。無事に戻って来たんだな。」

「あぁ。クエスト自体は早急に終わり、昨日の夕刻にはこの町に戻って来ていたんだがな。その後、そのクエストで一緒だった奴等の酒宴に巻き込まれてな……目が覚めたら、朝になっていたんだ。」

「お……おぅ……お疲れだったな。」


心なしか、ほんの少しだけセシルの顔色が悪いように見える。


「とりあえず、タクト。開店前の時間かもしれないが……何か、甘い物を用意してもらえないだろうか?」

「もちろん。開店時間とか特に決めてねぇからな。腹を空かせて来てくれたお客さんを無下にするようなことはしねぇよ。」

「ふふっ……ありがとう。」

「ただ、1から作るから、少し時間がかかるけど、構わないか?」

「もちろんだ。この後、何も用事が無いからな。ゆっくりしてくれて構わない。」

「了解。それじゃ……始めるか。」


俺は【 創造 】のスキルを使って必要な物を用意し、セシルの目の前で調理を開始する。


「粉と牛乳と卵……砂糖を使わないのは、やはり高価だからか?」

「いや、この粉には既にいろいろ混ざっていてな。一度調理中に、誤って口の中に入った時に感じたんだけど、割とこの粉だけでも甘かったんだ。だから、追加で砂糖を加える必要がないんだよ。」

「なるほど。おそらく、粉そのものはこの世界にもあるのだろうが、それを1つに纏める割合などは、タクトの世界の技術あっての賜物なのだろうな。」

「まったく、本当に俺もそう思う。」


前の世界にはマジで、便利な物が沢山あって助かるよ。


「あとは、バターの敷いたフライパンで焼くだけ……っと。」


フライパンに生地を流し込み、プツプツと小さな穴ができてきたのを確認してからひっくり返し、もう片面も弱火でじっくりと焼いていく。


「あぁ……甘い良い匂いがしてきた……」

「はい!お待ちどぉ!」


俺はセシルの前に出来上がった料理をナイフとフォークと一緒に差し出した。


「おぉ……タクト、これは何という料理だ?」

「ホットケーキっていうんだ。上に乗ってるバターを少し伸ばして、このハチミツをかけて食べてくれ。」

「あぁ。わかった。うわっ!柔らかい。」


セシルは俺の言う通りにホットケーキを一口大に切り、口へと運んだ。


「はふ……んっ、もぐ……んっ、はぁぁ……温かくて、優しい甘さだな。うん!凄く美味しい!」


満面の笑みを浮かべながら、セシルがそう言ってくれた。


「そいつは良かった。飲み物はコーヒーで良いかな?」

「あぁ、任せる。それにしても……オムライスやシーフードフライは完成した物をスキルで出してくれたが……タクト自身の腕も、大したものじゃないか。やはり、こういうのは、親か働き先の人に教えてもらうのか?」

「う~ん……普通の人はそうなんだろうな。ただ、料理店で働く新人さんや見習いさんは、主戦力となる料理人からは何も教えてもらえない……他の料理人が作っているところを、貪欲に見て覚えるって話を聞いたことがある。」

「ふむ、そうなのか。」

「俺の場合は、お菓子関係は自分が食べたいから、普通の料理は、亡くなった育て親の爺ちゃんと一緒に食べる物を作っているうちに、自然と……って感じかな。」

「なるほど。何にせよ、スキル無しでこんなに美味しい物を作れる腕があるのは、良いことだ。これからも、異世界の料理、楽しませてもらうよ。」

「ははっ、ありがと。」


そんな話をしていると、セシルの手がピタリッと止まった。


「ぁ……タクト、おかわりを頼む。」

「了解!」


追加で用意したホットケーキを食べ終えたセシルが、満足げな笑みを浮かべながら腹部を擦る。


「ふぅ。朝から堪能させてもらった。ありがとう、タクト。このコーヒーとやらも良いな。程良い苦みで目が覚めてきた。」

「そいつは良かった。コーヒーに砂糖もミルクも入れてなかったみたいだけど、大丈夫か?」

「あぁ、問題無い。美味しく頂いたよ。さて、タクト。会計を頼む。」

「わかった。ホットケーキ1皿、銅貨3枚……」

「え?このホットケーキが、銅貨3枚!?」

「あぁ。えっと……ちょっと似たような物に、この『 パンケーキ 』ってのがあるんだけど、こっちは生クリームや果物を使う分、銅貨2枚ほど高くなる。」


俺はそう言いながら、メニューのパンケーキが載っているページを、セシルに見せる。


「確かに……少し手間がかかっている分、高価になるのは納得だな。」

「でも今回、セシルに提供したのはホットケーキだから。2皿で銅貨6枚と、コーヒー1杯が銅貨1枚で、合計銅貨7枚だ。」

「わかった。それじゃあ……はい、代金。」


セシルは財布から銅貨7枚を取り出し、手渡してくれる。


「はい、丁度いただきます。」

「ありがとうな、タクト。朝から良い物を食べさせてもらった……これで、また新しいクエストに挑めそうだ。」

「今度は何をするんだ?」

「まだ決めていない。が……もっとこの店を利用したいし、なるべく早く片付きそうなのにするか……だが、今後のためにもある程度稼いでおきたい気も……まぁ、ギルドに行って、ゆっくり決めることにする。」

「おぅ。この間のクッキーみたいに、持ち運びできる物が欲しくなったら、また頼ってくれ。」

「あぁ!その時は、是非ともお願いするよ。」


微笑みながら手を振り、路地裏方面へ歩いていくセシルを見送り、俺は自分の分の朝食の準備に取り掛かった。

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