Menu 0 ~ Prologue ~
5歳の頃に両親を交通事故で亡くし、育ての親だった父方の爺ちゃんも先日、大往生の末に天の世界へ旅立った。
学校の先生を頼ったり、スマホでいろいろ調べて、何とか葬儀も終え……俺は今、自分以外は誰も居なくなった家の畳の上で、大の字になって寝そべっていた。
「あぁ……何もやる気が起きねぇ……」
そう呟いた瞬間、自分の腹の中に勝手に住んでる虫が、『ぐぅぅぅぅ……』と、申し訳なさそうではありながらも、重低音を響かせながら催促してきた。
何もやる気は起きずとも、腹は減る。
「確か……米はあったけど、オカズになりそうな物が殆ど無かったな……うっし!買い出しに行くか。」
***
17時45分
「たまたま行った店で特売してて助かった。おかげで卵も鶏もも肉も安く買えたし……夕飯は親子丼でも作るか。」
そう思っていると、車道をトボトボと歩く痩せ細った犬の姿が、目に入った。
歩き方もどこかぎこちない……怪我か、加齢からか、どっちかは知らないけど、後ろ足が上手く動かせないようだ。
「へぇ……未だに野良犬って、居る所には居るんだな……ん?」
そんな犬に向かって、1台の車が迫って来ていた。
運転手は前方を見ていない……おそらく、車内に取り付けられたテレビで何かを見ているようだった。
「なんっつぅベタな展開!危ねぇ!」
そう叫んでいた頃には、俺の身体は車道に飛び出していた。
突き出した手に驚いた野良犬は体をビクッとさせた後、方向転換をして、足が不自由ながらも反対側の車道へと小走りで移動し……
俺の身体は、迫って来ていた車に、盛大に撥ねられた。
◇◇◇
???
「ん……」
ふっと目を覚ますと、周囲は星空で、俺は円形の硝子の土台の上に居た。
「此処は……?」
『あぁ!目が覚めたようですね。『 長谷川 拓斗』くん。』
声がした方を振り返ると、絵に描いたような……誰でも頭の中で1度はイメージするであろう女神様が浮いていた。
「あんたは……?」
『はい。私は転生を司る女神です。まず最初に、拓斗くん……あなたは、車に撥ねられて亡くなってしまいました。覚えていますか?』
「…………辛うじてだけど。確か、野良犬を助けようとして……」
『えぇ。そうです。どうして、野良犬を助けようと?』
「どうしてだろうな?野良犬なんだし、放っておいても良かった……あいつを助けた結果、俺が死んじまったワケだし……ホント、何してんだか。でも……助けられる命がある……あったのなら、助けたいと思った……んだと思う。あの時の俺は。」
『うふふ。御優しいのですね。そんな拓斗くんに、私達神様からのプレゼントです。人間として、別の世界に生まれ変わらせてあげます。』
「別の世界……最近よくある異世界転生ってヤツか。」
『そうです。それでですね、拓斗くん。異世界へ行くに当たり、何か御要望はありますか?とんでもないお願いでない限り、要望を通して差し上げますよ?』
「と言われても……どんな世界へ行くのか判んねぇし…………あ、じゃあ、2つほど思いついたんだけど、言うだけ言ってみても良いですか?」
『えぇ、どうぞ。』
「まず1つ目は、俺の言葉を転生した先の人に通じるように、向こうの人の言葉を俺自身が理解できるようにはしておいて欲しいです。」
『それは、拓斗くんからお願いされるまでもなく、私達の方でそうするつもりでしたよ。』
あ、そうだったのか。それは助かる。
要望が通らなかったら、気合と根性論で、とりあえず『 ありがとう 』と『 美味しい 』の2つの言語を死に物狂いで習得するつもりではいたから、その手間が省けたのは大きい。
『言語以外の1つの要望というのは?』
「向こうの世界でも美味い物が食べられさえすれば、たとえ牛舎や厩で寝ることになっても良いと思ってます。ただ……郷に入っては郷に従っていても、やっぱり、元居た世界の飯を食いたくなる時が来ると思うんです。なので、元居た世界の飯や食材を、いつでも好きな時に出せるような能力?を授けていただけませんか?他は特に何も要りませんので。」
『なるほど……わかりました。拓斗くんのその願い、叶えて差し上げます。それでは……転生した先の世界で、第2の人生を、楽しんでくださいね。』
微笑みながら小さく手を振る女神様を見ているうちに、俺の瞼がゆっくりと下がってきていた。