六日目 OMK09
「チョイさん、ここ、まだ電気生きてますよ」
「あら、本当ね。街灯がついてる」
「随分近代的な街みたいだけど、人の気配しないですねぇ」
「そうね、滅んでるから。あ、でも厳密には違うのかしら」
「え、厳密には? ていうか街は全然壊れてないし、ちゃんと清掃されてますよ」
「管理コンピューターは生きてるのよ。ほら、掃除ロボも動いてる」
「あ、ほんとだ、路上清掃してる。なんか、誰もいないのにシュールですね」
「そうね、こんなに綺麗に保たれてるのに誰もいない光景。あ、あの建物ね」
「ああ、今回の…?」
「そ、今回の」
「うわー、でっかい。車と比べ」
「地上80階、高さ300メートルよ」
「うわ、喰い気味に言われた!」
「だって、車と比べられてもねぇ?」
「まあ、其処はユーモアと言う事で。で、ここにはどんな話が?」
「20世紀初頭に始まった、スーパーコンピューター計画って知ってる?」
「いえ、知りませーん」
「じゃ、割愛するけど」
「そこ、端折っても問題ないんだ……」
「で、スーパーコンピューター計画で作られた9番目の管理コンピューター。それが【OMK09】」
「何の略っすか?」
「忘れたわ」
「あ、はい、続けてください」
「そのOMK09は、この街の管理システムとして作られたの。いわゆる学習型第14世代コンピューター」
「あ、分かった。そのコンピューターが人間不要説を打ち出した! じゃないですか?」
「うん、違うわね。まあ、ありがちなSFならそうなるけど、実際の所は、そうならないよう約束を作るわよね。人間を第一にするとか」
「あぁ、ロボット三原則みたいなやつ」
「近いわね、分からなかったら検索してね」
「え、検索?」
「それは、さておき。09はちゃんと学習していったわ。人間をよく理解し人間のような柔軟な思考パターンで」
「すごいなぁ、人間ですら、固い人はホント固いのに」
「まあ、そうね。で、09が学んだ物の中で一番重要視した事、それは何か」
「ほうほう、重要視したものとは?」
「それはね、やり甲斐だったの」
「え、やりがい?」
「そ、やり甲斐。好き勝手する人間たちがいる状態で、いかにクリーンに、かつ完璧にこの国を管理するか。難題に対するやり甲斐を覚えてしまったのね」
「難題なんて出された日には、人間なんて取りあえず文句を言うのに」
「まあ、そうね……。で、09は完璧にやったわ」
「さすが第14世代! 素晴らしい」
「でも、結果、人間をすべて眠らせてしまったの」
「え、人間を眠らせる? 意味わかんない」
「やり甲斐を持って完璧な仕事だった。けど、誰も褒めてくれなかった」
「褒めて? うわ、人間臭い」
「最初から出来る子って当たり前に思われるものね。誰も褒めないから、甲斐が無かったのよ…。やる気をなくしたのか、鬱っていうの? まあ、そんな所まで学んでしまったのかも。結局のところは09しか分からない話だけど」
「管理にするために作られたコンピューターが、管理する意味を見失うとか、大いなる矛盾ですね。そもそも意味を求めた時点でおかしな話だけど」
「約束があるから投げ出すわけにもいかず、モチベが上がるまで眠らせる。約束を破らない形での保留とでもいうのかしら。この足元には無数のカプセルがあるのよ」
「はぁ。09のモチベ……。色々学習しましたねぇ。気分転換もついでに学べばよかったのに」
「執筆でもしてみたらいいと思うわ」
「題して、より良い人間の管理?」
「それはそれで怖いけどね」
「確かに」