異世界料理無双 ~おいしい料理(ちゅ~る)は両刃の剣~
護衛の領騎士は全員やられた。
尻餅をついた俺の前には血だらけの猫獣人がいる。
「ノ、ノース家か?」
「ハアハア、違う」
「お、俺がイストリア家のお世話になっているのが不満な貴族の傭兵じゃないのか?」
「ハアハア、貴族など関係ない」
「お、俺には武力がない。できるのは異世界の料理を作ることだけ。俺の料理を食べると貴族だろうが平民だろうがみんなおいしいと言って笑顔になる。俺は料理で人を幸せにしかしていない。なぜ貴方に恨まれるのかわからない」
「ハアハア、ならば死ぬ前に教えてやろう、お前の罪を」
「ハア、俺は貧民街の下民だ。当然食事も貧しい。そんな貧しい食事でも、子供達は毎日おいしいおいしいと笑顔で食べていた」
「そんなある日教会の炊き出しがあった。その日の炊き出しはいつもと違った。べらぼうにうまかった。あまりのうまさにみんな天にも昇る心地になった。俺も夢中で食べた。後で調べたら、それはたまたま炊き出しに参加したお前が作ったものだった」
「ええぇ、どこにも悪いところなどないと思うんですが・・・」
「悲劇はそこから始まった。満足していた日々の食事がどれほど貧しいものかというのをイヤというほど知らしめられたからだ。大人たちはまだ我慢できる。だがその日までは笑顔で食べていた子供たちからは、笑顔が消えた・・・」
「子供たちはつらそうに食事をし次の炊き出しを指折り待った。だが次の炊き出しにお前は参加していなかった。似たような料理が出たがそれは天と地ほどの差があった。子供たちは違うと言って泣いた。極上を知ったものは中の下の料理では満足できないのだ。よりおいしいものを知ったとき、それは同時にこれまでのものをおいしくなくさせるのだ!」
料理人は衝撃で目の前が真っ暗になった。
「お前は貴族の相手だけしていればそれで良かった。お前の気まぐれで子供たちは一時の極上の幸せを得た代わりにその後の人生のささやかな幸せを全て不幸に変えてしまった。子供たちの幸せを奪ったお前を、俺は許すわけにはいかない」
料理人は罪を受け入れた。
おわり