第5話 日本へ
5話目にしてようやく異世界から日本へ、です。
◇リリィ視点◇
私が父様の育った世界へ行く……
「とは言えこのまま送り出されては何かと不便だろう。だからお前にこれをやろう」
クサビ様は虹色に光り輝く10cm四方の立方体をどこからか取り出す。
「これは?」
「これは『スキルキューブ』というものでスキルが内包されている。異世界の言葉がわからなければ不便であろう?『言語理解』のスキルを与えよう」
言語理解。
さらっと言っているけれど『言語理解』は実は無茶苦茶高等なスキルだ。
教科書で読んだのだが長年言語学について研究などを続けて来た者や様々な国を旅してきた冒険者などが習得できる可能性があるスキル。
それ以外でならダンジョンに眠るというスキルキューブを消費しての習得だ。
そんな代物なのにハンカチを出す感覚で……流石は神様だ。
「父様の世界って事はそこでは『日本語』が使われているのよね。それならいらない」
「何!?」
「その言語なら父様に習ったから問題ないの」
そう、日本語は発音も文字も習った
初対面の人にはそう……『恥ずかしめまして』。
お礼を言われたら『同意いたしまして』。
うん、完璧だ。かっこってこい日本語。
せっかくなので勉強の成果というものを試してみたい。
その努力をスキルで上書きされるのはごめんだ。
「そ、そうか……えー、虹色スキルいらないとか何それ?ちょっとこういう子って初めてなんだがなぁ……逆の転生とかそういうのなら喜んでスキル貰いまくっていくくらいなんだが」
私の発言にクサビ様が動揺している。
おや、初めて優位に立てた?
「な、ならばこの『悪食』などどうだ?名前は悪いがあらゆるものを食べて自分の糧にすることが出来る凄いスキルだぞ?」
「いや、父様の世界って普通に食べ物とかあるでしょ?いらない……」
将来的に『悪食のリリアーナ』とか呼ばれたりしたら嫌だ。
「えぇ……や、やはりあの男の娘だけあってロックアップだけでは測れないものもあるか……」
「あ、確認だけどあっちの世界でも魔道具とか魔法は使えるの?」
「使える。だがこの世界と違いあちらの大気はマナに満ちているわけではないからな……お前の消費が激しくなるし魔力などの回復も遅くなる。そこには気をつけろ」
なるほど、地球はマナに満ちているわけではないのか。
「そうだ。虹スキルを受け取らないのならばせめてこれを受け取るがいい」
クサビ様が渡してきたのは虹色の楕円形の魔道具。
20cm四方のキューブを数個。
そして、青い宝玉が埋め込まれた腕輪
「スキルならいらないって言いました」
「スキルなどではない。恐らくお前にはぴったりの代物だ。特に腕輪だ。お前のエネルギーが減ってくると腕輪の宝玉が点滅するからな」
仕方ない、と私はクサビ様からそれらの品を受け取る。
考えてみれば消耗が視覚的に確認できるのは便利だと思う。
私は腕輪を左腕に嵌めた。
「エネルギーの消費には本当に気をつけろ。こちらと同じような感覚で魔力を使っているとあっという間に切れてしまうからな……さて、旅立ちの時だ」
クサビが手をかざすと地面を2本の火柱が奔りその先の空間に入り口が現れた。
「その先は地球に繋がっている。駆け抜けるがよい」
「この先が父様の世界……」
「さあ、行くのだ。我が眷属よ。この度を終えた先にお前の更なる成長があるだろう」
えっと、何か勝手に眷属扱いされているんですけど……
まあ、でも……父様の世界か。
しばらく帰る事は出来ないだろう。
これは帰った時にかなり怒られるだろうな。
だけど父様が育った世界、見てみたい。
つばを飲み込み大きく深呼吸。
父様、母様、アンママ、リズママ……家出なんかしちゃってごめんなさい。
アリス、ホマレ、メール、リム……お姉ちゃん、ちょっと行ってくるよ。
ケイト……戻ったら、きちんと謝らないとね。でも今は……
「ええい、なるようになれ!!」
私は入り口目掛け駆け出した。
真っ暗な空間をひたすらに。
ひたすらに。
ただただひたすらに走り抜けていった。
やがて見えて来た光。
駆け抜けたそこへ飛び込むと不意に周囲の景色が変わった。
たどり着いたのはまたしても山の中。
だが、雰囲気が違う。
ボロボロに朽ちた木造の建築物が見える。
家だろうか?だがこういう建築物は見たことが無い。
振り向けば出口は既に無くなっていた。
石畳が続いておりその先は石の階段だ。
どうやら上の方に位置するらしい。
見下ろす先、今まで見たことのないような光が溢れる世界が広がっていた。
間違いない。ここは異世界だ。
「ここが地球……日本。そして……父様の世界」
この日、私は家出をした結果日本の地に降り立ったのだ。
「あれ?」
何だろう。騒がしい。
いや、この世界自体中々に騒がしそうだがそういった類のものではない。
何かが激突する音が途切れ途切れに聞こえてくるのだ。
これは……戦いの音?
「……行ってみましょうかね」
そうして私は石の階段を下って行った。
お判りでしょうが本人の認識と違いリリィの日本語は何処かおかしいです。
本人は自信満々ですけどね……
『言語理解』って重要スキルです。