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第2話 私は『平均点』

◇リリィ視点◇


 机に向かって鉛筆を走らせる。

 宿題は既に終わったのでその先は自主学習だ。

 歴史や理学、数学……それと個人的な趣味だが父様に教わっている『日本語』という言葉。


 これは異世界の言葉。更には『漢字』と呼ばれる文字と『かな』なる文字を使い文章を作っていく。

 これが結構楽しい。ケイトからは『実用性が無いじゃない』と言われるが好きなんだから仕方がない。


「あっ、ノートがもう無い……」


 私はノートがもう2ページほどしかない事に気づき納戸へ行く。

 買い置きしていたノートの在庫がまだあったはずだが……


「あちゃー、もう無いのか……」

 

 流石に6人キョウダイだと物品の消費も激しい。


「あれれ、リリィ姉ちゃん。そんなトコに入って……どうしたの?」


 納戸の入口から妹のひとり、メールが覗く。

 本名はレム・ラメール。

 父様の命名で『海』を意味するフランシス語らしい。

 あれ、フランソスだっけ?とりあえず父様の世界の言葉らしい。

 この世界でも確か北方の国での言葉で同じような単語があったと思う。


「ノートがね、もう残り少ないから。ここにあるかと思って取りに来たのよ」


「ふーん。姉ちゃんって勉強好きだよね。あたしらの数倍の速度で使ってるよ……」


「別に好きなわけじゃないけどね……」


 だって、そうでもしないと出来る子だらけのこの家で落ちこぼれるから。

 私はケイトみたいな優等生じゃあない。

 教科書をパラパラめくって内容を理解できてテストの点数が私よりいいとか意味が分からない。


 アリスは勉強が苦手な方だが勘が働く子なのでテストに出てくる場所をピンポイントで当ててしまう事が出来る。

 

 一方の私は一所懸命頑張って満遍なく勉強し、何とか『平均点』だ。

 だから他のキョウダイよりたくさん勉強をしないといけない。


 それだけじゃない。

 冒険者としての能力もやはり私は2人に及ばない。

 いつも『平均点』だ。

 母様は「自分に出来ることをしっかりすればいいの」と言うけど……

 

 そんな私だけれど父様や母達は隔てなく愛してくれている。

 それでも、私は常に劣等感を感じていた。

 もっと要領よくできたらいいのに。


「ねぇねぇリリィ姉ちゃん、後でスパーリングに付き合ってよ」


「嫌よ。私が錬成する盾じゃああんたの攻撃は受け止めきれないわよ?」


 前に正拳突きを盾で受けたら見事に砕け吹き飛ばされた。

 その日はお腹が痛くてご飯を食べることが出来なかったという嫌な思い出がある。


「そうじゃなくて関節技とかさ。リリィ姉ってオールマイティじゃん。色々な想定でやれるんだよね」


 オールマイティね……ただの器用貧乏だと思うけど。

 まあ、可愛い妹の頼みなら引き受けないとね。


「ノート買いに行ってくるから。その後でね?」


 頑張らないと、私は将来レムの家を離れてミアガラッハの家を継ぐことになる。

 それに相応しい子にならないと。

 だけど……『自分なんかでいいのだろうか』?

 自分は跡取りとして相応しい人間か、正直疑問があった。

 家を継ぐという事はやはり子を産み育て存続させていく必要がある。

 でも、私には……

 暗い気持ちを振り払うと私は外へ出る為の着替えをしに、部屋へ戻った



 買い物の途中、街中で見知った顔を見つけた。

 ユリウスだ。本名はモンティエロ・ユリウス。

 長身痩躯の細面。伸ばした銀髪を3カ所でおさげにしているナルシスト。

 取り巻きの男子たちも一緒だ。

 うーん、やっぱりいけ好かない。

 何よりよく自分のおさげの匂いをかぐ仕草が何というか気持ち悪い。


 魔導士タイプの生徒だが運動もよく出来てモテるらしいが魅力的には見えない。

 運動能力云々なら我が家はほとんどが化け物級なので大してすごいと感じないのだ。

 本当にケイトってばこいつの何がそんなにいいのだろう。

 まあ、顔面の偏差値は低くは無いのだろうが……いけ好かない。


「なあ、お前本当にレムシスターズのケイトとデートするのかよ」


 取り巻きのひとりがからかうように言う。

 私とケイト、そしてアリスは『レムシスターズ』と呼ばれている。

 レム家の3人姉妹だからレムシスターズ。

 クラスは別々だが一夫多妻家庭と全員の誕生日が同じということで私達はよく目立つ。


「ふふっ、そんなわけないに決まってるじゃないか」


 はい?

 ユリウスの口から出た言葉に私は耳を疑った。

 こいつ今、何を言った?

 そう、『そんなわけない』と言った。


「彼女は平民血統だからね?高貴な生まれで天才の僕に釣り合う相手だと思うかい?それならまだ妹のリリィ君の方が釣り合うというものだよ」


 は?

 私はあんたなんか絶対ごめんだけど?


「だよなぁ。ユリウスがあんな平民女とデートとかおかしいと思ったんだよ」


 男子共がせせら笑う。

 この国では身分としては皆が平民になるのだがそれとは別に生まれを示す3種類の血統がある。

 平民、貴族、王族だ。

 まあ、王族と言うのは非常に珍しいので基本は平民と貴族の2種類だ。

 ケイトは平民の血統。私は貴族血統になる。

 ちなみに同い年のアリスと年の離れた弟であるホマレは実の所王族血統。

 つまり、二人を生んだリズママが王族なのだ。

 これはごく一部しか知らない秘密。

 まあ、だからと言って高貴な存在というわけではない。

 

 最近では差別につながるという事であまり言われなくなったがそれでも血統を重視する風潮は根強く残っている。

 そもそもこの国で政治に携わる人間の大半は元貴族だ。

 

「待ち合わせはすっぽかしてやろうと思うってね。平民の癖に身の程を知らない女に身の程を教えてやらないといけない。それも貴族の務めって奴だよ」


「悪いやつだなぁ。でもあの平民女、どんな顔するだろうなぁ」


「どれくらいまで馬鹿みたいに待つか賭けをしたら面白いんじゃないか?」


 こいつら、何てクズなの!

 ケイトがどれだけ明日を楽しみにしていたと思うのよ。

 

「まあ、世間知らずな平民に社会勉強をさせてあげるんだ」


 勝手な事ばかり言うクソ男。

 怒りがふつふつと沸いてきた。

 まずい。これはもしかしたら噴火してしまうかもしれない。


「僕は感謝されてもいいくらいだと思うよ?」


 ああ。ダメだ。

 これはもう……我慢できない。


「あんた達、ちょっと待ちなさい!!」


 私はバカな男子共へ向かっていった。

読んでいただきありがとうございます。


今作のリリィは前作でゲスト出演した時より年齢が幼くコンプレックスの塊状態になっています。

まあ、怒りやすいのは変わっていません。


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