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最終話B あがらない雨はない

 私は家族と共に生まれ育った世界に戻ることにした。

 お祖母様も一緒にだ。せっかく再会できたのだから今更離れるという選択肢も無いだろう。

 何か母様とものすごく打ち解けているし丁度いい。


「ありがとうね。それじゃあさようなら、タツル」


 そう告げて私はこの世界を後にした。

 あれから10年近くが経過し、私は……



 暖炉の火がぱちぱちと音を立てて燃え部屋を暖める。

 ここはノウムベリアーノ市内にある私の仕事場。

 20歳の時、私は母様からミアガラッハの家督を引き継ぎミアガラッハ家の当主になった。


 それに伴い名もミアガラッハ・レム・リリアーナに改名。

 まあ、レムとミアガラッハを逆にしただけだし何というか公式書類とかそういうもので使うくらいだ。

 ミアガラッハの当主になったとしても私がレムの生まれという事は変わらないし名前の中に残しておきたかった。

 

 それから私は『ミアガラッハ猟団』を立ち上げそこの団長になった。

 ダンジョン捜索などを生業がする猟団が多い中、ウチは害獣駆除など市民が困っている依頼などをメインに請け負っていた。

 元々父様の猟団がやっていた事の一部だったがウチはそれを完全にメインとして据えることにした。

 困っている人達に手を伸ばすために。


「ねぇ、ユリウスはまだ戻って来てないの?」


 少しイラつきながらギルドに書類を出しに行った副団長の姿を探す。

 結局ユリウスは戻って来てからも私の後を追いかけて来た。

 卒業後も猟団の創設メンバーの一人として私の傍に居た。

 何回か振っているのだけれど『ならばもっと男を磨くよ』とあきらめない。

 ふと気づけば家族以外で最も長い時間、一緒に居る男性があいつになっていた。


「あいつ、昼ごはん食べるのに何処まで行ったっていうのよ……」


 すると建物の入り口が開く。

 帰ってきたか。


「遅いユリウス!何処ほっつき歩いて……」


「やっほー、リリィ。遊びに来たわよ」


 相変わらずおしゃれが好きな姉が立っていた。


「ケイト……あんたが暇人なのはよぉくわかったわ」


 ケイトは卒業後に冒険者ギルドへ就職した。

 今はここから少し離れた支部で受付嬢をしている。

 あのケイトが受付嬢とは世も末だ。


 クエストの依頼書にはモンスターの挿絵などが書かれているものがあるがあれはその地域の受付嬢が一部描いている。

 もの凄く独創的な挿絵の依頼書が回ってきた時、皆が吹き出す中私だけは描いたのが姉と理解出来たので恥ずかしかった。

 後日確認するとやはりその依頼書の担当は美術が万年D評価の我が姉であった。


「今日は非番よ。買い物に出かけようと思ってね」


「はいはい。良かったね。ウチは副団長がどこかほっつき歩いて戻ってこないせいで忙しいの。だからとっとと休日を満喫しなさい。ていうか買い物行くのに何でわざわざ妹の職場に顔を出すのかな……」


「実はさ、リリィ。それについて話があるの……」


「ん?」


□□


 ケイトと話をした後、私はしばらく考えた。

 そしてある決意をしてユリウスに伝言を残しここへと来た。

 私は今、街を見下ろせる展望公園に居る。

 考えが煮詰まった時や一人になりたい時に来るお気に入りの場所。

 白い息を吐きながら人を待つ。


「これ、来なかったらどうしよう……笑えるかも」


 そんな不安が言葉になって口から洩れた……が。


「ああ、良かった!!」


 息を切らしながらユリウスが走ってきた。

 うん、良かった。いきなり計画が暗礁に乗り上げるという事態は避けられた。


「リリィ君、君はこんな人気のない所にひとりで来るなんて……危ないじゃないか。何かあったらどうするつもりだい?」


 あんたは私の親か。

 まあ、慌てている理由は知っているけど……


「ユリウス、あんたそのケガどうしたの?」


 ユリウスの頬にはガーゼが貼られていた。

 手には包帯が巻かれており痛々しい。


「ああ、これはちょっと昼食に出かけた際転んでしまってね。病院で治療を受けていたのさ。恥ずかしい限りだね」


「……嘘が下手だね、ユリウス。そのケガ、本当は転んだわけじゃないでしょ?」


 その言葉にユリウスが少し沈黙。


「……もしかして誰かから聞いたのかい?」


「ケイトが教えてくれたの」


「そ、そうか……」


 ケイトの話によると今日、ギルドで喧嘩騒動があったという事だ。


 酒場で酔っていた冒険者が居た。

 そいつの名前はルーク。

 私が決定的に男性に恐怖心を抱く原因を作った男だった。

 

 彼は昼間から仲間達と酔って騒ぎながら武勇伝を語っていたらしい。

 その中には生意気な下級生の女の子をトイレに閉じ込めて泣かせてやったというものがあって……まあ、私の事だ。


 やがて酔いが回ったルークは口にするのも憚られるような事を言い始めたらしい。

 まあ、要約すると私なんか簡単にモノに出来るから今から行こう、とかそういう最低な発言。

 流石に仲間達もひいていたらしい。


 まあ、控えめに言っても昔のユリウスがかすむくらいにどうしようもない男だ。

 あの時あれだけケイトとアリスにぶちのめされて学校も退学になったのに反省なしだなんて……


 そしてそれを聞いたユリウスがルークに向かっていき胸倉を掴んで喧嘩になりそして……というわけだ。

 その後、通りかかったケイトらギルド職員に制圧されてルークは捕まったらしい。


「君にとって思い出したくもない男だろう?だから彼との事は知られたくはなかった」


「そう……」


 全く、そんなに強くないくせによくやるわ。


「あのさ……私があいつに……ルークに何をされたか聞いた?」


「あ、ああ。学校のトイレに閉じ込められたって……」


「うん……それで……『その後』の事は?」


 自分でも声が震えているのがわかった。

 触れたくない過去。

 目を背けていたもの。

 今、私はそれに言及している。


「それは……その……」


 暴れるルークはユリウスに殴られながらも捨て台詞としてある言葉を口にした。

 それは『あの日』の真実に関する事。

 私を閉じ込めて出ていってからしばらくしてひとりで戻ってきたルークが私に何をしたかという事を示唆する内容。


 ケイトはその場に居合わせてそれを聞いていたのでさっき私の所に飛んできたというわけだ。

 実際、彼女自身も買い物どころの気分では無かったのだろう。


「あんた、隠し事できない人ね………………まあ、そういう事」


 私を見つけ助け出してくれたケイトとアリスが見せたあの悲痛な表情と叫び声は未だに頭にこびりついている。

 もしかしたら母様達に全てを話していたらもっと違った何かがあったかもしれないし、多分それが正解だったのでは無いかと思う。


 だけどあの時はどうしても母様達には知られたくなかった。

 恥ずかしくて、悔しくて、どうしようもなく悲しかったから……

 だからふたりに協力してもらい必死に隠すことにした。


「……もしあの場に僕が居れば……そうすれば君を助けられたかもしれないのに」


 ユリウスが唇を強く噛みしめた。


「どうかな……私も何度も考えたわ。もっと力があればああはならなかったのかもしれない。だけどね、いくら考えても過去は変えられない……まあ、それでも、ありがとうね」


 何だか彼にドラゴンスープレックスを叩き込んだあの日を思い出す。

 あの時、私はケイトにユリウスを殴った本当の理由を知って欲しくなかった。

 そして今日の彼もまた……


「あいつが笑いながら話していることが許せなかった。君をあれ程傷つけておきながら反省もせず挙句に果てには更に君を傷つけようとした……そんな事絶対に」


「ん。ありがとう。あんたのおかげで私は無事だったよ」


 はっきり言うと今の私はあいつなんかよりはるかに強い。

 でも実際対峙したら動けなくなるかもしれなかった。

 そうなれば今度こそ私は二度と立ち直れなかったと思う。


「…………あのさ、ユリウス」


 何回袖にしても諦めずアプローチを続ける男。

 それでいて距離感は守り気づかいをしてくれる。

 気が付けば隣にはいつも彼が居た。

 いつしか『ある事』を考える様になった。

 でも、中々踏み出す事は出来ずにいて……


「えっと……何かな?」


 今日の出来事で私は決意をした。

 この人となら……だから、前へ進もう。


「手。出して……」


「うん?」


 ユリウスがおずおずと手を差し出して来る。

 私は彼の手に自分の手を重ねた。

 昔の私なら考えられない行為だ。

 不思議と恐怖はない。


「えっと……これはどういった風の吹き回しかな?君が僕に触れるなんて……」


「ん。ちょっと待ってね」


 少し力を籠め、頭に思い浮かべているモノを形にする。

 そしてそっと手を離すとそこには……


「こ、これは……」


 ユリウスの手の中には私が錬成した指輪があった。

 それも手の中に隠し持っていた希少金属の小さな塊を加工して作ったので時間経過で消える代物ではない。

 目を見開くユリウスにここ数か月ずっと考えていた言葉を口にする。


「結婚しよう、ユリウス」


 ユリウスは私の言葉に一瞬きょとんした表情になった。

 そして……


「え……えええっ!!?ま、待ってくれ!今、け、結婚って、結婚って言ったのかい?」


「うん、言った。その指輪、受け取ってくれる?」


「ま、待ってくれ。君はそれでいいのか!?」


「ちょっと何慌てているのよ……あれ、私とは嫌?」


 どれだけ振られても諦めなかった男がいまさら何を。


「あ、もしかして……ルークの話を聞いて幻滅した?」


 不安が広がる。

 やっぱりこんな汚されてしまった女ではダメなのかな……


「そ、そんなわけない!だが君はその……あの異世界で出会った男の事を……その……」


 ああ、そうか、

 彼なりに気を遣ってくれているという事ね。

 そう、こういう男だった。

 自己主張が激しいと思いきや気づかいはしっかりしている。


「そうね、後腐れない様に正直言っとくね。私は多分、タツルが好きだったと思う」


「あ、ああ…………」


 でもその事に気づくには私はまだ幼かった。

 最後、彼についてきて欲しいっていう気持ちがあったことも認める。

 或いは地球に残っても良かったかもしれない。

 戻って来てから何度もこの『選択』が正しかったのか悩んだ。


「そ、それなら僕なんかに求婚しなくても……」


「嫌な気分にさせたよね、ごめん。でもさ、あんたはそんな私の傍に居てくれたよね?あんたくらいなら探せばいくらでもいい相手いたのにさ」


「そ、そんなことは無い。君以上に素晴らしい女性はそうそう見つかるものではないさ」


 こいつ、何気に恥ずかしくなることを。

 ちょっと頬が熱くなっているんですけど……


「あいつには感謝している。おかげで悪魔の呪いも克服できた。かけがえない大事な人、相棒。だけどその道はもう分かれたの。そして今、私の隣に居るのはあんたなの。家族以外で一番一緒の時間を過ごした男。私が一緒に歩きたいのはそんなあんただから……」


「リリィ君……」


「だから……これからも私のナイト様でいて。ね?」


 ヤバイ。何が『ね?』だ。

 自分の中で反芻していってもう何というか……

 今日まで練りに練った『私の最強プロポーズ』だが顔から火炎放射できそうなくらい恥ずかしい。

 というかここまで勇気を振り絞って断られでもしたらもうこれは本気で凹む。

 絶対引きこもって多分二度と表に出てこれなくなる自信がある。嫌な自信だ。


「勿論だ。僕は君のナイトだ。だ、だから」


 彼はそう言うと私が作った指輪を嵌めてくれた。

 つまりこれは、OKという事。


「僕も君と結婚したい。よろしく頼むよ」


「よし!」


 その返事を待っていた。

 私は彼の両頬に手を当てた。

 この10年で私も背が伸びたが彼はさらに高い。

 だからほんの少し背伸びをして……彼と唇を重ねた。


「ッッ!!!!」


 ゆっくり唇を離す。

 初めてのキスでは無い。だけどあの時に感じた恐怖や嫌悪感は無かった。

 代わりに言葉では表し切れない程の喜びが込み上げて来て私の頬を涙が伝った。


「ほら、出来た!あんたとキス出来たの!!怖くなんかない。こんな素敵な気持ちは初めてなの!私はあんたを愛することが出来るの!好きよ、好き!愛しているわ、ユリウス!!」


 興奮と喜びで思わず大声で彼への想いを口にしていた。


「お、落ち着いてくれ。もう照れくさすぎて沸騰してしまう!!」


 ユリウスの頬はリンゴみたいに赤く染まっていた。

 まあ、多分私も負けないくらい真っ赤だと思う。耳たぶまで熱くなっているのを感じるから……


「よし!それじゃあ、早速行くわよ」


「え、行くって何処に?」


「私の実家で食事会よ。もうみんなに連絡して集まって貰っているの。あんたを連れて行くって決めていたから。家族に報告よ!!」


 いやまあ、これで断られていたら本当に目もあてられなかったけどね。


「何だと!それは重大な任務では無いか!ならばパンツも勝負用のものを用意して…」


「あーもう、色々ややこしくなるから今日は絶対脱がないで!わかった?絶対に脱ぐんじゃないわよ!ていうかよく考えたら普段から脱ぐな!!ああもうっ、私の感覚までおかしくなってきてるじゃない!!」


 私は自分が嫌いだった。

 誰かを愛する事なんて一生できないと思っていた。

 それはずっと私の心に絡みついていた呪いの様なもの。

 その呪いを解いてくれたのは……


「ありがとうね、ユリウス。愛してるからね!」


 あの日ドラゴンスープレックスをかけてやった、この男だった。

 私は彼に腕を絡め家路を急いだ。

 これから訪れる未来、その希望に胸を膨らませながら。


□□


「ん。完成した」


 書き上げた原稿を見て私は微笑む。

 私が自分を縛っていた呪いを解くまでの私小説。

 題名は『家出少女の異世界冒険記』。


 私はあれからしばらくしてユリウスと結婚して子どもも生まれた。


「ありがとうね、タツル。あんたのおかげで私は幸せを手にすることが出来たよ……」


 異世界で出会った相棒への感謝を呟く。

 そして机の上に飾られた写真に目をやる。

 お祖母様と一緒に初めて撮った写真。

 こっちに戻る直前、美花から渡されたものだ。


「お祖母様……私は幸せだからね」


「リリィ、どうしよう、ヒイナがぐずって泣き止まないんだ。お漏らししたわけでもないし……も、もしかして病気とかじゃないだろうか?医者に連れて行った方がよくないか?」


 夫が口をへの字に曲げ、困り果てた表情で娘を抱いてやってくる。

 去年亡くなったお祖母様と同じ3番目の節に生まれた子。

 だから父様に色々聞いて、3の月の異名である『雛月(ひいなづき)』から名前を付けた。


「うーん、これって……お腹が空いているんじゃないの?最後にミルクあげたのいつ?」


「え?あー……そ、そうか!それは考えが及ばなかったよ」


「もう、しっかりしてよね。さぁ、ヒイナ。今お母様がミルク作ったげるからね~」


 かつての私は心の中に雨が降り続けていた。

 でも私の雨は傘を差しだしてくれた人がいて、その雨はあがった。

 あがらない雨はないから……


-Fin-


<おまけ>

-後日談-


ミアガラッハ・レム・リリアーナ&ミアガラッハ・ユリウス

結婚後もリリィの男性嫌いはあまり改善されなかった。しかし、夫は別の様で彼に甘える姿が時折目撃されておりその仲の良さにあこがれるものも多かったという。

ユリウスはリリィを守る事を誓いそれは命尽きるまで続いた。

2人の死後、夫への想いを綴った詩が数多く発見され娘の手によって編纂され世に出る事となった。この『ミアガラッハ詩集』はベストセラーを記録。母、メイシーのプロポーズ伝説と共に後世まで語り継がれたという。


バルザック・ルーク

逮捕された彼だったが突然謎の釈放をされそのまま秘密裏に国外退去となる。

自由になったと喜んだ彼だが国境を越えてすぐ、突如現れた女性剣士に討たれ悪行三昧の人生に終止符を討った。彼は最期にこんな言葉を聞いた。『もう二度と、ボクの大事な人を傷つけさせたくないんだ』と。


という事でユリウスエンドです。

え、龍琉エンドより優遇されている?

トゥルーエンドっぽい?

まあ、実際の所、シリーズとしては正史がこちらになります。


見事ハッピーエンドを迎えることが出来たリリィとユリウスでした。

わざわざ異世界までリリィの為に来て結局出番がなかった分、最後に大勝利を勝ち取った感じです。こっちのルートではリリィも過去に向き合うことが出来ています。


後、あんまりにもルークがクズ過ぎたので後日談を追加して永久退場させました。



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