表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

最終話A 出来る事から一歩ずつ

 考えた末、私は地球に残る事を選択した。

 私の為にわざわざここまで来てくれた皆には申し訳ないと思っていたが恐らく胸の中に芽生えたこの感情の意味に気づいてしまったから。

 

 私が残ると言った時、リムが大泣きした。

 『両脚へし折ってでも連れて帰る~』とかね。

 うん、我が妹ながら物騒だわ。

 ごめんね、わがままなお姉ちゃんだよね。

 

 でも後悔はしたくないから……

 母様は寂しそうにしており、父様は最初フリーズしてしまっていたが最後は笑顔で頷いてくれた。

 

 そして……



「いらっしゃいませー」


 東雲堂の店舗フロアで私は店番をしていた。

 お祖母様と共にこっちに残る事となった私はお祖母様の養子になった。

 戸籍は何か色々裏から手を回して作ったらしい。

 そうして名乗った戸籍上の名は立花リリアーナ。

 そのままじゃん。

 「レム」が名前から消えたのは少し寂しい。


 この世界ではちょっと目を引く名前で『外国の人ですか?』と聞かれることもよくある。

 異世界人ですとは答えるわけにはいかないのでハーフだと誤魔化している。

 まあ、ほぼ本当の事しか言っていない。

 実際ハーフだし……


 この世界に残ると決め10年。

 あっちにいる家族はどうしているだろう。

 元気にしているだろうか?


「はぁ~こっちの世界はムシムシとして嫌な感じね~」


「ケイト、あんた暇人ね?」


 呆れた表情で姉を見る。まあ、普通に元気だ。

 あれからしばらくして、あっちの世界とこっちの世界を行き来する術をウチの家族は手に入れた。本当、割とすぐに。

 あの涙なしでは語れない感動的な別れは何だったのだろう……


 どうも世界を渡る方法はイシダ・シラベによってもたらされたものらしい。

 というわけでものすごくカジュアルに、家族はこっちにやってくる。


 ああ、そのイシダも時々あっちに連れて行った娘と一緒にこっちに戻って来ては魔獣に変身して私達と戦っている。

 大体月1くらいにあるイベントなので「そろそろイシダの日かぁ」とかいう会話がされたりしている。

 東雲の人達も感覚が麻痺してきていると思う。


 というわけで今もあっちの世界との交流は絶賛継続中。

 先日も母様がやってきたので一緒に食事をした。

 

 さて、ケイトは家族の近況を聞かせてくれた。


 アリスはちょくちょく仕事で外の国へ行ったりしているらしい。

 ホマレは教師を目指しているらしい。生徒に変な事を教えなければいいけど……

 メールは『あたしより強い奴に会いに行く』とよく家出をしては本人より強いアンママに首根っこを掴まれて戻って来るまでが一連の流れになっているらしい。

 リムは私の代わりにミアガラッハの家を継いでくれたらしい。婿については中々過激な性格が災いして中々見つからないらしい。

 そしてケイトはこちらの世界の服が気に入ったのかよく買い物に来る。

 いや、あんたはあっちの経済を回しなさいよ。


「あのさ、今度ユリウスとデートなんだけど」


 何かこの会話、昔もした気がする……

 あっちの世界に戻ってからしばらくしてケイトとユリウスは付き合い始めたらしい。

 まあ、あいつも改心したら脱ぎ癖にさえ目を瞑れば割と普通の男だったしもともとケイトは彼の事を好きだったのだから結果オーライというわけだ。


「だからさ、私におしゃれの事を聞くの、間違っているからね」


「でもさぁ、あんた着る服変わったじゃない?ということはおしゃれにも多少は興味出て来たんじゃないの?」


 まあそれはお祖母様が次々と服を買ってきてくれるのだから仕方ない。

 一度、凄いフリルのついた服を買ってくる時があるが流石にそれは一度しか着てない。

 まあ、前向きに考えるなら私は自分の事が少し好きになれた。

 だから色々な服を着てみようという気持ちになれたのだと思う。


「やっぱあれよね。『男』を意識すると違うわね」


「あんた、またそれか……」


 ケイトがこっちに来る理由。

 それは買い物やみんなの近況を教えに来てくれる以外、私と龍琉の進捗状況を確かめる為だ。

 ていうかユリウスとのデートについては単なる振りの話題だったのね……


「別に、そりゃ私だって女の子の端くれだから……その、やっぱ時々おしゃれもいいかなって……」


 最初はお祖母様も露骨に嫌そうな顔をしていたが私が成人してからは渋々ながら龍琉との交際を認めてくれた。


「でも……まだ、克服は出来てないの……」


 私の男性恐怖症は相変わらずだ。


「そっか……まあ、そうだよね」


「でもね、その、手は繋げるようになった」


「おっ……その辺り詳しく!」


「詳しくって……まあ、最初はガチガチに固まっちゃって……大失敗。危うくあいつの手を握りつぶすところだった……」


「ウチのキョウダイって握力強いからなぁ」


 ちなみに私の握力は最大で約130kg。

 平均的と思っていたら全然そんなことは無かった。

 あくまでレム家の子ども基準で平均的だったのだ。

 一番握力が低いケイトでもマックスで90kgは出せるからなぁ。アリスに至っては180kgだし。


「まあ、今ではきちんと調整できるようになったから……」


「そっか……あのさ、あんたその……『あの事』を彼には……」


 ケイトが言うのは私が男性恐怖症になったあの事件についてだ。


「…………言ってない。多分、一生言わないと思う」


 そう決めたから。

 あいつは真っすぐな男。受け止めてくれるとは思う。

 もしかしたら薄々何かに気づいているかもしれない。


 でも思う。『あの事』を話さなくても前に進むことはできるはず。

 私も無理に過去の傷を見たくはない。

 だから、伝えないでおく。秘密として墓場まで抱えていく。


「そう……」


 聞いているケイトはさっきまでの活発さは何処にいったのかと思うくらい悲し気な表情だった。

 あの日を境に私の世界は変わってしまった。

 まあ、元々デリカシーの無い男の子は苦手だったけどあの事件はそんなものが可愛く見えるくらいに深く私の心を抉った。


 私だけじゃない、ケイトとアリスも傷ついた。

 結局、私達は3人であの事件に関する『ある事実』について大人達に隠すことにした。

 それが正解だったかはわからない。だけど、あの時はああするしか無かったから……


「心配しないで。何せ私は日本語を『言語理解』なしでマスターした女よ?」


 ダメだ、湿っぽくなってしまった。

 だから話題を変えないと……


「え、嘘!マジでマスターしたの?本当、負けず嫌いな妹だわ」


「そう、私は負けず嫌いなの。だから、大丈夫。負けないから」


 私はちょっとだけ変わったと思う。

 前はこんな風に恋について話をすることは無かった。

 歩みは遅いけど、少しずつ前に進めている。


「リリちゃん、店番代わるわね……あら、ケイトちゃんいらっしゃい」


「ん。それじゃあ……」


「こんにちは、おばあちゃん。お邪魔してます……ってあれ、リリィどこか行くの?買い物なら私も付き合うけど……」


 コートを羽織って出かける準備をしている私を見てケイトが首を傾げた。


「デートよ。龍琉と仕事の後に落ち合う事になっているの」


 その言葉にケイトはまるで自分の事の様に喜ぶ。


「良かったじゃない!それじゃあいってらっしゃい、リリィ」


「ん。ありがとう。行ってくるね、ケイト」


□□

 

 数時間後


「それにしてもこっちの世界は寒すぎるわ。何でこれっぽっちの雪であっちより寒いのよ?」


 龍琉の隣を歩きながら私は小さく愚痴る。

 パラパラと空から舞い降りてくる白い雪に私はため息を隠せない。

 あっちでも雪は降った。というか降雪量で言えばあっちの方が上だ。

 積もった日の朝はよく雪合戦をしたなぁ。

 まあ、私達は鬼のような握力で雪玉を作ってガチで投げ合うので流血は当たり前の中々にバイオレンスな雪合戦だったが……

 そして最後はアンママの雷が落ちる。そこまでが一連の流れだ。


「リリィって意外と寒がりだよな」


 彼が苦笑する。


「もしかしてこの世界の人間、冬の精霊とか怒らせたりしているんじゃないの?ちゃんと捧げものしている?」


「どうだろう。俺が知る限りそう言う文化はないけど……」


「信仰心が足りないわ!今からでも女神教を布教しようかしら」


「何か色々と止めた方がいいと思うぞ?」


 そんな取り留めも無い話をしながら歩き……


「綺麗ね……あっちにはこういうのは無かった」


 歩道橋で足を止めた。

 そして街を彩るイルミネーションに目を細めた。

 この場所はお気に入りなので毎年必ず来ている。


「でも電気代凄いらしいぞ」


「あんた、これ見てよくもまあそんな現実に引き戻すような事言えるわね」


 この男は時々凄く残念だ。

 まあ、それでも惚れた弱みという奴ね。仕方ないと受け入れている。


「それにしてもやっぱり寒い……」


「…………リリィ、ちょっと触るけどいいな?」


「ん。わかった」


 私に触れる時、彼は必ず確認してくれる。

 まあ、過去に何度かやらかして大変な事になった経験から学んだから。

 一本背負いで投げられたり、デスバレーボムで投げられたり……

 彼は私の肩に手を回すとそっと引き寄せ隣り合う形で身体を密着させた。


「これでちょっとは暖かいだろ?」


「まあ、ちょっとはね……でも歩く時は結局離れないといけないから結局寒いじゃない。それになんかその……」


「やっぱり怖いか?」


「いや、そうじゃなくて……恋人同士みたいで照れくさい」


「みたいじゃなくて、恋人同士だろ?」


「ん。そうだった……」


 何だか私がポンコツっぽくなっている気がする。

 どうしよう、顔が熱くなってきた。

 ぱたぱたと顔のあたりを仰いでみる……ってこんな事でこの熱が取れるわけが無いか……


「……言っとくけど、私がこんな事するのはあんたとくらいだからね」


「そりゃそうだ。他の男とされたら困る」


「ん。そ、それもそうね……」


 うわぁぁぁ!

 やっぱり私って超ポンコツじゃない。

 こういう時どうすればいいんだっけ?ケイトに相談しておけばよかった。

 ああ、やっぱり私はダメだな……


 不意に私を抱き寄せている彼の手が肩を小さく叩く。


「ん」


 彼の顔を見る。

 私がこんな風にネガティブになりかけたら彼はこうして肩を叩いてくれる。

 そして優しいその瞳が心の中で語りかけてくる。


――大丈夫、慌てなくていい。

――ゆっくりでいい。俺は隣にいるから。

――なんにも心配しなくていい。


「……ん。ありがとう」


 恋って本当に難しい。

 それでも……こうやって好きな人と寄り添い合うことが出来る様にはなった。

 大きな進歩だとは思っている。


「龍琉、あのね……私は最初、さっさと用事を済ませたらこの世界からあっちに戻るつもりだった」


 結局、クサビ様が言っていたミッションは果たせなかったけど特に何も言われていない。

 もしかしたらあの神様にとってあんまり大事な用事では無かったのかも。

 人の繋がりを司る神様だった。

 もしかしたら私とお祖母様、そして龍琉を引き合わせるのがあの神様の目的だったのかもしれない。


「だからこの世界の人達と仲良くしようとなんて思わなかったし、あんたは私をお持ち帰りしようとするから凄く嫌いだった。怖かった」


「だからあの事は誤解だって……」


「いいの!あの時はそう思っていたんだし、黙って聞いて!」


「はいはい、黙って聞きます」


 本当にこの男は……


「でもあんたは時々残念で、でも一所懸命で、それであんたのおかげで私は悪魔の呪いを克服できた。それにお祖母様とも関係を築くことが出来た。お祖母様を、父様と再会させてあげることが出来た」


 だから……


「だからね、ありがとう。私に出会ってくれてありがとう」


 あなたに出会えて本当に良かった


「私を励ましてくれてありがとう」


 あなたの励ましがあったから、私はここまでこれた。


「こんな面倒な私の傍に居てくれて、私を支えてくれて、本当にありがとう。だから……」


 そう、だから……


「これからもよろしくね。大好きよ、龍琉」


 歩みは遅い。

 だけど彼とならきっと……

 出来る事から、一歩ずつ踏み出していこう。

 そうすればいつか……


-AルートFin-




<おまけ>

-後日談-


立花リリアーナ

男性恐怖症は依然として続いていたが6年の交際期間を経てようやく龍琉と結婚。東雲リリアーナになる。やがて彼との間に3つ子の女の子を出産。娘達につけた名は大切な同い年の姉と妹、そして自分を意識したものになった。その子らが『悪魔の呪い』憑きや特殊な能力に目覚めることは無く、穏やかな生涯を送った。


はい、というわけで地球に残った場合は龍琉と結ばれるエンディングです。

イマイチ影が薄い彼ですが、それでもリリィにとって大事な人として支えている感じですね。


そして順番を迷いました次は最終話B。リリィの相手は……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ