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第31話 怒り

今回は今までお気楽な感じだったアリスの想いが垣間見える話になっています。

ちょっと内容も重め注意。

「いえーい、見て見て。ばっちり勝ったよー」


 飛び跳ねはしゃぐ妹を見て私は頬を緩ませる。

 それと同時に、思う。


 メール、あなたは強いね。

 そう言えばあれはあんたくらいの年齢の時に起きたんだっけ。

 私も『あの時』それだけ強ければ……

 ああ、ダメだ……また思い出す。


『ひっ、ぃ、ぇぐっ、ぅ、うぇぇぇぇ…………っ!ケイトぉ……アリス……誰か、誰か助けてよぉっ!』


 時々聞こえてくる、あの日の幻聴。

 暗くて狭いトイレの個室で恐怖に耐え泣きながら助けを待っていたあの時。

 永遠に続くんじゃないかというくらい永く感じたあの絶望。

 もっと力があればこんなに苦しめられなかったのに……


「リリィ姉?」


 声をかけられ顔を上げるとアリスが覗き込んでおりハンカチを差し出していた。

 どうやらうつむいて泣いていたらしい。


「大丈夫?」


「ん。大丈夫……あんた達が来る前にひと暴れした疲れが出たのね」


 私は平静を装う。

 ハンカチは受け取らず手で涙をぬぐった。


「…………そっか」


 アリスは特に追及はせず、静かに頷いた。

 大丈夫よ。今の私は強いから……強くなったから。

 大丈夫だから……


 地面に倒れる3人の妖魔。

 意気揚々と現れたはいいが皆あっさりと撃破されている。

 その惨状に残りの妖魔たちも動揺を隠せない様でざわついているのがわかる。


「ねぇ、君達。ここまで見ていて分かったよね?これ以上は無駄だよ。君達じゃボクらに勝つことはできない」


「フンっ!お前らは甘いんだよ。ガキ相手に、しかも女に好き放題されやがって」


 敵の一人が前へ出てフードを取る。。

 フードの下に隠れていたのは全身黒づくめでこれまた黒いマントを羽織り、漆黒に輝く刃を持つ剣を手にした怪物だった。

 何かコウモリっぽい。


「まだやるんだ。じゃあ、ボクかな……」


 ため息をつきながらアリスが前へ出ていく。

 

「俺の名はエンラエンラ!うんうん、なかなかいい身体つきだな、お嬢ちゃん」


 舐める様にアリスを見る敵。

 嫌なタイプ……


「……一応鍛えているからね。どうも。ボクはレム・アリソン。アリスって呼ばれている」


 気づく。

 アリスの声がいつもと違う。

 その事にケイトも気が付いた様だ。


「アリスか、いい名前だな。俺は君みたいに気が強そうな子が大好きなんだ。その自信をボロボロに崩してあげたところに見せてくれる顔がたまらない」


 やはり下衆なタイプね。

 胸に手を置き早まった鼓動を落ち着ける。

 大丈夫、怖くないから……今は家族が居る。


「そうだ、これを見てくれないかな」


 エンラエンラが1冊の小さなアルバムを取り出すとアリスに手渡した。

 アリスはゆっくり開き中を見て……静かに閉じた。


「君は好みのタイプだ。是非この中に加えてあげたい」


「凄いね……これ、返すよ」


 アリスはエンラエンラにアルバムを返却する。


「ケイト、アリスが……」


 ケイトは表情を凍り付かせたまま頷く。

 アルバムの中身がろくでもないものだという事は想像に難くない。

 いつものアリスなら『うぇぇぇ』とかパニくる。

 だけど今は違った。

 いつもの天然でうっかりもので怖がりなアリスの雰囲気ではない。

 あれは……キレてる。


「なるべく抵抗してくれよ。そうでないと楽しくないからな!!」


 言うと同時にエンラエンラが身体を煙状にして戦場を舞った……はずだった。


「ぐむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅっ!?」


 煙となったエンラエンラは一瞬でアリスに顔面を鷲掴みにされ実態に戻っていた。

 アリスに実体のない攻撃は通用しない。

 メール程ではないが闘気を扱うことが出来るのでそれを以て実態を捕らえることが出来るのだが……


「……何が楽しいのさ、君?」


 アリスの声はこれ以上ないくらいに冷たい響きであった。

 手足をばたつかせるエンラエンラだが180kgはある握力による拘束から全く抜け出すことが出来ない。


「笑えないよね?笑わなくていい。ボクさ、君みたいなやつは許せないって決めてるから!!」


 骨が砕ける音と共にエンラエンラの動きが止まった。

 アリスはそのままエンラエンラを地面に叩きつけ、決着した。

 そして地面に落ちたアルバムに目を落とすと宙を軽く撫でて火の魔法を発動。

 アルバムを焼き払った。


「ア、アリス姉ちゃん?」

「姉さん……」


 さっきまではしゃいでいたメールが固まっていた。

 ホマレも呆然として姉を見ていた。

 多分、二人ともあんなアリスを見るのは初めてだろう。

 私だってあそこまでキレたアリスは初めて見る。


「ねぇ、君達。もう一度言うよ?もう止めよう。それとも、君達もこいつみたいな感じなのかな?それなら向かってきたらいい。ボクが相手する。だけどその時はこれを抜くからね」


 アリスは背負っていた刀を下ろすと腰に差し直した。


「くっ……な、何だよ、お前達は!」


 フードのひとりが毒づく。


「俺は小さい頃から親に虐待されてきた。悪い事をすれば小さな箱に閉じ込められて暗い倉庫に置かれた。食事を貰えないことだってしょっちゅうだった。何をしても上手くいかない。どれだけ努力をしたって報われず這い上がろうとしても押さえつけらた。お前らにこの気持ちがわかるか!!」


 もうひとりも続ける。


「学校でずっといじめられてきた。クラスメートも教師も知らないふりで、誰も助けてくれなかった。あんた達にこの地獄がわかる?あんた達は勝ち組。何の苦労もせず傍観者の立場で私達を踏みつける連中なのよ!だから踏みつける側に回ってやって、何が悪いの!!」


 やはり彼らは何かしら闇を抱えた人達。

 イシダはそこに付け込んで力を与えたわけね……


「勝ち組?確かにそうかもしれない。ボク達は親から愛されて育ったし住む場所も食べるものにも不自由したことは無い。恵まれていると思う」


 でも、とアリスは続ける。


「君達の方こそさ、ボク達の何を知っているの?知らないでしょ、リリィは昔、学校でとんでもなく酷い目にあったんだよ。部屋から出られないくらい、毎日塞ぎ込んでたんだ」


「アリス、その事は……」


 止めようとするがアリスは続けた。

 続けさせて、と背中が語っていた。

 普段はリリィ姉と呼び妹としてのスタンスを崩さない。

 だが今、彼女は私の事を『リリィ』と呼んでいた。


「ボク達は同じ日にちょっとずつ時間を空けて生まれた。ずっと仲良く一緒に育ってきてね。大事な姉妹なんだ。大事な姉妹……それなのにあの時、ボクは何も気づかず呑気に球技で遊んでいたんだ。リリィが泣き叫んでいる時に、助けって言っている時に……」


 そっか……あれだけ好きだったボール遊びをしなくなったのも、丁度あの頃だったのね。


 それでもさ、助けに来てくれたのはあんたとケイトだった。

 あんた達が私の姉妹だったから、私はまた外へ出られるようになった。

 

 でもあそこにはもう戻りたくなかった。だから違う学校に転校した。

 それでも最初の1年は自宅学習。

 その次の年度からは編入試験を受けて転校したケイトとアリスと一緒に学校へ行きはじめる。

 同じ学校に編入できるようアリスは大分勉強していた。勉強は苦手なのに……


 前の学校でケイトとアリスがルーク相手に大暴れした噂は広まっていたので『ヤバイ姉妹が転校してきた』と話題になったっけ。

 おかげで私達にちょっかいを出そうって男子とかはいなかった。

 まあ、ほぼ全裸で身体を抱いて寒そうにしている変態以外は。

 ていうかいい加減服着なさいよ。風邪ひいても知らないわよ?


「今回リリィが家出した時だってそう。ボクは2人が喧嘩する場に居合わせず、何も知らないでランニングしていたんだ。あの時、絶対にリリィを守るって決めたのに、また事が起こってから気づいたんだ」


 そう、アリスが剣を習い始めた理由というのは私だ。

 もう二度と私が遭わないようにする為にアリスは剣を取った。

 あの時、ケイトと喧嘩して家を飛び出した時アリスとすれ違った。

 どんな気持ちだったんだろう……あの時は考えもしなかった。

 本当、心配ばかりかけている。


「だからボクはこうやってリリィを、大切な家族を助けるために異世界まで来た。何処へだって駆け付ける!遊びで来ているわけじゃない。ボク達が苦労していないだとか、傍観者だとか何も知らないで勝手に決めつけるなっっ!!!!」


 その怒声が決定打となった。

 私達も見たことがない程の怒り。

 相手は戦意を喪失したのか座り込んでしまう。

 フードが取れ、そこからは男女がそれぞれ姿を見せた。

 二人とも項垂れてしまっていた。

 どうやら決着らしい。


「リリィ、お前……その……」


 タツルが何か言いたげだ。

 ああ、そうか。流石にトイレでの事は話してなかったっけ。


「……ごめん。その話はしたくない」


「そ、そうか……」


 空気を読んでくれたみたいだ。

 彼はそれ以上何も言わなかった。

 

「やれやれ、完全に毒気を抜かれちゃったんだねぇ……アリスちゃん、意外と熱いね」


 声が聞こえる。

 施設の2階部分に目をやると見知った顔がこちらを見て笑っていた。


「イシダ・シラベ……」


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